大失態
〜side柚稀〜
嵐は突然、なんの前触れもなしにやって来た。
「うー、疲れたぁっ」
椅子に座りながら、思いっきり伸びをする。固まっていた箇所が伸びり感じが、気持ち良い。
今日はクライアントとの打ち合わせと、新しくオープンするという支店の内装確認。
これしかやってないんだけど、意外と疲れるんだなこれが。
打ち合わせはデザイナーも含め、予想図や写真を使いクライアントに想像しやすく説明する。
そうすれば、完成した時には思い通りのものが出来る。
けれどそれには、完成するまでの綿密な打ち合わせが必要なわけで。
私達が全てを握っていると言っても過言じゃない。
だから気は絶対に抜けないし抜かないし、そこにやり甲斐だって感じてる。
けどその分、ちゃんと疲れる。
今日の分は完璧に終わっているし、明日の分を少しやっても良い。
そうしたら、明日はかなり楽になるはずだ。けど疲れてるんだよな、今。
どうしようかな。
デスクの上のPCと睨めっこしていると、ヴヴヴと携帯がバイブした。
着信相手は、龍也。
「もしもし?」
龍也が仕事中に電話をしてくるなんて、珍しい。
どうしたんだろ、とあまり深く考えずに電話に出る。
『仕事、もう終わったか?』
一番初めに飛び込んできたのは、慌てたような龍也の声。
私が泣こうが喚こうが、どうしようが動じない龍也が、かなり焦っている。
「終わったけど、どうしたの。そんなに慌てちゃって」
『お前の母親が来た』
「……」
タチの悪い冗談だ。
『嘘じゃない、本当に来てんだよ。結婚したなんて聞いてないって、お怒りモード。早く帰ってきてくれっ』
oh,no......
やらかした。
そういえば、龍也の方には出会ったその日に挨拶したけど、私の方にはしていなかった。
健人と別れた事は言ったけど。
「帰らなきゃ駄目?」
『ふざけんなよお前。終わったって言ったよな?帰って来い帰って来てくれお願いしますっ』
健人との結婚を一番喜んでくれ、別れた事を一番悲しんでくれたお母さん。
私が一人娘なだけに、その喜びや悲しみは計り知れない。
それなのに、いつの間にか結婚していて、しかも報告されてなかったら、それはお怒りにもなるだろう。
「……すぐ帰る」
いずれはバレる事だ(別に隠すつもりは無かったけど)。それが、今日なだけ。
お先に失礼しますと言って、急いで会社を出た。




