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アリステニアの恋愛調香師。  作者: 小鳥遊ことり
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4.リリーとナユユ

「どうだった?あの子・・・」


館にケイトリンを招き入れるや否や、待ちきれない様子でリリーは尋ねた。

心配そうなリリーに、ケイトリンはにこりと笑みを返す。


「ねぇ、リリーは、ナユユくんに弟子にしてほしいって言われた時、どう思った?」


「どうって、そうね・・・」


「正直わたしには、めちゃくちゃがっかりしてるように見えたんだけど?」


「うぅっ!!!」


図星だったようだ。


「・・・それは、確かに期待したわよ。こんな心の優しい、可愛らしい男の子が私を愛してくれたらって。でも駄目。やっぱり彼にはその気は無かったんだし、仮に有ったとしても、」


リリーは気持ちを落ち着けるようにゆっくりと息を吸ってから言った。


「私のなんかのために、彼の若く大切な未来ある時間を無駄にする事なんて出来ない。」


「それが、リリーの本音?」


「そうよ。」


ケイトリンは、うんうんと頷く。


「だったら、その本音をぶつけてあげてよ。年上のお姉さんとしてじゃなくて、対等な一人の女として。言っておくけど、」


ケイトリンは、工房でのナユユの様子を思い浮かべた。


「リリーが思ってるよりずっと、彼の心は大人だと思うよ。」


ナユユに渡したものと同じサシェを、そっとリリーの手に握らせる。


「リリー。恋は、意地を張っちゃダメよ。」


「・・・解ったわ、そうしてみる。」


リリーは覚悟を決めたようにゆっくりと答えた。


---

次の日、約束通りナユユはリリーの占いの館へやってきた。


「来てくれたのね。」


出迎えたリリーから思いのほか優しい反応が返ってきて、ガチガチに緊張していたナユユは少しだけほぐれた。


「こんにちは、リリーさん。」


「どうぞ。」


招き入れられ、リリーがお茶を出すよりも早く、ナユユは口を開いた。


「僕、リリーさんが好きです!」


リリーはぴたりと手を止める。


「昨日弟子になりたいって言ったのは口実で・・・いや、弟子になりたいのも本当だけど!でも一番のお願いは、リリーさんのそばにいたいって、そう伝えに来ました!」


「・・・貴方の前には無限に選択肢が広がっている。ただ私のそばで、狭い世界しか知らずに生きていくなんて勿体無いわ。貴方の事を可愛いと、素晴らしい子だと思うからこそ、私の為に、若く大切な時を無駄にしてほしくない。」


「無駄だなんて!・・・出会ってから僕は、リリーさんのいいところたくさん見ました。誰にでも思いやりを持って接するリリーさんが好きです!リリーさんが悲しそうな顔をしてる時は、僕が元気づけてあげたい!あなたのおかげで、僕はこんなにすてきな気持ちに気づけたんです。」


必死に訴えるナユユに、気圧されたリリーは、ふっと心細そうな目を向けた。


「・・・自信が無いのよ。私、碌に恋なんてしてこなかった。」


「僕だって、これが初恋です!ずっとおそばにいます、約束します!」


ナユユは、リリーを見つめ返す。

普段なら幼く見える蜂蜜色のつぶらな瞳は、頼もしい光を宿していた。


「そんなに心配なら、僕の未来を占ってみてください。お願いします!」


根負けしたように、リリーはカードを切り並べ、1枚、また1枚とめくり、ナユユの将来を占っていく。


「・・・大成する気運ね。貴方はいつか大物になる。」


「他には?」


「・・・ご両親もあなたのおかげで裕福に暮らせるわ。」


「他には?例えば、僕は将来、誰のそばにいますか?」


「それは・・・」


「それは?」


「・・・あ、貴方の隣にはいつも私がいるわ・・・10年後も20年後もその先も、変わらず・・・」


ナユユはカード繰るリリーの手を力強く握った。


「約束破ったことないんですよ、僕。」


少年の手は、リリーの細い手を包み込むには充分大きかった。


「私だって占いを外したこと無いのよ。」


リリーは胸を高鳴らせながら、照れたように笑った後、スっと師匠の表情になり冷静を装う。


「明日から通って頂戴。朝一番のお客様が来るまでの間、お札の書き方を教えてあげるわ。」


「本当ですか!?よろしくお願いします、リリー先生!!」


「それから、弟子を取るには条件が一つあるの。」


「え?」


---

「だからってなんでウチに!?全然話が見えないんだけど??」


訪ねてきたリリーとナユユを前に、ケイトリンは告げられた言葉に混乱していた。


「だってほら、私は恋占いが苦手でしょう?この子が恋愛について詳しくなって、恋占いを全部任せられるようになったら、ビジネスパートナーとしてとても助かるのよ。お願い、週の半分でいいの。この子をこの工房でも勉強させてあげて。」


「いやいやいや、荷が重すぎるでしょ!」


「はい!重い荷物は僕が運びます!任せてくださいケイトリン先生!」


「ちょっとナユユくんまで・・・!」


突然のことに焦るケイトリンに、リリーはそっと耳打ちする。


「毎日一緒にいたら、仕事なんて放り出してナユユと遊びに行きたくなってしまうじゃない。それじゃまずいのよ・・・師匠としての威厳が保てないわ。ね、お願いよケイトリン。」


「もう、急に甘えてー。リリーらしくない・・・!」


「私、意地を張らないことにしたのよ♪」


いつになく少女のように悪戯っぽく微笑むリリーを見て、二人がいい方向に進んでよかったなと思え、ケイトリンは「仕方ないわね」と、週に3日の生徒を受け入れることにした。

学校に通うことを諦めていたナユユは、一気に先生が二人もできて、新しい生活に胸を踊らせた。

どんなことも学び取ってみせる。そんな眼差しで、工房内を見渡しながら。

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