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a shame married couple  作者: コシピカリ
18/60

日曜日の昼飯時  前編

2021年6月7日 修正

〜side柚稀〜



「ん〜、なんも面白いテレビ、やってないなぁ」


 今日は、日曜日。会社は休みだ。雨は降ってないけど、今にも降り出しそうな天気。

 わざわざ出かけようとは思えないし、2人とも会社に居る時は、なるべく一緒に居ようという、できるだけ仲良し夫婦に見せるための取り決めがある。

 龍也は会社から帰宅した後ぐらいしか、平日は勉強ができない。だから休日は、龍也にとっては最高の勉強日。

 必然的に、私も家に居ることになる。


 私はすることもなくソファに寝っ転がり、クッションを軽く抱き締める。すると、テーブルに向かい参考書やら問題集と格闘している龍也が見えた。


 一緒に暮らしてわかったことなのだが、龍也はリビングで勉強をするタイプだ。せっかくある書斎は使っておらず、ただの物置と化している。私の荷物も置かせてもらっているため、もっと有効活用したほうが良いとはあまり言えない状態だ。


 龍也の勉強の邪魔はしたくないけれど、見るテレビ番組がないのはツラい。休日に仕事をやるタイプでもないし、趣味といえば軽い運動や散歩が好きな私。することもなく家にいるというのは、非常につまらない。

 時刻は午前10時20分。何をしようか、視界に入る龍也を見ながら、私はクッションを再度強く抱き締めた。


+++



「……ん、良い匂い」


 鼻孔をくすぐる美味しい匂いに、私は目を覚ます。どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。時刻は午前11時40分。かなり眠っていたようだ。

 ソファから起きあがるとリビングに龍也はいない。匂いのもとを辿ると、キッチンに龍也が立っていた。


「起きたか」


 エプロンをつけた龍也は、ちょうど野菜を水洗いしていた。並んである材料から、残念ながら何を作ろうとしているのかはわからない。


「ナイスタイミング。昼飯つくるぞ、手伝え」

「えー」

「えー、じゃない。大体俺、お前の手料理食べたことないんだけど」


 じと、とした龍也の視線。それを受け止めながら、私は笑う。

 実は結婚してから、料理は全て龍也がやっている。


 朝の弱い私にちゃんとした食事を与えるのは龍也の仕事と化し(おかげで、1日3食が今では普通だ)、昼は各自だが夜は帰りが早い龍也。

 休みの日だって、大抵いつも勉強の息抜きとして料理を作ってくれる。

 しかもその腕前は中々のもので、本当に便利な男。

 なのに。


「自慢することじゃないけどね、私に包丁持たせないほうが良いよ。忠告したからね、当たり一面血の惨状になっても責任とらないよ」

「何があればそんな惨状になるんだ」

「カボチャを切ろうとしたら、スパンと指を。急いで病院行ったから、指もくっついたけど。あれは色々覚悟したね」

「……想像以上の惨劇だわ。わかった、柚稀には包丁は持たさない。絶対持つな」

「というわけで、私はできあがるのを待ってるね。お皿とかお箸は用意するから」

「料理は切るだけじゃない」


 コツンとデコピンをされた。


「言っておくけど、私、火も無理。一回、軽くボヤを出しかけたから。まあ、でも消化器あるならやるけど」

「いい、絶対やらせない」

「じゃあ、私いらないね?頑張って、おいしいの期待してる」


クルリと方向転換しようとすると、首根っこをつっかまれた。


「いるだけでいいから」

「は?」


思いがけない龍也の言葉に、思わず変な声が出る。


「なんだよ」

「いえいえ、別に?ただ、気持ち悪いこと言うもんだから。熱でもあるのかなー、と」


それとも、勉強のしすぎで脳内がヒートアップしたか。どっちにしろ、重症だ。


「本当失礼だな、お前って。いいから来い、ほら隣」

「なんなのよ、一体」


とりあえず、大人しく龍也の隣に行く。龍也は手際良く、野菜を洗ったり、器材を用意している。私は邪魔にならないよう、それはもう苦労して龍也の隣にいる。

 龍也がパスタを取り出した。


「わ、パスタ?やった!あとは?あとは?」

「サラダ、スープ」

「サラダ海老希望!」

「贅沢言うな、具材はもう決まってんだよ」


 龍也はスーパー主夫かと言いたくなる程、家事においても仕事においても、卒がない。そう憎まれ口を叩きながらも、 冷蔵庫には私が希望したものが揃っており、問題はなさそうだ。


「クリームパスタが良い」

「生クリームあったっけな……お、あるわ。作れる作れる」


よっしゃ、とガッツポーズすれば、良かったなと龍也が笑う。うん、と頷いてから、はたと気付く。


ナゼ、タツヤガコンナニヤサシイ?


 だって普段なら、「作ってやってるんだから文句言わずに食え。メニューに注文するならお前も手伝え」と至極全うなご意見をいただくのに。

 そばにいるだけで良いだとか、クリームパスタの注文を受けるだとか、普段なら有り得ない。

 一度怪しむと、もう駄目だ。隣で優雅にパスタを茹でようとしている龍也を、信じられない。


「……龍也」

「うん?」

「私、本当に料理できないんだけど。片付けぐらいならやるけど、それ以上のことは無理だよ。仕事だって、手伝えないし、掃除だって龍也のほうが綺麗好きで細かい」


 私の好きなものを作って、私をこき使おうとしても無駄だ。そういう意味を込めて強く言えば、龍也がキョトンとする。


「……違うの?私の大好物で私を釣ろうとしてるんじゃないの?」

「なんでそうなる」

「だって、おかしい。龍也がこんなに至れ尽くせりなんて。なにを企んでるの、白状なさい!」


龍也が参ったな、とでも言うように、頭をかいた。

あ、やっぱなんか企んでたんだ。


「ご褒美」

「は?」

「いつも頑張ってる柚稀に、たまには良いかなって思ってさ」



++++



「ほうれん草を3cm長さに切り、ベーコンは1cm幅のスライスしている。ぶなしめじは石づきを落としてほぐす」

「ほう」

「フライパンにバターを熱し、ベーコンとぶなしめじを中火で炒める。きのこの香りが立ちベーコンが焼けてきたら、ほうれん草を加える。ほうれん草が縮んできたら、白ワインを加えて香り付け。液体が半量になるまで煮詰める。水に対して少量の塩をしたお湯を沸かし、スパゲッティを茹でる」


 手際の良さに感心していると、パスタを鍋に入れた龍也は、じゃが芋、玉葱を一口大に切って、これも鍋で炒め始めた。


「水500mlとほうれん草、生クリームの残り、そしてコンソメを入れる。じゃが芋が柔らかくなったのを確認してから、ミキサーにかける」


 時々パスタをかき回しながらも、せっせとスープを作る。じゃが芋に竹串がすんなり通ったのを確認し、龍也は私を向いた。


「あとはこれを数回にわけてミキサーにかけて。それぐらいは出来るだろ」

「ミキサー、ミキサーね。うん、大丈夫だと思う」


 有り難いことに、龍也はミキサーをセットしてくれた。私は鍋の中の具材を掬い上げ、ミキサーに入れ、電源を入れるだけだ。

 ガガガ、と五月蠅い音がかかる中、龍也はパスタに向き直る


「生クリーム・コンソメ・塩・こしょうを加え、一度中火で沸かす。茹で上がったスパゲッティ・粉チーズを入れて混ぜ合わせる。味が決まれば、ほら完成」


 味見するか、と聞かれて私は頷く。

「口あけて」

 

 言われるがまま口をあける。熱いから気をつけろよ、と言われ、口の中にパスタが突っ込まれる。せめてお小皿に盛るとか、自分で食べることを想像していたから、少し驚いてしまった。龍也もその後一口食べて、うまいと一言。

 丁度2回にわけていた残りの具材もミキサーにかけ終えたので、味を調えて器に盛る。スープは塩をかなり投入して、良い感じだ。


 ランチョンマットの上にスプーンとフォーク、そして龍也が綺麗に盛り付けたパスタとスープをセットする。

龍也が配膳し終えたあと、龍也が「いただきます」と手を合わせる。慌てて私も合わせる。


「……一体全体、どうしちゃったワケ?」


 パスタを口に運びながら訊くと、同じくパスタを口に運んでいた龍也と目が合った。


「だから言ったろ、ご褒美」

「私が聞きたいのは、どすしていきなりご褒美って発想になったのかってこと」

「あ〜……」


 龍也がチロリ 、と私を見る。


「なに?」


 はやく言え、と顎でしゃくる。龍也は肩をすくめ、それから口を開いた。


「この前、お前が荒れて、酔って俺が連れて帰った日」


 反射的に、体が強張る。

 あの日だ。手を差し伸べてくれた龍也にやつあたりした挙句、連れて帰ってもらった日。


「あの時、一緒にいた後輩が言ってたんだよ。柚稀は一生懸命、見栄はってんだって」

「見栄って……」


 私には、そんなつもり無かったんだけど。側から見たら、見栄をはっているのだろうか。

 そうだとしたら、痛くないか私。


「見栄ってさ、自分をでかく見せたいからはっちゃうんだよな。少なくとも、俺はそう。だからさ、柚稀もそうなのかなって。男社会の中、女だから必要以上に見栄をはってるんなら、それは、すげーと思う」

「私は、自分を大きく見せたいとは思ってない」

「でも、はってんだろ?」


 なによ、さっきから、分かったような口をきいて。

 良いじゃない、別に見栄ぐらいはったて。見栄なんて、誰だってはってるんだから。


「はってるよ、いくらでも。けど、それは私が女だからじゃない。龍也だってはるよね、見栄ぐらい」

「もちろん。でも、柚稀のとは程度が違うよ」


 なによ。なによ程度って。


「泣いちゃうぐらい追い詰められても、弱音をはかないのは俺には無理。というより、もう見栄じゃない。我慢だよ」

「弱音をはいたらアウトなの。平気で捨てることができんだから、ウチの会社。特に、女は喜々として切り捨てるわよ。正社員だろうが関係なし。時代遅れの、ガチガチの石頭の集まりなんだから」


 だから、弱音なんてはいてられない。これ以上は無理だという態度だって、許されない。どんなに辛くても苦しくても、結果を出し続けなくては。

 だから。私は我慢ぐらいしてやる。

 世の中、全てうまくいく訳がないから。何か必ず、我慢しないといけないんだから。


「別に見栄はるのも我慢するのも、それは柚稀の自由だ。けど、俺が言いたいのはそれじゃない」


 龍也が、私の顔をしっかり見ながら、ゆっくりと口を動かす。


「会社でなら、いくらでも見栄なり我慢なり、自分がしたいだけしろよ。けど、家ではするな。不平不満を、全部言え。溜め込むな。俺は、お前が大変なのを手伝えないけど、話し相手にはなれるから」

「……でも。でもそれじゃ、龍也に迷惑だもん」


 仕事で忙しい龍也。その上、大事な大学受験も兼ねている。弁護士になるための、大切な一年。

 私は、龍也の邪魔をしたい訳じゃない。

 なんのための結婚か。

 龍也は弁護士になるため、私は単に結婚したかったから。それだけ。私は龍也の夢を応援したいのであって、足を引っ張りたいわけじゃない。


「お前って、馬鹿なのな」

「馬鹿って何よ」


 龍也が、呆れたように私を見る。


「俺らは、れっきとした夫婦なんだぞ。夫婦ってのはお互いが支え、支えられるもんなんじゃないのかよ」


 夫婦って言ったって、紙きれ一枚の関係だ。

 私達は確かに結婚して、同棲生活も一カ月弱だ。世間で言う新婚期間だ。

 けれどそれは、出会ってから一カ月弱とも言える。


 そして、今だに相手のことをよく知らない。

 そんな人に、迷惑なんてかけられるわけ、ないじゃない。





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