安寧な休日 3
〜side柚稀〜
豪太は水のおかわりを要求してきた。
話は終わりましたよね、と聞くと、龍也の顔を見たら帰ると言う。その顔は、孫が元気にやっているか、純粋に心配する祖父の顔だった。
「龍也のこと、普通に愛してますよね。それなのに何で、龍也の夢を邪魔するんですか」
私の素朴な質問は、豪太に深く届いた様だった。
私の顔を見て、言おうか言わまいか迷った素振りをする。
やがて意を決したのか、重々しくその口を開いた。
「儂の妻は澄子と言ってな、弁護士をしておった。澄子は刑事裁判が主でな、有名ださったわけだ。龍也は澄子に影響されとるな」
「奥様は弁護士でいるのを良しとしたのに、どうして龍也は駄目なんですか」
「ある事件の裁判だ。澄子は被害者側の弁護士として裁判に臨み、見事に勝ちを掴んだ。
加害者は懲役二年、当時二十三歳だったそいつは、刑務所に入れられたのを澄子のせいにした。
未来も今も、全て失ったのは澄子のせいだと信じた。
出所したそいつは、恨みだと言って澄子を刺した。澄子は死んだよ」
言葉を失くし、どう反応すれば良いのか迷っている間にも、豪太は話すのをやめない。
「龍也もそうならないと言い切れるか?儂は怖い。人なんぞは簡単に死ぬ。だから怖い」
最愛の妻は殺された。その道を、大事な孫が進まない保証は無い。
確かにそれは、怖い。
でも。
「龍也は弁護士になりたいんです。そのために一生懸命なんです。せっかく入った会社を 辞める覚悟なんですよ。
おばあ様に、強く憧れているからじゃないんですか?」
詳しいことなんて知らないけど。
でも龍也が本気だってことは知っている。
「龍也は分かっているはずです、おじい様が恐れていることを。
だからやっぱり、弁護士になるんです。おじい様を、その呪縛から放すためにも繋がるから」
「呪縛……」
「大好きな人を失った、裁判のせいーーーー違う、弁護士だったせいだ。
そんなの、死んだ奥様も嬉しくありませんよ。自分の仕事に誇りを持っていたはずです、その誇りを否定されてしまうんですよ。
大好きな仕事が出来た、出来る。
それが幸せなんですよ」
私の言葉に、豪太は黙る。
「大丈夫です、龍也は死にません。私が死なせませんから。
つーか私より先に死んだら地獄まで行って文句言いまくりますから」
そう言うと、ようやく豪太に笑みが戻った。
「お前が言うと冗談に聞こえんわ」




