第三十四話 ギルドへの帰還
カイルは荷台から出ると急いで馬にまたがる。
そして、馬車を加速させると山頂から駆け下りた。
(前進することだけ考えるか)
下り坂も濃い霧に包まれていた。
カイルはレスタの言葉を信じてひたすら霧の中を慎重に進む。
(群れはまだ付いてきているのだろうか?)
視界が悪いので状況が確認できず、周囲の音が馬車の発する音でかき消されてよく聞こえない。
山のふもとに近づくにつれて霧はだんだん晴れてきた。
カイルは後ろを振り返ると群れがまだ追ってきているのを確認する。
視界が良くなってきたので、馬車の速度を上げた。
(これで引き離せるか?)
これ以上、馬に負担をかけるわけにはいかない。
後を確認するが、やはりまだ追いかけてくる。
ざっと見たところ十数匹ほど追いかけてきているのが見えた。
(完全に追い付かれるのも時間の問題か、それともこちらが消耗するのを待っているのか)
一匹二匹ぐらいならたいしたことはないが、集団で来られるとやっかいである。
「よーし、そろそろいくぞー!」
レスタが荷台から声を発した。
(いったい何をする気だ?)
それから数秒後――
ドォーン!
耳をつんざくような破裂音が周囲に響き渡った。
その音に恐れおののいた群れは追跡を諦めて去っていく。
カイルが後ろを振り返ると、もう一匹も追ってきていなかった。
――野宿をする予定地点まで馬車が来るとようやく速度を落とす。
カイルは馬車を留める場所を見つけて馬から降りて、荷台のレスタに声をかける。
「今日はここで野宿だ」
空も日が落ちてきているので、まだ明るいうちに火の準備をする。
火を焚いたら、お互い明日の行動を確認しあう。
カイルはレスタが放った音の正体を聞いてみた。
「あの音は何だったんだ?」
「あれはな音玉を使ったんだ」
「音玉?」
「あー、行商人の頃、仕入れて売ろうと思ってたんだが、いくつかこういった時のために残しておいたんだ」
そこまで言うとレスタはカイルに手のひらを差し出した。
「なんだ?」
「えーっと、今回の護衛料金はざっと金貨1枚だな」
「玉投げただけで金貨1枚なんてぼったくりもいいところだぞ」
カイルがレスタの冗談に笑う。
「ははは、ちげーねー!」
レスタもカイルと一緒に笑うと、その後も話が弾んだ。
――翌朝、馬車は王都へ向かう。
二人の間で野宿は一度のみと決めて王都へ戻ることを優先した。
荷台にはカイルが乗り、レスタが馬を操っている。
夜中の移動に際して、二度ゴブリンに襲われたがどちらも難なく退けた。
夢中で走り続けて、ようやく王都の入り口が見えてくる。
(王都に入れば、追っても諦めるだろう)
王都に入るとギルドの建物を目指す。
ギルドの前まで来ると、馬車を留めて建物の中へ入る。
中に入ると受付のロザリーが出迎えてくれた。
「カイル、レスタお帰りなさい! レスタ腕のケガどうしたの?」
「あー、これはちょっとね。バランス崩して台車から落ちたんですよ。それよりマグロックさんはいますか?」
「ギルド長はいつもの部屋にいるわよ」
「わかりました、ありがとうございます」
カイルとレスタはマグロックのいる部屋へ向かう。
部屋に入るとマグロックは椅子から立ち上がりカイルたちの帰還を喜んだ。
「ガストルには出会えたか?」
「はい。…………本人に確認したところ、売上金を盗んだのはガストルさんでした……」
カイルは真実を伝えるのは心苦しかったが、辛いのはマグロックの方だと感じ声を発した。
「……そうか……」
マグロックは一言つぶやくと、しばらく沈黙が場を包んだ。
「……それで売上金は戻ってきたのか?」
「……いえ、それは……」
カイルは売上金が取り戻せておらず、現状で何も問題解決できていないことが悔しかった。
「ガストルさんの取引相手もいたんですよ」
言葉に詰まるカイルを見てレスタも会話に加わる。
「取引相手?」
「はい、どこの誰だか名前も分からない男でしたが、ガストルさんは取引相手だと言っていました。それで盗んだ金はそいつに渡したと言っていました」
「それでガストルさんを連れて帰ろうとしたのですが、その男に邪魔をされてしまいました」
レスタが話した後に続けてカイルが話始める。
「カイルとレスタの二人がかりでも足止めされるほどの相手だったわけだな?」
「はい、でも途中でカミールさんとレイジーンさんが助けに来てくれました」
レスタがマグロックの質問に答える。
「マグロックさんが指示を出してくれたおかげで助かりました。ありがとうございます。彼らも、売上金を取り返してもうすぐ戻ってくるはずです」
レスタが答えた後、カイルも礼を言う。
「ん? ワシはそんな指示出してないぞ」
「「え?」」
カイルとレスタは驚きながら互いの顔を見た。
「ワシは二人にはギルドで待機するように指示している」
「……それじゃ、いったい……」
その後、二人はマグロックから労いの言葉をかけられて解散となった。
報告が終わったカイルは建物から外へ出るとレスタと別れて宿に行く。
宿の部屋に着きベッドに腰かけると、まともに睡眠と休息を取っていなかったため一気に眠気が襲ってきた。
着替えを済まし、そのままベッドに入り目を閉じるとまどろみに包まれる。
――数日後、エリックとスコラムがギルドへ戻って来た。
しかし、カミールとレイジーンが戻って来ることはなかった。




