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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
四章 王都ダンジョン攻略作戦
44/55

暗躍と修行

〜時はガドウがアクウェリウムを出る前に戻る〜


「失敗しただと!?」


ここは魔界の闇深き場所。魔王ヴェヘムートの住まう居城に驚きと怒りがない交ぜになった怒号が響き渡る。


「どう言う事だ!調査によって判明した向こうの戦力と此方の戦力、どう見比べても負ける要素など何処にも無いではないか!」


玉座にてヴェヘムートは目の前に跪く三人の部下に、唾を飛ばしながら怒鳴りつける。跪く三人、ホッグ、フロス、メロは何も言わずただ俯いてヴェヘムートの叱責をひたすら己が身に受ける。


「申し訳ございません!調査には無かったイレギュラーが現れまして!」


「言い訳は良い!何があったかを端的に説明せよ!」


三人を代表して口を開いたメロにヴェヘムートの言葉が叩きつけられる。その迫力は流石は魔王と言わしめる程のエネルギーに満ち溢れており、メロ達に物理的な圧力をもって襲い掛かる。


「は!敵は一人の若い男。姿形は人族のそれでしたが、その実力は圧倒的であり、我等三人に加え、我等とは隔絶した実力を持つアルプ殿の四人を同時に相手取り、それでも尚、我等を圧倒しました!」


「なに?アルプ殿までもだと?馬鹿な!彼奴は下級とは言え悪魔族だ。個体として最低でもS級。しかも名前を持ち、魔人となってる事を考えると特SS級やSSS級はくだらない程の強さを持つ筈だ。その者がいても負けたの言うのか!?」


ヴェヘムートが信じられるかと声を張り上げるが、メロ達の態度がそれが事実だと雄弁に物語っている。何より、この場にアルプがいない事が何よりの証拠だ。彼は今、ブラッド達に運ばれて治療を受けているのだから。


アルプはガドウの幻想魔法(ファンタジアマジック)憤怒之王(サタン)の組み合わせによる凶悪な精神支配攻撃により、”心”を砕かれ、意思持たぬ廃人となってしまったのだ。

幾ら魔人となった悪魔であっても肉体と言う存在に縛られている以上、心を砕かれてしまったらそこには最早何も残らない。魂を肉体が受け止めるための器であるはずの心が破壊されては、己の存在を確立させる魂をその身に定着させる事すら出来ないのだ。

つまるところ、今のアルプは心臓と肉体は動いているが意識は無い「動く植物人間状態」になっていると言うわけである。


では何故アルプがそんなとことん壊されているのに、同じように精神支配を受けたこの三人が無事なのか、と言う疑問が湧く。だがこれには特別な意味はない。ようは、メロ達はガドウにとっては敵でもなんでも無かったと言うだけの話であるだけなのだから。


正確に説明するなら、アルプは邪神アルバスによってある程度の精神支配なら跳ね除ける事が出来るようになるプロテクトが施されていたためと言うのが正確であろう。そのプロテクトをガドウが無理矢理力尽くで突破したため、抑えきれなかった精神支配が一気にアルプの許容量を超えて、波のように襲い掛かったのだ。

その結果が現在の動く植物人間状態のアルプであり、皮肉な事に精神支配への抵抗が一切出来なかった三人は過剰な精神支配を受けずにこうして無事だったと言うわけである。


「おのれぇ……その者の名前は分かるか?」


「は、はい!ガドウと名乗っていました!」


「ガドウ……覚えたぞ。お前達は下がって構わん。追って命令を下すので何時でも動けるようにしておけ」


「「「はっ!」」」


三人が下がったのを見届けると、ヴェヘムートは玉座背を預け目を閉じる。ヴェヘムートが計画を立てる時のお約束の姿勢だ。


(悪魔族すらも圧倒する男、ガドウか……情報から推測するに恐らく其奴は人では無いな。そんな実力を持つ者が下等な人族の範疇に収まるはずもあるまい。恐らく其奴は完全人型を取れる高位の魔人の類だろう。だが、目的が不明だ……魔族に属する魔人が人を助けるなどあり得ぬ。それをするからには何かしらの理由があるはずだ……どちらにせよ今はまだ情報が足りないな……ガドウとやらに密偵を放ち様子を見るか)


ヴェヘムートは自慢の脳をフル回転させてガドウの攻略手順を処理して行く。


(可能ならガドウとやらは此方に引き込みたいところだか……ふむ、どうにせよその男はしばらく観察する必要があるようだな)


「ミスト!」


「はっ、ここに」


ヴェヘムートが声をあげると、突如としてヴェヘムートの前にて跪く人間のような姿形をした女性が現れた。女性と分かるのは声からであり、実際は黒いフードと顔を隠すためのマスクを着けており、正確な姿形は分から無い。


「隠密に優れた奴等を厳選して適当に数名連れてガドウと言う男を監視しろ。どんな手段でも良い、奴を此方に篭絡しろ。それが不可能であったなら殺してしまっても構わん」


「かしこまりました」


それだけ言うとまたあっという間にいなくなるミストと呼ばれた女性。だがヴェヘムートの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。


(ミストは隠密に完全特化した優秀な部下だ。放っておいても直ぐに結果を持って帰って来てくれるだろう)


「頼んだぞミスト」


誰もいない空間めがけてポツリと響く。


(さて、そろそろ私も動くか……)


魔王ヴェヘムートはゆっくりと立ち上がり、更なる一歩を踏み出した。


ーーそう、破滅へのカウントダウンへと……



***


〜現在〜


広がる草原に大きな声が響く。


「練りが甘い。もっと強く意識しろ」


「は、はい!」


「イメージを強く持て。魔力質を変えるにはその魔法のイメージが大きく関わってるんだ」


「う、うむ……」


「お前達は先ず魔法の起こす事象を理解し、それに最適な魔力質をイメージしろ」


「「「「「おっす!」」」」」


「よし、なら少し休憩しておけ。これは少し精神力を使う。休憩は大切だぞ」


「分かった」


「了解です」


「「「「「おう!」」」」」


(どうしてこうなった……?)


〜〜〜〜〜

〜〜


「ガドウ君!あの魔法はなんだったんだ!?」


「あんな純度の高い魔力、初めて見ました!」


盗賊による襲撃を難なく逃れ、村に着いた俺は宿の自室にて魔力効率を最適化させるために精神統一を行っていた。すると、隣の部屋に泊まっているエステルとキュレアが興奮した面持ちで俺の部屋に突撃して来たのだ。


「あ?何だよノックも無しに。言っただろ?魔力の質を変えたんだって」


「それが、長く生きているがそんな技術聞いた事も無いんだ」


「はい、なのでこうしてガドウさんに直接聞きに来たんです。魔法に携わる者として、あの技術には非常に興味があります」


「んな事言われてもなぁ……」


 正直俺もこの能力に気付いたのは白銀竜に進化して自然を操れるようになってからだからなあ……俺は「白キ天雷ノ業」を獲得して自然を直接操ることが出来るようになり、自然の原理を深く理解することが出来るようになった。だからこそ、この魔力を自然の原理に当てはめて質を変えると言う方法を発見したんだ。それを説明しろと言われても昨日教えた以上のことは説明のしようがない。だから実際に見せて、後は自分たちで頑張って貰うつもりだったんだ。

そもそも、元来俺は人に物を教えるのが苦手なんだ。だって、父さんが死んでからはずっと一人だったし。


「昨日教えた事が全てだ。詳しくも何も無い」


素直にそう言ってみたが、エステル達に引き下がる気配は無い。まったく、魔法についてはとことん知りたがりな種族だな妖精族ってのは。


「頼む!これは私達妖精族のみならず、人類全体にとっての世紀の発見なんだ!」


「ガドウさんもご存知の通り、魔王が率いる魔族達も動き出しました。魔族達と対抗するためにも、是非ともその技術をご教授下さい」


そう言ってエステルとキュレアは頭を下げた。

そんなこと言われても、俺自身がそもそも魔族なんだがな。


「だからーー「俺たちからも頼む」……ん?」


だから俺も詳しくは知らないんだと言おうと口を開いた時、俺のいる部屋の扉の方から【雷鳴の牙】達が現れた。確かあいつらの部屋は下の階だったはずだが、わざわざここまで頼みに来たのだろうか。


「ガドウ、お前さんの強さは直接見た俺達が一番分かっている。だから頼む、俺やこいつらにも教えてくれ」


ボルトが頭を下げながらそう言うと、シャド達もそれに倣い頭を下げてきた。つまり、お前達も同意見と言うわけか。てか、むさ苦しいわ!


「はぁ……分かったよ。だけど、エステル達にも言ったが昨日言った事以上の事は俺も教えられない。だからコツは教えるが、出来るかどうかはお前達次第だぞ」


ここまでしつこく頼まれるとはな……仕方無い、ここは俺が折れよう。


「本当か!?ありがとうガドウ君!」


「感謝しますガドウさん!」


「「「「「望むところだ!」」」」」


相変わらず【雷鳴の牙】は息がぴったりだ。エステルとキュレアも相当喜んでおり、元から俺の寝転がっていたベッドにのしかかっていた事もあって、顔と顔の距離が薄皮一枚程度の距離まで迫って来た。俺の胸には二つの柔らかい感触が押し付けられむぎゅうっとしている。え?2人なのになんだ二つだけなのかって?察してやれ。


「近い、ウザい」


取り敢えず邪魔なので2人の顔面を押し返してやると、状況に気付いた2人は慌てて距離を取って立ち上がる。その頬に僅かに朱が差しているのは彼女たちの名誉の為にも見なかった事にしてやろう。


「あんな近付いたのに反応が淡白過ぎるんじゃないか……」


エステルが何か呟いたようだが、生憎今は超感覚をOFFにしてあるので、小声で呟かれたそれは上手く聞き取れなかったが。こうして、俺の指導による魔力質変化の修行が始まったのだった。そして今に至る。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜


(はぁ、これを教えるのは少し早まったかな……)


後悔先に立たず。今更うだうだ言っても仕方無い。俺は肩で息をするエステル達を見渡し、彼女達の魔力の動きを「神魔眼」で逐一観察して、その時々にアドバイスを送る。これが俺が一晩考えた末に思い付いた修行スタイルだ。


今までは相手の解析にしか使ってなかった神魔眼だったが、この能力には解析以外に魔力そのものを見ると言う力があったのだ。今回の修行にこれほどもってこいの能力は他に無いだろう。昨晩この能力に気付いた時には本当に助かったと思ったな。まぁ、それでも俺が人に物を教えるのが苦手なのは変わらないが。


「そうだエステル。そんな感じで魔力をグルグルと纏めるんだ。違う!それじゃあただ循環させてるだけだ!もっと、こう、一点に集中させるように……」


俺にはこんな風にあやふやな説明しか出来ない。流石に「そこはギュッとしてバッとするんだ!」みたいな完全感覚型と言う訳では無いが、やはり少し雑なのはどうしようもない。そこはもう、個人で頑張ってもらう事にしよう。


「おっ、キュレアは中々形が出来ているぞ。後はそれを魔法として確立して放つだけだ」


「それが、難しい、んですけどね……ああ、失敗です……」


惜しい!幾ら形が出来ていても霧散させてしまっては最初からやり直すしか無い。


「おおお!気合だオラァ!」


「馬鹿ボルト。気合でどうこうなるものか。ここは精神統一から入ってだな……」


「シャド、それはそれで回りくどいだろ。てか、オレなんか掴んだかも!」


「ふっ、甘いなリュオン。俺はもうイメージは掴んだぞ」


「とか言ってる割には、集まってた魔力が霧散してるよ、ジェイムズさん」


向こうはうん、楽しそうだから放っておこう。


見た所、エステルとキュレアは元々魔法に精通している妖精族である事に加えて、他の人より長生きもしているので飲み込みが早い。これなら直ぐにでも覚える事が出来るだろう。


問題は、こいつらの奇妙な魔力量だな。これを解決しない以上、幾ら魔力質を変えた魔法が使えるようになっても存分に実力を振るう事が出来ない。


(うーん……なんなんだろうな。魔力操作が下手だから……?いや、違うな。二人は寧ろ魔力操作は上手い方だ)


それに、この前の魔人戦の時も魔力に余裕はあったのにも関わらず、魔力欠乏に近い症状が出ていた。つまり、あの時のあいつらが使える魔力を使い果たしていたのは間違い無い。なら何故魔力は半分以上残ってた?


「これは今考えても仕方無いな……」


エステルとキュレアが俺の正体に勘付き始めてる以上、二人とはいつか戦わなければならない時が来るかもしれない。その時は互いに持てる力の全てをぶつけて戦いたいと思うが、それはあくまで仮定の話だ。今は分からない事をひたすら考えるよりも、今持てる力をどれだけ上手く扱えさせるかだ。相手が強くなればなるほど、戦いは楽しいし、その身を喰らった時に俺も強くなる。


「そろそろ一旦休憩を入れておけ。この修行は自分が思ってる以上に消耗するからな」


そう言って俺は馬車の中(・・・・)へと戻った。


「はぁ、はぁ、確かにこれは疲れるね……」


「ええ、やってる時は気になりませんが、気付いてみると魔力が思った以上に消耗しています」


そんな事を言いながら二人も馬車の中に戻ってきた。気配から察するにも向こうもきちんと全員馬車へと戻ったようだ。そう、全員(・・)だ。


「それにしても、これは凄いな。まさか御者がいなくても馬を目的地まで走らせる事が出来るなんてね」


幻想魔法(ファンダジアマジック)なんて、伝聞でしか聞いたこともありませんよ。まさか生きているうちに本物を見れるなんて、感動です」


「そんな、大した事してないんだがな。ただ馬に御者がいるように思い込ませて目的地まで走らせてるだけだからな」


そう、今この馬車は御者のいない状態で走っているのだ。

俺の幻想魔法は物体の質量や存在感すらも欺く強力な幻術を扱う事を可能とする魔法である。俺自身、まともに使って来なかったのでまさかここまで強力だったとは思ってもいなかったけど、凄い便利なのでよしとしよう。


朝の出発時に御者を頼まれた時は焦ったが、結果としてはこの方法を見つけられたのは良かった。え?だって俺、移動する時は基本的に本来の姿に戻って自分で飛ぶから御者とか出来ないし。その際ついでに馬車と馬車の上に簡易な修行スペースを作って、移動中でも魔力質の変化の修行を出来るようにもした。


うむ、我ながら良い出来だ。


「まったく、君には色々と驚かされてばかりだな。それにしても魔力質の変化か……あと少しで何か掴めそうなのにな……」


「エステルもですか?実は私もあと少しなんです。形は作れても最後に魔法として放つ事が出来なくて……」


そうなんだよな、二人とも後少しの所で失敗させるんだよな。俺は一発で出来たから何処が難しいかとか分からなかったが、二人にはどうやら俺の知らない壁があるらしい。とは言え俺にもこれ以上助言出来る事は無い。だからその壁を突破するにら自力で頑張って貰うしかないだろう。


「お前達の場合、途中までは殆ど完璧に出来ているんだ、最後の一歩はお前達自身にしか越えられん。俺もそこには助言出来無いしな」


「うむ……どうしたもんか……」


「そうですね……私としても完璧ガドウさんに頼るのは悪いと思いますし、何より私自身がしたくありませんからね。この一歩は自力で乗り越えてみせます!」


おーキュレアは気合が入ってるな。エステルはなんか自身なさ気だな。ここで持ち前のビビリが出てきたか。


「まぁ頑張れ。っと、時間的にそろそろ休憩入れるか。馬の方も疲れてきた頃だろ」


御者がいないのをいい事に馬には少し無理をさせてるからな。幾ら魔法で誤魔化しても疲れは取れないからな。


ま、何にせよ急いでものんびりでも結局行き着く場所は同じだし、気楽に行けばいいか。

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