表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五方の守護者  作者: 陶花ゆうの
1 記録の中の姫君
7/96

旅立つ

 王宮の武器庫は、勿論のことながら国一の規模を誇る。



「うわー、すげえ……」


 アレンは声を漏らし、辺りを見た。




 高く積み上げられた木箱には矢が入っているらしい。その木箱は通路の間の壁となっている。壁には何振りもの刀剣が掛けられ、台の上には魔具が並ぶ。広い武器庫は主に、武具、魔具、それぞれの領域に分けられているようだ。三人の魔術師は魔具の方に集中したが、アゼナはアレンと一緒になって武具の方を見ていた。


 アレンがこれまで使っていたのは町で安価に手に入る小太刀で、それでは余りにもこれからが心許ない。という訳で、武具を自由に選ぶ機会に全員が恵まれたのだった。


「わー、可愛い!」

 アゼナが小太刀を見上げて口元に手をやり、本気でそう思っている様子で声を上げたが、どこが可愛いのかアレンには分からない。


 アゼナの手首にはくっきりと鎖の跡が残り鬱血していたが、動かせる程度には元に戻ったようだ。


「でもこっちも美人さんだなあ。用途が違うからどっちも持って行こうかなあ」

 などと言いつつ見ているのは弓である。



 アレンは長剣の類を見ていた。今までの小太刀が手に軽過ぎたからである。刺すものよりは叩き斬るものの方がいいし、そうなると上から振り下ろした時に重量に助けて貰う方がいい。



 ちらりとユアンを見ると、幸せそうに魔具を見て、あとの二人と何か話している。が、そのうちに声を上げた。


「アレン、アゼナ、来て」


 アレンは怪訝に思いながらそちらに行った。アゼナは跳ねる足取りである。

「何だよ? 俺、魔具なんて見ても分からねえぞ?」


「知ってるよ。試着のために呼んだんだ」

 ユアンは言って、一面に広がる外套、胴着の類を示した。

「防御の呪文が染みついてる。役に立つぞ。高価だからここ以外じゃ手に入らないし」


 とここでアゼナを見て。

「外套はここで選べばいいけど、胴着は……試着が……」



「ここでする」


 アゼナは朗らかに宣言した。

「どこかに隠れてるからね。捜したら駄目だよ?」


 そして、目を付けた数着を手にどこかへ消えた。



 アレンの方は気兼ねすることも無く試着して、数着を選んだ。


 アゼナは途中で数着を追加し、それほど意匠に差はないはずなのだが、うんうんと呻いて迷っている。胴着でそうだから外套でも勿論悩んで、結局は他の四人に多数決を取らせた。犯罪者の衣装選びに付き合うことになろうとは、アレンは予想だにしておらずかなり戸惑い、ラデルもそのようだったが、ユアンは結構楽しんでいた。



「さっきのの方が良かったな」

「でもこれ、釦が二列なの」

「それなら前の前のやつもだろう? それは色が似合わない」

「う……。あたし、黒は駄目?」

「そうだなあ、茶色の方がいい」

 などなど。



 武具選びに戻っても、アゼナはあれこれと目移りして、なかなか決められないようだった。他の全員が持って行く物を選び終えても、最後の一つが必要か否かで延々と悩んでいる。ユアンはむしろ不思議そうだった。


「強盗に入っても何を盗むかでぐずぐずしなかったのか?」


 アゼナは上の空で返事をした。

「したよ。それで捕まったの」


「何を盗もうとしたんだ?」


 アレンが尋ねると、アゼナはさらりと答えた。

「この国か、南隣のレデスナか。どっちが良かったと思う?――やっぱり持って行こう」


 アゼナは満足したように言ったが、ラデルは驚愕の声を上げていた。


「国を盗もうとしたのか!?」



「やっぱりやめようかな……――え? うん。でも失敗しちゃったの。計画立ててる途中で機巧兵が来て、軍が来てやっつけてくれたはいいんだけど、軍と機巧人の集団が喧嘩になって、中の一人が捕まったんだけどね、これがびっくり、あたしの協力者だったの。頑張ってくれたんだけどねえ、結局吐いちゃった」



 もうちょっと早く行動してればねえ、などと言って嘆息している。



 とんでもない人物が同行することになったようだ、とアレンは悟り、深く息を吐いたのだった。それには気付かず、アゼナは元気よく頷いた。



「やっぱり持って行こう!」

 彼女の気が変わらないうちにと、ユアンとヴェルガードがアゼナを慌てて外へ連れ出した。





□□□□□□□□□□□□□□□□





 出発はその翌日のことだった。



 仰々しい見送りの気配を敏感に察知した五人のうち、アゼナを除く四人が断固としてそれを拒否し(たが、アゼナは自分の出立を出来るだけ沢山の人に見て貰いたいのだと言い張り、一蹴されて悔しげだった)、見送りは最小限のものとなったが、宰相と第一、第二王子、それに見目麗しい王女殿下が揃えば十分に豪勢である。



「これが御伽噺だったら、陛下は任務終了の暁には姫様をアレンに下さるんだけどなぁ」


 ユアンが残念そうに言った。王女リリセルナは現在レデスナの王子と婚約中である。


 このユアンの発言は声を潜めていたため、傍にいたアレンにしか聞こえなかっただろうが、アレンは思わずはは、と乾いた笑い声を上げてしまった。



 王家の三人を見る限り、全員が見事なまでに父親の白銀の髪を受け継いでいた。アレンは今までそんな色の髪を見たことがなく、ラデルに訊いてみると王家特有の色らしかった。そうはいっても王家の全員が継ぐわけではなく、時には黒髪やその他の色の子が生まれることもあるらしい。



「是非、御無事で」

 と鳶色の大きな目でアレンたちを見て、リリセルナは言った。破壊力抜群の表情である。救国の英雄の意気を上げようとして振る舞ってくださったらしい。その一方で宰相は非常に実際的だった。


「あなた方の双肩にこれからの運命が懸かっていると分かって頂きたい」


 それからラデルに視線を移したが、アレンはラデルが微かに、う、と呻いたのを聞いた気がした。







 晩秋の早朝、風は既に冬の気配を伝えている。曙光が王宮の尖塔に白い光を投げ掛ける中、アレンたちは出発した。それぞれ乗馬が一頭ずつに、荷を積む馬が二頭。アゼナが横乗りで鞍に収まり、意外にも慣れた手つきで手綱を取った。そして顔を上げて前方を見て、嬉しそうに顔を綻ばせた。対照的なのがラデルだが、申し訳なくは思うが構ってはいられない。







 アレンも馬上の人となり、馬腹を蹴った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ