なんとなくだけど
〜side龍也〜
ガチャリと、玄関の扉が開く音。続いて、 当然の様に「ただいまー」という声。
誰かがそうやって帰ってくるのは、中々気持ちが良い。
実家だと、味方をしてくれない家族が嫌いすぎて言葉を交わさなかったから、余計に。
「うん、ただいま。龍也、早かったんだね」
「とりあえず、俺の気持ちは伝えたし。それより」
言葉を切った俺を不思議に思ったのか、 キョトンとする柚稀。自覚が無いのか……
「酒くさい」
飲んだのか、という無言の圧力に負けたのか、柚稀が勢いよく手を合わせる。
「ごめんなさいっ。でも少しだけっ、酔っ払う程じゃないし」
「ふーん?」
「本当だってば。課長も一緒だったんだし、そんな醜態さらしません」
「課長?」
眉をひそめる俺に気づかず、柚稀は呑気に笑っている。
「そーそー、瀬田課長。今日ねっ、課長が奢ってくれたの!すっごい美味しかったんだから!」
「瀬田って、あの背が高くて、シュッとした顔の?」
柚稀を迎えに行くのに、柚稀の働くオフィスにまで行ったこともある。おかげで仲良しアピールはばっちしだ。
そのためか、柚稀の職場の人も少しは覚えた。
一般的に、あーゆーのをカッコイイと言うのだろう、という奴だ。
柚稀も、そういうのが好きな内の一人なのだろうか。
「うん、今はやりの塩顔っていうの?そんな顔だよね」
おもしろくない。
「好きなの?あーゆー顔」
「は?何、急に。別に、フツーですけど」
「顔ニヤけてるけど」
「あの顔が目の前にありゃ、箸は進みますし眼福だし?頼りがいもあるけど。
でも、違うもん」
違うもん違うもん違うもんーーーー
そう繰り返す柚稀に、分かったよと言う。柚稀はもう1回違うもん、と念押しするように言った。
そして、どこか拗ねた様に言葉を続ける。
「大体龍也にはどーでも良いじゃん、私が誰と食べようと」
「一応お前は俺の妻なんだからな。軽はずみな行動はやめてくれ」
「は?」
柚稀が、おもいっきり顔をしかめた。
「上司と食事もダメなの?そっちはあの娘と食事してたのに?」
「それは柚稀だって承知の上だろ」
「……私にどうしろって言うの。軽はずみって何、何で龍也に課長のこと疑われなきゃいけないの。私には食事を自由にとる権利は無いの?」
「瀬田とかいう奴とは、ダメ」
は?と柚稀が聞き返す。
「誰と食べようが、俺には邪魔する権利なんて無い。けど、瀬田とはダメ」
「……なんで」
なんで、と言われても。
明確な答えがあるわけじゃない 。
ただ。
柚稀が幸せそうに食べる姿は、ずっと見ている俺のものの様な気がして。
簡単に、他の奴には見せたくない。
特に、柚稀の株が高いとくれば、何かおもしろくない。
「いーから、何でもっ。分かったな」
「暴君っ!」
いーだ、と子供の様に舌を出す柚稀。
この気持ちを何と呼ぶのか、俺はまだ知らなかったーーーー




