龍也の苦労
~side龍也~
「よっ、おはよ」
長い盆休みが明け、9月に突入した。
久しぶりに出社すると、俺たちを騒がせた張本人が挨拶をしてきた。
「おう、休みはどうだった」
美羽とはどうなったと言外に尋ねると、笠原は軽く苦笑した。
「まだ混乱してる。会話はしてくれるんだけど、半径2mには近づけてない」
「マジですか」
「でも進歩だよ。今までは警戒すらされてなかったんだ。異性として意識してるってことだろ」
「……前向きだな」
「長期戦はずっと覚悟の上だから」
これからだよ。
そう言って笑う笠原が、やけに眩しく格好良く見える。
「そっちは?勉強の方はどうですか」
「ああ……ぼちぼち。再来週の日曜日に模試がある」
「そっかー。お互い夢に向かって前進中だな」
ニカッと笑う笠原に、俺も笑い返す。
「くぁ」
疲れてPC画面から眼を離す。
大きく伸びをすると、縮こまっていた身体が悲鳴をあげる。
「ゔー」
眠い。
疲れたのもあるけど、とにかく眠い。
最近、熟睡することが少なくなった。
柚稀と一緒に寝るようになって、2週間経つ。
さっさとゴキブリ退治しろと言っているのだが、頑としてあの部屋に入ろうとしない。
お願いだから退治してくれと切実に願う。俺がやってやりたいとこだが、一応は柚稀の部屋。
入るのは躊躇らわれる。
でもそろそろ、本気で何とかしないと。
俺が限界だ。
帰ってきて勉強して、ベッドに入ると100%の確率で柚稀が先に寝ている。
疲れて寝ようと思うと、隣に柚稀がいる。
ぐっすり、スースー寝息を立てて、気持ち良さそうに寝ている。
普通にシングルで買ったベッドだから、大きいわけじゃない。
シングルに2人というのは、かなり狭い。
寝返りひとつうつだけで、肌が触れ合う。
寝返りをうたなくても、柚稀の存在を感じる。
高校生のガキだと言われればそれまでだけど、眠れない。
柚稀の寝息ひとつ、寝言ひとつすら意識してしまう。
ガチガチに緊張して、今までどう寝てたのか分からない。
好きだと伝えられたら楽なのにな。
言ったら何らかの リアクションがあるわけで、それを見れば良い。
それが無い今、俺は耐えるしかない。
柚稀が隣りで寝ていて、寝顔が間近で見れるのは嬉しいんだけど。
正直、ゴキブリが出なければな、なんて思う。




