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a shame married couple  作者: コシピカリ
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夫婦喧嘩

2021年5月15日 修正

〜side柚稀〜



「おい、起きろ」

「んー、まだ……」


 今私は、野原にいる。太陽が輝いてポカポカと私を包む。陽当たりの良い場所で、気持ち良くお昼寝をしている。


「お前が会社に遅れても良いなら、話は別なんだけどな」

「うー、今何時……」

「7時」


 なら、まだ余裕でお昼寝ができる。

 いつもは7時30分には起きて、8時15分頃に家を出る。準備の時間が短いんじゃないか?だって化粧は最低限しかやらない。朝ご飯もカロリーメイトで十分。なんで今、起こされないといけないんだ。


「お前の会社って、俺ん家から近いんだっけ?」

「俺ん家?」


 パチリ。

 目を開けると、飛び込んできたのは寝心地の良いベッドのシーツ。態勢を変えると、今からでも会社に行ける、スーツ姿の龍也。


「家変わったんだったー!」


 ガバリ、ベッドから跳ね起きる。龍也がバカを見る様な目で私を見る。


「朝食、作っといたから」

「あ、私朝カロリーメイト派」


 ほら、現に。

 さっき勢い良く跳ね起きたくせに、まだベッドから出ていない。少しでも気を抜けば、またすぐに寝ちゃいそう。私が悪いんじゃない、寝心地の良い布団が悪い。ほら、行かないでって私を誘惑している。

 重い瞼をショボショボさせていると、龍也に頭を軽くはたかれた。


「痛い」

「食え。でないと昼までに倒れんだろーが」

「大丈夫だって」

「食え」


 食え、大丈夫の遣り取りを3回ほど繰り返し、いきなりかけ布団をガバリと龍也にとられる。諦めの悪い私は枕を抱き締め再び眠りにつこうとしたが、結局「いい加減にしろよ?」と龍也の迫力に押され、ベッドから出てダイニングテーブルに向かう。

 ダイニングルームからは、久しく嗅いでいない、美味しい朝食の匂い。その香りに誘われるよう着席すると、既に焼かれたトーストが一枚と、目玉焼きにベーコン、サラダとコーヒーがセットされていた。


「うわ、本格的」


 1人感動していると、目の前に龍也が座った。


「食えよ、しっかり」


 どうやら、監視するらしい。

 社会人になってからも、なる前からも、私は基本朝食は食べてこなかった。それで今までやって来たのだから、倒れるはずがないのに。

 けれど、龍也が折角作ってくれたのだ。ここは、食べなきゃ失礼だ。

 そうは思うものの、食が進まない。結局、サラダにあったミニトマトを3個と、コーヒーにミルクを入れて飲んで、ギブアップした。


「は、マジで?」


 信じられないものを見た様な龍也。マジマジと、私と朝食の残りを見比べる。


「いやいやいや、足りないだろそれじゃ」

「いーえ、もうじゅーぶん!だから言ったじゃん、朝は弱いって」

「少食なのな……にしては、痩せてる訳でもないけどな」

「あんたねぇ……」


 女性に言ってはならん事を!

 でも事実なので、否定はしない。いつか龍也に、痩せたなと言わせてやると心に決める。


「別に私、朝が弱いってだけで少食ってワケじゃないから。お昼はガッリ系よく食べるし、夜だってまぁまぁ食べるし」


 おかげ様で、痩せておりませんけどね。


「ふーん……まあ、これからは毎朝食べてもらうからな」

「え、なんで⁈」


 龍也の言葉に目を剥く。

 さっきの私を見て言うなんて、悪魔だ。


「家族の健康管理は、大事だろ。ったく、普通は奥さんのセリフだぞ」

「どうせ私は家庭的じゃないもん、ダメな嫁ですよーだ」


 ああ、結婚して、まだ3日目なのに。これから一年間も、龍也とやっていけるのだろうか。プライベートにおいては雑な私と、公私ともにしっかりしている龍也。良い組み合わせなような、そうでもないような。


「だから捨てられちゃったのかもなー」


 龍也の、なんの気なしに発言された言葉。それが、私に突き刺さる。


「……なんで、そんな事言うの?」


 私の纏う雰囲気で察したのか、龍也が「しまった」という顔をした。


「あ、これはそんなつもりじゃなくて……」

「じゃあ、どんなつもりなのよ」


 龍也が黙る。その沈黙が本当に嫌だ。悪意も他意もなく出た言葉は、本音である。龍也は本気で、私が理想のお嫁さん像じゃないことが原因だと思っているのだろう。


「ご飯、ありがと。でも全部食べきれないし、私はこれからカロリーメイトで大丈夫だから。着替えてくる」


 龍也が、気まずそうな表情で私を見るけど、無視する。そんな顔するなら、言わないでよ。

 さっきまでの幸福感が、消えてしまった。

 クローゼットのある部屋に来ると、乱暴にドアを開閉する。バン、と大きな音がした。


「そうよ、どうせ私は捨てられた女よ、浮気された女よ。健康管理なんてできないし、料理だってできない。夫を立てられない、色々失格な女よ!」


 真紀みたいに、おしとやかじゃない。はいはい!と自己主張が強いタイプだ。男の3歩後ろを黙ってついて行くのが良い女?黙れ、3歩前を歩けない男に落ち度があるのだと思う。

 さっきみたいに、相手を責める口調になる。意地悪な言い方をする。

 

 分かっている、こんな女は面倒くさいことぐらい。可愛いらしさのかの字もない。

 健人が真紀に振り向いてしまうぐらい、私には色気がないって事も。

 守ってあげたくなるような、か弱さや儚さも。

 契約ではあるけれど、結婚できたのだって、棚からぼた餅だ。


 けど、どうすればいいの?健人は、なにも言ってくれなかった。

 私だって、頑張った。健人に好かれたくて、一緒になりたくて。

 最終的に、良い所は他の人にもっていかれる。


「あー、もうっ。ムシャクシャするー!」


パジャマをポンと投げ捨て、クローゼットの中を物色する。


私は印刷会社に勤めている。歯磨きのパックやシャンプーのボトルなどの、パッケージ専門の印刷会社。様々な企業から依頼を受け、一緒にデザインを考え提案し、納品スケジュールを組む。

 簡単に言うと、包装材ができあがるまでのスケジュール管理だ。

 オフィスではラフな格好でも全然問題ない。しかし、たまに企業の方と打ち合わせがある。そんな日は、ビシッとできる女の演出だ。そして今日は、企業の方との打ち合わせ。


全身が映る鏡の前で、服をあてて少し悩む。よし、今日は白いブラウスに、黒のスカート。肌色のストッキングを履いて、清楚に決める。

 続いて鏡台に向かい合うと、ぶすっとした私の顔。まあ、泣いて目が赤くなったとかじゃないから良しとしよう。

胸ぐらいまである髪をブラシで梳かすし、それからお団子を作る。余った先っぽの髪は、重力に逆らわずに垂らした。


「よーし、あとはスマイル」


 いくら外見を決めたからって、中身が伴わなければ意味がない。

 納得のいくまでスマイルの練習をする。


「おし、バッチリ!頑張るぞ」


 自分に喝を入れるため、両手でバンと頬を叩く。

 部屋を出てリビングに行くと、龍也がソファに座りながら新聞を読んでいた。


「……よぉ」


 気まずそうに、龍也が読んでいた新聞から目を逸らして言った。


「……よぉ」


 さっきまで練習していたスマイルが、何故か出てこない。どんな時でも、スマイルが必要なのに。今ここで出なければ、営業の時も出ないのに。


「準備できたか?」

「まあ、ね」


お互い変にギクシャクしたまま会話をする。言葉数が少ないのに、なんだか疲れ気味だ。


「じゃあ行くぞ」

「行くって、どこに?」


 会社に行く準備はしたけど、龍也と出かける準備はしていないんだけど。


「送る、会社まで」


 言葉少なにして、龍也がそう言う。

 一方私は、龍也のセリフを頭の中で再生していた。


 送る、会社まで。


「え、ええー⁈」


 気まずい空気になっていたにも関わらず、私は驚いて龍也の顔を正面から見る。


「送らなくて大丈夫だって!逆に龍也が遅れちゃうよ!」 

「いーから、黙って送られろ」

「け、けどなんでっ?」

「……契約。仲良し夫婦に見せるためだよ」


 あ、そう。そうだね、私達は、仲良し夫婦という仮面をつけているんだった。

 仮面をつけて結婚している、赤の他人。よく、知らない人。


「じゃあ、お願いしようかな。いい?龍也」

「ん」


 先に玄関を出る龍也の背中を追いかける。

 忘れてた。なんで結婚したのか。一番の理由は、傷つく必要がなかったからだ。


 だから、龍也の言葉なんて、気にしなくていいんだ。龍也の言葉に、傷つく必要なんてない。

 だって私達には、愛なんてものは無いんだからーー


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