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13 妹ゲーのせいなんや……、ロリゲーがあかんかったんや……っ!

 ごくごく普通の一般家庭である高瀬家に、

 息子が一人、娘が一人住んでいた。

 敦と恋慕は表向きは年の離れた兄妹だ。

 だが二人には重大な秘密があった。

 兄の敦は、その身にドラゴンに変身してしまう危険な因子を持っているのだ。

 そして妹の恋慕はそれを治療するためにやってきた異次元人なのである。



 やがて二人はある事件を機に、兄妹以上恋人未満というちょっと危ない関係になってしまったが、それはそれでまあ、法に触れない程度スレスレギリギリに仲良くやっているのである。

 そうして、恋慕が敦の妹になってからあっというまに数日が過ぎていった。




 敦の自室。

 今や兄妹の共有スペースとなってしまった部屋で、敦と恋慕はお互いに向き合いながらじっと座っていた。



 重たい空気。

 だが互い譲らない決意。



 その中央に置かれているのが、

 皿にのったリングドーナツ。



 あまつさえ大量のホイップクリームをその身に宿し、チョコでコーティングされたあげくに、チョコスプレーでカラフルに彩られているという驚異の一品である。



「おにいちゃん」

 いつも軽い口調の恋慕が、

 低めの声で口を開く。

 今日はブラウスにレースのついた長めのスカート、普段はまとめてある髪をおろし、セミロングにしたお嬢様風のファッションだ。

 それだけに少し大人びいていて、

 ちょっとした威圧感がある。



「なんだい?」

 敦も今日ばかりは兄の威厳を見せ、

 ずんと胸を張り応答する。



「これ……もらっていい?」

「僕がいいって答えると思うのかい?」

「……」

「……」



 押し黙る二人。

 この現状の発端は、

 今日が某有名ドーナツチェーン店の特売日という事件から始まった。

 買い物に出かけた母親は

『これはいい、おやつに安上がり♪』

 とドーナツを買ってきてしまったのだ。



 だがそれがいけなかった。



 敦と恋慕、兄妹になって数日の二人は、互いの理解が浅かったことを思い知った。


 二人は知らなかったのである。


 そう……お互いドーナツが死ぬほど大好物だという悲劇を!



 そして不運はさらに続く。



 母親が二人に与えたドーナツの個数が


 な ぜ か


 七つだったのである!



 何故奇数?

 どうして割り切れない数を?

 これは悪魔の悪戯か。

 はたまた神の試練か。



 疑問は尽きること無いが……結果として賑やかしかったおやつタイムは修羅場と化し、仲のよい兄妹の対立という事態に発展してしまったのである。



「んで……僕の分はナシなんだね?」



 ベットに鎮座していた

 ウサギのぬいぐるみが声をあげた。

 その途端に、

 二つの殺意がぬいぐるみを射貫く。

 目を合わせただけで昇天してしまうのではないかと錯覚するプレッシャーだ。


「うぉぉ……。

 なんだよ、七つあったならお互い三つも

 食べてるんじゃないか……」

 食いっぱぐれてしまったぬいぐるみは、

 仕方なしにしおしおと引き下がった。



「おにいちゃんのくせに。

 妹に譲れないの? 大人げない」

「妹なら兄貴をたてたらどうなんだい?」



「……」

「……」



 両者、なおも譲らず。



「あのさぁ。だったら仲良くはんぶんこすればいいじゃないか」

 アパルが中立の立場として進言した。


 が。


「それじゃホイップが偏るだろ!? かじりついた時にぐにゃって漏れるだろッ!?」

「問題をはき違えてるわ! 黙ってて!」

「うわーん。

 一体なんなのこの兄妹!」

 アパルは泣きそうな顔で退いた。



「……こうなったら、話し合いは無駄だね」 ついに敦が立ち上がった。

「そうね。実力で勝負をつけましょう」

 恋慕も立ち上がる。



 ぶつかり合う気迫。

 互いは互いの一手を読み合って

 火花が巻き起こる。



 戦いはもうはじまっているのだ!



「……いくよ」

「覚悟はいいかしら?」

 両者拳を胴に構え……、




「「最初はグーッ!

  じゃんけんホイッ!!」」




 交差する二本の指と二本の指。

 二人ともチョキ、あいこだ!



「チィィッ!」

「やるわね……!」







「……てゆうかそんなベタなオチなら

 最初からそうしてよ……。

 今までの無駄な流れ何だったんだよ……」


 外野で一言ぼやきが漏れるが、

 兄妹は意に介さず戦いを続ける。


「「あいこでホイ!

  あいこでホイ!

  あいこで……あいこでっ!!」」

「うわ。なんてシンクロ率」



 白熱した鍔迫り合いは決着がつかず、

 お互いは一度仕切り直した。




「「最初はグーッ!」」



「……じゃんけん、」

「おにいちゃん……」

 再戦を遮り、恋慕が声を上げた。



 そしてぱちっ……と襟元のボタンを外す。



「な、にぃッ!?」



「恋慕……グーがいいな♪」



 もう一段、

 ぱちりと弾くようにボタンを解放する。



「……色仕掛けかい?

 そんな陳腐な策に……」

「あのね、おにいちゃん。

 恋慕はグーがいいの」

 右手の人差し指を口に咥えながら、

 上目遣いの甘えるような視線。左手でもう一段のボタンを外すことも忘れない。


 子供服だからボタンの数は多くない。

 しかも季節がらアンダーウェアを着ていないのだ。すでに裂け目からシルクのような素肌が見え……、



 いかんっ! っと敦は(かぶり)振った



「卑怯だぞ恋慕! 正々堂々勝負しろ!」

「だって、恋慕はグーがいいのにな……」

 今度は少し寂しげに呟き、

 裂け目の間をするりとなぞる。

 一瞬だけ翻る布地、垣間見る胸元からへそにかけてのライン。



「お、おおおおにいちゃんは、そん、そんないもうと、もも、もった、おおお覚えはないぞおおおっ!」


 敦は混乱している!



「くすん……」

 潤んだ切ない瞳で、

「じゃあ……」

 右手で布地をするりと掴み、

「恋慕は……」

 少しだけ、ほんの少しだけずらし、

「どんな妹ですか……?」



 ふくらみのまったくない、いやゼロではなく微量の、なだらかな、いやむしろなだらかだからこそそそ、みみ、未知の、未知のりょりょりょりょういきががガガGA……ッ!




「ぽんっ」

「……あ」




 脳みその大事な回路がバグった敦は、

 無意識のうちに拳を突き出していた。

 それと同時に恋慕の小さな手のひらが

 カードとして提示される。

「わーいやったぁかったぁざまぁー

 いっただきまぁーすっ」

 ブラウスのボタンを閉じながら、恋慕はかなり棒読み気味に勝利宣言をした。



「あああああああああああああああッ!!」


 敦は絶叫しながら項垂れた。

 人生でこれほど悔いた覚えはないと言わんばかりの絶叫っぷりだ。


「いやあ、びっくり。

 本気で死ねばいいと思った人間は

 これが初めてだよ」

 外野から再びぼやきが漏れるが、

 敦の耳には届いていない。



「まって、恋慕、卑怯だぞッ!」

「なぁに? ロリコン」

「ぐぅ!」

 敦に追い打ちの精神ダメージ!

「なにが卑怯なの?

 言ってみなさいヘンタイ」

「がはぁ!」

 さらに一撃!

「えっと、妹の貧乳を覗き見するのに夢中で、気がついたら負けてた……だっけ?」

「や、やめて……、もうそれ以上は」

「……サイテー。

 ロリオタがおにいちゃんとかきもーい」



「ぎゃああああああああああああああ」



 バアアアアアアァァァァァァァンッ!!


 一番言っちゃいけない事実を突きつけられた敦は言葉の暴力に吹き飛び、そのまま壁にしたたかに全身を打ち付けた。

「うぅぅ……ちくしょお……

 ちくしょお……」

 嘆きながら床をどんどんなぐる。

「悪いのはわいやない……、

 わいやないんや……。

 全部妹ゲーのせいなんや……

 ロリゲーがあかんかったんや……っ」

「日本語でおk」

 アパルが冷ややかに突っ込む。

 そんな様子を見ていた恋慕は、

 ふぅと困った笑みを浮かべ、

「しょうがないなぁ。

 はい、あげるっ」

 と、おいおい泣く敦に

 戦利品を寄越した。


「え。……でも」

「いいのよ。

 ちょっとズルしちゃったし、

 十分楽しんだし」



「うぅ……恋慕ぉ……」



 妹のやさしさが胸一杯に染み渡る、

 敦はそんな至福の表情をした。

 打ち砕かれた後だからなおさらだろう。



「いらないの?」

「うぅん……食べる」

「はい、あーん♪」

「あーん♪」


 ぱく。


 運んでもらったドーナツに食い付く。

 口内に満たされる生クリームが

 敦を天国へといざなった。



「おいしい?」

「うん!」

「とってもおいしい?」

「うん、うん!」

「恵んでもらったドーナツ、

 そんなにおいしい?」

「うん、



 ……うん?」



「ねぇおいしい?

 幼女の色仕掛けに負けてロリコン認定された挙げ句、哀れまれて与えられたドーナツおいしい? 男としてのプライドを捨てて無様にぱくついたドーナツそんなにおいしい?

 ふふっ。

 ねぇねぇおいしい?

 妹に餌付けされたドーナツ

 とってもおいしい?」




「…………………――――――――」



「おいしいでしょうねー。

 ヘンタイ呼ばわりされて食べる

 ドーナツはさぞおいしいでしょうねー。

 それ甘いのかな?

 しょっぱいのかな?

 それともにがいのかな?

 ねぇねぇ教えておにいちゃん♪

 恋慕ねぇ、

 それ食べたこと無いのー♪」



 絶望感に苛む兄と

 変なスイッチ入りっぱなしの妹。





「……哀れな男だ……」



 アパルのぼやきはやっぱり誰の耳にも届かなかった。

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