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第四十八話 元仕事仲間との再会

「ガストルさん!」


「…………カイルか……久しぶりだね……」


 ガストルにとって想定外の人物が目の前に現れ、一瞬驚きの表情を見せる。


「てめーは、さっきの商人。つけてやがったのか!」


「やめろ」


 ガストルが青年を制止する。


「こんなところで何しているんですか」


「それはこっちのセリフだよ」


 ガストルは平静さを装って返答した。


 (まさか、ここにガストルさんが一枚かんでいるとは)


 カイルはガストルが馬車で去っていく時、一瞬こちらを気にするように振り返ったことを覚えていた。


 (もう一度しっかり話せば分かってくれるかもしれない)


「これは本当にガストルさんがやりたかった仕事なんですか?」


「……私に合っている仕事だ。回収して運ぶだけでいいからな」


「ガストルさん、今自分がやっていること分かってるんですか!」


「……そんな綺麗ごとなんてどうでもいいんだ。楽で簡単、面倒は全て見てくれる……こんなにいい仕事はない!」


「ガストルさん、それはいいように利用されているだけだ!」


「部外者にいったい何が分かるんだ?……私の邪魔をするというなら……今回は容赦しないぞ」


 そう言うと、ガストルの馬車の荷台を挟むように立つ護衛と思しき剣と鎧で武装した二人の男が武器を構えた。


「ガストルさん、もう一度しっかり話をしよう」


「勘違いしているようだが、私は自分の意思でここを選んだ。……それにもう十分話したはずだ。これ以上は時間の無駄だ――」


 ガストルが話を切り上げようとした時、林から道へ二体のジャイアントゴブリンが姿を現した。


 道に出たモンスターたちは周辺を伺うとすぐ荷馬車の存在に気付き向かってくる。


「……ここは滅多にモンスターも立ち寄らないはず……」


 ガストルが怯えながら呟く。


「……だが、こういう時のための護衛だ。カイル、怪我したくなかったらお前は逃げろ」


 ガストルはカイルに忠告する。


「いや、ジャイアントゴブリン二体は分が悪い。あんたも戦えないなら逃げた方がいいかもな」


 護衛の一人がガストルへ返事する。


「おい、待て! 積荷は? 私の仕事はどうなるんだ!」


「知らん! そんなことより自分の命の方が大事だ」


 護衛の二人と青年はガストルを残して去っていく。


 ジャイアントゴブリン二体の内一体は荷馬車に気を取られており、もう一体がガストルに気付き向かってきた。


 間合いに入るとモンスターは、手に持ったこん棒を振り上げてガストルへ叩きつけようとする。


 ガストルは恐怖でその場から動けず、自分の身を守ろうと防御態勢を取る。


 本格的な装備をしていないガストルにとってこん棒の一撃は、防御態勢を取ったところで深刻な負傷は避けられない。


 ガストルの様子を近くで見ていたカイルは、振り下ろされたこん棒と彼との間に割って入り、ダガーで受け止める。


 そのまま、反撃を仕掛けて一体目を仕留める。


 すぐさまカイルはガストルの荷馬車へと視線を向けた。


 荷馬車を物色していた二体目が、一体目をカイルによって仕留められたことに気付き目が合う。


 仇と言わんばかりに怒りをあらわにし、カイルの方へ向かってくる。


 しかし、それもあっさりと返り討ちにされた。


 カイルは立ち竦んでいるガストルへゆっくりと歩み寄る。


 彼は呆然と立ち尽くしていた。


「大丈夫ですか、ガストルさん?」


「……カイル……なぜ私を助けたんだ?」


「理由なんていらない」


「…………」


「……ガストルさん……もう一度考え直してくれ」


「……考え直すって……私はとんでもないことをしでかしたんだぞ……」


「……失った金貨はもう戻ってこない」


「…………」


「だが、新たに稼ぐことはできる。そうして少しずつ返していけばいい」


「………………私にはずっと居場所がなかったんだ。……いや、そう思い込んでいただけかもしれない」


 ガストルは俯くと、カイルに思いの丈を打ち明け始めた。


 カイルは黙って聞き、一通り話し終えるとガストルにそっと手を差し伸べる。


「一緒に戻りましょう!」


 ガストルは若干ためらいつつもカイルの手を取り、少し微笑んだ。


 それを見たカイルは、それまで生気を失ったようなガストルの顔に感情が戻りつつあると感じていた。


「カイル、ちょっと待ってくれ」


 そう言って、ガストルは荷馬車の積荷に向かい、その中から袋を二つ取り出した。


「これを受け取ってくれ」


 受け取った袋は、青年がカイルから奪った金貨袋だった。


 続けてガストルは二つ目の袋をカイルへ渡そうとする。


「これは?」


「私がルマリア大陸に渡るまでにこつこつ貯めた資金だ。マグロックさんの金庫から盗んだ金貨の総量には全く足りてないけどね」


「なぜこれを俺に?」


「盗んだ金貨の返済の足しにしてほしい。マグロックさんにはそう伝えておいてくれ。……私はまだこの大陸でやり残したことがある」


「それが終わったら必ず戻ってきてください」


「約束する」


「……戻ってきたら、ガストルさんに頼みたい仕事があるんです」


「そうか。なら王都へ戻った時に詳しく聞かせてくれ」


 ガストルはまるでギルド マグロックで共に働いていた時のような柔和な笑顔で話した。


「それにしても奪われた金貨を取り返しにここまで追いかけてくるなんて、たいした執念だな」


「もちろんそれもあるけど、現在受注している依頼にも関わることなんです」


「依頼? 依頼受付所の?」


「そうです。この件の首謀者や活動拠点などの調査をしています」


「そういうことか。……私の知っている範囲でよければ教えよう」


「ありがとうございます」


 ガストルはカイルから少し離れて荷馬車の荷台に右手をかける。


 そして、一呼吸置いてからゆっくりと話始めた。


「私はカイル達と別れた後、馬車で港町に向かった」


「はい」


「そこで船に乗ってルマリア大陸に渡ったんだ。ここまではだいたい想像つくだろう?」


 カイルは黙ってうなずく。


「それから、私は指定の町に向かった。そこである人物からこの仕事を依頼され引き受けたんだ」


「指定の町? ある人物?」


「町の名前は、サロス。依頼人の名前は確か――」


 ガストルが依頼人の名前を言いかけようとした時、突然、彼はうめき声を上げ前方に崩れ落ち始める。

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