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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
四章 王都ダンジョン攻略作戦
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竜人族

竜人族とドラゴン族。それらを説明するには少し歴史を遡る事になる。


その昔、ドラゴン族でありながら人間族と恋に落ちたドラゴン族がいた。彼等は愛に焦がれ、それを力として魔人へと進化を果たし、やがてそれぞれ人間族との間に子をもうけた。それは当時、悪魔族に並ぶ最強種族としての誇りを尊んでいたドラゴン族には衝撃的な出来事となった。

かつてのドラゴン族達は激怒してその者達を一族から排除をした。しかし、人との愛を知ったドラゴン族達はそれをあっさりと受け入れ独自にコミュニティを形成し、新たなる種としてこの地に根付いた。それにより一族の大半を失ったドラゴン族達は次第に力衰えて行き、いつの間にか最強種族は悪魔族となりドラゴン族はその地位を失ったと言う。


この事実を人族達は恐らく知らない。何せ、竜人族と言う種族は一見すると人間と見分けが付かない上、種族上では人間と表示されるように竜人族の先祖達が高度な隠蔽効果を与える加護を生まれてくる全ての子供達に与え続けているからだ。人族が持ち得る能力では決して見破る事が出来無い程強力な加護だ、悪魔族に最強種族の座は奪われていてもその能力までは損なわれていないと言う事だろう。俺が見破れたのは神眼と言う神から授けられる能力を取り込み、圧倒的格上の能力すら見破る事の出来るようになった神魔眼のおかげであって、過去の勇者ならいざ知らず今の人族がここまでの解析能力を持つスキルを開花させる事は無いだろう。

それに、昔と言ってもそもそも竜人族が根付いてからまだ千年の時すら経っていないからな。


「ほう?それは一体どう言う意味かな?」


「いや、何でもない。ここで話すような内容では無いさ」


色々と言ったが別にドラゴン族と竜人族が仲悪いわけでは無い。(だからと言って仲が良いと言うわけでもないが)一族から離脱した経緯はどうであれ両者合意の上で行われた行為だしな。


何で俺がこんな事を知ってるかだって?


答えは簡単だ。実はここ最近念話で会話をしているキリンから聞いただけ。どうも麒麟のネックレスを取り込んだ事で、神化の獲得以外にも俺とキリンとの間での念話の魔力回路が開通したようで、こうして時折会話が出来るようになった。キリンは長く生きているため、俺の知らない知識を沢山持っているから念話で話しているだけでとても有意義な時間となる。


「……まぁいい。その事についてはまた時を改めて詳しく聞こう。さて、君の処遇なんだが正直言って複数の魔人達相手に大立ち回りを見せるような実力を持つ君はもう特Sランクでは収められない。更に言うとトウテツを単独で討伐し、人類を救ってみせた君はSSランク、特SSランクでも収まらない」


トウテツの名前が出たところで周りがざわつく。取り敢えず今は無視一択。


「だとしたらどうする?」


「現時点を持って君のランクを冒険者最高ランクの特SSSランクまで上げる。それに伴い【斬滅】のアナザーネームに加え新たに【絶対王者】のアナザーネームを与える。そして君にセントリア王国及び冒険者ギルドセントリア本部から新たなる【英雄】の称号を与える!」


ソフィアが僅かに危機迫る口調で告げたその瞬間、周りは爆発的に騒ぎ出す。


「特SSSランクだって!?」


「かつての勇者、英雄しか辿り着く事の出来なかったランクですよ!?」


「いや、ガドウはたった今英雄になったんだから肩書きは十分だ!」


「わたし達は今新たな英雄が誕生する瞬間に立ち会っているのか……」


各々が好き勝手に騒ぎ出す中、俺は内心で溜め息を吐きながら口を開く。


「いや、要らないです」


シーン……


辺りが一瞬にして静まり返る。


「……ふぅ、聞き間違えでもしたか?悪いがもう一度言ってくれるかな?」


静まり返る部屋の中、ソフィアは椅子に深く腰をかけ直してまるで何事も無かったかのように聞き返して来る。


「いや、だから要らないです。【英雄】の称号とか邪魔なだけ」


更にシーン……。


「…………」


ソフィアは表情はそのままにピタリと固まっている。


「え?え?」


話を理解していないスノアだけが一瞬で代わり続ける空気に付いて行けずわたわたと周囲を伺っては涙目で俺の腰にギュッと捕まってぷるぷる震える。可愛い。


「あ、あの、ガドウ君?それは流石に、ね?……ほ、ほら!君はトウテツを倒して人類を救っているんだよ?誇っていいんだ」


静寂を破ったのは落ち着きの無いエステルの声だった。


「いやだって、【英雄】とかになったら無駄に名前知れ渡るだろ?しかもそう言うのって大概勝手に一人歩きして行って、しまいにはあいつなら大丈夫あいつならやってくれるみたいな感じで根拠の無い信頼を持たれる事になる。絶対めんどくさい」


「いやいや、それこそが有名税ってものじゃないかい?寧ろそれこそ誇るべきものだと思うよ私は」


「そんなの知らん。だってそれって他人の勝手な都合の押し付けだろ?何で俺が自分で望んでるわけでも無いものに税なんて払わないといけないんだよ」


「うっ……そ、それは……いやでも、【英雄】の称号を得る事は君の思っている以上に凄い事なんだよ?何せ冒険者なら誰しもが一度は夢見るロマン溢れる称号なんだから」


「俺は別に一度も夢見た事無いんだけど……」


尚も言い募って来るエステルを適当にあしらいながら、俺は未だに固まっているソフィアの手元から眩いばかりの輝きを放っている虹色のギルドカードを回収した。【英雄】の称号は本当に要らないけど、特SSSランクを示すギルドカードは冒険者ギルドが保管している全ての資料の閲覧権限を得るのに必要だからな。


「ま、待て小僧!【英雄】の称号を貴殿に授ける事は国王陛下のご意思でもある!それを断ると言う事は国王陛下の面子を潰すと言う事であるぞ!理解しておるのか!」


俺が新たなギルドカードをアイテムポーチに閉まっていると、硬直から解けたヴァタメール公爵が慌てた様子で怒鳴り声をあげながら大股でにじり寄って来た。正直ちょっと……いや、かなりうるさい。そんな広くも無い部屋でそんな大声を出したら耳に響くだろうと言うことが分からないのだろうか。


「いや、悪いけど正直、国王陛下とか知らないしどうでもいい」


「なっ!?貴様、それでもこの国の住人か!国王陛下の治世によってこの国はさかえられているのだぞ!貴様等冒険者が日銭を稼げるているのも国王陛下と我等貴族がこの国で仕事をする場を与えてやっているが故であるぞ!その事を理解しておるのか!」


「こんな狭っ苦しい部屋で大きな声出すなよ、うるさいな。俺はただ理由があってこの国に寄っているだけで、別にこの国の住人ってわけじゃないんだけど?だから当然、国王陛下に忠誠心なんて欠片も持ってないし、お前達貴族にも何の関心も無い」


「き、貴様!仮にも栄えあるヴァタメール公爵家の当主たるこの私になんだその口の聞き方は!トウテツを討伐した者だと言うさら丁寧に接してやるつもりだったが、ええい!構わん!この無礼者をひっ捕らえよ!」


俺の胸倉を掴み上げなら唾を飛ばす勢いでヴァタメール公爵は何処かに向かって命令をする。すると、俺から見て左手にある扉から3人組の男が扉を蹴破る勢いで開け放ちながら現れた。

男達は皆使い込まれたような跡が見える立派な鎧や剣で武装しており、一目でかなり修羅場を潜り抜けて来た冒険者だと分かった。


「あー、そりゃまぁ仮にも公爵家の者だし、手練れの護衛の一人や二人連れて来てるか」


現れた男達は既に完全武装し、ヴァタメール公爵と俺を取り囲むような位置取りで適度な距離を保って油断なく此方を伺う。完全にやる気のようだ。


「ヴァタメール公、ギルド内での戦闘行為は行わないと最初に取り決めていたはずだが?」


「ご安心をソフィア殿。戦闘行為となる前に取り押さえます故」


流石にこの状況で固まってはいられないと判断したのか、ソフィアが制止にかかるが、ヴァタメール公爵は聞く耳を持たない。言葉こそ丁寧だが、その表情にはあからさまな不機嫌がありあり浮かんでいる。


「私は止めろと言っているんだ。ヴァタメール公、早く彼等に武器を納めるように言うんだ」


意味があるかは知らないが取り敢えずあまり手札を見せ無いように竜神刀の峰打ちの一撃で全員気絶させてしまおうか。


俺はアイテムポーチから竜神刀を取り出して鞘に入れたまま左手に握る。


「やれ!殺さない程度になら痛め付けても構わん!」


ソフィアの要請を無視して俺を突き飛ばしながら護衛達に指示を出すヴァタメール公爵。彼等は主人の命に従い連携された素早い身のこなしで俺へと襲いかかろうとする。


(取り敢えず全員気絶させてしまうか……)


そう結論付け刀を鞘から抜き放つ。


ーーその刹那、一陣の風が吹いた。


「止めろと言っているのが分からないのか?」


瞬きする間も与え無い雷の如き速度で横に立て掛けてあった刀を手に取り、ギルドマスターの執務机を足場にまるで弾丸のように飛び出して俺へと襲いかかろうとしていた者達を弾き飛ばすソフィア。その鋭い一撃を受けた男達はまるで紙切れのように軽々と弾き飛ばされ、三方の壁に激突して部屋を揺らす。だがその目にも留まらぬ剣速で振るわれる凶刃はそれだけでは終わらず、流れるような美しい動作で俺の首目掛けて迷い無く振るわれる。

俺はそれを冷静に見切り、横に動くように移動して躱そう試みる。しかし俺の動きを追うようにして軌道を修正された凶刃は尚も狙い違わず俺の首に向かって軌跡を描く。


ーーだがその刃は俺へと届く寸前にてその動きを止める。


何故かって?


それはソフィアの首元を見てくれれば分かるさ。俺の持つ竜神刀が彼女の首元薄皮一枚のところでピタリと止められている。


「っ!?」


何のことは無い、ようはソフィアの神速の剣が俺の首へと届くより速く俺がソフィアの首元へと刃を突き付けた。ただそれだけだ。


「ひ、ひぃ!?」


お互いの首元に刀を突き付け合い、殺気を放ちながら睨み合う。突き付け合っているその二本の刀の間では距離を取り損ねたヴァタメール公爵が無様な姿で震えている。


「まさか私の剣筋を初見で見切った上に速度でも勝るとはな……」


ソフィアは信じられないものを見たと言わんばかりの口調で呟く。


「いきなり何のつもりだ?【英雄】の称号を受け取ろうとしない俺を斬るつもりだったか?」


涙と鼻水を垂らしながら震えるヴァタメール公爵を挟み、尚も首元に刃を突き付け合いながら殺気を放ち合う俺とソフィア。俺たちが口を開く度に僅かに刀が動き、その都度ヴァタメール公爵が大袈裟に悲鳴染みた声をあげる。


誰も口を開かない殺伐とした空気の中、先に刃を収めたのはソフィアの方だった。


「なるほど、君の実力は良く分かった……それほどの実力があれば【英雄】の肩書きなどわざわざ付ける必要もあるまい」


その声には呆れとイタズラ心、それに少しばかりの敬意が見て取れた。


「じゃあそう言う事で。俺は帰る」


俺は刀を納めスノアを伴い、部屋を後にする。


「ちょっと待て」


「あん?まだ何かあるのかよ?」


出て行こうと扉に手をかける寸前、ソフィアが呼び止めてくる。


「ああ、これを君に渡すよう言われてるんだ」


そう言って手渡して来たのは一通の手紙だった。何やら立派な蝋で閉じられている。


「手紙?」


「そ、それは王家の紋章じゃないか!?」


受け取った手紙を胡乱気に見ていると、エステルが悲鳴じみた声を上げた。


「その通り。国王陛下直筆の手紙だそうだ。本来ならヴァタメール公はこれを君に渡す為に来ていたんだが……今はこんな様子だからな」


ソフィアの視線を追い、チラリと其方を見ると泡を吹いて無様な姿で倒れているヴァタメール公爵がいた。俺とソフィアの殺気のぶつけ合いの余波で気絶してしまったようだ。情けない。


「悪いが、流石にそれまで受取らないと言う事は出来ない。【英雄】の称号は国から認められた者にのみ与えられるものだ。それを蹴るだけでも普通ならかなりの不敬に当たる。その上、国王陛下直筆の手紙をも受取らないとなると幾ら独立機関である冒険者ギルドでも擁護し切れない」


「まぁ、そうだわな。分かったよ、これは受け取る。ここで読んでも平気か?」


「ああ、構わない。本来ならヴァタメール公がここで読み上げる予定だったものだからな」


ソフィアから許可を貰い、立派な蝋のされた封を開けて中に入っていた手紙を取り出した。


「なになに……?」


『拝啓【英雄】ガドウ殿。

先ず、新たな【英雄】となられたガドウ殿に国を代表して祝福の言葉を送らせて貰おう。おめでとう。これからはより一層の貴殿の働きを期待する。

さて、突然このような手紙を書いた事を許して欲しい。本来ならきちんとした段取りをつけた上で、貴殿へと使いの者を寄越すつもりであったが今はなにぶん時間が足り無い。詳しい話は直接会った上で話したいので、貴殿を我が城へと招待する。時間は明日の正午の鐘が鳴る頃とさせていただく。内密の話となるので貴殿が1人で来る事を望む。

セントレア王国13代目国王、ユリウス=マルコシア・ハスタ・フォン・セントレア』


「……は?」


手紙の締めには王家の紋の入った判が押されている。この世界でこの判子を持っている者はセントレア王国国王その人だけである。それ即ち、これは紛れも無いこの国の国王からの召集令状であった。

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