母と義息子
ちょっと時間が前後します。
柚稀が帰り道の、家の状況です。
〜side龍也〜
「お茶をいただけるかしら」
「あ、はい」
台所に行き、お湯を沸かす。ティーパックはどこだっけ……ああ、あった。
「どうぞ」
「随分と慣れてるみたいね」
「まあ」
一人暮らしをしていた訳だし、柚稀と結婚して妻が出来たからと言って、料理をしなくなった訳じゃない。
むしろ、前より栄養などをしっかり考えて作るようになった。
しかしそれを柚稀の母さんに言う程バカではない。
そもそも、初対面なのに母さんの機嫌は悪い。
まあ、娘が結婚したと言うのに、報告も挨拶もしなかったからな。
印象はサイアクだろうな。
「柚稀は、家事をやらないでしょ。慣れるわよね」
「……はあ、まあ」
空気が重い。辛い。
「なんで柚稀と結婚したの」
いきなり核心をつかれる。
そうですよね普通聞きますよね、娘がいきなり結婚したんだから。
「えーとですね」
「えーと?」
俺が淹れたお茶をテーブルに置き、じっと俺を見る柚稀の母親。
中途半端な事を言ったら、見抜かれてしまいそうだ。
というか柚稀、早く帰って来い。
「柚稀ーーさんとは、大学以来の友人でして」
俺が一方的に決めた柚稀との関係を、出来るだけ本当に聞こえるように心がけて話す。
「俺が柚稀さんを好きになった時には、もう柚稀さんに付き合っている人がいまして」
「健人さんね」
正直、柚稀の元婚約者の名前なんか覚えてない。
適当に、頷く。
「ええ、そうですね。それで、告白して玉砕するくらいなら、友人のままでも近くにいられればなって思いまして」
柚稀の母親は、真剣に俺の話を聞いている。
娘を心配する様が、しっかりと伝わってくる。
「けど柚稀さんが別れまして。それを聞いて、チャンスだと思い結婚を申し込んだ次第です」
そう、と言って柚稀の母親はお茶を一口すする。
「正直、私はあなた達の結婚に反対なの。柚稀ったら報告しないし、挨拶にも来ない人と結婚なんて、非常識だわ。
まあ、別れたその日に結婚するあの子も非常識なんだけど」
結婚を提案をした俺が言うのもなんだが、その通りだと思う。
しかも本当は、大学からの友人なんかではなく初対面の男。
酔っぱらっていたとは言え、よく決めたなと思う。
「私はてっきり、柚稀は健人さんと幸せになるものだと思っていたし、あの子もそうよ。だから別れてすぐに結婚なんて、信じられないの。
すぐに他の人と結婚できるって、健人さんのこと本気で好きじゃなかったってことでしょ?
娘がそんな人間なんだって、信じたくないのよ」
あなたを責めてる訳じゃない。
「人としてどうかと思うのよ」
柚稀の母親の言わんとしている事は、分かる。
けどそれは、無用な心配だ。
柚稀と初めて会った日。
あの時俺が見た涙は、本物だろう。
泣いて、心の中のものを吐きだして。
他の時にも、自分の心の叫びを吐きだした。
今柚稀は、前を向いて歩いている。
そばにいる俺が、それを分かっている。
「柚稀さんは、人として立派だと思います。まだ若いのしっかりと自分を持っているし、会社の後輩からも慕われています」
その柚稀の自分というものに時には閉口し、後輩には迷惑しているのだが。
それでも、大した奴だと思う。
「……あなたは、嫌じゃないの?柚稀は、まだ健人さんの事を引きずってないとは言い切れない。
柚稀を好きでいてくれるのに、当の柚稀は分からないじゃない」
「どうでも良いんですよ、そんなの」
これから言う事は、嘘を含まない。だから、堂々と言える。
「正直、柚稀が俺を好きでなくても構わない。一緒にいてくれれば、それで充分なんです」
好きにならないだろうから、結婚したのだ。
ギブ&テイク。
それが俺達の関係だ。
ただ。
今の俺の言葉は、表面通りに受け取れば、意味は大きく変わる。
案の定、柚稀の母親は「まぁ」と目を見開いて感動をしてくれている。
「健人さんには申し訳ないけどーーあなたが柚稀の旦那様で良かった」
問題、一件落着。




