安寧な休日 2
〜side柚稀〜
「お断りします」
私の返事に豪太は眉ひとつ動かさない。その返答は予想通りというところだろう。
「これは、嫁のあんたのためでもあるんだぞ」
「仰っている意味が分かりません」
「ハッキリ言わせてもらおう」
豪太が、水の入ったコップをテーブルに置いた。
カランと、氷が鳴る。
「あの馬鹿孫が大学に落ちれば、あいつはめでたく儂の跡を継ぐ。するとあんたは、政治家の嫁になる」
「龍也は受かります」
「黙って聞いてなさい。政治家の嫁は大変だぞ。旦那は外食はもちろん、外泊なんて普通だ。妻として旦那の人間関係にも関わらなくてはならんし、時としては旦那に付いて行かなきゃならんかもしれん。共働きなんぞ、無理だ。
仮に出来たとしても、同職からは冷た目で見られるな」
「政治家に関わらず、そんな人はたくさんいると思いますけど」
「今井美羽を知っているかな」
確か、豪太本人が龍也と美雨の婚約を決めたんだっけ。
もちろん知っている。良い迷惑をかけられたんだから、そう簡単には忘れられない。
「あの娘は、政治家の嫁としての心構えがしっかり出来とる。あれなら、政治家になる龍也を任せられる。だが今のあんたには任せられん」
「大丈夫、心配いりません。龍也は受かります。だから政治家の嫁としての心構えなんて必要ありません」
それに。
「私は龍也が好きなんです。そんな理由で別れるなんてこと、絶対にしません」
「あの娘も、馬鹿孫を好いているがな」
「誰が龍也を好きだろうと、私はどうでも良い。あの子より、龍也といる時間は短いかもしれない。でも、時間なんて関係ないでしょう。
私は龍也が好き。龍也の隣で笑いたい。それだけなんです」
何てこと無いことで笑って。ご飯食べて。お休みって言って、おはようって起きて。
ただの日常が、そんなことで幸せで。
それがずっと続いて欲しくて。
「もし、馬鹿孫が受かったらどうする。今みたいに会社勤めなんぞ出来ん。仕送りは授業料だけの契約だ。二人分の生活費を、どう稼ぐ」
「大丈夫です」
認めたくないけど。
別れるんだから。
「大丈夫です」
二度言うと、豪太はふん、と鼻を鳴らした。




