仲直り
2021年5月19日 修正
〜side柚稀〜
「遅い」
龍也の元へ行くと、第一声がそれだった。
「ごめんごめん。龍也は、お迎え速かったね」
「すいてたんだよ」
龍也が先を歩く。私は後ろを振り返り、まだ私達を見ている知夏ちゃんに手を振ってから龍也の後を追った。
会社を出る途中、たくさんの人が怪訝そうに龍也を見た。中には、恰好いい人を見る様な目つきで見る人もいた。
そんな彼らに、私は結婚したんですと一言説明していく。
事情を知らない人はお祝いしてくれ、健人と結婚する予定だったことを知っている人は驚いた。反応は様々だったけれど、そこに健人や真紀がいなくて良かった。
きっと私は笑顔で2人を見れないし、笑顔で報告できないだろう。それは彼等に負けたようで悔しかったし、龍也に申し訳ないと思った。
すれ違う人に報告するのに飽きた頃、ようやく会社の出口が見えた。
すぐ傍に、朝乗ってきた車がある。
龍也が助手席のドアを開けてくれた。なんだか、本当に王子様みたいだ。
「ありがとう」
知夏ちゃんとのさっきまでの会話を思い出し、一人クスリと笑う。
シンデレラ、か。
「どーしたんだよ」
笑った私を、龍也が変なものを見る様な目で見てきた。
まあ、急に笑い出したら心配するだろうな。
「んー?別にー?」
シンデレラの話をしたら、龍也はきっとバカにした様に笑うだろう。そう思った私は、黙って助手席に座り、シートベルトをして窓の外を眺める。
私がシンデレラで、龍也が魔法使い兼王子様。龍也が知ったら、どんな顔をするかな。
そう想像するだけで、また頬が緩む。緩む、というより、想像が楽しくてニヤけてしまう。
「あの、さ」
龍也がハンドルを握り、車を発進させる。横目で私を見ているのが、車窓を眺めていても分かる。
「なに?」
「朝の事なんだけど……」
言いづらそうにする龍也に、私は苦笑する。
私は気にしてないのに。だって、気にする必要がないんだから。
「別に良いわよ。気にしてないし……」
「気にしてんだろっ」
龍也のその大声に、思わず視線を窓から龍也へと移す。龍也はずっと前を見ている。
「さっきからずっと窓の外見てるし……一人の世界に行ってるし」
「それは……」
「朝は俺が悪かった、無神経でした。あの後ずっと気分が悪かった、気になってた。本当にすみませんでした、ごめんなさい」
一息に言い終えてホッとしたのか、幾分か固かった龍也の表情が柔らんだ。
一方私は、龍也の謝罪に驚きすぎて、間抜け顔をして龍也を見た。
龍也が、謝るなんて。
言っちゃ悪いが、龍也はどちらかと言えば謝るタイプではないと思っていた。命令口調が多いから、謝られる側かな、なんて思った。
けれど、龍也は謝った。
「俺だって、謝る時は謝るんだよ」
気まずそうに、龍也が言った。私の考えなんて、お見通しのようだ。
「私は、言っておくけど怒ってないから。だから、龍也は謝らなくてもいい。けど、悪いって思ってるなら、その気持ちは受け取ります」
「怒ってんだろ」
「怒ってない」
気にしなければいいんだし、今だから思う事ができる。龍也は別に、間違えた事なんて言ってない。別れたのは、私にも原因はあったはずなんだから。
「本当に、怒ってないのか?」
「しつこい」
少し苛つき気味に放たれたその言葉が、龍也にとって良いものだったらしい。
傍目に見ていて分かる程、笑顔になる。
「あー、スッキリした。じゃあ、もう喧嘩は終了でオッケー?」
「 したした、終了しました」
良かったわー、と龍也が言った。何をそんな大袈裟な。
そんな私の思いに答えるように、龍也が言葉を続けた。
「今日同僚にさ、愛し合う者は衝突するって言われたんだけど、別に俺らは愛し合ってる訳じゃないじゃん。それ聞いてから、居心地悪くてさ。形だけでも、完璧にしたいし」
それにさ、と龍也が続けた。
「俺が柚稀を傷つけたんだから、俺が柚稀に謝るのは当然だし」
「龍也」
照れくさいのか、ゆっくりと龍也の口から言葉が編み出されてゆく。
「小学校で習ったもんな。傷つけちゃったら、ごめんなさいって」
ごめん、ともう一回龍也が言った。
もう、十分だよ。龍也のその言葉で、なんだかお腹がいっぱいになった。




