プロローグ5
「ちちうえ?ねぇおきてよ!うあ……ウアアアア!」
最強であった筈の父上が死んだ。僕を守る為に死んだ。
「あら?もう終わっちゃったのかしら?」
父上を殺した女の魔人はとても軽い調子でそう言った。
「ふふふ、とても良い親子愛だったわよ?最後にその死体を回収すれば私の仕事は終わりだから、ちょっとどいててね」
ふざけるな、お前が父上を殺したんだろう。何が良い親子愛だ。何が仕事だ。
僕の父上に触るな!誇り高きドラゴン族を穢すな!そんな事許してたまるか!
そう思った瞬間、僕の体に灼熱のような衝撃が走った。そしてそれと同時に何か温かいものが宿った。
『ギフト、【王種の種】を獲得しました。【王種の証】を獲得しました。【進化の苗木】を獲得しました。
特殊スキル【弱肉強食】を獲得しました。
特殊スキル獲得により個体名ガドウは特殊スペシャルモンスターとなりました。特殊スペシャルモンスターとなったため肉体、精神が急成長します。………急成長完了しました』
「……わるな……」
触るな。そう言ったと同時に謎の音声が僕の頭に流れて来た。だけど今の僕にそんなものに構っている余裕は無い。
僕が捕まっちゃったから父上は捕まった。僕が足手纏いになっちゃったから父上は負けた。僕が……僕が…………”俺”が弱かったから父さんは死んだ!
何時の間にか僕の体は大きく成長していた。
「さわるな……」
女の魔人は振り向いた先にいた僕を見て一瞬硬直した。だけど今の俺にはその一瞬だけで十分だった。
「ぼくの………俺の父さんに触るなァァァァァァァ‼︎‼︎」
俺は女の魔人の喉仏に噛み付き、そのまま噛みちぎった。
「カ、カヒュー!カヒュー!」
女の魔人が何かを言っているようだが最早言葉になっていない。最も、どんな言葉だろうと耳を貸すつもりは無い。
俺はそのまま女の魔人に再度噛み付き、その体を噛み砕く。グチュリと不快な音がしたが今の俺にはこの女から出た死の音と思うだけで不快な音も一転して心地の良い音に聞こえる。
俺は噛み砕いた女の魔人を怒りに任せて喰らい、飲み込み、確実な死を与える。
『サキュバス個体名リリアーナの捕食を確認しました。スキル【闇魔法】を獲得します。
【進化の苗木】の条件を満たしました。これより個体名ガドウの進化を行います』
すると先程も聞こえた謎の音声が頭に響き、次の瞬間には壮絶な眠気が襲って来た。
俺は壮絶な眠気に逆らいながらもゆっくりと物言わぬ死体となった父さんの元へ向かう。
そして悲しみを誤魔化すかのように、父さんの体に自分の体を預けて意識を手放した。
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目を覚ました時、既に日は傾いており、もう後数刻程で夜行性の凶暴は魔物達が跋扈する時間となるだろう。そんな中俺はゆっくりと体を起こす。
「父さん……」
俺の視線の先には生前と変わらぬ風貌をもつ最愛の父さんの体があった。その変わらぬ風貌を見ていると、今にも「おはようガドウ」と言って起き上がって来そうだ。
だけどそんな事はもうあり得無いと言う事は嫌でも分からされる。
目の前で今にも起き上がりそうな姿で眠っている父さんからは魔力を全く感じない。
魔力を感じないと言う事はその者が死んでいると言う証拠だ。
「父さんごめんね……俺が弱いばかりに父さんを死なせてしまって……」
目に涙が溜まる。それは留まる事を知らず、次から次へと零れ落ちて父さんの美しい鱗を照らす。
暫くして漸く落ち着いた俺は先程女の魔人を喰らった際に聞こえた謎の音声について考える。それは父さんの死から気持ちを逸らす為の一種の現実逃避だったのかもしれない。
「謎の音声は確か進化とか言ってたな…」
そう呟いて俺は自らの体を見下ろしてみる。するとそこにあったのは竜の鱗を疎らに纏った人の手足だった。
「何だよこれ……」
余りの驚きに逆に冷静になってしまった。一体何があったのか。それを考えようとした瞬間、あの謎の音声が再び頭に響いた。
『個体名ガドウは【進化の苗木】により魔人に進化しました』
脳内に響く無機質な声。俺はその声の言った事を素直に受け入れられなかった。
「どう言う事だ!俺は父さんを殺したような存在になるつもりは無い!」
『個体名ガドウは【進化の苗木】により魔人に進化しました』
そう叫ぶが帰って来るのは同じ無機質な声の同じ答えだけだった。
俺の脳には進化した影響か、この声の知識が入って来た。それによるとこの声は「世界の概念」と言うらしい。それ以上追求出来無い物。それが「世界の概念」。
これは特定の条件を満たした時にだけ聞こえる声で、今回は俺が進化た事により声が聞こえたのだろう。
「くそっ!……だけどなってしまった以上仕方無いか……次の検証に移ろう……」
俺は魔人になんかなりたくは無い。だがなってしまったものはもうどうしようもないと言うのも事実。素直に諦めて新たに得た「弱肉強食」のスキルを調べる事にした。
俺は「弱肉強食」を脳裏に思い浮かべる。すると少しして俺の頭に「弱肉強食」と言うスキルが浮かび上がって来た。
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「弱肉強食」・・・特殊スキル。生物を捕食すると、捕食したものの持つ能力を自分の物に出来る。一度捕食した生物からは例外を除き再び捕食しても能力を得る事が出来ない。また、一定以上の力の差がある格上の存在を捕食した場合、捕食したものの持つ能力に加え特殊な能力を獲得出来る。
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「凄い……」
途轍もなく強い能力だと、俺は感嘆の息を吐く。
「だからあの女の魔人を喰らった時に新たな能力を獲得したのか……」
女の魔人を喰らった時に頭に響いた「世界の概念」。それによれば俺は「闇魔法」を獲得したらしい。
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「闇魔法」・・・ノーマルスキル。主に生物の生き死にを司る魔法。魔力を奪う魔法や精神を操る魔法が主に使える
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「魔力を奪う魔法」それが父さんを殺した魔法だ。俺はまた怒りが湧いて来たがそれを無理矢理抑え込み何も言ってくれ無い父さんを見た。
父さんが死んだ今、俺はこの地を出るつもりだ。
ここでは魔王ヴェへムートの配下がたくさん死んだ。時期に配下が帰って来無い事を訝しんだ魔王ヴェへムートが調査に来るだろう。そして直ぐに父さんが配下を殲滅した事と父さんが死んだ事を知るだろう。
それに奴等は父さんの素材を欲していた。そんな所に俺がいたら間違い無く殺される。そんな事になったら父さんの最後の願いである”生きてくれ”に背く事になる。そんなのは絶対に嫌だ。
父さんとの思い出があるこの地を去ることには寂しさを覚えるが、ここに長く留まっていると自分の身が危ない。だから俺はこの地を離れる事にした。だが、父さんの死体をこのままにしておきたくは無い。
この地に魔王ヴェへムートの調査が来たら間違い無く父さんの死体を持っていかれるだろう。そうで無くとも野生の魔物に食われてしまう恐れもある。かと言って父さんを埋葬出来るような穴を掘る時間も無い。結果的に導き出される答えは一つだけだった。
「父さん、俺が弱いばっかりに死なせてしまってごめんな……俺は強くなるよ。父さんよりも、魔王よりも……そして何時か魔王ヴェへムートを殺して仇を取るよ。だから父さんも力を貸してね……」
そう言って俺は父さんを喰らった。堪え切れなかった涙が次々と溢れ出て来る中、父さんとの大切な思い出を頭に浮かべ続けた……
『漆黒竜個体名ガリオンの捕食を確認しました。スキル「竜覇気」を獲得しました。スキル「魔力把握」を獲得しました。捕食した魂と波長が一致しました。ボーナスとして特殊スキル「思考加速」を獲得しました。
自身より圧倒的格上の存在の捕食を確認しました。特殊スキル「並列思考」を獲得しました。特殊スキル「完全解析」を獲得しました。
【進化の苗木】の条件をクリアしました。これより個体名ガドウの進化を行います』
父さんを喰らった俺は、体の中に父さんの力が入って来るのを感じた。女の魔人の時は気付かなかったが、「弱肉強食」は相手のステータスもある程度取り込むのだろう。だが急激に上がったステータスを使いこなすには暫くの鍛錬が必要だな。
そう思うと同時に急激な睡魔が襲って来て意識が朦朧とする。女の魔人を喰らった時と同じだ。これは恐らく進化を行う際の弊害だろう。
俺は残りの朦朧とする意識の中、父さんと過ごした大切な住処まで飛び、そこで意識を手放した。
(それでいいんだガドウ……強くなれ……)
落ち行く意識の中、大好きだった父さんの声が聞こえた気がした。
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Name: ガドウ
Rece: 暗黒竜 (魔人)
Special: 「弱肉強食」「並列思考」「思考加速」「完全解析」
Skill: 「竜化」「闇魔法」「竜覇気」「魔力把握」
Divin:「 ガリオンの寵愛 」「竜神の加護」
Gift: 「王種の種」「王種の証」「進化の苗木」
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