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6 妹との下校

 真夏のまだ日の高い夕刻、セミの鳴く通学路を敦と恋慕は並んで歩く。住宅街と住宅街に挟まれた県道を歩くため、行くも一戸建て、帰るも一戸建てという面白味のない景色が続く。



 あと数分ほど歩けば道が開け、先日の激戦を繰り広げた河川敷に出る道のりだ。



「なんで学校にまで来るのさ……」

 下校を始めてからずっと、敦は恨み言を吐いていた。

「だから、『出来るだけ側に居た方が良い』って昨日も言ったじゃない。

 怒ってるの?」

「怒ってないけどさぁ……」

 くるりと振り返る。

 電柱から人影が……三つほど。

 ストーカーかあいつらは。


「とりあえずあれどうにかしてよ」


 シッシッとジェスチャーすると親指を地面に突きつけられた。

 代わりに恋慕が手を振った途端、

 鼻の下を伸ばした笑顔で手を振りかえす。


「君が無駄に魅力を振りまくから、

 すっかりメロメロじゃないか。

 社会復帰に時間がかかるレベルまで墜ちてるぞ、アレ。

 勘弁してくれよ」

「素直でいいじゃない」

「ちょっと可愛いからって、だれかれかまわずぶりっ子しちゃってさ……」

「あ。

 もしかしておにいちゃん、妬いてる?」

「そういうこと言ってるんじゃないよ」



 ……とはいうものの、

 昨晩自分のことを「好きだ」と言ってきた女の子が、相手を選んでない様子を見ると胸の内につかえるモノがある。


 結局、自分は彼女にとっての特別ではないということか。




「心配しなくても恋慕はおにいちゃんのことが一番好きよ」

「あ、そう」

 もう騙されるもんか。どうせおもちゃぐらいにしか考えてないんだろう。

「えへへー、

 可愛いなぁ、敦おにいちゃんは」

 こちらの心境を知ってか知らずか、恋慕は意味深な笑みで言った。



 ……腹が立つことに、

 笑った顔は清廉潔白というか、

 ドキリとするほど愛らしい。

 それ故に、

 このまま好きだ嫌いだのという話を続けたらまた丸め込まれるかもしれない。



 話題を変えよう。



「……そういえば、

 恋慕は〝異次元〟人なんだよね。

 それって異世界とどう違うの?」

「うーん。異世界でも、イメージ的には間違いじゃないんだけど。

 ……そうね、おにいちゃん、

 ちょっと正面に手を伸ばしてみて」

「? こう?」

 言われたとおりに手を伸ばしてみる。




「そこは高層ビルの壁なのよ」

「……はい?」

 目の前にはあの河川敷へと繋がる、

 殺風景な住宅街が広がっている。

 高層ビルなど存在しないし、なにより敦は何にも触れてはいない。




「もちろんおにいちゃんの目の前にビルなんてみえないし、それに触れても居ない。でもね、そうやって手を伸ばしたその先に、確かに高層ビルが建っているの」

「つまり、……どういうこと?」



「干渉する条件が違うのよ。

 おにいちゃんはこの次元……私たちは下層界って呼んでるけど、そこに生きてるから、目の前に広がるのは住宅街なの。

 でも一皮めくればそこに高層ビルが建つ、私の生まれた上層界が存在するのよ。

 この地球って言う星の、全く同じ座標、全く同じ場所にね」



「……なるほどね」

 敦はおぼろ気ながら

 理解することが出来た。



 つまりはパソコンで絵を描く時に使用するグラフィックアプリケーションの、

 レイヤー機能のようなイメージか。


 同じ場所に違う絵が存在し、ボタン一つでそれがすり替わってしまう。


「私たち上層人は出来るだけ

 下層界に影響しないようにしてるの。

 だって、この広い地球が

 二つも同じ場所にあるのよ?

 外交や宗教対立、ミリタリーバランス……とても管理しきれないわ」



 見た目は小学生にしか見えない恋慕が、政治がらみの小難しいことを言っているのはどこか不思議だ。



 たしか、ビジョンで恋慕は異次元の警察機構と教えられたっけ。



「あのラブラってやつは、それを破って不法にこちらの次元へ来たんだよね」

「そうよ。私は下層界に常駐して、向こうの警官が捕まえられなかった不法次元移動犯を捕まえるのがお仕事なの」



 インターポールのようなものか。

 ……ん?



「それって就職してるって事だろ?

 恋慕はホントはいくつなのさ」



 そういうと恋慕はにやーっと笑い、

「おにいちゃんの夢を壊したくはないわ」

 とだけ答えた。



「その発言が最大級の

 ドリームブレーカーなんだけど」

「おにいちゃん好みの妹が

 できたってだけじゃご不満かしら?」

「その妹の性癖が

 ノーマルだったら文句はなかったさ」

「やだ。そんな無防備な子、一晩でおにいちゃんに食べられちゃうわ」

「一晩でパクついた奴がいうか!?」

「うーん、じゃあアレよ。

『この作品の登場人物は、

 みーんな十八歳以上だよ』」

「ねえ異次元人が

 どこでそういうの覚えてくるの?

 しかもぜんぜん冗談になってないよ」

「『過激な行為は

  絶対マネしちゃダメだからねっ!』」

「するかっ! つかできるかっ!!」

「あははっ」




 嬉しそうに、

 本当に嬉しそうに恋慕は笑う。

 ずるいよな。

 やっぱり可愛いんだこれが。


「ねぇ、

 もう一つ秘密を教えてあげよっか?」

「秘密? なんの?」

「耳貸して」

「?」



 こんな人気のないところで内緒話?

 訝りながら腰を屈め、

 恋慕の背丈に合わせた。




「……、

 ……あのね、

 ……は……だよ……」

「……え、なに?

 よく聞こえな……」




 ぱくっ。




「はひぃぃ~!?」

 耳を寄せた途端に、耳たぶに何とも表現しがたい感触に襲われた。


 隙を突いて甘噛みされたと理解できたのは、腰を抜かした後だった。

「ふふっ。

 気持ちよすぎてへたり込んじゃった?」

「気持ちいいわけ無いだろ!

 びっくりしただけだよ!」

「あらあら。

 尻餅付いて怒鳴っても説得力無いよ?」

「うるさい……おぅわ!」

 立ち上がろうとするが、力みすぎて今度は前方向にステンと体が傾く。

 それを見た恋慕が

 またけらけらと笑い声を上げた。

「ああ、もーーーッ!

 遊びやがってっ!!」




『あのね。

 恋慕はおにいちゃんが一番特別だよ』




 そういわれたような気がしたのに、敦は自信が無くなってしまった。

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