飲み会の中
〜side龍也〜
「久しぶりだな衛、龍也くん」
株主を待たせるわけにはいかないという暗黙の了解のもと、先に宴会場となっている和食屋『みかづき』に来ていた俺達。
そんな俺達を見つけた今井幸司は、一目散にやって来た。
「衛、お前たまには顔を見せなさい。うちのが会いたがってるぞ」
「仕事が忙しくて、さ。でも正月に会ったばっかじゃん」
「馬鹿者、半年以上も前だろう。今7月半ばだぞ」
呆れたように言う今井幸司と笠原の間には、親戚という独特の空気が流れている。
よし、そのまま流れろ。
天にも祈る気持ちで、グイッとグラスに注がれた酒を飲む。日本酒だ。
しかし悲しいかな、今井幸司はクルリと矛先を変える。
「久しぶりだな、龍也くん」
さあ、逃げられないぞ俺。
どうする、俺。
「どうも、ご無沙汰しております」
正面からやりあうに決まってんだろ。
息を吸って、今井幸司と向き合う。
俺達の間に流れた火花を感じたのか、「俺、向こう行って飲んでるわ」と笠原が席を立つ。
これで、一対一。
周りが騒いでいる中、俺達の纏う雰囲気が違う。
なんとなく、避けてるんだろう。別に良い。むしろ、やりやすい。
「……結婚したと聞いたが」
「大学からの付き合いがあった方と、最近結婚することが出来ました」
「驚いたよ」
「そうですか」
俺もですよ、と心の中で呟く。
「君は、美羽と結婚するものばかりだと思っていたんだがね」
冗談じゃない。
「どうして美羽とじゃないのかね」
「妻に出会ったので」
嘘じゃない。柚稀に出会ったから、結婚できたのだ。
今の生活がある。
「君の妻は、どんな娘なのかね」
「どんな、とは」
「……美羽より、その、良い娘なのかね」
親バカはやめてくれ。
「家事が出来ません、料理は俺担当です。仕事で何かあると溜め込んで、爆発します。生意気だし、ムカツきます」
「じゃあ、なんで」
「それは……」
夢のためだ、なんて。
誰にも言ってないし、言うはずがない。
言葉に詰まる。
はずだった。
「一緒にいると、楽しいんですよ」
するっと言葉が出てきて、自分でも驚く。それでも、言葉は止まらない。
「すぐに表情変わるし、見てて飽きない。今まで自分では想像もしていなかった角度で物事を見ていて、俺とは違う世界を確立しているんです。
毎日が新鮮で、楽しいんですよ」
「美羽にも、あの娘なりの世界があるがな」
柚稀と比べんなよ。
怒りが沸々と沸く。
「妻は男社会の中頑張っています。女だと馬鹿にされることも、少なくは無いそうです。けど、妻はその中で一生懸命仕事しているんですよ」
「その仕事を選んだのは、彼女自身の責任だ。頑張るのは、当然じゃないかね」
プチッ。
勘忍袋の尾がなんとやら、だ。
「あんたの娘さんは、大学出たばっかだろ。就職なんて、してないだろ。何が責任だ、責任も取れない奴より、よっぽどマシだろ」
「な、何をいきなりーーーー!」
「確かに料理も家事も出来る、習い事だってやってる。どっちが上かなんて、そんなの一目瞭然だ。
けどな、社会の中で生きたことの無い奴が社会の中で生きている奴を支えるなんて、出来るのかよ。苦しみを、理解してやれるのかよ」
出来ない。
と言うより、されてたまるか。
社会は、大学なんかよりずっと厳しくて。怒られるのはサークルやバイトなんかより多くて。
自覚と責任感と自立心が必要で。
それを、お嬢様の彼女が持っているなんて。
お子様の茶番に付き合っている程、俺は暇じゃないんだ。
「今の俺には、あいつが必要なんだよ」




