鈍い
~side柚稀~
「ふぇーい」
デスクに戻って、椅子にもたれかかる。
怒鳴ってやったら、美羽はビクッと肩をすくめて、すごすごと帰っていった。
美羽と話した時間は、30分にも満たない。
なのに、この疲れ具合ときたら!
私の場合は、短時間で済んだけど。
元婚約者だった龍也は、大変だったんだろうな。
なんて言ったって、自分の交友関係まで把握されているのだから。
同情する。
はは、と1人乾いた笑い。
すると、
「大丈夫か?」
目の前に、瀬田がいた。少し、心配そうな顔をしている。
「なかなかアクが強そうなお嬢さんだったな。
人の神経を逆撫でするのがウマそうな」
「なかなかどころじゃありませんよ、あれは。自分の思いだけが突っ走っちゃうバカ娘です。
おまけに、神経逆撫でも無意識です。無意識ほどムカつくものって、無いんですね!」
ふん、と鼻を鳴らす。瀬田がそれを見て苦笑した。
「お前の旦那の何だったんだ?まだ青くささが抜けてない、赤ん坊みたいな奴だったが」
「なんか、元婚約者らしいですよ」
「……よくサラッと言えるな」
少し顔をひきつらせた瀬田に、次は私が苦笑する。
「たつ……旦那の家って、結構大きくて。旦那本人もそれに縛られてるとこあって。私との結婚って、旦那の解放にも繋がるんですよ」
まあ、そのための結婚である訳だし。
だから。
「全然気にならないですよ」
だから心配しなくて大丈夫ですよー、と瀬田に笑いかける。
「うまくいってんだな」
「まあ、なんとか」
龍也を好きになった。
瀬田に結婚したと報告した時には、想像できなかったことだ。
そう考えると、うまくいってる。
「大変そうだな」
「まあ、大変ですよー。でも、楽しいです」
「そっか」
瀬田が、くしゃりと笑った。
あれ?
笑った瀬田が、なんとも言えない表情をしている。
初めて見る、寂しそうなーーーー
「わっ⁈」
いきなり瀬田に、髪をクシャクシャされる。
「ちょ、課長っ」
「辛くなったら、いつでも俺に言えよ。家で頼りになんのは旦那かもしんねぇけど、仕事じゃ俺だ」
「もーじゅーぶん頼ってますけど?」
崩れた髪を整えながらそう言うと、デコピンをされた。
「痛いっ」
「バーカ」
「えー、なんでですかそれっ」
自分で考えろ、と背を向けて瀬田は自分のデスクに行く。
「課長!」
少し大きめの声で呼びかけると、歩いていた瀬田の足が止まり、私を振り返った。
「1つだけ、ヒントやるよ」
「はぁ」
「お前、よく鈍いって言われんだろ」
「はぁ⁈」
以上だ、と次こそ足を止めずに瀬田はデスクに戻った。
確かに、昔は鈍いと言われていたけど。
社会に出て、色々もまれて。
昔とは違うんだけどな。
それでも、瀬田は、よく分からない。




