飲み会の後
~side龍也~
「おいおいおいおい、龍也ぁっ!」
飲み会終了と同時に、笠原が俺の背中を強く叩く。
「おじさん相手に啖呵きっちゃってヤバイと思ったんだけど、何だよめちゃカッコ良かったじゃんかよ!
おじさんが何も言えずに引き下がるの、初めて見たわ」
あの後今井幸司は「むう……!」と唸ってから、飲み会から退場してしまった。
その顔の恐ろしいことと言ったら。
地獄の閻魔様も真っ青だ。
「やっぱヤバかったかね、あれは」
「今さら、何腑抜けたことぬかしやがる。良いんだよ、あれで。
人の結婚に株主として圧力かけるなら、おじさんはそこまでの人間なんだよ。
つーか俺は、お前の啖呵に惚れた」
「は?」
肩を組んでくる笠原を、驚いて見る。
敬語も何もない、あのどこに惚れると言うのか。
相当酔っているな。
俺もその後かなり飲んだつもりだったが、笠原の方が上らしい。
「おじさん相手に一歩も引かず、奥さんへの愛の言葉!
いやぁ、新婚だもんなぁお前。やっぱかわいくてしょーがねぇよなぁ?」
「愛の言葉って……」
「えーと、なんだっけか。今の俺には、あいつが必要なんだよ、だっけ?」
「おまっ……!」
ニタリ、と笠原が頬をだらしなく緩める。
「本当、お前の奥さんが羨ましいぜ」
「別に、そうでもないぞ」
最近、なんとなく夫婦になれてきたかな、とは思う。
けれど、柚稀が羨ましいかどうかは全くの別物だ。
首を傾げると、笠原が面白くなさそうに俺の頭を軽くはたく。
「ムカつきますな〜、この幸せ野郎。毎日送り迎えして、休みは一緒に過ごしてんだろ。おまけに、今回は旦那の告白だもんなぁ。
あー、俺も結婚してぇ」
「お前はまず、相手を見つけろ」
「本当それな」
どこかにいないかね、良い女。そう呟く笠原に、バカかと突っ込む。
でも。
意外といるもんだ。
例えば、柚稀のように。
今井幸司に問われ。
気づいたら、すらすらと答えていた。
柚稀の良い所。
当たり前のことだったが、その当たり前を、当たり前のようにやっている人間はどれくらいだろうか。
普段一緒にいて、意識しなかった良い所。
探せばもっと出てきそうで。
探そうとしなくても、出てきそうで。
さっきのように。
いつの間にか、良い所で溢れている。
気づかされる。
柚稀がいなくては駄目なんだと。
柚稀に、支えられていたんだと。
「なぁ、一回俺お前のかわいい奥さんに会ってみたいんだけど」
はあ⁈
「会いたいって……会ってどうすんだよ」
「別に?ただ、渡部くんの好みってどういうのかなぁと。
あと、お前に付き合ってやれる子にも興味がある」
「フツーだよ」
うんにゃ、と笠原が首を横に振る。
「自覚してねぇかもしんないがな。お前、結構頑固だし、メンドくせぇ性格してるよ?
そんなお前と結婚する娘は、絶対普通じゃない」
「……もの凄い言われ様だな」
ただ。
確かに、柚稀は普通じゃないかもしれない。
酔った勢いでとは言え。
初対面の男と結婚し。
常に我慢して。
凄いのは、結果的にそれらを楽しんでいることだ。
爆発しても、すぐに笑顔が戻る。
素晴らしく良いことだ。
「じゃあな、かわい〜い奥さんのいる家に早く帰ってやれよ」
奥さんによろしくな〜、と言いながら、笠原は二次会のメンバーに加わる。
どうやら妻子持ちは、帰宅らしい。
正直、今井幸司と話し(一方的にまくしたて)て緊張したのか、体は少し疲れていた。
帰れるのは、有り難い。
車を停めてある駐車場に向けて一歩踏み出す。
ふと、頭に柚稀の顔が浮かんだ。
土産に何か、買っていってやるか。
どうしてそう思ったのかは、わからない。
ただ、何を買おうか。
柚稀の喜ぶ顔を想像した。




