第三十三話 立ちはだかる謎の取引相手
(なんだ? 今の突風のようなものは?)
「ぐっ! お前何をした!」
レスタも同じ疑問を抱いていたようで、男に問いかける。
「……さて……このまま帰って報告されると面倒ですね……」
男はレスタの問いには答えなかった。
「こっちも面倒ごとは困る」
今後はカイルが男の発言に返事をした。
「……そうですね……では、あなたがたにはここで消えてもらいましょう」
男は鞘から剣を抜く。
「ずいぶん舐められたもんだな。あんたがどこの誰だか知らねぇが、邪魔すんなら相手になってやろうじゃねぇか!」
レスタとカイルはダガーを構えた。
――次の瞬間、男が素早く間合いを詰めレスタに斬りかかる。
初撃はなんとかダガーで受け止めた。
さらに男は斬撃を繰り出し、レスタは防戦一方となる。
カイルも援護しようと男の死角から接近するが、男の間合いに入るや否や腹を蹴り飛ばされた。
「がはぁ!」
男にカイルは吹っ飛ばされ地面を転がる。
レスタはその隙を狙って攻勢に転じようとするが、斬撃は男の持つ剣で防がれてしまう。
「くそ!」
防がれたことで今度はレスタに隙が生じる。
男はその機会を狙っていたかのように、ニヤリと笑うと剣の刃がレスタを襲う。
レスタは斬撃を回避しようと咄嗟に後ろへと下がる。
「ぐわぁ!」
しかし、完全に回避することはできず左腕から鮮血がほとばしった。
「レスタ!」
体勢を立て直したカイルがレスタの負傷に声を上げると、再び彼の援護へ入るため男の方に駆け出す。
男はレスタへすかさず追撃を行うが、間一髪ダガーで受け止める。
しかし、その衝撃でダガーがレスタの後方へ弾き飛ばされてしまう。
男は絶好の機会と思ったのか、レスタへ渾身の一撃を繰り出す。
カイルもすでに駆け出しているが間に合わない。
(ここでまた仲間を失うのか)
カイルの脳裏にアリューム城の惨劇が蘇る。
ガキィーン!
金属同士がぶつかる音が周囲に響き渡った。
レスタのダガーは吹き飛ばされており、剣を防ぐ手立てはない。
音を発した正体はギルド マグロックの傭兵カミールだった。
カミールの剣がレスタへの斬撃を防いだのである。
そして同じく傭兵のレイジーンが男に斬りかかる。
男は斬撃をさっと後ろに下がってかわした。
「レスタ。大丈夫か?」
カミールがレスタに確認する。
「はい、傷は浅いので大丈夫です」
カイルはなぜカミールとレイジーンがここにいるのか気になったが理由はすぐに分かった。
「マグロックさんの指示でな。お前たちの後を追ってきてたんだ」
「こいつは俺たちで相手する。カイルとレスタは王都へ戻れ」
レイジーンがここに来た理由を説明した後、カミールがカイルとレスタに指示する。
「何言ってるんですか! 俺だってまだ戦えますよ!」
レスタは負傷しつつも、まだ戦えることを傭兵二人に向かって主張する。
「レスタ!! 王都に戻るぞ!」
カイルがここまで真剣で声高に主張するのはレスタにとって初めてであり、彼の気迫に強い意志を感じ取った。
レスタは後を向いて自分たちが乗っていた馬車に視線を移す。
そしてカイルとレスタは馬車の方へと駆け出した。
「逃しませんよ」
男はカイルたちを逃さまいと距離を詰めてくる。
「おっと、今度は俺たちの相手をしてもらおうか」
カミールとレイジーンが立ちはだかり、男がカイルたちに近づくのを許さなかった。
「ちぃ」
男は舌打ちをする。
「レスタお前は荷台に乗れ、俺が馬に乗る」
「すまねぇな。そうさせてもらうぜ」
カイルとレスタは馬車に乗り込むと方向を転換し来た道を戻ろうとする。
方向転換が完了しするとカイルは、傭兵二人の方を一瞬振り返った。
彼らは男に対して激しい斬撃の応酬を繰り広げている。
カイルは馬車を加速させて戦いの場から遠ざかっていく。
――馬車は山のふもとまで引き返してきていた。
ここまで来ると、徒歩の追手ではすぐに追い付けない距離である。
カイルは一旦馬車を止めてレスタに確認した。
「レスタ、傷は大丈夫か?」
「おー、大丈夫だ。傷薬を使ったんで痛みもだいぶ和らいだ」
レスタは馬車の荷台で応急処置を施していたのだ。
カイルはそれを聞き、傷も深くないことに安心した。
それと何よりも安堵したのは自分の目の前で仲間を失わずに済んだことである。
カイルは当初レスタに対して粗野な印象を持ったが、一連の流れを通じて意外に用意周到で他人への配慮もできる男だと感じた。
「わかった、一気に山を抜けるぞ!」
「おー、頼んだぜ!」
カイルは再び馬にまたがり、山頂を目指した。
帰路の山道は霧が立ち込めて視界が悪く、慎重に馬車で進まなければならなかった。
(カミールとレイジーンの戦況はどうなったのだろうか?)
視界が良くないため、道から外れないように馬車の速度を下げている。
カイルは、このまま追い付かれるのではないかという不安と傭兵二人のことが気になりつつも、今は自分たちの目的を達成することが重要であると判断し先を急ぐ。
山頂に近づくにつれ、少し霧がましになってきた。
(よし、一旦またここで休憩しよう)
馬車を止めると、レスタに山頂についたので休憩する旨を伝える。
荷台に入り休憩をしようかという時にカイルは周囲の異変に気付く。
さっきまで霧で包まれていたためほとんど状況が分からなかったが、山頂は若干視界が良くなっている。
耳を澄ませて目を凝らして様子を伺うと、正体はすぐに分かった。
野犬もしくは狼の群れに囲まれていたのだ。
「レスタ、休憩は終わりだ。すぐに出発する」
カイルが荷台の中にいるレスタに伝える。
「おいどうした? なんかあったのか?」
「野犬か狼に囲まれている」
「へーそうかい。霧で視界が悪くなったと思ったら、面白いことになってんじゃねーか」
「今は王都に戻ることが先決だ。それにいつさっきの男が追ってくるかわからん。構っている暇はないぞ」
「わかってるって! まー逃げても野犬か狼の群れか知らんが追ってくんだけどよー。……そこでだ、俺にいい手がある」
「見たところ腕を負傷しているようだが、そのいい手というのは期待できるのか?」
「あいにく手までは負傷してないからな……ってやかましいわ!」
「それじゃー、そのいい手で頼む」
「カイルはとにかく前進することだけを考えてくれ」
「わかった」




