一世一代の大告白後
~side柚稀~
龍也はすぐ帰ると言った宣言通り、すぐに帰って来た。
玄関のチャイムが鳴り、早く美羽との二人きりの空間から逃れたくて、玄関の戸に飛びつく。
「龍也!……と、どちら様?」
龍也は一人じゃなかった。後ろに一人。スーツを着ている、龍也の同僚らしき人。
何の躊躇いもなく、龍也の後ろから部屋に入って来る。
「初めまして、龍也くんの友人をやらせていただいている笠原衛です」
「は、初めまして。龍也の妻の柚稀です」
予想していなかった龍也の友人の登場に戸惑いつつも、挨拶を済ませる。
「かわいい奥さんじゃん」
褒められて照れる私の横で、龍也はいつになく厳しい顔だ。
「お前な……」
言葉を発しかけた龍也は、途中で黙る。
龍也の視線の先を追うと、すっかり忘れていた美羽がいた。
「……衛くん?」
「美羽」
知り合いなの?
龍也に目で問えば、龍也は人差し指を口の 前に立てた。
黙っていろ、ということらしい。
「美羽、帰るぞ。わかってんだろ、迷惑だってことぐらい」
「……なんで衛くんがいるの。私、大っ嫌いって言わなかった?」
「いつものことだろ。ほら帰るぞ」
「……衛くんには関係ないじゃないっ!いつまで私の保護者面するの⁈」
癇癪気味に叫ぶ美羽。
こんな時、防音対策がバッチリなマンションって素晴らしいなって思う。
「関係ならあるよ」
「従兄弟ってだけじゃない。もうウンザリ」
私の前ではいつも澄ましている彼女が、こんなにも感情的になるなんて。
やっぱり、まだ子供なんだろう。
ずっと険しい顔をしていた美羽の表情が、次の笠原の言葉で崩れる。
「自分の好きな子が他の男の家に泊まるって聞いて、何とも思わない奴がいると思ってんの?」
「え?」
「関係ならあるって言ってんの。俺は美羽のこと好きだから関係ある」
こ、これは。告白というやつではないか!
思わず龍也を見ると、龍也はこんな展開を予測していたのか、全然動じていなかった。
そんな間も、笠原の告白は続く。
「お前が龍也を好きなのも全部含めて好きなんだよ。報われないから黙ってた。でも、悪いけど状況は変わった。
決めた。指を加えて黙ってるのはもうやめる」
「い、いきなり何を言い出すの。馬鹿なこと言わないで。大体、私達従兄弟なのよ?」
「従兄弟でも結婚できる」
結婚という言葉に、美羽は目を丸くした。
未羽、と名前を呼ぶ笠原の声が優しくなる。
「急に言われても分かんないよな。ゆっくり考えて欲しいし、考えたいだろ。今日は帰って、温かいお湯にでも浸かろう」
それとも、ここで考えるか?
そう訪ねられた美羽は、小さく、ゆっくり首を横に振った。
「じゃあ、帰ろう」
笠原に取られた手を、美羽は拒否しなかった。
大人しく玄関まで誘導される。
「じゃあ帰るよ、迷惑かけた」
「おう、頑張れよ」
龍也と目で頷きあった後、笠原が私を見た。
「どうも今日はすみませんでした」
「あ、いえ別に」
あんな素晴らしい告白を私達の前でしてくれて、ありがとうございます、だ。
「龍也が奥さんに甘くなるの、柚稀さん見て納得した。かわいい奥さんで、龍也は幸せ者ですね」
「いえ別にそんな」
甘く見えるのは契約内容に沿った行動をしているだけなんだけど。
でも、かわいいと言われて嫌な気はしない。
私は笑顔で彼らを見送った。
「うまく行くと良いね、あの二人」
「あんなに好きだ言われたら、悪い気しないだろ。笠原は良いヤツだし、美羽の一番の理解者だろうし。行くだろ」
「そっか……良いな」
何年間も想い続けてもらえる人がいて。好きだと人目を気にせずに言ってもらえて。
私なんて。
元カレはあっさり大人しいタイプの女にほだされ、現ダンナは私のことは何とも思ってない。
龍也といれるのが羨ましいと未羽は言っていたけど。
私からしたら、美羽の方が羨ましい。
ギュッと硬く拳を握ると、温かくて大きい龍也の手が被さった。
驚いて龍也を見ると、龍也は見えなくなった二人の後を見つめながら、少し怒った様に言った。
「こんな素敵な旦那様捕まえていて、何が良いな、だよ」
握られる手に力が入って、少し痛い。
「……うん」
龍也。あなたが好きです、大好きなんです。好きになることがこんなに苦しいなんて、知らなかった。龍也との何気ない日常が愛おしくて、キラキラ輝いてるの。
私にはそう告げる勇気が無くて。
ただ、握り返す力を強くするだけだった。




