話しあい
〜side龍也〜
トゥルルル、トゥルルルーーーー
無機質な音が、長いこと鳴っている。それでも俺は電話を切らずに、待っている。
『……はい』
やっと出た声は、少し硬くて。
でも俺は、それに気付かない振りをした。
「久しぶりだな、美羽」
『……』
沈黙が舞い降りてくる。
いつもはお喋りな美羽だが、今日はそうでもない。
まあ、それも当然だろう。
「時間、あるか?いつでも良いんだけど、出来れば近日中」
『……何の用ですか』
「俺、一方的だったから。しっかり話したいと思って」
『……それは、龍也さんの考えじゃないでしょう?奥さん?』
なんで分かるんだろうと不思議だが、女は分かるものなんだろう。
隠しても意味が無いから、素直に答える。
「提案したのはあいつ。だけど、俺もそうだと思ったから」
『龍也さんって、本当人の心分かってないです。……でも、私も話したいです。
今週末なんて、どうですか』
人の心が分かってないなんて言われても、正直どうでも良い。
美羽があっさり承諾してくれて、助かった。
「仕事6時には終わらせるから。夕食でもしながらで良いか」
柚稀には悪いが、その日は自炊してもらおう。美羽とはどうせ、長丁場になるのだ。
夕食を食べながらでないと、体がもたないだろう。
『龍也さんって、本当に分かってない』
「……悪い」
『ウソ、悪いなんて思ってない。口先ばっかり、いっつもそう。謝れば良いって、思ってるんでしょう。
私のこと、分かろうとしてくれないっ』
受話器越しでも伝わる、美羽の怒り。
美羽が怒れば怒るほど、俺は冷めていく。
「分かろうとしなかったのは確かだよ。でも、そっちも分かってもらえるような努力をしたのか?」
俺の記憶の中にいる美羽は、確かに俺の妻になるべく努力をしていた。
料理教室に通っていたらしいし、習い事をしているのも知っている。
でもそれは、妻になるための努力で。
それだけじゃ、俺は美羽に興味なんて持たなかった。
『私っ……!』
「話は全部、今週末だ。言いたい事はまとめておいてくれ。
場所はーーーーお前の大学の最寄りの近くにある、フレンチで良いな」
高すぎず、それでいて味に定評のあるレストランだ。
美羽と婚約関係にあった時、何度か足を運んだが中々おいしかった。
『私に拒否権なんてあるんですか?』
「拒否したいならすりゃ良い。それが通るかどうかは別だがな」
『龍也さんって、ズルい。私が龍也さんに反対出来ないの知ってるのに』
知るか。
何がズルいのか。反対出来ない?出来ないんじゃない、しないだけだろう。
子供にいちいち付きあってられるか。
だから美羽は選ばなかったのだ。
自分のことばかりで、周りがよく見えていない。
周りのせいにして、自分は正しいという顔をする。
冗談じゃない。
通話終了ボタンを押そうとして、それをもの凄い精神力でなんとかやめる。
まだ話は終わっていないのだ。
切るわけにはいかない。
「良いな」
『現地集合、ですか?』
「仕事帰りに迎えに行けないから」
バッサリ切り捨てる。
そしてそのまま、
「じゃあな」
美羽の返事を待たずに、次こそ通話終了ボタンを押す。
ツーーツーーツーー
「ッハアーー!」
疲れた。
精神的にやられた。
これは、今週末は本当に覚悟しなくちゃいけないな。
大きく伸びを1つ。
ふと窓を見ると、三日月が真っ黒な夜空に浮かんで、うっすらと輝いていた。




