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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
四章 王都ダンジョン攻略作戦
47/55

星輝亭

暴走なんて無かった。いいね?


注: ifルートは削除されました


という事で真面目に書いたやつです。どうぞ( ̄▽ ̄)


報告:前話にて、ガドウがスノアの名前を名付けた時の場所を少し加筆しました。

「スノア、先ずはお前の格好をどうにかしたい。取り敢えずこれを着ておけ。私服にも使える装備だ」


暫くしてようやく泣き止んだスノアに、マジックポーチから取り出した二つの装備、特SS級の白雪の聖衣とS級のホワイトプリンセスを渡した。青と白を基調とした神聖な雰囲気のこれらは父さんが残してくれたマジックアイテムの一部で、いかにも女性物だったせいで今までポーチの肥やしになっていた物なのだが、丁度良かった。

ローブのようなゆったりとした生地の白雪の聖衣は一定以下の魔法を無効化し、装着者の魔力を大幅に上昇させてくれる優れもので、パレオのような形状をしたホワイトプリンセスは魔力を流し込むとその量や質によって装着者の俊敏さを上昇させてくれる。


「ありがとうございますお兄様……」


スノアは直ぐに着ていたボロ布を脱ぎ捨てると、そそくさと俺の渡した装備に身を包む。俺はその姿が他の奴等に見えないように幻想魔法で包み、スノアの着替えを待つ。


(むっ……魔法の発動効率がまだ悪いな……数分でそれなりには回復したはずなんだが)


未だに倦怠感は抜けていないので回復し切っていないのは分かっていたが、どうやら俺が思っていた以上に名付けに使った魔力消費量は膨大だったようだ。名付けの機会なんてそうそう無いだろうが、念のために頭の片隅には置いておこう。


「お待たせしました……」


そうこう考え事をしていると、どうやらスノアの着替えが終わったようだ。


「ほう……いいな、とても似合ってるぞ」


着替えを終えたスノアの姿は先程とは見違えるほどに美しく、思わず素で驚きの声をあげてしまった。それ程までに俺の渡した装備はスノアに似合っていた。

奴隷として扱われていたにも関わらずスノアの美しい白髪は鮮やかな輝きを保っており、ドラゴン族特有の黄金の瞳はその儚げな双眸の中で爛々と輝きを放っている。どうやら下着を身に付けていないので違和感を感じているようだ。後で買いに行かねば。


「あ、ありがとうございます……」


スノアは俺の偽り無い反応に少し赤面しながら俯き、上目遣いで此方を伺って来る。


「んじゃ、最低限の見た目は整ったし後は細かい下着類やその他に必要な物を買い揃えに行くか」


「はい」


俺スノアを抱えて建物の上から飛び降り、人混みに紛れるようにして街の中に消える。

……あ、一つ忘れてた。


「スノア」


「はい?」


名前を呼ばれて無警戒で振り向くスノア。俺はその首へと鋭い手刀を繰り出す。


「えっ……」


何が起こったか分からない。そんな表情を浮かべながら硬直するスノア。その横でコロンと何かが落ちた音がする。同時に首を締めていた窮屈な感覚が消え失せた。


「あっ……」


その正体に気付いたスノアは見るからに安心したような表情になり、小さくホッとため息を吐く。


「私の力を抑えているマジックアイテム……お兄様はお気付きになられていたのですね……」


「ああ、まだスノアが捕まっていた時から気付いていたよ。何らかの方法で力が抑えてられていたってね。まぁ一番怪しいのがその首輪だったから取り敢えず破壊してみたけど、どうやらあってたようだな」


俺は地面に落ちた首輪を踏み潰し、残骸となったそれを冷めた目でみながらスノアの頭を撫でる。


「忘れてた俺も悪いんだが、こう言うのはきちんと言ってくれよ?俺はお前の兄でお前は俺の妹だ。兄妹の間に遠慮なんて必要無いんだぞ?」


「はい……ありがとうございますお兄様……」


スノアが顔を俯かせながら何処か照れたように小さく言ったのを聞きながら、優しく笑いかけてスノアの手を取って歩き出した。


さて、魔力欠乏による倦怠感も抜けて来た事だし、さっきエステル達の元から戻る道すがらに確認して目を付けておいた幾つかの店を回りに出発だ!


俺は街行く人々をかわしながら新たに出来た大切な家族の手を取り、セントリアの街を歩く。


***


「ふぅ、これだけ買えば平気かな」


数時間後、俺とスノアは競売が行われていた広場への道の途中にある噴水前にあるベンチに並んで座りながら、買ってきた商品の確認作業をしていた。辺りは夕暮れを迎え人々の往来は少なくなり、代わりに家屋の中からは鼻腔をくすぐるような美味そうな香りが漂ってくる。


(俺とスノアの肌着類と私服類、旅に持って行く食料品と簡易調理セット、野営時に使う道具類、使い捨てても構わない武器類、それとおまけにシャンプーや石鹸と言ったお風呂用品とその他諸々。よし、買い忘れは無いな)


俺は確認し終えた品物をマジックポーチの中にしまいながら独り言のように呟く。


「これだけ買って20万ゴールド程度の出費で済むとはな。この世界の物価はそんなもんなのか?」


俺は人族の街と言ったらアクウェリウムとグランビエル、それとここセントリアにしか来たこと無い上に、アクウェリウムやグランビエルでは殆ど何も買わなかった。ぶっちゃけ父さんが残してくれたアイテム類と俺の種族的特徴や持ってるスキルで大抵の場合どうにかなっていたからな。わざわざ街に売ってるようなアイテムやマジックアイテムに頼る事が無かった。だからまともな買い物をしたのは今日が初めてだ。

人里出た頃から奴隷に身を落としていたスノアは言うべくもない。

あ、でもこの買い物を通して価値ある変化はあった。


「お兄様、本当によろしかったので?スノアの為になんか物をお買いになられて」


そう、スノアがこんな風に喋ってくれるようになったのだ。

出会った数時間前はまだ色々と複雑な心境があったのだろうが、この数時間の間に積極的に話しかけた甲斐もありスノアはようやく普通に話してくれるようになった。

最初の方は語尾が小さくなったり、俺の顔を見て話してくれ無かったり、これから上手くやって行けるのか?と不安に思うような態度だったが、めげずに積極的に話しかけた事でスノアも少しずつ流暢かつきちんと顔を見合わせながら話してくれるようになった。喋り方も最初のような弱々しく、かつ語尾が聞き取り難い物から先程のようなハキハキとした物言いになってくれた。


「何、気しないでいい。俺はお前の兄だ。兄なら妹の為に一肌も二肌も脱ぐさ。まぁ勿論限度はあるが、ある程度のわがままなら幾らでも聞いてやるから何かあったら気軽に言ってくれ」


何を隠そう、最後におまけと言ったお風呂用品は実は彼女の最初のおねだりだったりする。その時はあまりの嬉しさに思わずお店にあるシャンプーと石鹸を全て買い占めそうになったが、その無意味な散財となる暴挙はスノアが止めてくれた。だから買ったのは各10個ずつだけ。まぁお店の人が言うにはシャンプーと石鹸には自分達が取り扱ってる物以外きも幾つか種類があるらしいので、いつかはその店で取り扱ってないシャンプーと石鹸をスノアの為に買い揃えてやりたいと思っている。


まぁそんなあれこれはあったものの、こんな風に早い段階でここまで打ち解けられたのは今後の為にも素直に喜ばしいことだ。戦闘面でも互いの連携が重要になってくる部分はあるだろうし、そんな時に互いを補い合えるようスノアとはこのまま良好に接して行きたい。


「さて、休憩も済んだしそろそろ帰るか……あ、エステル達にはスノアの事をどう説明するか……」


その時、まるで狙い澄ましたかのようなタイミングでエステルから魔法による念話が飛んで来た。


『もしもし、ガドウ君聞こえてるかい?』


「ああ、聞こえているよエステル」


取り敢えずスノアにはこの街で偶然再会した生き別れの妹だと名乗って貰って、後は俺がなんとかしてみよう。我ながら適当な作戦だが、ま、なるようになるだろう。


『よかった、ちゃんと通じたようだね。宿は星輝亭と言う場所が取れた。それで場所なんだが……君の場合は伝えなくても私やキュレアの気配を感じ取れるからそこに来てくれればいい』


「分かった。だけど一つだけいいか?」


『ん?なんだい?」


「いや、ちょっと此方の都合で一人人数が増えたんだけど、そいつの分も取れるか?勿論その分の代金は俺が負担する」


『一人増えた?君も唐突だね。よく分からないけど君の部屋は空きの都合で二人部屋になっているから一人なら増えても平気だよ。代金は元々二人部屋の代金で此方が払っているから不用だ。強いて言うなら食事代くらいだけど、そのくらいならわざわざ君に負担してもらうほどでもないから構わないよ』


「そうか、助かる。なら今から向かうから数分ほど待っててくれ」


『分かった。明日以降の予定は後でみんなが揃った時に説明するからよろしく頼むよ』


「ああ」


そうして念話を終え、ふぅ……と、一息つく。取り敢えず一人分増える事は了承して貰えたようだが、その際念話越しからエステルの呆れたような調子が伺えた。それには素直に申し訳無いと心の中で告げ、スノアに向き直る。


「よし、一先ず仲間にはお前の事を説明した。なんとか了承は貰えたから早速帰るか」


「はい、お兄様。すみません、ご迷惑をかけて」


「このくらい構わないよスノア。取り敢えずお前は俺の生き別れの妹として紹介するから、お前もその時は話を合わせて

くれよ?」


電話越しだと説明がめんどくさいから直接会ってスノアの事を説明しないとならない。その際ある程度のいざこざが起こるかもしれないけど、最悪これからの予定を全て無視してしまっても俺は一向に困らない。その時はスノアを連れて出て行くだけだからな。


「分かりましたわお兄様」


スノアは微笑みながら頷くと、座っていたベンチを立ち上がった。


「近道してくぞ」


俺は軽やかに地面を蹴ると、目の前にあった建物の上へと跳躍する。スノアもその後に続き、俺の横へと跳躍してきた。

身体能力はまだまだ俺に劣るが、スノアもドラゴン族と言う高位種族の魔人。この程度ならば造作もない。


俺とスノアは薄暗闇の中、人目に付いて無駄に目立たぬよう、気配を消して建物と建物の間を飛び抜けひた駆ける。


***


「あそこだな」


視界の先にエステルの姿を見つけ、俺とスノアは一つ前の建物の上で急停止。


「んじゃ最後に打ち合わせな」


「はい」


声を潜めて二人並んでしゃがみ込む。本当なら魔法とかも使ってもっと巧妙に隠れた上での作戦会議をしたいのだが、エステルクラスの手練れになると下手に魔法を使うとその気配で逆にばれてしまう。


「スノアは俺の生き別れの妹、この街で偶然再会したって事にする。細かいところは複雑な家庭環境だったんだと伝えれば大丈夫だろ」


「分かりましたわお兄様。スノア、お兄様のために頑張って嘘つきます!」


うん、いい笑顔だ。元々これがスノアの素だったんだろう。大切な母親の死と、人族の穢れた心を同時に味わってしまった事がスノアをあんな風に変えてしまったのだろう。

幸いにも奴隷としての生活が短かったおかげでスノアの心を取り戻すのは難しくなかった。しかし、まだ幼いスノアには何か頼れる存在が必要なんだ。だから俺はスノアにとって頼れる存在になりたい。


「よし、行くぞ」


決意を新たに俺は建物の上からエステルの目の前へと飛び降りる。先ず手始めにエステル達にスノアの存在を認めさせないとな。


「うわっ!?ガドウ君!?またそんな登場の仕方して……」


「悪い悪い、けど道を行くより上を走った方が速いんだよ」


しゅたっと、暗殺者のような足取りでエステルの背後に着地を決める。その行動にエステルが跳び上がって驚くのを内心で笑いながらつとめて冷静を装ってエステルに声をかける。


「心臓に悪いから止めてくれ……お願いだ」


エステルがホッと息を吐きながら少し責めたような目で睨み付けてくる。俺はそれに気付かない振りをして建物の上に待機させていたスノアにこっちに来るように目で伝えた。


「うわっ!?またそんなところから!?」


俺の横に飛び降りてきたスノアを見て、懲りずに何度でも驚いてくれるエステルに、こいつのビビリ癖は根が深いなと思いながら呆れ混じりの苦笑を浮かべる。


でもまぁ、戦闘になるとそのビビリ癖が良い方向に働くのだと言うことはこの前のアクウェリウム襲撃事件の時に知っている。

それだけに、エステルとキュレアが己の真の力を発揮出来ていたらアルプとも良い勝負が出来ただろうという事に勿体無いなとも思わないでも無い。


結局今回の道中ではエステルとキュレアの力の事はまだ一切分かっていない。この街に何か手掛かりでもあればいいんだが、そう上手くは行かないだろうな。ま、こればっかりは考えても仕方ないし取り敢えず今はスノアの事を説明しないとな。


「こいつがさっき伝えた増えるもう一人だ。スノア、自己紹介」


「は、はい!は、初めまして……ス、スノアと申します…….」


「お、女の、子……?」


あちゃー……スノアは人見知りだったかぁ……俺が出会った時は色々状況が特殊だったから気付かなかったけど、今考えればスノアの最初の様子はただ状況に絶望していただけって感じでもなかったかもしれない……。


「そ、こいつはスノア。俺の妹なんだ」


「い、妹?」


取り敢えずこの場はこれで乗り切るしかない。

俺は先程から決めていた謳い文句を語る。


「ああ、俺の家庭は色々と複雑でね。スノアとは腹違いの妹なんだ。もう何年も前に親の都合で別れたんだが、この街で奇跡的にも再会したんだ」


努めて冷静に語っているが、つらつらと嘘を述べると言うのは中々骨が折れる。表情や口調に違和感が出ないように意識すると逆に違和感が出てしまうし、だからと言って何も考えずにやると言葉に詰まって怪しい。


「ほらよく見てみろ、髪の色も似てるに瞳の色も一緒だろ?」


「確かに……銀や白と言った髪色は珍しいし、黄金の瞳なんて君達以外に見た事無い……そうか、そう言う事か……良かった……」


よし、多分通じた!


エステルがあからさまにホッとした表情見せて何やら納得したような仕草を取る。これはうまく誤魔化せたと言うことで良いのでは無いか?


「うん、事情は分かった。君達にも複雑な事情があるんだね。

私はこれでも冒険者ギルドのマスターだからね、冒険者になる人達にはそう言う訳ありの人も多いのは理解しているつもりだ。だからこれ以上は問い詰めるつもりは無いから安心してくれていいよ」


納得したエステルは俺の陰に隠れるようにして小さくなっているスノアに優しく語りかける。どうやらスノアの人見知りを勝手に自己解釈してくれたようだ。訂正するのもめんどうだしここは素直に流れに乗っておこう。


「じゃあ中に入ろうか、ガドウ君の部屋は二階の255号室だよ。取り敢えず部屋に荷物とか置いてきたらどうだい?」


そう言いながらエステルは俺の腰にあるマジックポーチを見詰めて苦笑をする。


「まぁ君の場合は大抵の荷物がそのマジックポーチの中に入ってるから必要無いかもしれないけどね」


ご明察。俺の荷物もスノアの為の道具も全てこのマジックポーチの中です。詳しくは説明していないけど、このポーチの事は旅途中で少し話していた。重要な容量無制限と言う事は伝えていないけどな。


「もう少ししたら【雷鳴の牙】も子達も帰って来る。そしたらこれからの事を説明するから、それまでにお風呂や食事を済ませておいた方が良いよ」


「了解した。行こうスノア」


「は、はいお兄様!」


エステルについて宿屋の中へと足を踏み入れ、その内装に少しばかり驚いた。

外から見た限りだとシンプルな造りの四階建ての中々大きい宿屋と言った印象だったが、中に入るとそこは外装のシンプルとは全く違う凝った装いになっていた。

先ず入って最初、数メートル先にこの宿の受付と思しきカウンターがあり、そこから向かって右に行くと頑丈そうな階段がある。その横、階段を素通りした先には温泉のマークと男女に別れた暖簾が垂れ下がっている。奥からは微かに硫黄の香りを感じるし、間違いない温泉だ。

それにしても一般的な宿屋に温泉があると言うのは非常に珍しい。後で是非とも入ってみたいものだ。何せ人生の殆どを自然界で過ごして来たこの身だ、温泉なんぞに入る機会などあるわけが無い。


「この宿には小さいけど温泉が通っていてね、後で是非入ってみるといいよ」


俺が温泉に興味を持っているのを察したのか、エステルが説明してくれる。うん、楽しみだ。


「ああ、そうさせてもらうよ。ま、何にせよ取り敢えずは部屋に行ってからだな」


俺はエステルに頷くと、スノアを伴って二階の255号室を目指す。

星輝亭と書いて(せいしょうてい)と読みます。読みにくいので念のために

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