第百八話 追跡者
レイジーンが先行し信者たちと対峙する。
彼らは各々ナイフ、ダガー、ショートソード、槍といった武器を携えている。
しかし、それらの武器はどれも一部錆びや刃こぼれが生じていた。
レイジーンは信者三人から同時に攻撃を仕掛けられる。
数は多いものの統率は取れておらず、動きは戦闘の素人であるため、彼は悠々と回避し続ける。
回避後、レクタリウスを彼らの武器の刃に当てて無力化させていくが、武器を失っても素手で殴りかかってきた。
彼は加減しながら殴り返して相手の戦闘意欲を喪失させていく。
「レイジーン」
カイルが背後から呼びかけ、そのまま戦闘に加わる。
「殺すなとさ、この剣の持ち主からだ」
カイルはレイジーンの持つレクタリウスに一瞬視線を合わせ静かに頷いた。
後方にいるアイリス、ロミリオ、メルフィスは二人の戦況を見守りつつ、上空の様子を注視していた。
カイルとレイジーンは次々と信者たちの戦闘意欲を喪失させていく。
だが、倒しても無傷の信者たちが次々と戦闘に参加していき、カイルとレイジーンの体力を消耗させていった。
「おい、カイル。いったいどれだけいるんだ!?」
「さぁな」
「ここままじゃキリがないぞ」
(確かにここままじゃこちらが消耗するだけだ。何か方法は……?)
カイルは信者たちの攻撃を回避しながら、対策を考える。
「信者たちとの戦闘が始まったな。ミーリカ、今のうちに逃げるぞ」
「何言ってるの、あなた? 彼らをそのままにして私たちだけ逃げるつもり?」
「そ、それは……」
「……呆れたわ」
ミーリカが信者たちに撤収の指示をかけようとした時――今度はカイルたちの後方に位置する森がざわつき始める。
「新たな増援か!?」
カイルたちが異変に気付き、同じく信者たちも周囲を窺い始める。
(彼らも動揺している? 増援ではないのか?)
カイルたちが森の異変にも警戒し始めた直後、正体が森の中から現れた。
現れた集団は皆、甲冑を身に着けている。
「そこまでだ!」
集団の先頭にいる一人が信者たちに向かって声を発する。
「な、なんだお前たちは!?」
信者の一人が問いかけた。
「君たちが大人しく拘束されるのなら教えてやろう」
「くそ! オルレイスの奴! こんなところまで追ってきやがったか」
上空のヒースラルドは突如現れた集団に向かって言葉を吐き捨てた。
「あなたたちは散り散りになってできるだけ遠くに逃げなさい!」
即座にミーリカが地上の信者たちに指示する。
「しかし、ミーリカ様を置いて逃げるわけには!」
信者の一人が上空に向かって声を発する。
「私のことはいいから、まずは自分たちの身を守りなさい!」
「……ミーリカ様、どうかご無事で! 皆逃げるぞ!」
若干の躊躇いの間の後、信者たちは森の中へと一斉に後退し始める。
「副長!」
「はっ!」
副長はオルレイスの元へ駆け寄る。
「私はヒースラルドとローブの女を追う。君は騎士団と共に信者たちを追跡してくれ」
「了解!」
副長は信者が逃げていった森の方向へと駆け出す。
「皆、俺の後ろに続け! 全員拘束する、逃がすなよ!」
副長を先頭にした騎士団は信者たちを追跡するため、森の中へと消えていった。
「後手に回ってしまったが、俺たちも早く逃げるぞ」
「……あなたが余計な事しなかったらもっと早く逃げられてたの」
ミーリカはヒースラルドを伴ってエルフの町から遠ざかっていく。
オルレイスは空を見上げてミーリカたちの追跡を開始する。
「後は我々に任せて――」
カイルたちとすれ違う際、オルレイスは彼らに一声かけた。
その際、カイルと視線が合い言葉を止める。
「確か君はどこかで――」
一瞬微笑んだ後、カイルの返事を待たずに、そのままミーリカたちを追ってカイルたちから離れていった。
(あの人はアリューム城で俺とロミリオを助けてくれた人だ)
カイルはみるみる遠ざかっていく彼の後姿を見て確信した。
エルフの町に平穏が戻る。
アイリス、メルフィス、ロミリオがカイルとレイジーンの元へ駆け寄り、互いに怪我がないことを確認しあう。
「あのローブの集団も女性も、いったい何なんでしょうか?」
ロミリオが皆の顔を見渡しながら話す。
「ローブの集団の方は正直よく分からん。女もローブを着ていて、指示していたから彼らを束ねる立場の者だろう」
メルフィスが自身の考えをロミリオに伝える。
「ヒースラルドもその一員だった……ということでしょうね」
「行動を共にしているからな。そう判断していいだろう」
「……ローブの集団も気になるが、彼らを追っていった甲冑の集団も気になるな」
カイルも二人の会話に入る。
「彼らを追っていったのはおそらく、アルバネリス王国遊撃騎士団だ」
「遊撃騎士団?」
「そう。正規の騎士団とは別に国内の特殊な事件に対応する……という噂だ。秘密裏に活動していて王国外にも潜伏することもあるらしい」
「王国の外でも活動しているのか」
「あぁ。あまり公になると外交問題になるからな。私も実際に見たのは初めてだ」
(だからロムリア王国内のアリューム城で彼を見たのか。……あの時確か調査と言っていたが、あのローブの集団のことだったのか)
「メルフィス。俺とロミリオはさっきヒースラルドたちを追っていった人にアリューム城で助けてもらったんだ」
「カイルさんも気付いてたんですね。メルフィスさん、あの人が白銀の騎士です」
ロミリオがカイルに視線を合わせた後、メルフィスに向けて話した。
「そうなのか。漆黒の騎士と白銀の騎士……そしてレオニードの死……これで話はつながったな」
メルフィスは目の前の霧が晴れたかのように落ち着いた表情で話す。
「また、ヒースラルドは僕たちを襲ってくるかもしれませんね」
「私たちがこれ以上首をつっこむ必要はない。後は彼らが無事解決してくれることを願おう」
メルフィスの言葉にカイルたちは静かに頷いた。
「そろそろ商館に戻ろうか」
「そういえばメルフィス」
道中でカイルがメルフィスへ話しかける。
「なんだ?」
「どうやって一人でエルフの森を抜けて商館まで来たんだ?」
「自身の気配を消す道具を使ったんだ。年代物で非常に高価なものだったが、ここで使うべきと判断した」
「そんな道具があるんだな。まだ在庫があるなら取り扱いたい」
「いや、あれは護身用だったんだ。元々一つしか所有してない。滅多に入手できないからな」
続けてメルフィスは、改めてカイルとロミリオに漆黒の騎士の件を報告してくれた礼を述べた。
カイルたちもメルフィスが来てくれなければ事件は解決しないどころか、最悪の事態を迎えていたかもしれないと礼で返す。
「なぁ、あんた」
レイジーンがメルフィスに話しかける。
「レクタリウス、うまく使いこなせたようだな」
「あぁ、助かった。ありがとう」
レイジーンはレクタリウスをメルフィスに返却しようとする。
「この剣は君に預ける。私が所持していても宝の持ち腐れだからな」
「使ってる時も感じたが、これは相当いい剣だ。年代物で高価なんじゃないのか?」
「構わん、気にするな」
「ありがたく使わせてもらう。……それとさっきの話、なぜ殺しちゃいけなかったんだ?」
「下手に彼らから恨みを買う必要はないからだ」
「……カイルの商売がやりにくくなるってことか」
「簡単に言うとそういうことだ」
「すまん、そこまで考えてなかった。ありがとう」
カイルたちが商館に着いた頃には、すっかり日が落ちて夜になっていた。




