後輩
~side龍也~
「うーわー、めっちゃキレーなお家じゃないですかー」
「あー、龍也キレイ好きだからねー」
ねー、と柚稀に言われ、「ああ」と返す。すると柚稀が、小声で「ちょっと」と文句を言ってきた。
「不機嫌になる気持ちも分からなくはないけどっ。隠してよ」
「あのなぁ……」
俺と柚稀は、不機嫌になっている元凶へと目を向けた。
その元凶は見られている事に気付いてないのか、楽しそうに部屋のあちこちを見ている。
「俺、家に招待していいなんて言った記憶ないんだけど」
というより、好き合っていない事がバレる可能性があるから、招待なんてあり得ない。
そうしたら、俺の夢だってパーになるかもしれないのだ。
それなのに、この女は……
「私の責任⁈違う、不可抗力ですっ」
今日はやり残した仕事を家でやらなければいけなかったから、柚稀の迎えに行けなかった。
まあ、社会人だし心配する事はないし、柚稀も大丈夫だと言うから、おもいきり仕事をしていたのに。
帰った柚稀は、後輩だという子を連れて来ていた。
柚稀曰く。
「勝手についてきちゃったのっ、何度も帰れって言ったんだからね⁈」
との事。
「知夏ちゃん、もう満足したー?」
「何にですかー?」
「……何しに来たのかな?」
もちろん、と後輩が満面の笑みを浮かべる。
「2人の馴れ初めを聞くためですっ。この前は聞けませんでしたからねー。聞けるまで帰らない覚悟ですっ」
意気込む後輩に、柚稀は血の気をなくし、俺は頭を抱える。
「えーと知夏ちゃん、明日も会社だよ?」
「だから、早く教えてください」
その熱意を仕事に向けたら、もっと出世するだろうに。
この子は、恋愛脳だ。俺には、恋愛脳に付き合ってやる暇はない。
「柚稀、俺仕事あるから。後、頼むわ」
さっさとずらかろうとすると、ガシッと腕を掴まれた。
「おい、離せよっ。仕事、仕事があんのっ」
「だからって逃げる?弁護士なるんでしょっ、助けなさいよっ。困ってる人ここにいるんですけどっ」
「残念でした、弁護士は困ってる人じゃなくて依頼人を助けるんですー」
「うっわムカつく、なにガキか。小学生か」
「は?もう成人とっくにしてますけど?眼科行って来い」
「〜〜〜っ」
睨み合っていると、横から声が入った。
「あの、仲が良いのは分かったんでー。教えてくれないと、私泊まりますよ?」
お前が相手しろよ、と顎でしゃくれば、柚稀が全力で首を横に振った。
「私嘘つくのヘタだからっ。バレるっ」
「……使えねー」
下手に柚稀に喋らせて、計画が全ておじゃんになったら、俺はずっと柚稀を呪うだろう。
「聞いたら、帰るわけ?」
「はいっ」
「じゃー、とっと帰ってもらうかな」
リビングのソファーに腰掛けると、隣に柚稀が座った。正面に、後輩。
出会ったのは、大学の文化祭かな。道に迷ってたコイツを、案内した。
俺は一目惚れだったんだけど、そん時からこいつ彼氏いたからさ。両思いだったし。だから友達止まりだったわけ。
まあ社会人になってからも、ちょくちょく一緒に飲んでたりしてたのよ。
ところがさ、彼氏に振られたーって泣きついてきたの。はいこれチャンスって思って告白して、今に至ります。
どー、満足した?
柚稀と考えた筋書きだ。案を出したのはほぼ俺で、小説家になれるかもって思った程だ。
後輩は、目をキラキラさせて、身を乗り出して聞いていた。
「じゃあ旦那様は、ずっと先輩を好きだったんですねっ!」
「まあ、そうなるな」
「いい旦那様ですねっ、先輩っ」
「うん、そうね」
「プロポーズの言葉はっ?」
目を爛々とさせている彼女に、柚稀が笑顔で言葉を告げた。
「馴れ初め、聞いたら帰る約束だったよね?明日会社なんだから、早く帰りなさい」
「えー、いいトコなのにぃ」
「旦那様は忙しいの、私だって忙しいの。帰った帰った」
「はーい……」
柚稀に背中を押され、玄関までたどり着く。
見送りに行けば、すでにブーツを履いて出る所だった。
「気をつけて帰るのよ、いい?」
はーいと素直に答える後輩と、心配している柚稀の会話はまるで親子の様で、少し面白い。
「あ、そーだ先輩」
ドアのぶに手をかけたまま、半身だけこちらに向けた状態の後輩が、柚稀に言った。
「健人さんと別れて結婚して、やけになっちゃったのかって心配だったんですけど、安心しました!いい旦那様で、良かったです」
それから旦那様!
いきなりの指名に、思わず「はいっ」と答える。
「言う間でもないと思うんですけどぉ。先輩の事、大事にしてくださいね。でないと許しませんからぁ」
じゃー、おやすみなさいです。
パタン。ドアが閉まる。
足音が遠くなり、聞こえなくなってから、どちらからともなく柚稀と顔を見合わせた。
「疲れたー」
「なにアイツ、めっちゃ疲れるんだけど」
「……けど、良い子なんだよ」
「……ああ」
結局の所。馴れ初め、というよりも。最後の言葉を伝えたかったのだろう。
「良かったな、あーゆー後輩がいてくれて」
「うん」
俺の周りにも、ああいう人間がいてくれていたら。
何か、違っていただろうか。
ダラダラとした文になってしまいました。次回から少しずつ盛り上がっていく予定なので、宜しくお願いします。




