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第百六話 疑念 二

 部屋を沈黙が支配している。


 ――突如、部屋の扉が開き、入り口で待機していたロミリオが入ってくる。


 それから彼の後ろに続いてメルフィスが部屋に入ってきた。


 ロミリオとメルフィスはカイルを挟んで両側に立つ。


「ヒースラルド」


「これは……メルフィス様、お久しぶりです」


 沈黙が漂っていた部屋に再び声が響き始める。


「ヒースラルド、単刀直入に言う。呪いの影響で兄を殺害した話……嘘だな?」


「嘘と言われましても、私は何も覚えていないんです。だから私もカイルさんの言う通り、呪いが原因だと思います」


「私の旧屋敷からレクタリウスとガンビオルを盗み出したことも覚えていないのか?」


「なんのことでしょうか?」


「しらばっくれるな!! あの武具は厳重に保管されていた。お前を含めて場所を知り、立ち入れる人間は限られている」


「メルフィス様、落ち着いてください。だからと言って私がやったとは限らないでしょう?」


「レオニードが亡くなってから私に頑なに会おうとはしなかった。なぜだ?」


「偶然でしょう」


「……実はな……お前が盗み出したことは早い段階から知っていた。第三者からの証言も得ている」


 メルフィスは話を続ける。


「だが、漆黒の騎士の装備がレクタリウスとガンビオルという確証がなかった」


 ヒースラルドは返事をせず、メルフィスはさらに話を続ける。


「そして装備が呪われていないことは所有者の私が把握している。なぜ呪いを原因にする必要があるんだ?」


「……」


「漆黒の騎士の正体は……ヒースラルド……お前だった。正直、お前を疑いたくはなかった……」


 そこまで言い切ると、メルフィスは俯きながら無言で立ち尽くす。


 ヒースラルドはゆっくりとベッドから立ち上がる。


「…………もう無理!」


 ヒースラルドが突然声を張り上げ、俯いていたメルフィスが顔を上げた。


「ヒースラルドさん……?」


 カイルはヒースラルドの反応に思わず聞き返す。


「…………はっはっはっはっはっ!! 呪いだってよ! 勝手に決めつけるもんで、ずっと笑いこらえるの大変だったわ!」


「ヒースラルドさん……冗談ですよね?」


 カイルが再び聞き返す。


「ころっと騙されやがってよ。まー、あれは俺の迫真の演技だったからな!」


「そんな……なぜ……なぜレオニードさんを殺害したんですか!?」


 カイルは別人じゃないかと思うほど、まだヒースラルドの言葉が信じられず問いかける。


「邪魔だったからに決まってるだろ」


「邪魔だったからって……」


「いつも俺より前に、先に行ってて目障りだった。だから殺すしかない!」


「そんな理由で……俺たちもそんな理由で襲ったんですか!?」


「殺害現場を見られたら口封じするに決まってるだろ! まー、あの時は奴の邪魔が入ったがな……あー、それとカイル」


 カイルは返事しなかったが、ヒースラルドは続けて話す。


「王都ロムヘイムスの店、三号店だったか? 順調みたいじゃないか。いつも二階の事務所で頑張ってたな」


「なぜ今その話を……まさか! 孤児院で会った時から!?」


「あー、そうだ。ずっとお前たち二人を探してた。あそこでカイル、お前に出会った時は初めて奇跡を信じた。俺の日頃の行いが報われた。神は俺に味方したんだってな!」


 ヒースラルドの独壇場は続く。


「だがな、まだ奇跡が足りなかった。そこのエルフの商人の所在が分からなかったからな。メルフィスには俺の行いがバレてる可能性があるから、むやみに近づかず最後に殺す」


 さらに拍車がかかる。


「だから、ずっと機会を窺ってた。どこかで再会するだろうってな。そしてモンスター襲撃の混乱に乗じて絶好の機会が訪れた。そこへメルフィスまで現れるとは……神は二度ならず、三度も俺に味方したんだ!」


「……そこまでして……兄を殺さなければならなかったのか!」


「そこまでして……? 何言ってんだお前。俺にとっちゃ毎朝顔を洗うのと同義よ。何も特別なことじゃない」


「……俺たちを襲撃したように兄を殺害する機会もずっと窺ってたのか!」


「おっと、長話はここまでだ! ほら、追って来いよ!」


 次の瞬間、ヒースラルドは窓際へと走り出し、窓を突き破って二階から地面へ飛び降りた。


「追うぞ!」


 メルフィスは窓から飛び降りるのは危険と判断し、部屋から出て階段へと向かうよう指示する。


 カイルたちが部屋から廊下へ出るとアイリス、レイジーンと鉢合わせた。


「ガラスの割れる音がしたけど、どうした?」


「話は後だ! ヒースラルドを追う。外へ出るぞ!」


 カイルは走りながらアイリスとレイジーンに声をかける。


 外は夕方で出歩いているエルフたちはほとんどいなかった。


 ヒースラルドは地面に着地すると広場へ向かって駆け出す。


 (くそ! レクタリウスとガンビオルを同時に失ったのはきつい)


 後ろを振り向くと、カイルたちが追走してきているのが見えた。


 カイルたちは逃走するヒースラルドを必死に追いかける。


「アイリス、何か捕まえる方法はあるか?」


 彼女は頷き、魔法詠唱を開始する。


「バインド」


 ヒースラルドの身体に蔓が巻き付くと、体勢を崩して地面に転んだ。


 (くそ! ガンビオルさえあれば、こんな魔法無効化できるっていうのによ!)


 ヒースラルドは予備武器のナイフをなんとか取り出し、身体に巻き付く蔓を切り落とす。


 しかし、その間にカイルたちが追い付きヒースラルドを取り囲んだ。


「もう逃げられんぞ」


 メルフィスがヒースラルドへ通告する。


 自由に動けるようになったヒースラルドは一直線に駆け出す。


 狙いはメルフィス――ではなく、彼が持っていた武器だった。


 メルフィスは迎撃の斬撃を繰り出す。


 しかし、彼は剣術の素人であり、 ヒースラルドは容易に回避する。


 回避後、メルフィスの腹を蹴り飛ばす。


 激痛で悲鳴を上げ、地面に跪いて剣を落としてしまう。


「メルフィス!」


 カイルが即座に援護するため駆け寄る。


 (よし! レクタリウスは取り返した)


 ヒースラルドは地面に落ちたレクタリウスを拾い上げ、メルフィスへ斬りかかる。


 メルフィスへ命中する直前に金属音が鳴り響いた。


 カイルの剣がメルフィスへの斬撃を阻止する。


 ヒースラルドはすかさずメルフィスの傍を駆け抜け包囲から逃れるように走り間合いを取った。


 ヒースラルドへの包囲は解け、カイルたちと彼が対峙する状況になる。


「メルフィス、動けるか?」


 カイルがメルフィスに声をかける。


「あぁ、大丈夫だ」


「無理するな、後ろへ下がれ」


 (念のため持ってきたのが仇となったか……やはり私に武器はうまく扱えん……)


「すまない、そうさせてもらう」


 カイルはヒースラルドと斬撃の応酬を始める。


 その間にアイリスは再びバインドを詠唱し、彼を再度拘束した。


 二度目のバインドでは、ついにヒースラルドは身動きが取れなくなる。


 (くっ! こうもあっさりと!)


 カイルたちはヒースラルドを取り囲む。


 カイルは彼からレクタリウスを取り上げ、メルフィスに渡す。


「ちくしょう! レクタリウスが! 返せ!」


「元々私のものだ。ヒースラルド、今度こそ観念しろ」


 その言葉を聞いたヒースラルドは身体の力を抜きおとなしくなった。


「……さすがに諦めたか。よし、一度商館に連れ帰って拘束するぞ」


「…………さて、そいつはどうかな?」


 ヒースラルドは不敵な笑みを浮かべた後、空を見上げた。

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