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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
四章 王都ダンジョン攻略作戦
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騒々しい夜

お待たせしましたー

「待たせたね。それじゃあ明日の予定を伝えるよ」


俺達が宿に来て2時間程経った頃。【雷鳴の牙】の面々が帰って来た。その時丁度俺もスノアもお風呂に行っており、その場に立ち会わ無かったのだが、迎えたエステルが言うには、「疲れ切っているが、何処か満足気な雰囲気」だったらしい。


娼館と言うと、欲望に忠実な人族が己の欲を満たすために通う場所だと聞いている。だが実際には同じ人族でも、寿命の短い人間族や獣人族が積極的に通うだけで、俺達魔族と同様に長い寿命を持つ妖精族からしたら娯楽以上の意味は無いらしい。


まったくもってどうでもいい知識だが、こう言う自分の知っている知識との齟齬を見つけるのは割と好きだ。例えそれがどうでもいい知識でも、自分の知識量が増えるのは少しばかり快感でもある。


「明日なんだけど、こっちのギルドマスターが快く便宜を図ってくれたから早速面会が可能となった。なので明日は10時頃に皆でギルドへと向かう予定だよ」


その言葉に【雷鳴の牙】の面々はあからさまにめんどくさそうな表情になる。


「そんな顔をしないでくれ……君達がランクが上がる事が好きでない事は良く知っている。でも特SSランクの魔物を倒すような人物達を低いランクにさせておくことは出来ないんだ」



「いや、その事は俺らもよーく分かっているんだがよぉ……名声が手に入る代償に色々と厄介ごとが舞い込んで来るようになるのがなぁ……」


「そうだな。わたしもその事に懸念がある。だがそれを理由にギルドマスター達に迷惑をかけるわけにはいかない」


ボルトとシャドが互いに顔を見合わせて難しい顔を作っている。よく見ると、他の面々も同じような表情を浮かべており、彼等が心底嫌がっているのがよくわかる。


「悪いが、冒険者初心者の俺にはランクが上がる事やメリットやデメリットがまだよくわからない。説明してくれるか?」


ぶっちゃけ、ランク上がる=観覧出来る情報が増えると言う事にしか興味無かった。その為、俺の冒険者に対する知識はあまりに乏しい。丁度良い機会だし、この場で色々と聞いてしまおう。


「あん?そうなのかガドウ?」


「ああ。冒険者になってまだ数ヶ月だよ俺は。こなした依頼に至ってはは一個だけで、碌に仕事をしていない」


ボルトの問いかけに素直に返事を返すと、【雷鳴の牙】達は俺の思っていた事とは全然違う反応を示した。


「おいおい、そりゃねーだろガドウ」


「そうだな、流石に冗談がキツイ」


「確かお前さん、冒険者としてのランクは特Sだったろう?」


「そうだぜガドウ君。特Sランクの冒険者ってのは何十年も年月をかけて辿り着けるような境地なんだぜ?」


「たった一つの依頼しかこなしていないのになれるような存在じゃないんだよ?」


【雷鳴の牙】達が口々にそう言って来るが、事実としてなっているものはなっているのだから仕方無い。

チラッとエステルに視線を向けると、彼女は苦笑いを浮かべてコクリと頷いた。


「マジでか」


その反応が何より答えを裏付けていた。【雷鳴の牙】達が言う言葉に間違いは無い。


(まさか、特Sランクと言うのがそこまでの常識外だったなんてなぁ……あれ?って事はこの後俺のランクはどうなるんだ?)


エステルが言うにはトウテツは特SSSランクをも凌駕するらしい。それを倒したんだから、当然俺のランクも上がるだろう。しかし特Sランクですらそこまでの常識外ならそれ以上のランクは何になるのだろうか……


「まぁそれは置いておいて、ランクが上がる事のメリットとデメリットの説明を頼む」


結論、困った時は人頼みだよな。ここには冒険者達のベテランが揃っているし。


「では僭越ながら私がお話させていただきます」


そう言って前に出て来たのは大きな胸をわざと強調させるように薄いローブを纏い、扇情的な装いをしたキュレアだった。風呂上がりなのか、頬には仄かな赤みが帯びており、【雷鳴の牙】達の視線を一挙に釘付けにする。ん?俺?俺はそれよりキュレアの持つ飲み物の方が気になってる。なんか白くて生々しい感じがしてる。


「お兄様、こちらです」


俺の視線の先をいち早く察知したスノアが、俺が何かを言うより早く風呂の方へと駆けて行き、キュレアが持つ飲み物と同じ物を取って来て俺に差し出す。


「ん?ああ、ありがとう。でもわざわざ買いに行かなくても後で自分で買って来たのに」


「兄の気持ちをいち早く察して行動するのが良い妹だと思っていますから」


俺が礼を言うとスノアは少し照れたよう早口で言い切って再び椅子に座った。うむ、やはりこいつは表情が豊かな方が可愛らしい。


「コホンッ!えー……先ず冒険者となると発行されるギルドカードは持ってるだけで他国への行き来が自由になります。そして、ギルドの資料室で資料を閲覧する権利が与えられます。ランクが上がれば上がるほどに開示される資料が多くなり、有名になっていきます。そうすれば色々と便宜も図って貰えます。また、報酬の良い仕事も増えて行きます。まぁこれは依頼の難易度も高くなるのでメリットだけと言うわけではありませんが。取り敢えずこれが大体のメリットとなります」


おお、美味い!ミルクと言うものらしいけど、忌避する見た目の割になめらかな味と舌触り。それに仄かに甘い感じもする。うん、これはいいものだ。


「次にデメリットですが、先ず先程も行った通り報酬の良い仕事が増える代わりにそれに伴い依頼の難易度が高まります。それは即ち、死の危険が近くなると言う事です。それと、ランクが上がると時折発生する緊急性の高い仕事への強制招集義務が生じます。この場合、余程の理由が無い限り拒否する事が出来ません。

……とまぁ、これらが主なデメリットです」


おお!スノアもいい飲みっぷりだ!やっぱり美味いもんは人を笑顔にするよな!俺は人では無いけど。あれ?魔人だから一応人でいいのか?……まぁなんでもいいか。


「……聞いてました?」


「大丈夫ばっちりだ」


ふっ、俺にとっては別の事をしながら更に別の事をするのは造作も無い。


「まぁいいでしょう……エステル、後はお願いしますね」


「分かった。と言っても、大体の事は今キュレアが全て言ってくれた。だから私から伝えておくのは一つだ。ガドウ君、恐らく君は今回のランクアップを機に今後途轍も無い厄介事に巻き込まれる事になるだろう。そんな時は全て自分で抱え込まず私達仲間に相談するんだ。いいね?」


自分だけで抱え込むな、ね……悪いがそれは出来ない相談だな。俺は魔族でエステル達は人類だ。その時点で俺達の間に既にどうしようもない確執が出来てしまっている。例えエステル達がどれだけ魔族に理解を持っても人類全てにそれを浸透させるのはほぼ不可能。根付いた常識や考えはそう簡単に変わらない。……まぁ、わざわざ口に出して言う事は無い。


「分かった。善処しよう」


俺はその場はありきたりな言葉で言葉を濁し、その場を凌ぐ。


「さて、じゃあ取り敢えず今伝えるべき事はこれで終わりだ。この後は各自、自由にしてくれて構わない。起床は8時。朝食を食べ、準備が整い次第ギルドへと向かう」


「「「「「了解」」」」」


話が終わり、【雷鳴の牙】達はまたもや外に出て行く。どうやら今度は飲みに行くそうだ。冒険者は酒好きが多いと聞くか本当だな。


「ガドウ君と……スノアさんだったかな?君達はこの後どうするつもりだい?」


去って行く【雷鳴の牙】達を見送っていると、唐突にエステルがそう言ってソワソワ尋ねて来た。


「特に何も。風呂はさっき入ったから飯でも食うかなって考えてはいるけどな」


「私はお兄様と共に参ります」


俺達が答えるとエステルは一瞬パァッ!と表情を明るくさせ、次いでゴホンと一つ咳払いをした。


「な、なら私達と食事に行かないか?」


「ふふっ、この街のいいお店知ってるんですよ?」


エステルの誘いにキュレアが補足を入れる。俺としても特に何処で食べたいとか言う場所は無かったのでありがたくその誘いに乗る事にした。


「そうだな、ならお言葉に甘えるとしよう」


俺達は連れ立って宿を出て、エステルとキュレアの先導の元、二人のオススメの店へと足を向けた。


***


「美味い……」


宿を出てから15分ほど歩き、少し洒落た感じの店が軒並みを連ねる。そんな店の一つに入り注文した食事は非常に美味だった。


「何の肉だこれは?」


「ターボピッグだよ。Dランクの魔物で、淡白な味が特徴なんだ」


ターボピッグなら俺も知ってる。ギルドの資料室で読んだ魔物図鑑に載っていたからな。確か、低位の加速魔法を使って瞬発力を強化して突進してくれる豚なのか猪なのかよくわから無い魔物だった。


「肉なのに淡白なのか?」


「はい、淡白なお肉はそのままではあまり美味しくありませんが、味の乗りが非常に良くって作り手の味付け一つで色んな味になるんです。ターボピッグのお肉はあまりカロリーも高くないので女性に大人気なんですよ」


なるほど。確かにそれだと女性が好きそうだ。俺は食う時は美味いものをガッツリ行きたい派だけど、女性としては味と同時にカロリーや栄養と言ったアレコレも重要になるからな。


「私は別にもっとお腹に溜まるようなものでも構わ無いのですが……」


……訂正、女性にも色々あるわ。

スノアは一時的とは言え奴隷だった身のため、食事は少なかっただろう。

スノアの場合はその容姿から性奴隷としての価値を付けるために他の奴隷よりは良いものを食わされていだろうが、それでも奴隷には代わり無い。寧ろきちんと毎日まともに貰っていたのかすら怪しい。その為に食事は食べられる時になるべく長時間腹に溜め込む癖がついていたのだろうな。

……まぁ、実のところスノアは元から中々に大食いな気質があるんだけどな。一緒に買い物した際スノアは日用品や雑貨より食べ物に気をやっていたし。と言うかそもそも魔族である俺たちを人の常識に当てはめるのもどうかと思うが。だって俺って本来の姿は全長20メートルくらいあるし?スノアの本来の目的はまだ見た事無いけど、多分最低でも10メートルはあるだろう。その体を維持するにはぶっちゃけターボピッグの一匹や二匹では賄え無い。まぁ、人型なら一応人並みに食べれば仮の満腹感は得られるんだけどね。


「ふーん、俺としてはもっとガッツリ行ってもいいけどこれはこれで悪く無いな。何よりこの味付けが絶妙だ。この少し辛めのタレと塩胡椒の味付けが淡白なターボピッグの肉にとても合ってる」


「そうだろう?私も大好きなんだこの味。確か、魔素大豆から作った辛醤油とソルトペッパーって言う調味料だったかな」


シンプルだからこそ生える絶妙な味加減。これを作っている者は良い腕を持っているようだ。いつか俺も自分で料理が出来るようになりたいな。


「お兄様、私もお料理を覚えてみたいです」


……スノアは俺の心でも読んでるのかな。それまさに俺が今思った事だぞ……。


「スノアさんはお料理とかした事無いのですか?」


「え、あ、は、はい……」


キュレアが尋ねるとスノアは俺の陰に隠れるようにしながら小さな声で答えた。どうやらまだ人見知りは治らないようだ。

話していて思ったのだが、恐らく元来スノアは人見知りをしない性格のはずだ。俺と喋っている時など、割と聞き上手だし話も上手い。ただ、人間に奴隷にされた所為で人類に族する種族をまだ怖れている。

状況も状況なのでこれは仕方無い事なのだが、早めに直して貰わないと困ってしまう。何せ、俺達は魔族。いずれ間違い無く人類と殺し合う時が来るだろう。そんな時に人類を怖れたままでは、そこに付け込まれて殺されてしまうなんて事もあり得る。命を懸けた勝負では例え地力で優っていてもその辺りで大きな差が出てしまうものだ。俺はそれが不安でたまらない。

スノアは新しい俺の家族だ。もう二度と家族を失うような真似に遭いたく無い。


(父さん……俺はヴェヘムートを殺す事が父さんへ出来る唯一の恩返しだと思ってる……だから父さん、俺たちを見守っていてくれ。絶対に父さんの仇を取って、新しい家族も守り抜いてみせるから……)


「ガドウ君、どうしたんだい?」


「ん?ああ、ちょっと考え事をな……」


いかんいかん。今は食事を楽しむ時間だ。そんな時にしんみりするのはよろしくないし、俺らしくもない。


「スノア、エステルとキュレアは大丈夫だ。それに何があったとしても俺が守ってみせるから安心しろ。もう二度とお前を同じ目には遭わせない」


俺はスノアの頭に手を乗せて彼女にだけ聞こえるように囁いた。


「お兄様……ありがとうございます」


スノアは一瞬キョトンとするも、次の瞬間には花が咲くような笑みを見せてコクリと頷く。


「さ、早く食べちまおうぜスノア」


さて、さっさと食べて明日に備えるかね。


***


その晩、キュレアの悪戯により酔っ払わされたエステルが暴走し、その巻き添えを加害者のキュレアが被ったしたりしたが一応平和に終わった。いやはや、因果応報とはまさにこの事だな。ん?俺?俺はその後に暴走するエステルを力づくで気絶させて、面白いくらいに目を回していたキュレアを肩に抱えて宿に帰ったよ。スノア?スノアはずっと飯を食ってたな。会計は俺が払ったけど、その内の半分近くがスノアの胃袋に消えて行った物だった。俺の妹、性格に似合わず大食いなんだよ、うん。


「はぁ、まったく明日が心配だ……」


夜道を人二人抱えて歩く俺の呟きは夜の闇に吸い込まれて消えて行った。

本日の活動報告にガドウさんが来てくれます!夜には投稿するので、お楽しみに!

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