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第百一話 エルフの町

 カイルたちは朝から町でいつも通り情報収集を行う。


 得られる情報は今までと大して変わらなかったが、一つだけ良い情報を得る。


 町に商館が存在することだった。


 (商人がいる。交渉できる余地があるかもしれない)


 カイルたちはさっそく商館へと向かう。


 しばらく歩くと目的の商館が見えてきた。


「このところずーっと森の中だったし、こういう建物見ると安心するわ」


 レイジーンがほっとした表情で話す。


 商館は王都などでよく見る三階建ての建築物だったが、ここでは逆に異彩を放っていた。


 扉が開いていたので、カイルたちは中に入り呼びかける。


 少し待っていると受付と思しきエルフの女性が奥から現れた。


「はい、何の御用でしょうか? あら、ここへ人間の方がいらっしゃるなんて珍しいこともあるものね」


「急に伺ってすみません。こちらが商館と町で聞きましたので、商談希望のために訪問しました」


「かしこまりました、少々お待ちください」


 女性は正面の階段を昇って二階へと歩いて行った。


 しばらく待っていると女性が戻り、カイルたちは二階の応接室へと案内される。


 椅子に座って待っていると扉が開く。


 部屋の中へ男性が入り――カイルは目を大きく見開き驚嘆する。


「ロミリオ!」


 部屋へ入った直後に自身の名前を呼ばれ驚いたロミリオは、声の発せられた方向へ視線を合わせた。


「カイルさん!」


 アリューム城での一件以来、久方振りの思わぬ再会に互いは歩み寄り握手を交わす。


「えっ? カイルの知ってる人なの?」


 アイリスが不思議そうにカイルとロミリオの顔を交互に見ている。


「あぁ、そうだ」


「こんなこともあるんだなー」


 レイジーンがぽつりと呟いた。


「俺も驚いた」


「僕もですよー、カイルさん。どうぞ皆さん、椅子に掛けて下さい」


 ロミリオに促され、カイルたちは椅子に座る。


「エルフの森深くまで来て商談される意気込み、僕も見習います」


「そのことなんだが、ロミリオ。さっそく本題に入ってもいいか?」


「はい、大丈夫ですよ。そんな険しい顔されて何かあったんですか?」


 カイルはエルフの森に入ってからの出来事、商館を訪れた理由を説明した。


「それはさぞ大変だったでしょう」


 ロミリオは頷いてから続けて話す。


「僕はここの町の出身なんですが、実は……人間とエルフのハーフなんです」


「確かにエルフの面影があるような気がする」


「僕はそういう事情だったので、この町、ひいてはエルフの森で生きていくのにはかなり苦労しました。事情は違えど、カイルさんの気持ちよく理解できます」


「ありがとう」


「あっ! ごめんなさい、話が逸れてしまいましたね……。木材調達の件は僕がなんとかします」


 ロミリオは落ち着いて答えると、カイルは礼を述べた。


「礼には及びませんよ。今度は僕がカイルさんに恩を返す番です」


「俺はあの時、本当に何もしていないぞ」


「あの時、カイルさんが僕の前に立ってくれて……僕の心は動かされ、そして今の自分があるんです」


「ロミリオ……」


 当時咄嗟にとった自分の行動が、ロミリオにここまで多大な影響を与えていたことに驚いたカイルは、それ以上言葉を紡げなかった。 


「では、今から各村長と調整してきます。もしよかったら、調整が終わるまでここに泊まっていってください」


「何から何まで世話掛けて本当にすまない」


「いえ、気にしないでください。それでは後ほど」


 ロミリオは椅子から立ち上がる。


「あっ! ロミリオ」


 部屋から出ようとする彼をカイルは呼び止めた。


「ん? どうしました? カイルさん」


「この町に図書館のような場所はあるか?」


「うーん、図書館は残念ながらありませんが、この商館の地下になら蔵書がたくさんありますよ」


「泊っている間、その本を読ませてもらってもいいか?」


「どうぞ気の済むまで読んでいってください。僕は内容さっぱり分かりませんけど、かなり古い書物もあったりして、数も並の図書館よりあるかもしれません」


 カイルは礼を言うと、ロミリオは屈託のない笑顔を見せ部屋から出ていった。


「とりあえず一歩前進だな! 安心したら急に腹減ってきたわ。飯食いに行こうぜ、飯」


 レイジーンは椅子から立ち上がり部屋から出ていく。


「ロミリオさん、カイルに救われたんだね」


「あれはロミリオが良い方向に解釈してくれてるだけだ」


「もう、カイルは照れ屋さんなんだからー」


「そ、そうかー?」


「うん、照れ屋さん」


 カイルの隣に座っているアイリスは、彼の左頬を右手の人差し指で軽くつついた。


「ほ、ほら地下の蔵書……また調べものができるしよかったな」


「また、新しい魔法を習得できるかもね」


「空島のこともまた何か分かるかもな」


「……うん」


 カイルたちはロミリオが戻ってくるまで商館に宿泊させてもらうことになった。


 その間、各々は自由に行動しながら過ごす。


 ――十日後の夕方。


「……カイル、ちょっといい?」


 カイルは商館の三階の廊下でアイリスに声を掛けられる。


「ん? どうしたんだ、アイリス?」


「……」


 アイリスは俯いたまま何も話さない。


「とりあえず部屋に移動しよう」


 カイルはアイリスを自分の部屋へと招き入れる。


 先にカイルが部屋に入り、アイリスが後ろから続けて入った。


 部屋に入るとアイリスは扉を閉め、カイルは彼女へ椅子に座るよう促す。


「カイル」


 アイリスは椅子には座らず話し始めた。


「…………空島のことなんだけど……」


「また何か新しいことがわかったのか?」


「…………空島のことはね……もういいの」


「急にどうしたんだ? もしかして場所が分かったのか!?」


「ううん、違うの」


「それならどうして?」


「……空島は存在しないって分かったから」


「そんなのまだ――」


「もういいの……」


「アイリス……」


「今はカイルと一緒にお店を手伝ってる方が楽しくなってきたから。それに私、もっとカイルの役に立ちたいの」


「本当にどうしたんだ急に? あんなに空島へ行きたいって言ってたのに」


「急じゃないよ。前からなんとなく気付いてて、エルフの森に来て確証に変わっただけだよ」


「……本当にそれでいいんだな?」


「…………うん」


「……アイリスがそう決めたなら俺はもう何も言わない」


「うん! だから空島のお話はこれでおしまい」


 アイリスは話を聞いてくれた礼を言い部屋から出ていく。


 その時見せた彼女の表情は優しく穏やかで部屋に入ってきた時のそれとは対照的だった。

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