王都へ
今回から新章です。出だしなので比較的に短くなっております。
さて、更新再開しました!みなさま長らくお待たせ致しました!
魔族襲撃から一週間が経った。俺は今、アクウェリウムを外界から切り離している門の前にいる。
「ふわぁーあ……眠っ……」
時刻はまだ日が昇る前だ。戦闘中のような神経を張り詰めたような時ならいざ知らず、特段気負うものが何も無い時の朝はとても眠い。
「エステルの奴、こんな早くに出発するなんてふざけやがって……」
今日俺がここにいるのは、一昨日エステルに明後日王都に向けて出発すると言われたからだ。
王都まではエステル曰く、此方で用意する馬車で約一週間やそこらだそうだ。
そう言えばだが、俺がアクウェリウムに戻って来て2日目に王都からの援軍が来たのだが、その時はもう全てが終わった後だった。せっかく士気高らかにやって来たのにもう終わっているとは拍子抜けだと、嘆いていた姿には少し笑った。
彼等はその後、暫くはこの街に駐在して魔族の動きに注意を払えと命令されたらしく、街の住人と共に街の復興を手伝いながら、生き残った冒険者や騎士達と共に監視や軍備強化などに勤しんでいる。
「はぁ……にしても遅いな他の奴等は……」
そう言うわけで俺はこれまでのんびりと過ごしていたのだが、ようやく出発すると聞いて言われた集合場所に来ているのだが、眠気を堪えて待っているのに他の奴等は一向に現れ無い。こう言うのは普通、責任者のエステルが一番に来ているべきものなのではないだろうか。
「すまないガドウ君、待たせたな」
それから数十分程経った後、二つの無骨だが豪勢な馬車と立派な肉付きをした馬と共にようやくエステルが現れた。格好は以前見た戦闘用の装備であり、唯一違う点は背負っている杖が新しい物と変わってるだけか。
「遅い。お前が来るまで俺は一時間近く待ったぞ」
「……そこは嘘でも今来たところと言って欲しかったな」
豪勢な馬車と立派な馬を引き連れたエステルは少し不満そうな表情で俺を上目遣いで見てくるが、待ったものは待ったのだ。わざわざ嘘吐く必要などあるか。
「うふふ、エステルったらいい歳して乙女な思考してますね。ガドウさん、お待たせして申し訳ありません」
そんな言葉と共に馬車の陰から現れたのは、ギルドマスター補佐のキュレアだった。その装いはエステルと同じく戦闘用の装備であり、その姿からは彼女も付いてくるのだと言う事が伺える。
「ん?もしかしてキュレアも来るのか?」
「そうですよ。何か問題がありましたか?」
「いや、別に。ただこの状況でギルドマスター補佐であるお前までいなくなって平気なのか?と思ってな」
その時俺は純粋な疑問を浮かべた。この二人はアクウェリウムの冒険者ギルドの最高責任者の筈だ。その二人がこのタイミングで同時にいなくなってしまって、大丈夫なのだろうか?魔人である俺としては人族達がどうなろうと興味は無いが、人族からしたら大変な事なのでは無いかと疑問に思う。
「ええ、大丈夫です。援軍に来てくれた王都の騎士の方々の中に、以前ギルドマスター補佐を経験していた方がいましたので、私達が帰って来るまでの間その人に留守は預かって貰える事になりましたので」
「そうだったのか。ならよろしくな」
俺はそう言ってキュレアに手を差し出す。キュレアは一瞬怪訝そうな顔をしたものの、チラリとエステルの方を見てニヤリと不敵に笑う。これは何か悪戯を考え付いた時の顔だな。
「はい、よろしくお願いしますね!」
キュレアは俺の差し出した手を握り、握手を交わすと、その瞬間俺の手を引っ張って絡めるようにすると、それを自身の豊満な胸に押し付けるようにして腕を抱え込む。
「な、なな、何をしているのだキュレア!!」
それを見たエステルが顔を真っ赤にしてキュレアに怒鳴りかかるが、キュレアはそれに対して更に抱える腕に力を込めて来る。ぎゅっと抱き寄せられた俺の腕は彼女の豊満な胸に沈んで行き、彼女の胸の形をむぎゅっと変形させる。
「あん♡」
それにたいしてわざとらしく喘ぎ声をあげるキュレア。エステルの顔は更に真っ赤になる。
「……なんの遊びだこれは」
溜め息を吐きながらそう尋ねるも、キュレアはニヤニヤと笑いながら止める気配は無い。それを見るエステルは最早噴火寸前の火山のようになっていた。エルフだから長生きしているはずなのに初心な奴だな。
俺は再度溜め息を吐くと、腕に力を込めてキュレアを持ち上げた。
「きゃっ!ちょっと高いですよ!」
「早く離さないからだ」
驚きの声をあげるキュレアを俺は空中でぶんぶんの振り回し、勢いのついたところで空めがけて放り投げる。
「きゃああああ!!」
悲鳴をあげて落下してくるキュレアを完全に衝撃を殺すように受け止め、ゆっくりと地面に下ろしてやると、ふらふらと目を回しつつも何とか自力で立った。
「キ、キュレア!おふざけが過ぎるぞ!君はもう少し恥じらいをだな……」
くどくどくどくどと垂れ流されるエステルの説教に、耳を痛そうに抑えるキュレア。何故に俺まで巻き込まれ無いと行けないのだろうか。
「……ん?どうやら全員揃ったみたいだな」
適当に聞き流してボーッとしていると、少し離れた場所に五人の気配を感じた。それはエステルもキュレアも同じであったらしく、ぎゃーぎゃー言い合ってたのを即座に止め、ギルドマスター、ギルドマスター補佐としての顔へと表情を変える。
「わりぃ、少し遅れちまった」
「お前が朝からどか食いしたからだろうが……」
「まぁまぁ、いいじゃないの。折角可愛い女の子との旅路だぜ?」
「気持ちわりぃ……昨日飲み過ぎたな……」
「リュオンさん、エステルさんとキュレアさんは確かに若くて美人だけど、実際は僕等より遥かに歳上だよ。敬意を持たなくちゃ。ジェイムズさんはきちんと水を飲みなよ」
そんな風に言い合いながら登場した五人を見て、俺は彼等に見覚えがある事に気付いた。
「あいつら、確かウィングライガー倒してた奴等だな」
「ああ、そう言えばガドウ君にはまだ正式には紹介出来て無かったね。彼等は【雷鳴の牙】。先日の防衛戦で多大な成果を挙げたアクウェリウム最強の冒険者パーティだよ」
エステルがそう紹介すると、【雷鳴の牙】の面々の中で最もがたいが良く、背中に大きな斧を背負った男が前に出て来た。
「よう、こうして話すのは初めてだな。俺様はボルトだ。この【雷鳴の牙】のリーダーをしている。ウィングライガーの時は助けてくれてありがとよ!本当に感謝してるぜ!
直接会って礼を言いたかったんだが、中々機会が無くてな。短い旅路だがよろしくなガドウ!」
俺は知らなかったが、どうやら向こうは俺の事を知っていたようだ。エステル辺り前以て言っていたのだろう。
ボルトを皮切りに他の奴等も次々に挨拶と礼を述べて来た。
「わたしの名前はシャド。【雷鳴の牙】の副リーダーを務めている。ガドウ、あの時は本当に助かった。あのままわたしとボルトだけだったらわたし達は今ここに立っていなかっただろう。心から感謝する」
「オレはリュオン。気を失ってたところを助けてくれたんだって?あんがとな!礼に女の子の落とし方を伝授してやるよ!」
「ガハハッ、リュオンのやり方は失敗ばかりだからアテにするなよ。俺はジェイムズだ!魔法が得意だな……うっぷ、ダメだ自己紹介すらきつい。本気で吐きそうだ……」
「ジェイムズさん、吐くならここで吐いて馬車では絶対に吐かないでよね。僕はロビン。ガドウ君、だったよね?助けてくれてありがとう!君が助けてくれた時、僕もリュオンさんと同じで気絶してたから直接会うのは初めてかな。このチームでは盗賊の役割をやっているんだ。短い旅路だけどよろしく!」
「ああ。もう知ってると思うが俺の名はガドウ。こちらこそよろしく頼む」
【雷鳴の牙】の面々の挨拶に応じてそう返すと、彼等はおう!と男らしい声で力強く応じてくれた。
「さて、メンバーも揃った事だし早速出発しよう。馬車は片方が【雷鳴の牙】が使ってもう片方は私達とガドウ君が使う。それ以外の細かい話はまた追い追い説明するから、取り敢えず今は乗ってくれ」
俺たちの自己紹介が終わると、それを見ていたエステルがよく通る声でそう締める。その指示に従い【雷鳴の牙】達と軽く言葉を交わし、各々に割り振られた馬車へと乗り込んで行く。最初の御者は俺たちの馬車からはキュレア、【雷鳴の牙】達の馬車からはロビンが務めるようだ。
「さて、では出発する!休憩は予定では3時間ごとに取るのでそれまで各自自由に過ごしてくれ!」
エステルが叫ぶと同時に、ぴしゃりと鞭を入れる音が響き渡る。そして、それに応じるように俺たちの乗る馬車はゆっくりと速度を上げて走り出した。
予定では一週間で王都に着くはずだが、さてさて、何事も無ければいいのだが。




