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第十九話 屋敷への訪問

 クルムから債権者の名前と姉がいる屋敷の場所を教えてもらうと、家の外へ出た。


 まずは情報収集である。


 債権者からラグシーの運搬をさせられていると言っていたので、その入手ルートを探る。


 カイルはラズエムの傭兵契約受付所の前に来ていた。


 一度契約の流れを経験しているので、戸惑うことはない。


 係の者から渡されたリストに目を通し、目的の傭兵を探す。


 現在、カイルの所持金は金貨換算で58枚であり、金貨一枚につき質素であれば約一週間は暮らせる。


 前回雇ったダームルの契約金は金貨6枚、今回契約した傭兵の契約金は金貨20枚だった。


 カイルの全財産三分の一を傭兵との契約金に費やしている。


 契約を完了した後、少し休憩してから傭兵と指定の待ち合わせ場所である飲食店にて合流する。


 合流後、一緒に食事をしながら互いに自己紹介をした。


 彼女はサリアと名乗り、十九歳で諜報能力に長けていると話す。


 互いに打ち解けると、カイルは依頼内容の説明をする。


 姉がいる屋敷の情報と債権者の名前、ビムレスの情報、ラグシーについての情報を伝えた。


「ラグシーの入手経路を知りたい。ビムレスと関連があるのか調べてほしい」


「わかりました。一週間で調べます」


「頼んだ。翌週ここで落ち合おう」


 依頼内容の説明が終わり、食事が済むと二人は店の外へ出て一旦別れる。


 カイルは債権者マストルの屋敷を確認することにした。


 屋敷は町の外れにあり、緩やかな坂を上って行った先にある小高い丘の上にある。


 丘を登り切った場所から見る景色はラズエムの町を一望できるほど見晴らしがよかった。


 屋敷の外観はビムレスのものよりはこじんまりとしていたが、一般民家よりはるかに格式高そうな造りをしている。


 あまり近くまでいくと怪しまれると思い、屋敷の外観を一通り確認すると丘を歩いて降りて行った。


 その後、一度少年の家に戻りラグシーはそのまま保管しておくように伝えた。


 それからカイルは代わりに少年へ生活費として金貨2枚を渡し、再び家を出る。


 サリアが諜報した結果がわかる一週間後まで、町の特産品情報を集めたり取引所で商人たちと情報交換しながら交流を深めた。


(すぐ出発する予定だったが町のことを知るいい機会になったな)


 ――翌週の昼下がり、カイルとサリアは例の飲食店にいた。


「情報収集ご苦労様。何か有力な情報を掴めたか?」


「はい。マストルはビムレスからラグシーを仕入れていることがわかりました」


 カイルの予想した通りであった。


 もし、マストルがビムレスからラグシーを仕入れているのなら、それをビムレスの時のように交渉材料として使い姉を取り戻せると考えていた。


「報告ありがとう。それがわかったら次の行動だが……」


 サリアに次の指示を出すと話を切り上げ、店から出た二人は再び別れた。


(とりあえず欲しい情報は集まった)


 カイルは別れた後、クルムの家へ向かう。


 家に着くと二階で木箱に入っているラグシーに餌を与えているクルムに話しかける。


「明日、屋敷へ交渉しに行く」


「ほ、本当ですか! 僕も一緒に連れて行ってください!」


「だめだ。無事に取り戻してくるので、大人しくここで待ってろ」


 クルムは引き下がり素直に聞き入れた。


「よろしくお願いします」


「あぁ」


 ――翌日の朝、カイルは馬車の積荷に木箱を載せてマストルの屋敷へと向かっていた。


 木箱の中身はラグシーなので途中、中身がばれないよう慎重に行動する。


 屋敷への行き方は事前に調べていたので迷うことはない。


 坂を上り切った先に屋敷が見えてくる。


 屋敷の門まで来ると門番と思わしき人間が一人立っていた。


「何のご用件でしょうか?」


「マストル様と新規取引交渉のため来ました」


「申し訳ありませんが、紹介なしでの新規取引はお断りしております」


「はい、存じております。しかし、積荷を確認して頂ければお話だけでも聞いて頂けるかと思いまして」


 カイルは門番を馬車の荷台まで誘導し、積荷の中身を確認させた。


「……少々おまちください」


 積荷を確認した門番がカイルから離れ、門の中へ入ると、そのまま屋敷に入っていく。


 しばらく待つと門番が戻ってきてカイルに屋敷の中へ入るよう案内する。


 馬車を屋敷の外へ止め、台車に木箱を積み、門を潜って屋敷の玄関まで来た。


 玄関まで来ると別の案内係がおり、屋敷の中へ入るよう促す。


 中へ入ると一階の応接室で一時待機するよう案内係に言われる。


(よし。うまく屋敷の中へ入れたな)


 数分ほど待機していると、案内係が応接室に入ってきて今度はカイルを大広間に案内する。


 部屋に入ると奥の椅子に小柄で恰幅の良い中年男性が座っていた。


「マストルです」


「カイルと申します」


 互いに挨拶を済ますと、各々が椅子に座る。


 部屋にはカイルとマストルだけがいる状況であり、早速カイルは訪問の目的を話した後、新規取引の商談に入った。


 話が済んだ後、マストルに本題を切り出す。


 新規商談の話を先にしたのは、互いに打ち解けてスムーズに話題に入れると考えたためである。


「マストルさん。本日ここに来た目的がもう一つあります」


「何ですか?」


「……クルムの父が背負っている借金を返し、姉を引き取りに来ました」


「はて? 何のことですかな?」


 マストルは話題を振られて、とぼけようとするが演技なのは明確である。


「クルムの姉がこの屋敷にいることは分かっています。彼の代理で引き取りに来ました」


「……それはご苦労なことですが……残念ながら帰すことはできませんね」


「ただでとは言いません。代金を支払った上、こちらのラグシーもお渡しいたします」


「いえ、すでに引き取り手が決まっています。引き取り先が上顧客ですので……今更キャンセルはできないのですよ」


 金銭のやり取りで取り戻すことはできないことはカイルも予測済みであった。


「……わかりました」


「では、この商談は白紙に戻しますのでお引き取りください」


「……ラグシーを売買している件について王国へ通報してもいいのですよ」


「ラグシーの売買契約を持ち掛けてきているあなたがそれを言いますか。……ハハハ! そんなことをすればあなたも無事じゃないですよ」


「……いや、今日運んできたのはあなたが少年に運搬するよう指示したラグシーです」


 カイルがそこまで言うと、それまで悠然と振る舞っていたマストルの眉がピクリと動いた。

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