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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
四章 王都ダンジョン攻略作戦
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魔法の新境地

道中は割と平和だった。王都とアクウェリウムの道は舗装されているし、出て来る魔物も高くてもD級程度の雑魚ばかり。ぶっちゃけ暇だ。


「ふわぁーあ……」


俺は本日何度目かも分からない欠伸をした。


「ガドウ君、そんなに眠いなら寝ても構わないぞ。な、何なら私の膝を使ってくれても……」


それを見ていたエステルが何やらごにょごにょと小さな声で言うが、進化により強化された耳はそれを一切聞き逃さない。


「んー……じゃあ頼むわ」


俺は何の躊躇も無く向かいに座るエステルの隣に移動し、その膝に頭を下ろした。ふむ、宿の枕とはまた違った感覚だな。首が痛くなりそうだが何も無いよりはマシか。


「ガ、ガドウ君!?そんな躊躇無く来られても複雑なんだが!?いや、嬉しいのだけれど!」


「エステルうるさい……寝かせてくれるんなら静かにしてくれ」


何やら凄く動揺をしているようだが、何故だろうか?俺は遅ない頃から父さんの腕や足や尻尾を枕にして寝て来ていたけど、人族にはそういう風習は無いのか?


「む、むぅ……やはり複雑だ……」


意識が落ちる寸前、エステルのそんな声が聞こえた気がした。


***


「ふわぁーあ……よく寝た。エステル、ありがとな」


馬車に乗って出発してから数時間。俺は微かな温もりに誘われて目を覚ました。顔を上げると、俺の顔を覗いていたのか、ちょうどエステルの目が合った。


「い、いや、これはだな。君の寝顔があまりにもかっこ……んっんん!無防備だったから少し悪戯でもしてやろうと思ってだな……け、決して見惚れていたわけでは無いぞ!」


堰を切ったように言い訳を始めるエステルに胡乱気な視線を送っていると、ゆっくりと速度を落として馬車が停止した。


「む、最初の休憩地点に着いたようだな。ガドウ君、降りよう」


そう言うとエステルは身体をほぐすように肩を回しながら立ち上がり、馬車を降りて行った。まだ寝ぼけている感じがする俺は「嵐魔法」で水だけを創り出し、それを纏めて空中で固定し、その中に直接顔を首まで突っ込んで振るい、眠気を覚ます。

人族は普通、水を手に取って顔を洗うらしいが、人型はしているものの、本来は白銀竜(シルバードラゴン)である俺としてはこうやった方が気持ちがいい。


「むっ、鬱陶しいなこの長い髪は……」


だがそうすると、面倒なのがこの無駄に長い髪の毛だ。頭全体を水につけた事によって顔に張り付いた銀髪が実に鬱陶しい。なら切ればいいとは思うのだが、生憎俺には髪を切る技術など無い。他の人にやってもらうと言うのも考えたが、やはりよく知りもしない他人に自分の髪を切らせると言うのは気分的に良くない。


(触られる程度ならなんら構わないんだけどな)


「そういや、キュレアは髪が長かったな……あの髪を纏めたりする時に何か使ってるだろうし、聞いてみるか」


俺は取り敢えず適当に髪を流し、馬車を降りた。


「ガドウ君?どうしたんたその髪は。さっきまでは濡れていなかっただろうに」


「ああ、ちょっとな」


馬車を降りる俺を見つけたエステルがそう尋ねて来るが適当に聞き流し、キュレアの姿を探す。


「あ、いた。キュレア、お前髪を纏めるための何か持ってないか?正直この髪は鬱陶しくてな」


少しきょろきょろ探すと、数メートル先で馬車を引く馬を止めているキュレアを発見した。

早速尋ねてみると、中々良い返事が返って来た。


「おや、すっきりしてて気持ち良さそうですねガドウさん。髪を纏めると言えば一応変えの髪留めが幾つかありますが、それでいいですか?」


俺はそれでいいと頷いた。


「なら此方をどうぞ。ガドウさんに似合いそうなのはこの黒い奴とかですかね。ちょっと失礼しますね」


キュレアは髪留めを取り出すと、俺の背後へと回り込み、なんらかの魔法で水で濡れてる俺の髪を乾かし、そのまま髪を纏めて髪留めで留めた。


「これでよしっと。中々良いですよガドウさん」


「そうか?ありがとな」


俺はすっきりした髪を撫でながらキュレアに礼を言った。取り敢えずこれで戦闘中で髪が邪魔になるって事にはならないだろう。


「おや?ガドウ君髪を纏めたのかい?中々似合っているぞ」


「ありがとな。まぁ、俺的には戦闘の時に邪魔にならないでくれたらいいだけなんだがな」


戻ると何処から用意したのか、木製の横長の椅子に腰掛けたエステルにそう褒められたが、正直俺としては髪は戦闘に支障を齎さなければどうでもいい物だ。

俺はエステルの隣に腰掛け、マジックポーチの中から果実水の入った水筒を取り出してそれを口に含む。マジックポーチの中は時間が止まっているので、入れた時とまったく変わらずキンキンに冷えている。


「なるほどな。旅装にしては軽装だと思っていたが、そのポーチに全て入れていたのか。思えばトウテツの頭もそこから取り出していたな。もしかして相当容量大きいんじゃないか?」


「ん?まぁな……」


エステルは俺のマジックポーチに興味津々のようだ。確かにこのポーチは凄い。何たって容量無限だしな。これを遺してくれた父さんには感謝しても仕切れない。


「見た所等級も相当高いですね。最低でもS級はあるのではありませんか?」


すると、馬を繋いでいたキュレアが戻って来て、俺とエステルの会話に入って来た。だが残念、これはSS級の代物だ。


「まぁな。死んだ父さんが俺に遺してくれた大事な物だ」


「ほう、立派な父上だったのだな」


「ええ、本当に。そんな貴重な代物を遺してくれるなんて愛されていたんですね」


俺の答えにエステルとキュレアは母のような優しい笑みを浮かべてそう言った。不意に垣間見える彼女達のそう言うところはやはり歳上なんだなと思わせられる。エルフ族やピクシー族の寿命は数千年とも言われているので、そう考えると300歳ちょいらしい二人はまだまだ若いのだろうが、現在6歳の俺からしたら誰であろうと大人みたいなものだ。


「そういや、さっきから気になっていたんだが【雷鳴の牙】の奴等はどうしたんだ?誰も降りて来ないが」


少し気恥ずかしくなった俺はやや強引に話題を逸らした。


「彼等でしたら、昨日の酔いがまだ残ってるからと全員馬車で寝ているそうです。出発する時は声掛けて欲しいと言っていました」


いい大人が何をしているんだか……。まぁいい、どうせまだ一週間もある道程なんだしな。


「そうか。出発の予定は?」


「一つの休憩は大体20分程度の予定だから、あと5分くらいしたら出発しようかな」


エステルは懐からシンプルな修飾が施されたた懐中時計を取り出して時間を確認すると、席を立ちながらそう言った。


「じゃあ彼奴らに声を掛けるのは俺がやっておく。お前らは自分達の準備しておけよ?」


「はい。お任せしますね」


エステルは席を立つと、一人馬車の方へと戻って行った。恐らく馬車に魔力を供給するのだろう。

俺たちが乗っている馬車を引くのは特殊な育成をして、普通の軍馬よりも強靭な肉体を持つ王馬と言う馬だ。王馬は魔物に近い習性を持っており、魔力を与える事で力を増す。また、馬車自体にしてもそうだ。エステル曰く、あの馬車の名前は魔導馬車と言うらしいく、魔力を供給する事によって軽くしたり車輪の動きを速めたりする事が出来るマジックアイテムの一つらしい。

王馬と魔導馬車を使った豪勢な移手段を要しているからこそ、馬車での移動ですらたった一週間たらずで王都に到着出来る。普通の馬車と馬では3〜4倍の時間がかからるらしいからその速度の速さが伺える。


(まぁ俺が飛んだら多分2〜3日もかからず着くんだがな……)


正直こののんびりとした移動速度には不満がある。行けるなら思いっ切り飛んで行きたい。だけど、エステルとキュレアが俺の正体に気付きつつあるこの状況でそれを実行するのはあまりに愚かだ。それに、速度に不満はあると言ったものの、こう言ったのんびりとしたのも悪く無いと言う気持ちもある。


「では私は繋いだ馬を離して来ますね」


「分かった」


俺が考え事をしていると、キュレアもそう言って席を立って行った。一人残された俺はもう一口と飲み物を煽り、【雷鳴の牙】の馬車へと声を掛けに行った。


「おい、起きろ。そろそろ出発するらしいぞ」


「ん?ガドウか……了解した。そこで寝ているボルトを叩き起こして伝えておく」


馬車に行くと、シャド一人だけが起きて本を読んでおり、他の奴等は皆各々の格好で寝ていた。


「そうか、頼んだ」


「ああ、連絡感謝する」


俺はシャドに伝言を伝え、自分の馬車へと戻った。


「準備は出来ているよ。そろそろ出ようか」


「ああ、分かった」


馬車はゆっくりと走り出し、次の休憩までの三時間の旅へと誘われていく。


***


事が起こったのは日も傾いて来て、夜の時間帯が間近に迫って来た時だった。


あれから数回の休憩を挟み進んでいると、後一時間ほどで最初の目的地である村へと辿り着くと言う辺りへと辿り着いた。


「さて、そろそろ本日の中継地点の村へと着くぞ……ーーっ!?」


そう言うエステルの言葉に耳を傾けていると、唐突に馬車がガクンと止まった。


「何事だ?」


訝しく思って馬車を出ると、身なりの汚い複数の男達が武器をチラつかせて馬車を取り囲んでいた。


「盗賊か」


俺がここまで接近されても気付かないって事は、こいつら相当の手練か、その逆の弱すぎて敵とすら認識していないかのどちらかだろう。そして、武器を見るにそれは後者か。


「なんだ、動くゴミか……」


俺は無意識にそう呟いていた。ふと隣を見ると同じく馬車を降りて来たエステルと御者から降りて来たキュレアや、もう一つの馬車に乗っていた【雷鳴の牙】も似たような反応をしている。


「おい、てめぇら。ここを通りたかったら積荷と女を置いていきな」


少し見回していると、盗賊の中でも少しマシな装備をしている大男がそう言って前に出て来た。恐らくあいつがこの盗賊の頭なのだろう。見た感じよくて精々Dランク冒険者程度の実力しかなさそうだが、他の奴等よりは多少は強そうだ。


「けけ、あの白い女はいい胸してるぜ」


「いや、奥にいる女も中々いいぜ」


頭が現れると同時に、その取り巻きらしき小物二人がそう囃し立てる。それに釣られるようにして盗賊達から下卑た笑い声が聞こえる。数は見たところ20人いるかいないかだろう。大体1秒あれば殲滅出来るな。


「ガドウ君、どうやら向こうはやる気みたいだよ?盗賊は基本的に倒してしまっても問題は無いからさっさとやってしまおう」


「見た所あの盗賊たちは名前も知られていない小規模なもののようですしね」


エステルとキュレアはそう言って武器を構える。確かにあの程度ならエステルやキュレア、それに【雷鳴の牙】でも一瞬で殲滅出来るだろう。だがどうせなら以前思った疑問を解消させて貰おう。


「そのようだな。ちょうどいい。エステル、キュレア、お前達に少しいいものを見せてやる」


そう言うと俺は二人より一歩前に出た。同時に【雷鳴の牙】の面々にも下がってるようにと目で合図を送ると、それを受けたボルト達は大人しく一つ頷いて後ろに下がった。


「ああん?なんだガキ、お前から死にたいのか?」


「けけ、積荷と女を置いていけば命だけは助けてやってもいいぜ?」


「でも身包みは置いてけよ?」


盗賊達は前に出て来た俺を見て嘲笑う。彼我の実力差を欠片も見抜けないこいつらには最早呆れの溜め息しか出ない。


「いいか?お前達も知ってるように魔法はイメージが強ければ強いほどに強くなる。だが、それと同時に体内の魔力もそのイメージに合わせて変質させなければならないんだ」


盗賊達を無視してエステル達に聞こえるような声で語って聞かせる。


「お前らレベルの実力者だと多分イメージの方は完璧に出来ている。だけど、イメージに意識を割き過ぎていて魔力を変質させるのを怠っている」


俺は片手を掌を上にするようにして差し出し、そこに魔法を発動させる。


「これが普段のお前達の魔法だ」


掌に現れたのは炎のように燃え盛る球体。「火魔法」の初級技『ファイヤーボール』だ。見た目を言うと掌で小さな焚き火をしている感じと言ったところだろう。


「これは魔力を変質しないでイメージだけで作った魔法だ。これでも込める魔力を増やしたりイメージを強くする事である程度なら威力を上げられるが、俺に言われせばそれはただの魔力と精神力の無駄使いだ」


俺は掌に出したファイヤーボールに魔力を込めて実際に大きくしてみせる。一瞬にして大きめの岩程度の大きさまでになったファイヤーボールに盗賊やエステル達が驚きの声をあげる。おいおい、なんでこの程度で驚いてるんだ?


「そして次。これがお前達に見せたい物だ」


俺は掌に出したファイヤーボールを無造作に盗賊に投げつけながら説明を続ける。


「ぎゃああああ!!」


「あっちぃ!あちぃよぉ!」


直撃を受けた盗賊は一瞬で消し炭となり、辛うじて直撃は免れた盗賊達も飛び散った火によって体に火を纏って燃えて行く。今ので大体5人は戦闘不能になったな。


「ファイヤーボールでこの威力か……恐ろしいね……」


「ええ、私達とは威力が違い過ぎます……」


エステルとキュレアがそんな事言って戦慄しているが、この程度で驚いてもらっちゃ困る。お前達にはこれ以上の物を覚えて貰うんだからな。


「この程度で一々驚くな。これからお前達に見せてやるのはこんなものじゃない」


俺は溜め息を吐きつつ言う。


「魔法を放つには魔法を創り出す魔力と、込めた魔力を形にするイメージを必要とする。だがここにもう一つ、さっき言った魔力の変質を加えると……」


「っ!?」


刹那。この周囲に一気に熱風が走った。熱の出どころは俺の掌の上。そこにあったのは先程のファイヤーボールと同じ大きさの太陽だった。

背後からエステル、キュレア、【雷鳴の牙】が息を呑む音が聞こえる。


「これが魔法の新たなステージ。変質させた魔力を使った魔法だ」


形はさっきのファイヤーボールとほぼ同じ。しかし、その見た目はファイヤーボールの中心をコロナが囲い、あまりの温度の高さに一部が黒ずんでいる。それはまさしく太陽と言わんばかりのファイヤーボールだった。


「これには本当に精密な魔力操作が必要となる。だけどエステル、キュレア、お前達ならこの程度造作無く出来るはずだ」


俺はニヤリと笑って小さな太陽と化したファイヤーボールを恐怖で固まっている盗賊達目掛けて放り投げる。

盗賊達は逃げる事はおろか、声をあげることすら許されず一瞬にして炎に飲み込まれて炭と化した。


「すげぇ……」


「ああ、ワシらの魔法とは次元が違う……」


【雷鳴の牙】のリュオンとジェイムズがポツリと零した言葉に、この場に居たガドウ以外の全ての者が同意と頷いた。

もうしばらく道中をだらだら書きます。お付き合いくださいm(_ _)m

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