ディナーのお誘い
〜side柚稀〜
「皐月、今日ご飯行かない?」
龍也が美羽と話し合いをする日。ご飯は食べて来るから、自分ですませてくれと言われている。
「今日は無理だわ、先約がいるんだ」
私の誘いは、あっさりと断られた。
「え〜、それ藤堂課長と?」
藤堂課長というのは、皐月の課長だ。瀬田とは同期らしく、こちらも中々かっこいい。
スポーツが好きらしく少し焼けていて、筋肉が素晴らしいつき方をしているらしい。
でも笑うと笑窪が出来て、かわいらしい印象になる。
皐月の彼氏だ。
「そ、春紀さんと」
「ならしょうがない」
わざわざラブラブな2人の邪魔をしたいわけじゃない。
かと言って、1人で高い食事代を費やしたいわけじゃない。
だからと言って、コンビニも龍也の味に慣れてしまった今、買って食べようとは思わない。
「困ったなぁ」
「何か失敗でもしたのか」
いきなり、頭の上から声がする。
「課長」
「三藤、藤堂が探してたぞ。来月提出する書類はどこだって騒いでた」
「春紀さん、そそっかしいからなぁ。ありがとうございまーす」
てなわけで私行くわ、と皐月が私に手を振った。
去って行く皐月の後ろ姿を見ながら、瀬田が「何が困ったんだ」と訊いてきた。
「たいしたことじゃないんですが 、今日 の夜ご飯はどうしようかな、と」
「旦那が作ってくれてんだろ?」
「今日は違うんです」
話し合いの相手は、私の会社にまでやって来たあの美羽だ。
ご飯を作っている暇があるなら、さっさときれいに別れて来いってものだ。
「俺が奢ってやろうか」
「え?」
思わず瀬田を見ると、瀬田はいつもの笑顔を浮かべたままだ。
「うまい所を知ってんだよ、困ってんだろ」
「そうですけど……」
これは良いのか。
上司と部下とは言え、一応私は既婚者だ。
その躊躇いをどう受けとめたのか、瀬田はハハハッと笑った。
「別に俺一人で行っても良いんだけどな、酒は一人より二人の方がうまいだろ」
「酒っすか」
「酒だ」
言いきる瀬田に苦笑しながら、それなら良いかと了承する。
「じゃあ、今日は定時であがれよ。混むと面倒だからな」
「はーい」
じゃあな、と背を向ける瀬田に言葉をかける。
「楽しみにしてまーす」
振り返った瀬田は一瞬虚をつかれた様な顔をしてから、「おう、楽しみにしてろ」と楽しそうに笑った。




