酔っ払い
〜柚稀〜
私はいまいち、目の前の状況が理解できていない。
玄関に上がりこむやすぐに、倒れ込んでしまった龍也。
手には、何か買ってきたのかレジ袋。
「ちょっと、龍也。起きてよ、風邪ひいちゃうってば」
揺すっても、効果なし。仕方なく、龍也を担いでべッドまで運ぼうと龍也の体に手を入れる。
「重っ」
龍也は、細い。なのに、どうしてこんなに重いのか。
男だからか?
軽くよろけながらも、なんとか立ち上がる。ただ、これでべッドまで運ぶのかと思うと、冗談じゃない。
「龍也、起きて。ほら、起きなさいっ」
「んあ?」
「ほら、べッドまで行くよ。歩いて」
「ん〜」
フラフラとしながら、龍也が一歩一歩足を踏み出す。でも危なっかしいから、私の支えが必要になる。
「もう、よくそれで運転したわね。下手したら事故だよ事故!」
「してもらった」
「誰かと一緒だったの?それで、代わりに運転してもらったの?じゃあその人、ここからどうやって帰ったの?」
「ん〜?」
フフフ〜ン、と鼻歌を歌い出す龍也。
駄目だ、完全なる酔っ払いだ。
それにしても、どういう風の吹き回しか。
いつも車で出勤している龍也はお酒は飲まないし、飲んだとしても簡単に潰れる玉じゃない。強いのだ。
それが、こんなになるとは。
どんなに飲んだのか。
「よっこらせ」
寝室のドアを開ける。
あと少し、あと少しーーーー
「おりゃ」
龍也をべッドに放り出す。
べッドにうつ伏せに倒れ込む龍也。う〜ん、と仰向けになった。
お酒が入っているからか、顔が赤い。おまけに、暑そうだ。
……しょうがない。
私は龍也のネクタイに手をかけて、ほどいてやる。続けて、シャツのボタンを2個ほど緩める。
「……柚稀?」
「覚めた?」
「頭、ガンガンする」
「飲みすぎ。珍しいね、でももう寝なよ」
部屋の電気を消そうとすると、龍也が「ん」と私の服を引っ張る。
「そーゆーの良いから。……いろ」
「いろ、って……」
酔っ払いに無理させる気か、と酔っ払いの意味のわからない理論を展開する龍也。
意味わからないし、と文句を言いながらそこにいるのはーーーーいろ、と言われて嬉しかったからだ。
なんでかは、わからないけど。
べッドに腰掛ける。
龍也は眩しいのか、腕を目の上に乗せている。
「……土産、買ってきた」
「明日、一緒に見ようか」
「……眠い」
「寝なさいってば」
「ムニャ……」
「うん」
すうすうと、寝息を立てる龍也。
龍也の寝顔を見るなんて、初めてだ。寝室は別だし、思わずうたた寝、なんてことはしない龍也。
べッドじゃないと寝られないとか、ふざけたことをほざいていた。
私は床でも寝られる。
龍也の寝顔を見て、わかったこと。
睫毛が長い。鼻筋がスラッとしている。尖りすぎず、丸すぎない顎。
私の欲しいパーツを全部持っている。
人は、寝ている時が一番無防備になると言われている。
龍也の寝顔は本当に無防備でーーーー
「カッコ良いな、くそ。ムカつく」
少し、見惚れてしまう。
「でも、いくらカッコ良くても、中身がヒドかったら意味ないんだからね」
わざわざそう言ったのは、どうしてだろう。
わからない。
だけど、それが意味のわからないモヤモヤとした気持ちを、吹き飛ばした。




