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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
第一章 強さを求め
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邂逅

夜も更け、辺りは恐ろしい程の静寂に包まれる中、魔力把握に引っかかる何かを感じた俺は、飛び起き、辺りを警戒しつつ反応のあった場所に向かう。そして、そこに引っかかったものをその視界に収めた直後全力で闇魔法の隠蔽を使い”それ”から姿を隠した。


「な、なんであんな奴がここに……」


青白い雷を身に纏い、天を穿つかのような一本の角。身に纏う雷と同じ青白い光を薄く放ち、それに照らされて神々しさの増す白銀の鬣。そして見るもの全てに畏怖を抱かせる白銀の双眸。


聖獣。


そんな単語が俺の頭を過った。


(いや、まさかありえない!聖獣なんて御伽噺の中だけの存在だろ!)


俺は幼い時父さんから聞いた御伽噺を思い出し、必死に首を振ってそれを否定する。そして恐る恐る視線の先で佇む神々しい生物に向けて「完全解析」を行う。


ーーーーーーーーーー

キリン・・・聖獣。神に仕えるとされる12柱の神獣の一柱。魔力をそのまま雷に変換する事で攻撃を行い、また自身の性質を雷に変える事により雷と同じ速度で行動する事も出来る。神級。

ーーーーーーーーーー


本物だ。しかも聖獣では無く、その中でも別格の強さを持つ神獣だった。

俺はあいつを見た瞬間勝てないと悟った。一目で自分との格の違いを思い知らされたからだ。


「そこの者、出て来い」


俺が狼狽していると、不意にそんな声が聞こえた。恐る恐るキリンの方を見ると案の定キリンの視線は俺を捉えていた。間違い無くバレている。


「俺、か……?」


「そうだ」


それでも最後の望みとばかりにそう問うが、現実からは逃げられ無い。キリンは俺の言葉に短くそう返す。

俺は最早諦めて隠蔽を解除してキリンの近くまで歩いて行く。ごめん父さん、俺殺さちゃうかもしれない。


「ふむ、中々整った容姿ではないか」


目の前まで行くと、キリンは唐突にそう言った。


「お褒めに預かり光栄だ……」


だが今の俺にそんな褒め言葉は意味をなさない。絶望した声音でそう返す俺に、キリンは苦笑を浮かべながら喋る。


「安心しろ。お主を殺すつもりは無い」


キリンのその言葉にばっと顔を上げる俺。その時の俺の顔はどんな風になっていただろうか。分からないが、間違いなく間抜けな顔になっていただろう。

喜色を浮かべ顔を上げた俺にキリンはまたもや苦笑を浮かべて話を進める。


「すごい反応だな。そんなに死にたくなかったのか?」


「あ、ああ……俺にはやらなきゃならない事がある。少なくともそれを達成するまでは死ぬわけにはいか無い」


そんな俺の言葉に何かを感じたのか、キリンはほぅ……と感嘆の息を吐いた。


「なるほど、すごい覚悟だ。そこまでの覚悟を見せる程のやりたい事……聞かせて貰ってもよいか?」


「別に構わないが……あんたら神獣からしたらくだらない事だぞ?」


「それでも構わんさ。お前をそこまで動かす覚悟……それを知りたい。なに、これはただの戯れだ。そこまで気負う必要は無い」


キリンは優し気な笑みを浮かべながら地面に寝そべり、話を聞く姿勢になっていた。


「そうか……なら話すよ。少し長くなるけどな……」


そうして俺はキリンに父さんと暮らしてた事、父さんが死んだ事、そしてその原因が魔王ヴェへムートによる事、ヴェへムートを殺すまでは死ねない事を話した。この時何故神獣相手とは言え初対面の相手にここまで話したのか分からなかったが、今思えば俺は俺の心の内を誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。聞いて貰って、僅かばかりの安心感を抱きたかったのかもしれない。

キリンは俺の話の全てを黙って最後まで聞いてくれた。全ての話が終わる頃にはうっすらと空が白んでおり、僅かに射し込む太陽の光がキリンの神々しさに拍車を掛けていた。それは俺が思わず見惚れてしまった程だ。


「ふむ……つまりお前はその魔王ヴェへムートとやらを殺す為に動いておるのか。だが仮にそれが叶ったとして、お前はその後どうするつもりだ?」


「その後?」


見惚れていた時にされた唐突な質問に、俺は思わずそう聞き返した。


「ああ、魔王ヴェへムートを殺した後だ。聞くとどうもお前はそのことに盲目的になり過ぎておる。そんな気持ちのままでは魔王ヴェへムートを殺すと言う目的を達成した後のお前は抜け殻のようになってしまうのが目に見えておるわ。次なる目的、それを考えろ」


次なる目的……確かに俺は魔王ヴェへムートを殺す事しか考えていなかった。ヴェへムートを殺せたとしても、その後抜け殻のように残りの時を生きるのは辛い。それは苦痛以外の何物でも無いからだ。


「次なる目的、か……」


「何なら神にでもなって見ると言うのはどうだ?」


俺が考えていると、不意にキリンがとんでもない発言をした。


「……はっ?」


思わず惚けた返事をしてしまったのも仕方ない事だろう。それ程にキリンの言った言葉はとんでもない事だった。


「だから神になってはどうだ?と言ったのだ」


「いやいや、何を言ってんだよ。たかが一魔人が神になんてなれるわけないだろ?神に仕えてるあんたらならそんなの分かっているだろ?」


キリンは俺の言葉に不思議そうに首を傾げ、何か納得したような仕草を取った後、何でも無いかのように続きを述べる。


「そんなことは無いぞ。実際、今の神にも何柱か魔人や人間から神へとなった者がいる。それと私は別に神に仕えているわけでは無いぞ」


次々と落とされる爆弾発言に俺の脳は最早限界だった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!え?魔物や人間から神になった奴なんているの?てかあんた、神に仕えて無いって……ちょっと理解の限界だ、一つずつ説明してくれ」


「そこまで狼狽える事か?私達神獣が神に仕えているって言うのはお前達下界の者が勝手に考えているだけだ。本当のところは神獣は自分で仕える主を決める。勿論神に仕えている者もいるが、中には魔王に仕えている者さえもいるぞ。そして神に魔物や人間からなった者がいると言う話だが、答えはいる。一番新しい者ではほんの300年程前に人から神になった者がおるな。神になる条件は詳しくは分からんが、実際になった者がおるのだ、お前だってなれるさ」


キリンは何でも無いかのようにそう告げる。


「そう、なのか……」


正直まだ信じられないし、俺の中では整理がついていなかったが、キリンにこんな嘘を吐く理由は無い。


「そうだな……目指してみるのも悪く無い……俺が神にまでなれば父さんも浮かばれる」


だが、と言葉を続ける。


「考えてはみるが、ただ漠然と考えてるだけではイマイチ俺が神というのはピンと来ない……だからやっぱり今はまだ魔王ヴェヘムートを殺すことを考えていたい。神を目指すのはその後だ」


俺ははっきりとそう告げた。瞳に爛々たる光を浮かべて、しっかりとキリンを見据える。キリンもその白銀の双眸でジッと俺の瞳を見返し、やがてその表情にフッと笑みを浮かべ、ゆっくりと俺の近くに歩いて来た。


「そうか、なら私はもう何も言わん。お前はお前の思うように生きろ」


「ああ、ありがとう。とにかく先ずはヴェヘムートを殺す事。そしてそれが終わったら神への道を探してみるよ」


俺は微笑みながらそう言った。最早キリンに対する恐怖心は微塵も無い。


もう後30cmもない程の距離で止まったキリンは、先程以上の神々しさに満ちていた。


「これは餞別だ。いつかやるべき事を達成する時の助けとなろう」


キリンの額が俺の額に付けられる。ヒヤリとした感覚が俺の額から伝わるが、何故か俺はそのキリンから目を離せ無かった。


『加護【麒麟の加護】を獲得しました。

確固たる決意を確認しました。ギフト【神種の種】を獲得しました』


「ふむ、少しサービスし過ぎたかな?……まあ良い。ここで会ったのも何かの縁だ」


脳内に流れる声を何処か別のところで聞きながら、俺は手の中に収まるネックレスのような物に吸い込まれるような感覚を覚えつつ完全解析を行う。


ーーーーーーーーーー

麒麟のネックレス・・・聖器。神獣麒麟の力が込められた聖なるネックレス。また、神獣麒麟を呼ぶ事と話す事が可能。聖級。

ーーーーーーーーーー


「こんな強力な物を俺になんかに授けていいのか?」


麒麟のネックレスを解析した俺は、その性能に思わずそう問うてしまった。これはつまり、僅かと言えど神獣たるキリンの能力を使用できるというわけだ。神獣は個体にもよるが魔王と同等かそれ以上に強い。そんな神獣の能力を僅かと言えど使えると言うのは想像以上に強力だ。それ故の質問だったが、キリンは笑いながら構わんと答えた。


「お前からは何か特別な気配がする。いつかお前が資格を得たのならお前に仕えてみるのも悪くない」


「俺はそんな大層な奴じゃないってのに……」


俺の謙遜にキリンは三度(みたび)苦笑し、では私はこれで失礼すると空に駆け上がって行く。


「ああ、そうだ。去る前に一つ聞きたい事がある。……お前、何と言う名だ?」


駆け上がる途中でキリンがふと思い出したとばかりにそう質問して来る。


「ああ、そう言えば言って無かったな。俺の名はガドウ。己の心念を貫き、我が道を行くと言う意味の名だ」


その質問に俺は父さんから貰った立派な名前を空中のキリンに伝える。


「己の心念を貫き、我が道を行くで、ガドウ……ふふっ、良い名ではないか。ではさらばだガドウ!またいずれ会おうぞ!」


そう言って今度こそ目に見え無い高度まで一気に駆け上がって行くキリンを見つめ、自分の更なる道を開いてくれた事に内心感謝しつつ朝食にグレンウルフを食べ、人間の領域に向けて隔絶の森を進む。目指すは魔王ヴェへムートへの復讐。そして神への進化だ!



* * *



キリンside〜


隔絶の森上空。そこに一筋の雷が走っていた。それは何故か楽しそうに明滅を繰り返していた。


「ガドウか……ふふっ、中々面白い奴だったではないか……」


雷の正体は神獣キリン。彼女はついさっきまで話していた一人の魔人の少年について考えていた。


「彼奴ならもしかしたら本当に神にまでなってしまうかもな……」


キリンはガドウから感じた何やら不思議な気配について思い出していた。それと同時に過去に興味本位で見に行った魔王ヴェへムートについても思い出していた。


「だが魔王ヴェへムートか……あの小物がガドウの父を殺すと言うのは……可能なのか?」


魔王ヴェルムートは今いる魔王の中では最も新参であり、最も弱かった筈だ。頭はかなり切れるようだがキリンからしたら所詮それだけの事である。

ヴェへムート自身、魔王ではあるものの元々はシャドーと言う下級の魔物から運良く魔人となれただけの男だ。単純な実力では特SS級の名持ち(ネームド)モンスターであるガドウの父を倒すと言うのは難しい。少なくともかつて見た魔王ヴェヘムートは名持ち(ネームド)の特SS級モンスターと同等程度の力しか感じなかった。ましてやそれが配下の魔人となら尚更だ。

勿論元が悪魔族だろうと、スライム族だろうと進化を続ければ皆総じて強力な者となる。しかしヴェへムートからはそんなたくさんの進化を経験したと言う気配が感じられなかった。寧ろ魔王となるには重ねた進化の数が少な過ぎると感じた。よってそこから導き出される結論は……


「つまり……魔王ヴェへムートの背後には何かいる……そしてそんなくだらない事をさせる奴と言えば……邪神、か」


邪神。

神の身でありながら闇に堕ちた愚か者共の呼称。奴等はよく神々に争いを挑む。だが神々は邪神の数倍の数は存在している。その為邪神は挑んでは負け、挑んでは負けを繰り返していた。しかし今回は今までと違う事がある。


「邪神は地上の生物達に力を貸し、自分達の思い通りになる駒を作り出して他の神々に対抗させようと言うのか……下衆な」


キリンは邪神の企みを予想し、瞳に怒りを浮かべる。

神になると言う事は決して簡単な事では無い。きちんと踏むべき段階を踏まないと最悪自分では生きる事も死ぬ事も出来無い永遠の苦痛を味わう事となる場合もある。

だがそんな暗い考えも脳裏に先程会ったガドウが過ぎった事で終わりを告げる。


「いや、邪神の事は他の神達に任せよう。それは私の仕事じゃない……にしてもふふっ、まさかあの者に正気に戻されるとはな……まったく、私の心を弄びおって許さんぞ!」


言葉とは裏腹にキリンは満面の笑みを浮かべる。そしてガドウの隣で戦う自分を想像し、楽しそうな笑い声を上げる。


「ふふふっ、早く成長するのだガドウ!そして何時の日かこの私を従えてみろ!」


キリンの姿には先程までの暗い雰囲気は無く、何処か玩具を買って貰いはしゃいでる子供のようにも見える。

キリンは今後の世界について楽しそうに夢想しながら足取り軽く天を駆け抜ける。





ーーーーーーーーーー

Name: ガドウ


Rece: 暗黒竜(ネオ・ダークネスドラゴン)(魔人)


Special: 「弱肉強食」「思考加速」「並列思考」「完全解析」


Skill: 「闇魔法」「竜覇気」「魔力把握」「嗅覚上昇」


Divin: 「ガリオンの寵愛」「竜神の加護」「麒麟の加護」・・・New!


Gift: 「王種の種」「王種の証」「進化の苗木」「神種の種」・・・New!

ーーーーーーーーーー

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