王城にて
今月中にこの章を終わらせたかったけど厳しいかも……
取り敢えず投稿です!
「俺さ、本当はここに来るつもり無かったんだよね」
剣と見学ぶつかり合って火花を散らす中、緊張感の無い言葉が響き渡る。まぁ、俺の声なんだけど。
「でも、王城の中なんて中々見る機会無いだろうしって事で、妹との時間を天秤をかけてほんのミリの差でこっちに傾いたからこうして来てみたわけ」
グランハルトを蹴り飛ばし距離を開く。あ、壁が壊れた。
「なんつーか、つまらなかったな。この国のお偉い方は二言には跪け跪けうるさいし」
「はぁ、はぁ、何で、お前は、息一つ乱れてないんだ……」
グランハルトが相棒の大剣を支えにして激突した壁を背にしてふらふらと立ち上がる。
「疲れてないからだろ」
俺たちのじゃれ合いの隙をついて切り掛かって来た衛兵の頭を鷲掴みにして投げ捨てる。
「デタラメか……」
デタラメとは失礼な、このくらいなら魔族領に住む魔物達だったら普通に出来るぞ。まぁ、魔人の俺は完全な人型だから変に見えるだろうけど。
「さて、まだやるかい?」
「当然!」
挑発気味に告げると、グランハルトは好戦的な笑みを浮かべながら嬉々として切り掛かって来る。こいつ、戦闘狂だな。
最初は国王陛下のため!みたいな感じだっだくせに、今絶対楽しんでるだろ。
俺は竜神刀を構え直し、グランハルトの放つ一撃を受け止める。っと、これは今までの中で一番重たいな。
「いい太刀筋だ。気分良くなって来たからちょっとだけ本気を見せてやるよ」
俺はグランハルトの大剣を弾き、竜神刀を越しに構えて居合いの型を取る。
「いいか?この攻撃は絶対避けろよ?間違っても受け止めようと考えるな。死ぬぞ」
聞こえたか分からないけど忠告はした。後はここの城にいる奴等の運次第だ。
「っ!?陛下!体制を低くして下さい!」
グランハルトは背筋を走った悪寒を一瞬で感じ取り、怒鳴りつけるように叫んだ。俺の放つ攻撃の危険性を感じ取ったか。流石だな。
「はっ!」
斬ッッッ!!
裂帛の気合いと共に放たれ斬撃は衝撃となって辺りを襲い、周囲に倒れていた衛兵を吹き飛ばしながらも尚、暴虐の限りを尽くした。
「なっ!?なななっ!?」
地面にキスする程に姿勢を低くしたグランハルトはその威力に言語として機能するのか怪しい声をあげている。面白いなあいつ。
俺がのんきにそんな事を思っている中でも、放った斬撃は止まる事無く破壊を続ける。それがようやく消滅した時、信じられない事が起こった。
「あ、やべっ」
気付いた時にはもう遅い。城の上階、俺のいた場所を基点として、なんと城がずり落ちたでは無いか。
「力を込め過ぎちまったなぁ……」
まさか城がこんなあっさり斬れるとは……いや、誤算だった。
「悪い、城切っちゃった」
「「「城切っちゃったじゃないぞ(わ)(です)!!」」」
玉座の間のある部屋から姿勢を落としながら顔だけ此方に向けて様子を見ていた国王夫妻とゼフィールにそう謝った。そしたら一斉につっこまれた。いや、本当に悪いと思ってるよ?
***
〜エステルside〜
王城の外、セントレア城がよく見えるオシャレな雰囲気のカフェで私はガドウ君の妹のスノア君と共にガドウ君の帰りを待っていた。
「ガドウ君、陛下に失礼な態度を取ってはいないだろうか」
ティーカップを片手に所在無さげに呟くと、猫舌なのかホットミルクと格闘していたスノア君がビクッと大袈裟に反応し、恐る恐ると言った様子で顔を上げる。
うーん……ガドウ君からはスノア君は人見知りだけど慣れればコミュニケーション能力は高いと言われていたけどまだ先は長そうだ。
「えっと……あの、その……」
「ん?なんだい?」
おや?珍しい、スノア君から何かを言って来るなんて。
「その……国王陛下って方と、会う時って、どんな事すればいいん、です?」
「そうだなぁ……説明するのが難しいけど、先ず最初に陛下の御前では跪く、そして陛下から顔を上げろと言うお言葉を貰ってから顔を上げるんだ。そこからは陛下がのお言葉に対して丁寧な態度と言葉遣いで返答をする……っと、こんな感じかな」
私もそんなマナーに聡い訳では無いから説明としては微妙だったかな?
「えっ……跪く、ですか?」
うん?変な事言ったかな?この国に限らず、何処の国でも国王陛下に謁見する時は跪くものだと思うけど。
「えと、お兄様は、絶対に跪かないと思います……」
スノア君が、セントレア城の方へと顔を向けながら小さな声で呟いた。その直後……
「おい!城の上階の方が!」
「はぁ!?何だよアレ!?」
「城壁が吹き飛んでたわね……」
振動を伴う程の轟音を立てて私たちの視界の先にあるセントレア城の上階部分の城壁が吹き飛んだのだ。
「何があった!?」
私は手元にあったティーカップをひっくり返しながら席を立つ。その際スノア君をまたビクッ!とさせてしまったけど、今はそんな事気にしてる余裕なんて無い。
私は同じカフェにいた客に何があったか分かる者はいないかと聞き回った。その殆どが私の見た光景と同じものしか見ておらずこうなったら直接セントレア城に突入してみるしかないかと考え出した時、偶然にもその場に居合わせていたAランク冒険者の盗賊職の者からとんでもない情報を入手した。
「あ、ああ、なんかあの吹き飛んだ城壁の向こうで誰かが戦っていたのが見えたんだ!デカイ大剣を持った男と変わった形をした白い剣を持った男だ!」
不味い、凄い心当たりがある……
「まさか、ね……」
変わった方達の白い剣……それが仮に刀だったとしたら、もう間違い無くガドウ君だ。白い刀なんて私の生涯でガドウ君の愛刀以外見た事無い。
「城壁が吹き飛んだのは大剣を持った男が叩きつけられたんだ!視力には自信があるから間違い無い!」
大剣を持った男、ね……セントレア城内にいて、大剣を使う男なんてセントレア王国最強の男として名高い【重撃】のグランハルト将軍しか思い付かない。更に言えば、そんな大物を吹き飛ばして城壁を破壊するなんて荒技が出来る人物なんて私はもう彼しか知らない。
「何をやってるんだガドウ君は!?」
そう叫んだ瞬間、更に信じられ無い事が起こった。
「お、おい!城のてっぺんが真っ二つにされたぞ!?」
「マジかよ!?何が起こってんだよ!」
「あんな大きなお城を真っ二つに切り裂くって人間技じゃないわよ!?魔王が攻めて来たんじゃないわよね!?」
今度は私にもしっかり見えた。これでも私だって盗賊職の技能を持っている、視力だって一般的な人々よりずっと高い。だからこそ見えてしまった光景に私は頭を抱えずにはいられなかった。
「ガドウ君……君は本当に何をしているんだ……」
私の見た光景。それは純白の刀を振り切った姿勢で不敵に笑うガドウ君だった。
「ふぅ……」
私は理解の範疇を超えた出来事と、この後に待ち受けるであろう問題を憂い意識を失った。
***
「いやーつい熱くなっちまったよ。悪かったな」
時は変わって10分後。俺はセントレア王城にある大会議室で椅子に腰掛けながら笑い声をあげていた。この場にいるのは俺とグランハルトとゼフィール、そして国王夫妻のみであり、貴族連中はいない。どっか行った。
「悪かったじゃないわい!お主の所為でこの城の上階が真っ二つになってしまったでわないか!この責任をどう取る気じゃ!」
「まぁまぁ、落ち着けって爺さん。あそこは後で俺が直しておくから許せって」
ゼフィールが青筋を浮かべて怒鳴り声をあげる。年寄りの癖に元気だなこの爺さん。
「俺があんなあっさりとあしらわれるとはな……まだまだ精進が足りぬな」
「グランハルトは強かったけど、言ってしまえば精々特SかSSランク冒険者くらいだったからな。もっと頑張れ」
「ぐっ……悔しいがその通りだ。流石特SSSランク冒険者のガドウだ」
グランハルトは本気で悔しそうだ。まぁ、自分の腕前には自信があったようだし、それが俺のような若僧にあっさり破られたのは悔しかったんだろう。多分グランハルトはこれこらもっと強くなるな。
「その、なんだ、そろそろ話を始めても良いか……ですか?」
お?国王が漸く話し出したか。てか、なんか萎縮してないか?
「ガドウ殿、先ずは先程の無礼を詫びよう……ます。申し訳ありません」
俺が城の上階切り飛ばした辺りから、彼等は跪けと言わなくなった。それどころかさっきから色々と気楽になったようだ。ゼフィールの爺さんがあんな風に外聞なく怒鳴り散らすなんてあり得ないってグランハルトが呟いてた。何故か国王夫妻は逆に遠慮がちになったけどな。
「陛下!流石にそこまで頭を下げるのは……」
「ゼフィール、これ以上城が壊されては堪らんのだ。今ばかりは許せ」
酷い言われようだ。あれはちょっと熱くなっちゃっただけで、普段からしょっちゅう物を壊したりはしないぞ。
「ガドウ様、早速本題に入ってもよろしいでしょうか?」
女王が俺を伺うようにして尋ねて来る。早く終わるなら願った叶ったりなので頷いておく。
「本来ならもう少し前口上などを告げるのだが……ですが」
「下手な敬語はいらん。まどろっこしい」
「ガドウ、その口の聞き方は……いや、もう何も言うまい。形だけだからなんだ言うのは無駄だったからな」
国王はさっきからめんどくさい喋り方をする。国王の威厳的な態度が普段なんだろうけどな。俺のとしては、跪けって言うのが気に入らなかっただけで別にその他の事はどうだっていい。寧ろ下手糞な喋り方を聞いてる方が好かん。
「そうか、ならお言葉に甘えてそうさせて貰おう」
あからさまにホッとする国王。こいつ、肝っ玉座ってる癖に変なところでビビリだな。普通、刀一つで建造物を斬りとばすような相手となんて関わりたくないだろうに、まだこうして普通に顔を合わせていられてるところからもその肝っ玉振りを窺わせる。かと思えば口調一つでここまで安心するんだよ。面白い。
グランハルトはもう色々と諦めたようだ。
「ガドウ殿はもう知っているか?近々聖教国との戦争が起こるかも知れると言う事を」
「ああ、冒険者ギルドでも噂されてる。もう宣戦布告もされたんだって?」
「その事まで知れ渡っておるのか……ああ、そうだ。まだ大衆には伏せていたが、人の口に戸口は付けられないと言うわけか」
「ふざけた話だよな。国同士のくだらん理由で無数の無関係な者達の命が散る。お前達国のトップは何を思ってこんな無意味な事をする?」
戦争は人同士が殺し合う本当に無意味で生産性皆無の出来事だ。兵士同士が勝手に殺し合うのはいい、それが兵士と言う職業の仕事だ。だが、その過程で戦争などとは無縁の世界で生きてる者たちが真っ先に死ぬ。そいつらからしたら冗談じゃないよな。
「……耳の痛い話じゃな」
「我等兵士が死ぬのは良い。我等は国の為にこの命を捧げるのが職務だかな。だが、実際は戦火に巻き込まれるのは何の関係も無い民達だ……」
ゼフィールとグランハルトが神妙な面持ちで語る。
「……我等は国を救う為に戦争をしている。無論、何の罪も無い民の命が散ることは理解しておる。だが、それでも国を落とされればもっとたくさんの民が敵国の蹂躙を受けて死ぬ」
「いえ、ただ死ぬだけならまだマシでしょう。もっと酷い、それこそ奴隷に落とされる民すら現れるかもしれません。そのような事を無くす為、私達王族が死んで行った者達の命を背負い、この国の為にいかなる手段も取っていかないとならないのです」
へぇ、国のトップもトップなりに一般人の事を考えてているんだな。まぁ、魔族の俺には人族の行く末なんざに興味は無いんだけど。
「なるほどね。で?その戦争が起こるって事と、俺を呼んだ意味は?」
これが本題だ。まぁ、ぶっちゃけ予想はついているんだけど。
「うむ、そうであったな……【英雄】ガドウ殿、貴殿の実力は先程の一件でよく分かった。その力、我が国の勝利のためにお貸し願えないだろうか?」
ほら、予想通りだ。高ランクとなった冒険者をわざわざこの首都に呼び寄せる仕組みを作るような国だ。その戦力が目当てなのは簡単に予測がつく。ましてや、丁度これから戦争になろうと言う時だ。少しでも戦力増強をしておきたいと言う魂胆だろう。
「無論、相応の報酬は用意する。勝利したあかつきには貴殿を我が国の貴族として迎え入れる事も可能だ。どうだ?悪い提案では無いと思うのだが」
まぁ、一人の強者によって戦況がひっくり返すなんてザラな世の中だ。そのような人材はどの国も喉から手が出る程欲しいと言うのは分かる。だが……
「断る」
俺が得る物が何も無い。そんな条件で俺を戦争に引っ張れると思われていたとは心外だな。
「……理由を聞かせて貰っても良いか?」
おや?思ったより国王達の表情は暗く無いな。寧ろ、断られるのが当然だと思っていたようだ。
「そもそも俺が得る物が無いんだよ。報酬も、貴族の位も俺に取っては僅かな魅力にすらなり得ない」
金には余裕あるし、貴族の位なんてそれこそこの国に従属しろと言ってるようなものだ。
「それと、さっきから英雄英雄言ってるが、俺は【英雄】じゃない。その話は断ったはずだ」
その瞬間、国王達の表情か驚きに包まれる。あれ?俺が【英雄】の称号を蹴った事は伝わってなかったのか?
「え、【英雄】の称号を断わった、のか?」
「ああ。【英雄】の称号なんて持ってたら面倒事を呼び寄せるだけだからな。【英雄】の称号を断わったからせめてもとここに来てやったんだ。グランハルトにはさっき言ったが本当はここに来るつもりも無かったんだよ。ま、城の中がどうなってるのかって好奇心もあったんだけどな」
ソフィアはこう言った。セントレア王国及び冒険者ギルドセントレア本部から【英雄】の称号を与える。
これってつまり、【英雄】の称号は国から認められたと言う事だろう?そうするとこう言えるわけだ、「お前はこの国の【英雄】だ。だからこの国の為に尽くせ」と。はっ!冗談じゃない。
「お前達の魂胆は、【英雄】と言う称号をセントレア王国からの褒賞として俺に与えて、俺を無意識にこの国に縛るつもりだったんだろ?」
別に利用しようとした事はどうでもいい。俺だって自分の目的の為に人族の持つ知識を利用しているんだから。
「そ、それは……」
「ああ、いいいい。別にその事に対して何か言うつもりは無いから安心しろ。だが同時に俺にお前達に手を貸す義務も理由も無くなったわけだ。諦めろ」
話はそれだけだとばかりに俺は立ち上がる。
「……もし気が変わったらいつでも言ってくれ。我等にはいつでも貴殿を迎え入れる準備が出来てる」
「気が向いたらな」
国王のその言葉を背に俺は大会議室を後にした。
***
ガドウが去った会議室では、残されたセントレア王国の重鎮たちが険しい顔を付き合わせていた。
「陛下、どうされるので?ガドウ殿の力を得られ無いとなると、我が国と聖教国の戦力差では厳しい戦になりますぞ」
「うむ……だがゼフィール、お主も見たであろう?あの者の力を……。あそこで下手を打っていたら我等が滅ぶ事になっていたであろうよ」
「はい、成り行きとは言え、私はあいつと直接剣を交えました。そこで感じた事を一言で申し上げるのなら異質……の一言でしょう。私はそれなりに相手の力量を見抜く能力があると自負しておりますが、あいつの力は底が見えませんでした……」
部屋は静寂に包まれる。誰もがガドウと言う戦争の結果を左右する力を持ち得る存在について語る言葉を持ち合わせていないのだ。
突如何の前触れもなく現れ、瞬く間にトウテツを殺害し、アクウェリウムを魔王の手から防衛すると言う英雄的行為を次々と行ったガドウ。国としても彼の事は調べたが何一つ分からなかった。
「あなた……今は彼を混みの戦力で数えるのは止めましょう。恐らくもう数ヶ月もせず戦端は開かれます。私達が今考えるべき事は今の戦力でどれだけの民を守るかです。ガドウ様もおっしゃっていました、戦争の被害を一番に受けるのは無関係の民だと……私達はこの国の王族としてよりたくさんの民を救わないとなりません」
「セフィーネ……そうだな。ゼフィール、我等は策を練るぞ。この戦は向こうが仕掛けて来た事だ。つまり我々は防衛する側。それなら幾らでも打つ手はある」
「はっ!では先ず同盟国と連絡を取り、戦力要請を求めます!」
「うむ、グランハルト、お前は我が国の兵士を今以上に鍛えろ。防衛を主とした戦いが今回の戦争の肝だ。お前の采配に期待する」
「はっ!このグランハルト、必ずや陛下のご期待に応えてみせましょう!」
こうしてセントレア王国は戦争の為に着々と準備を整え出した。
だが、彼等はまだ知らない。この戦争が誰にも予想付かなかったとんでもない形で終わると言う事を……




