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a shame married couple  作者: コシピカリ
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会社にて 2

2021年5月16日 修正

〜side龍也〜



「送ってくれて、ありがと。助かったわ」


 車から降りた柚稀が、助手席側ーーつまり、俺とは反対側の窓から礼を述べた。


「あ、ああ。帰りはどうする?」


 気まずいのは、俺だけなのか。柚稀は普通に、どうしよっかな〜と呑気に考えている。


「龍也と時間が合うわけじゃないし、魅力的な提案だ遠慮する」


 じゃね、と颯爽と会社に向かって行く柚稀。

 スーツが似合っている。実際の仕事内容も何をしているのかも知らないけれど、仕事のできる女感が出ている。柚稀の姿が見えなくなるのを確認してから、俺は車を自分の会社に向け発進させた。


「はぁー」


 誰もいない車内で、俺は溜め息を漏らす。自分から送ると言っておいて何だが、家から会社まで柚稀を乗せて、かなり疲れた。

 俺からの提案とはいえ、柚稀とは初対面で結婚をした。

 つまり、全くと言って良い程、赤の他人だ。

 そんな柚稀とすぐに同棲を始めた。そして、これまた俺の責任で、喧嘩。

 

 気まずいったら、ありゃしない。

 車内で柚稀はずっと黙って、窓の外を眺めていた。


 なにか話してくれよと思っていた俺にとって、言っちゃなんだが、車内に1人というのは随分と気が楽で良い。

 会社に着けば、周りは気の合う同僚ばかり。


「よぉ、渡部。なんだよ、今日はやけに遅いな」


 職場にある自分の机に着けば、同僚である笠原衛が来た。

 軽くパーマをかけた黒髪と、愛敬ある細い目。めちゃくちゃカッコイイというわけじゃないが、話しやすい。

 そういう意味では、非常にモテる奴だ。

 笠原とは、入社した時から何かと一緒の、いわゆる腐れ縁だ。


「あー、これからこの時間帯だわ多分」


 周りに仲の良い夫婦に見せるためにも、俺の夢を叶えるためにも。柚稀を会社まで送ることは、これからの日課である。


「なに、どしたの?いきなりだな、随分」

「あー」


 どうせ、皆に言う事だ。先にこいつに言っても、別に構いやしないだろう。


「俺、結婚したんだわ。そんで、これから当分、嫁さん会社送ってから来るから」

「は、今なんて?」


 話しかけてきた時の笑顔のまま、笠原が耳に手を当てて書い聞いた。


「結婚した」

「いつ」

「3日ぐらい前?」

「ああーっ、まったくもうお前ってやつは!」


 笠原が俺の肩を掴み、ガクガクと揺する。


「そういう大事なことはもっと早く言えよ!式は?祝儀袋とか、祝いの品とかどうすれば良い?嫁さんに挨拶とかする?」

「良いよ、気持ちだけで十分。俺達、式は挙げないし」

「それにしても急だな」

 

 きらきらとした目は好奇心を隠しきれていない。さて、どうやって話を切り上げようか。


「前から付き合いがあった子なんだ。同居も3日目。嫁を会社に送ってから来るから遅くなる」

「え、じゃあ、お前、美羽のことは?」

「何もない。俺はもう嫁がいる。それだけだ」


 笠原は「そうか」と、複雑そうな顔をした。


「お互い好き合って結婚してて、それでお前が幸せなら良いんだけどさ。美羽のことを考えると、俺としては複雑というか」

「それに関しては、悪いとは思っている。でも、俺は美羽のことを何とも思っていない。何度も言うけど、本当に結婚したんだって。お互いに急だったから、式は挙げてないし籍しか入れられてないけど」

「いや、もう疑ってないけど」


 本気で驚いている笠原に、苦笑する。笠原が驚くのも無理はない。

 どちらかと言えば俺は色恋沙汰に興味ないし、夢が第一、一番大事だ。一応、美羽という存在もいた。そしてそれは、笠原もきちんと知っている。

 だからその分、笠原は驚いたのだろう。


「俺、まったく知らされてなかったんだけど。ひどくない、それ」

「言ったのはお前が初だよ」


 マジかー、を連発する笠原の顔が、次第に楽しそうなものへと変わる。


「で?色恋沙汰に興味の無かった渡部君と結ばれたのは、どんなラッキーガールよ?」

「ラッキーガール、ねぇ」


 俺は、柚稀の顔を思い浮かべる。

 出会って、まだ数日だけど。笑った顔が、たくさん出てくる。

 最後に出てきたのは、柚稀の傷ついたような顔だった。

 

 なんで別れちゃったんだろうな。


 俺としては、ただの疑問だった。笑った顔は、まあ、可愛いほうだと思う。テンポの良い会話は心地よい。自分の意見を持っているし、自立していない女なんかより余程マシだ。酔っ払ったら面倒くさいことはわかったし、家事も苦手なことはわかったけれど。

 でもそれは、婚約者に別れを告げられるほどの理由なのだろうか。


 本心からの疑問だった。けれどその言葉が柚稀に与える影響を少しも考えずに発したその言葉は、案の定柚稀の傷口をえぐってしまった。

 もちろん、俺が悪い。

 

 柚稀はラッキーガールではなく、俺と結婚した事によってアンラッキーガールになってしまった気さえする。

 あー、まったく考え無しの俺が恨めしい。今朝に戻って、やり直したいぐらいだ。そんな思いが全面的に出ていたのか、笠原が楽しそうな顔をやや怪訝なものに変えた。


「なんだよ、辛気臭い顔しやがって。お前、新婚なんだからもっと嬉しがれよ」

「いや、実はさーー」


 つるっと、今朝の出来事が口から出てきた。


 実は俺、柚稀ーーあ、柚稀って嫁さんの名前な。柚稀と喧嘩しちゃったんだよ。どっからどーみても、俺が悪いんだけど。


 そう言えば、笠原は一瞬ポカンとしてから、くっと吹き出した。


「新婚早々夫婦喧嘩かよ、惚気かこの幸せ者め。いいじゃん、それで。ほら、愛し合う者達は衝突するって言うし?」


 笠原のフォローを、俺は何とも言えずに聞いた。

 別に俺達は、愛し合って結婚した訳じゃない。俺は俺の夢のために結婚して、柚稀は結婚したかったから結婚した。

 俺達の間には、愛なんて大層なものなんかない。俺達の間にあるのは、お互いの利益を求める気持ちだけ。


 ちゃっちゃっと謝っちゃったほーが楽だからなー。


 呑気な笠原の助言を聞きながら、どうしようかね、と窓の外を見だ。

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