料理教室
~side龍也~
「馬鹿っ、ゴボウはもっと強く洗え!泥だらけなんだからなっ」
「レタスは優しく持てよ、フニャフニャになんだろ」
「ミキサーセットして。……住み始めてもう何ヶ月だ?電源の場所も知らないのかよ」
キッチンに俺の声が響く。柚稀は唇を尖らせながら、反論してくる。
「キッチンに入ったこと無いんだから、仕方ないでしょ!」
「開き直るなそこで」
龍也のオニーなどと言いながら、柚稀が騒ぐ。
さっきから柚稀は騒いだり失敗したりで、何も進んでいない。
いつもとは違う、騒がしいキッチン。
全然はかどらない料理。
けれど、自然と顔が緩む。
後ろでリボン結びをしている紐が、柚稀が動く度にピョコンと揺れる。
似合うかなと柚稀に買ってきたエプロンも、柚稀によく似合う。
プレゼントなんて人から貰う事が普通で、あげる事は無かった。こんなに喜んでくれるなら、あげるのも悪くはない。
それが、好きな人なら尚更。
「洗い終えたな。じゃあゴボウは5cmぐらいに切って。そしたらミキサーに入れる」
柚稀が包丁を握る。まな板にゴボウをセットし、切ろうとする。
左手はしっかり、猫の手が出来ている。
基本は出来て……いなかった。
「包丁は引くんだよっ、引いて切れっ!上からダンッじゃない!」
包丁を乱暴に振り下ろす柚稀。危なっかしくて、見ていられない。
「えっ、ちょ、 龍也っ⁈」
「バカッ、包丁をしっかり持てっ。ケガしたいのかよ」
はいっ、と振り返りかけた柚稀が、物凄い勢いで前を向く。
「力抜いて、楽にしろ」
柚稀の手の上に俺の手を重ね、柚稀の後ろに 立つ。
ゆっくり、丁寧に。柚稀の後ろから、包丁を引く。
いつもの手順が、やけに胸に悪い。
「……ふー」
ゴボウを5cmに切っただけなのに、この緊張感。
柚稀から手を離し自分の手を見ると、かなり汗ばんでいた。
「こんな感じで続きもやれよ。俺はハンバーグ準備するから」
いくらか楽になった気持ちで、冷蔵庫へと向かう。
「……っ龍也のバカッ‼︎」
いきなり背後で怒鳴られ、思わず振り返る。顔を真っ赤にした柚稀が、物凄い形相で俺を睨んでいた。
「もっと他にやり方無かったわけ⁈全っ然分からなかった、教えんのヘタッ!」
「はあっ⁈」
感謝されこそすれ、怒鳴られる意味が分からない。しかもヘタってなんだ。
「ふざっけんな、こんなに丁寧に教えてくれんのは俺ぐらいだぞ!」
「教える以前の問題だからっ!バカバ カバーカ、人の気持ち分かってないっ」
「教えてもらってる分際で何を……」
料理教室はまだ、始まったばかりだ。




