今後の予定
ガドウの実年齢を変更しました。ですが物語に大きな影響はないのでご安心を!
「おーおー、賑わってんなぁ」
ギルドに到着した俺は、先ず人の多さに驚き、次いでギルド内の盛り上がりに驚いた。
「他の所も盛り上がってたけど、やっぱり今回の最大の功労者達の本拠地は違うな」
ギルド内のあちこちで酔っ払った冒険者達が酒の入った杯を打ち合わせているのを見ながら思わず呟く。ついでに近くの机から幾つかの肉をくすねて頬張る。うん、美味い。
「ん?君は確か以前ゲルダーが酔っ払って絡んだ……」
調子に乗って少し食べる事に集中していると近くの机にいた女性にそう声をかけられた。弓を背負っている所を見ると彼女は弓を使った遠距離攻撃をスタイルとしているのだろう。
「誰だ?」
だが悪いが俺にこんな知り合いはいない。と言うかそもそも俺に知り合いと呼べる奴は数えるほどしかいない。やめろ、寂しい奴とか言うな。生後6年程度なんだから仕方ないだろ。て言うか俺、そもそも人族ですらないし?
誰に言ってるのか分からない言い訳を心の中でしながらも必死に記憶を探り目の前の女の事を思い出そうとするがやっぱり思い出せない。
「ああ、まだちゃんと自己紹介していなかったわね。私はミレイ、【赤獣の影】って言うパーティに所属しているわ。これでも一応冒険者としてのランクはA級よ」
「………?ああ、思い出した!」
急に声をあげた俺にビックリしたのか、少しビクリとなるミレイ。そう言えば以前ここから帰る途中でなんか酔っ払いに絡まれた事があったな。その時にその酔っ払いを止めようとしていた奴等の中にいた顔だ。装備が多少変わってるところを見るとあれからなんかいい素材でも入手出来たのかね。
(確かその時は調べ物を終えた直後で少し気が立ってたのもあって絡んで来た男を軽くぶっ飛ばしたんだったっけな)
「確かあんたは以前絡んで来た酔っ払いの仲間だったな」
そう言えばあの後別の仲間と一緒にわざわざ謝りにも来ていたな。その時はトウテツをどうするかで頭がいっぱいで適当に返してその場を去ったんだが、よく覚えていたものだ。
「うっ、ごめんね。うちのリーダー、実力はあるんだけど酒癖が悪くてね……一応あの後お酒は少し控えるようにって言ったのよ。まぁ殆ど意味は無かったけどね……」
言葉から推察するとどうやらあの男の酒癖は健在のようだ。そしてこのミレイとか言う女がいるって事は当然同じパーティの仲間である奴等もいるって事で……よし、また絡まれる前に逃げるか。
「そうか、大変だな。じゃあ俺はこれ「おいミレイ!飲んでるかー!?」最悪だ……」
見ると人混みの中からあの時絡んで来た酔っ払いだと思われる奴が酒がたっぷり入ったジョッキを片手に出て来た。その顔は見るからに火照っており、明らかに酔っ払っている事が分かる。
「ちょっとゲルダーあんたまたそんな飲んで!何度も言ってるでしょ、飲みる過ぎるなって!」
「んな堅い事言うなって!魔人達の攻撃に勝ったんだぜ?こんな日に飲まなくていつ飲むんだよ!って、お?誰だその兄ちゃん?」
げっ、見つかった。
「彼は以前あんたが絡んでぶっ飛ばされた子よ……ってそう言えばあんたあの後あのまま意識失って二日酔いしたんだったわね……」
ダメな酒の飲み方の典型的な形だな。こいつ魔物との戦いでより、酒の飲み過ぎで死にそうだ。
(よし、今の内に……)
「ミレイさん、明らめましょう。この状態のゲルダーさんに何を言っても無駄です……って、おや?その方は確か以前ゲルダーさんが酔っ払って迷惑をかけた……」
なんてタイミングで出て来るんだあの男は!せっかく二人の注意が逸れたから逃げようとしたのに台無しだ!
「なんだなんだ?また揉め事かい?ゲルダーもいい加減にしな!」
更には背中に巨大な槍と盾を背負った女まで現れやがった。これ、そろそろ本格的にめんどくさい事になりそうだ。なんとしてでも逃げねば。
「んだよ、ペイソン、ジュラン、俺がそんな面倒な奴だと思うか?ったく、失礼だな。なぁ兄ちゃん、お前もそう思うだろ?」
本格的にスキルを使ってでも逃げようかと考え出した頃、ゲルダーが遂に俺へと話しかけて来た。あーもうめんどくさい!
「知らん」
思わず俺の口から出た言葉はそんな雑なものだった。あー、これってこの後酔っ払っているゲルダーがキレて武器を手にかける、となるんだろ?
やばい、なんか以前と同じような事になりそうだ。
「てめぇ!年上への言葉使いがなってねぇぞ!」
ほらなった。
「やめなさいゲルダー!また同じ事の繰り返しよ!」
ミレイが止めるが、ゲルダーは止まらず遂に彼の手が武器にかかる。これまでのやり取りを面白そうに見ていた周りの冒険者と思われる連中もそれに思わず息を呑む。その直後!
「やめろ馬鹿野郎が!」
「ぐほぁっ!?」
唐突に横から出て来た拳がゲルダーの顔面を見事に捉え、そのままゲルダーを吹き飛ばす。
「な、何をするんスかボルトさん!」
吹き飛んだゲルダーは進行先にあった机をも巻き込み飛んで行き、机の上にあった料理を頭から被った状態でそう吠える。どうやら今ので自分自身と一緒に酔いも吹き飛んだようだ。
「何するんスかじゃねぇ!俺様はお前に何て教えた!」
「そ、それは「命を粗末にするな。相手の力量を正確に見抜け」ッス!」
いきなり目の前でなんか始まったんだけど……これ付き合わなきゃダメか?
「そうだ!俺様はお前にそう教えてきた!だがお前はそれがまったく出来てねぇ!これはどういう事だ!」
「す、すみません!」
仕方ないから俺は近くのテーブルから飲み物と肉を取り、それらを食べながら目の前で繰り広げられる寸劇を見物する。なんか最初はめんどくさいと思ってたけど、案外これはこれで面白くなってきた。というか、あのぶん殴った方ってあの時ウィングライガーとやりあってた奴だな。生きてたのか。
暫く見ていたら漸くこの寸劇の終わりが見えて来た。
「ゲルダー!お前あの人がどんな強いか分かってなかっただろ!」
「な、なんの事ッスか!?」
「お前が酔っ払って絡んだ奴の事だ!あの人はウィングライガー数匹を一瞬で殺すような奴だ!お前、下手したら死んでたぞ!」
「んな!?ウィングライガーをッスか!そんな馬鹿な!」
ゲルダーを殴り飛ばした男は俺を指差してしう叫ぶ。それを聞いたゲルダーや周囲で成り行きを見ていた冒険者達が信じられないと言った表情で見て来る。だがその時には既に俺の姿はそこにはなかった。
***
「はぁー、本当にスキルを使ってまで逃げ出すはめになるとは……」
俺はギルドの廊下を一人歩いていた。あの時、不穏な気配を察知した俺は即座に【幻想魔法】と【闇魔法】を使って、全力であの場からの逃走を図った。寸劇は面白かったが、あのままでは別の理由でめんどくさい事になりそうだったので仕方ない。
「まさか俺がたかが逃走の為に特殊スキルまで使わされるとは、人族恐るべし」
一人ぼやきながら廊下を進み、目当ての部屋まで進んで行く。途中、ギルドの職員らしき人物となんどかすれ違ったが、職員達は俺の事を知っているのか、軽く会釈をしてくるだけで止めようとはして来なかった。まぁ楽でいいんだけどね。
そうこうしている内に目的の部屋へと到着したようだ。中からは目当ての人物の気配も感じるので、無駄足とならずに済みそうだ。
軽くノックすると、中からどうぞと言う声が返って来たので、遠慮なく入らせて貰う。
「入るぞ」
俺は手元にある扉の真ん中にある変な模様の場所に気合を入れて魔力を流す。以前は開け方を知らなかったため、仕方なく壊したが、今回はきちんとした手順で扉を開ける。もう同じ過ちは繰り返さないのさ。
内心得意気に笑いながら魔力を流し続けると、遂に魔力に反応した扉が開き、そして爆発し吹き飛んだ。
「あれ?」
「「えっ?」」
思わず間抜けな声を出す俺と中にいた二人。見事に固まっている。
なので取り敢えず俺が言うべき言葉はこれだ。
「ここの扉って脆すぎだろ」
「「いやそれは違う(違います)」」
見事に二人揃ってツッコミを入れて来た。
***
「さて、改めて挨拶だ。ただいま」
「何故君はそんな何事も無かったかのような顔を出来るんだ……」
先程の扉の件は無かった事にし、改めて今回の要件の相手であるエステルへと挨拶を行う。何故かエステルは扉の方を見ながら疲れ切った顔をしているが、もしかしてまだ戦いの傷が癒えていないのかもしれない。まったく、きちんと体調管理をしないからだぞ。
「魔力の過剰摂取が原因のようですね。この扉、他よりかなり丈夫に作ってある筈なんですけど……」
キュレアがなんか言っているが気のせいだろう。まったく、お前も一応ギルドマスター補佐の役目も持ってるのだからしっかりしてくれよ。
「はぁ……君は相変わらず非常識の塊だねガドウ君……聞きたい事はたくさんあるが、先ずこれだけは言わせて貰おう。助けてくれてありがとう。そしてお帰りなさい」
エステルは頭を下げながらそう言った。
「ああ、助けた事は気にするな。お前が死んでたら依頼達成の報酬が貰えなくなるから助けたまでだ」
「そうか、君らしい答えだ。まぁ裸を見られた事に関してはまだ思うところはあるんだけど……それより、依頼達成と言う事はトウテツは撃退出来たって事でいいのかい?」
「まぁな。ったく、冒険者になって初の依頼がトウテツとの戦闘ってどうなんだよ」
俺は苦笑しながらトウテツの首をマジックポーチから取り出して、部屋に置く。流石ただでさえ巨大なトウテツの首だ、これ一つで他の部屋より大きく造られている筈のこの部屋の空いてるスペースの実に7割以上を使う。これ、角を含めていたら天井を突き抜けていたかもしれない。念のため角だけは切り落としておいて良かった。
「っ!?まさかガドウ君、君はトウテツを討伐したのかい!?」
その瞬間エステルは驚きのあまり勢い良く立ち上がり、執務机から勢い良く身を乗り出してそのままずっこけた。こいつ以前街中で見かけた大道芸って奴に向いてるんじゃないか?
「こ、これがトウテツ……長く生きていますが、実物は初めて見ました……」
横の方ではキュレアの驚きの声も聞こえて来る。見るといつの間に出したのか、倒れていた時に装備していた杖を片手にトウテツをツンツンと突いている。何か感じるものでもあるのだろうか?
「やっぱり大きいですね。この部屋も中々大きい筈なんですがこの頭だけで天井に届きそうです」
……そう言えばよく考えたらギルドの裏手に昇格試験を行った大きめな闘技スペースがあったな。もしかしたら巨大な魔物の素材の取り扱いも普通はそこでやる事だったのかもしれない。これは悪い事をしたかもな。まぁいいか。
「ったく、本当しんどい戦いだったっての。左半身吹き飛ばされたりしたんだからな。まぁもう治ったけど」
「吹き飛ばされた左半身が治ったって……」
俺は片手を額に当て、トウテツとの戦いを振り返る。今改めて考えると本当に勝率の低い戦いだったなアレ。あの時戦う前に【自動再生】や【生命上昇】を獲得出来ていなかったら多分俺死んでたし。それに【神化】。あれが無かったったら多分止めまで行けなかった。切っ掛けをくれたキリンには感謝しなければな。
(そういや、【神化】の時のキリンの反応は面白かった。あれが初心って奴なのか?)
そうだとしてら長年生きているくせに変わった奴だな。
「聞いているのガドウ君!」
おっと、余計な事に思考を割き過ぎたな。エステルがお怒りだ。
「あー悪い、聞いてなかった。もう一度頼むわ」
「まったく君って奴は……じゃあもう一度言うから今度はちゃんと聞いておいてくれよ?
トウテツの討伐を確認した。これで依頼は達成だ。報酬を払いたいのだが、見ての通り今は先の襲撃で街の機能が著しく落ちていてな、申し訳ないがトウテツの討伐報酬の5千万Gを直ぐには用意出来そうもない。なので君には後日私と共にこの国の首都へと向かって貰う」
エステルの言葉には隠しきれぬ動揺があり、表面上は取り繕っているが明らかに無理をしているようだ。
(まぁ流石に目の前にこんな化け物の頭をポンっと置かれたら誰でもビビるか。キュレアなんかさっきから手に持った杖でずっとトウテツを突いているし。て言うか本当にあいつは何をしているんだろうか?)
「別に構わないが、何故首都に行かねばならないんだ?それにお前と共にってのも気になる」
「何だ嫌なのかい?」
「ああ。だって俺とお前じゃ移動速度が違うじゃねーか」
「むっ、ストレートにそう言われると私としても傷付くな。でも確かに君の移動速度は尋常じゃないからね、無理も無い。だけどすまないがこれは妥協してくれ。これにはきちんとした理由もあるんだ」
そう言ってエステルは一枚の紙を取り出した。俺はそれを受け取り、中身を読んだ。紙には短くこう記されていた。
「何々?『トウテツ撃退任務達成の折、その者を首都へと連れて来るべし。その際に報酬を与える』なんだこれ?」
「国からの召集令状だよ。ガドウ君がトウテツの撃退へ出た後、義務として国へその報告をしなければならないんだ。悪魔族って言うのは我々人族からしたそれ程の存在だからね」
めんどくさっ。どうせ国の思惑として悪魔族を撃退出来る程の人材を囲っておきたいだけだろうに。わざわざ首都へまで呼び付けて報酬を渡すなんて回りくどい事をするとか、人族は本当にめんどくさいな。父さんが昔言ってた「人族とはあまり関わりたくない」って言葉の意味がよく分かった。
「で?俺が首都へ行かねばならんってのは分かったが、何故お前もなんだ?」
「正確には私と【雷鳴の牙】ってパーティもだけどね。何故かと言うと君達の冒険者ランクを特Sランク以上にする必要があるからだ。国の取り決めで我々ギルドマスターの権限でランクを決められるのは自身の元ランクまでだからね。自身のランク以上にする場合はその支部のギルドマスター同伴の元、各国の首都にある本部への出頭する必要があるんだ」
うわーうわー、更にめんどくせー。これも絶対実力のある人物を国で見定める為じゃん。人族のお偉いさん方気持ち悪っ!
「凄い嫌そうな顔だね……まぁ気持ちは分かるよ。大方このルールの思惑を察したんだろう?私も気持ちとして同意見だから分かるよ」
「チッ、まぁいい。首都って事はここにある以上の資料があるんだろ?それでも読んで満足させて貰うとするさ」
俺は嫌々だがそれを承認した。人族領域にいる以上そこのルールの中で生きるしかないからな。
(でもやっぱりめんどくさいな人族……早くやるべき事を済ませて魔族領に帰るか)
俺は内心溜め息を吐き出す。
「ん?そういや、さり気なく聞き流してたけど【雷鳴の牙】ってなんだ?」
「ああ、そう言えば君はまだ知らなかったね。【雷鳴の牙】はこのアクウェリウムに駐在しているオーバーランク冒険者パーティの一つで、今回の戦いでも大きな活躍をしてくれた人達さ。ランクこそ特Aランクだけど、単純な実力だけならSSランク冒険者にも引けは取らない程の実力者の集まりなんだ」
ふーん、SSランク冒険者ね……正直期待出来なそうだけどね。実際本物に会った事は無いけどそれを踏まえた上でもこの時代の人族は弱い。特SSランクの冒険者でもトウテツから逃げる程度ならば、それ以下のSSランク冒険者はもっと酷いだろう。
リヴァイアサンが英雄と戦ったと言っていた時代には勇者やら英雄やらがたくさんいたらしいが、以前のエステルの口振りから今はいないらしいし。
(なるほど、この時代に魔王や邪神が動き出したのにはこう言う背景があったからなのかもな)
となると俺が本気で暴れる相手は人族じゃなく魔族となるか。魔王ヴェヘムートが動いている以上、どちらにせよ魔族とは戦ってただろうしな。
「あっそ、了解。取り敢えず出発の日時が決まったら教えてくれ。俺は帰る」
そう言って俺はトウテツの首を再びしまい、エステル達に背を向けて壊れた扉から出て行った。
さて、出発の日までの暇な時間を使って後回しにしていたスキルの検証や調べ物をするか。
***
「エステル、彼はいつでも私達とは別の所を見ています。貴女なら大丈夫でしょうが、深く立ち入らない事をお勧めします」
「うん、分かってる。ガドウ君は最初に会った時から私達と同じ世界を見ていない。常にその先を見ているんだ」
ガドウが去った部屋でキュレアとエステルが話している。
「そうですか……ではもう一つお聞きしますが、彼の纏う雰囲気が明らかに以前のそれとは別のものになっていました。エステル、貴女はこれをどう見ますか?」
「……分からない。彼は見た感じは完璧に人間だけど、人間にしては異質過ぎる。何だろう、彼の気配は魔族のそれに近い気がする……」
「やはりそうですか……歴史を振り返っても完璧な人の姿をした魔族は幾つか確認されています。もしかしたら彼はそれと同類の存在なのかも知れませんね……」
「ガドウ君が魔人、ね……考えたくは無いな」
「ですがそれなら急激な雰囲気の変化にも納得出来ます。魔族には進化と言う特性がありますから」
「そうだね……」
エステルとキュレアの間に重苦しい空気が漂う。仮にガドウが本当に魔人で、人類と敵対するのだとしたら今の人類に彼に勝てる存在はいない。そのどうしようもない事実が更に空気を重くする。
「考えても仕方ない。それに彼が本当に魔人だとは限らないんだ、今はそう信じよう」
「そうですね、何事も悪い事が事実とは限りません。今は取り敢えずこの街の復興を急ぎましょう」
エステルとキュレアの話は完璧に的を射ているのだが、そんな事を知らない二人はガドウの正体についてこれ以上の話をしなくなった。だがこの時この会話を聞いていた者が一人存在した。
(チッ、やっぱり少し考え無しに動き過ぎたか……まだやる事が残ってるってのに……仕方ない、最悪あの二人を殺す事も考えとかないとならないな……)
この会話を聞いていた者、ガドウは密かにそう決意し、気配を殺して今度こそその場を後にした。
これで三章終わりです!次から四章に行きます!




