価値観の違い
〜side龍也〜
「あのさ、龍也」
「うん?」
夜ご飯を食べている最中に、柚稀がニュースを見ながら言い出した。
「今日ね、今井美羽って子に会ったよ」
「……は?」
「だーかーらー、今井美羽って子に会った」
柚稀の言っていることは理解できる。
できるからこそ、聞き返しているのだ。
柚稀が、美羽に会った。
なぜだ。
「会社に乗り込んで来たよ、1人で。大学4年だっけ?大した子だね」
「会社に来たのか、あいつ」
「私には真似できない行動力と決断力だなぁ。まあ、見習うつもりなんて無いけど」
「見習わんで良い」
今井幸司に最近会ったばかりだというのに。
次から次へとなんて面倒くさい奴らなんだ。
俺は柚稀を選んだのだから、それをきちんと理解してほしい。
美羽は、選ばれなかったのだ。
「何しに来た?迷惑だっただろ」
「私が龍也の奥さんってのが、納得してないみたい。
私の方が龍也の事何でも知ってるし、家事だっなんだって出来るって凄い勢いでまくし立てられた」
しっかり分かってくれ。
そんなだから、一緒になりたくないんだ。
美羽は大学4年で、まだ子供で。
世間を知らないまま妻になられても困るし、美羽と一緒になると、自分の将来にレールが敷かれるのが目に見える。
ジジイと幸司は、必死になって俺を政治家にしようとするだろう。
さらに、美羽の性格。
ちょっと、ストーカーの領域に達していやしないだろうか。
おまけに。
好きでもない奴と結婚なんて、ふざけるのも大概にしてくれ。
確かに家事が出来るというのは、ありがたい。
帰って来て、温かい風呂やらご飯やらが用意されているのは、嬉しいだろう。
ただ、俺は今の生活に慣れてしまっている。
仕事から帰って来て、柚稀のためにご飯を作って。
うまいと言ってくれる。
それを聞くのが、好きだ。
仕事の大変さが分かってるから、気遣いだってしてくれる。
美羽と結婚してたら、そんな喜びには出会えなかっただろう。
「また、仕事場に来るかもな。どーすっかなぁ」
「それなんだけど」
柚稀が白米を全部口に含んでから、箸を置いた。
「ちゃんと、あの子と話をした?婚約者だったんでしょ、話つけた?」
「結婚するから、婚約解消するって伝えた」
「だけ?」
「だけ」
いきなり柚稀が、はあああと長い、大きいため息をついた。
「それじゃあ、納得しないわ。納得納得」
「なんなんだよ」
「だって、それだけじゃあ納得できないでしょ。
ずっと婚約者だったのに。龍也と結婚する用意してたんでしょーが美羽って子は。
それなのに、そんな一言で終わらせられちゃうなんて、嫌だよ」
美羽には、単刀直入に言ってやらねばならないのだ。
柚稀はそれを知らないだけだ。
そう言うと、柚稀は顔をしかめて首を横に振る。
「私は離婚前提だから、別れるの承知で結婚したよ。
ちゃんと、心の準備は出来てる。でも、美羽さんは違うでしょ。結婚して、ずっと一緒にいる前提だったんだよ。
それがいきなり別れるなんて、ショックだよ。心の準備だって、なにもしてなかったでしょうに」
「永久就職されるつもりなんて、こっちには無いんだってば」
「私達の場合はそうだけど、彼女は違うでしょ」
「は?」
柚稀が、大袈裟に息をはき、それから俺を見る。
いつもの、元気まんまんな顔じゃない。
どう表現したら良いのかーーーー寂しそうな、どこか悲しそうなーーーーそんな顔をする。
しかし、それも束の間。
「龍也って、バカ」
すぐに、いつもの小憎たらしい顔になる。
「その気持ち、あの子にちゃんと伝えなよ。最初から、全部だよ」
「なに、お前どっちの味方なの」
「私は私の味方ですけど?龍也が言わない限り、私があの子に恨まれちゃうじゃん。私に非は無いのに、バカみたいでしょ」
「お前のためかよ」
当然でしょ、と柚稀が軽く睨む。
「私は龍也があの子とどーなろうと、気にしないわよ。だって私は龍也の奥さんを演じてるだけだもん、気にならない。
でも、奥さんだからってだけで恨まれるのは嫌だからね」
「分かったよ」
好きじゃない奴と結婚して、それで恨まれるというのもかわいそうだ。
「今度、しっかり話してくる。お前にも迷惑かけさせないよう、しっかり伝えておく」
「本当によろしくしますよ」
話はこれで終わりだと言うように、柚稀が席を立ち、空になっている食器を片し始めた。




