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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
三章 アクウェリウム防衛戦
40/55

終戦直後の平和

めっちゃほのぼの回(作者的には)です!舞台は戦勝直後のアクウェリウム!

まぁ普通に前話の後ですね 笑

「帰ったか」


俺はギルドの屋根の上に座り、襲撃して来ていた魔物達が退いて行くのを一人眺めていた。


「さっきの奇妙な音の笛で魔物達を操っていたのか」


あの笛はどうやら魔物にしか強い効力を発揮し無いらしく、魔人である俺は一瞬何か不快なものを感じただけで、魔物達みたくあの笛の音に引っ張られるような事は無かった。

戦っていた奴等の様子を見るに人族達に至ってはそもそも音すら聴こえてないようだ。


「魔物を操る笛、ね……厄介なものを持ってやがる」


俺はそう呟き、スクッと立ち上がった。


「そろそろエステル達が目覚める頃だな。この戦いももう終わりだ」


俺は屋根の上から飛び降り、エステル達を運び込んだギルドの医務室へと足を運ぶ。


***


「んっ……」


まどろむ意識の中、私は僅かな光を見た。その光は暖かいようで、何処か現実味が無いいよう見える。


(夢……?)


そう言えばこのふわふわと浮かぶような感覚はかつて見た夢に似ている。


(確か以前は故郷の近くで発見されたSSランクの魔物と戦った時だったね……)


その時は生まれて初めて死と言うものを凄く身近に感じた。いや、キュレアや一緒に依頼を受けた他の冒険者達がいなかったら間違い無く死んでいた。実際その時、相手の攻撃をまともに受けたせいで死にかけていた。


(あぁ……そっか。私は今死にかけているのか……)


ーー……ル!ーー……テル!ーーエステル!


(なんだい?もう寝かせてくれよ、眠いんだからさ)


「おいいい加減さっさと起きろ馬鹿」


ゴチン!


「アイタッ!?」


唐突に喰らった頭への衝撃に私は無理矢理意識を覚醒させられた。


「やっと起きたか。ならさっさと外で騒いでる冒険者達に顔を見せてやれ」


そこには少し雰囲気が変わっているも、以前と変わらない挑戦的笑みを浮かべたガドウ君が見間違う事無く存在していた。


***


「ガ、ガドウ君?」


ようやく目を覚ましたエステルが俺を見て驚いたような顔をする。なんだ?今にも天に召されそうな安らかな顔で寝ていたところを殴って起こした事を怒るつもりだろうか。

………まぁそうだとしても無視するがな。


「おう、俺だ」


あのブラッドとか言う魔人達と別れた際、ボロボロになっていたエステル達を拾っといたのだが、あの時の姿はとてもじゃないが人に見せられるような姿では無かった。なので仕方ないから一先ずここに連れてきて寝かせておき、ほっとくと死にそうになって来たのでマズイと思い起こしてやった。よし、思い直してみたが感謝される事はあっても怒られる謂れは無いな、うん。俺は一切悪くない。エステルの頭部に出来ているたんこぶなど、命と比べれば安いものだ。俺はそう言い切るぞ!


「あっ、キ、キュレアは!?」


「ん?ああ、お前と一緒に倒れていたあいつか。それならお前の隣でまだ寝てるぞ。確か以前この部屋にいた奴だな」


俺の言葉に慌てて隣を向くエステル。そういやそいつも酷くボロボロだったな。エステルと同等の魔力を感じるし、あいつも多分エステルと同等の実力を持っていたのだろう。だからこそ最前線で戦ってたんだろうしな。


まぁ結局二人揃ってあいつらに負けてるし、どの道俺が偶然早く帰って来なかったら今頃この街は陥落してただろうな。


(ふむ、惜しいな……エステル達が自分の魔力を完璧に扱えていたらあいつらには負け無かっただろうに)


俺はキュレアとか言うらしい女を気遣うエステルを眺めながら漠然とそう思った。


俺が来た時には既にエステル達は倒れ伏していた。それなのにエステル達の魔力にはまだまだ余裕を感じれた。それ即ちエステル達自身が己の魔力を完璧に使いこなせていないって事だ。

エステルの魔力は混沌竜(カオスドラゴン)の頃の俺を上回っていた。そしてそれに匹敵する程の魔力を持つキュレアもそれは同様だろう。

仮に俺が混沌竜の頃にあいつらと戦っていた場合、今回みたいに圧倒こそ出来なかっただろうが、少なくとも負けはしなかっただろう。いや、それだとアルプの相手は少し厳しかったかもしれないな……まぁとにかくだ、その俺に勝る点がある二人にも俺と同じ事が言えるのでは無いだろうか。確かに総合的な能力では俺が上回っていただろうと思うので絶対とは言い切れ無いが、少なくともあいつらにもっと甚大な被害は与えられていた筈だ。


(だが結果としてエステル達は負けたんだよな……エルフ族と多分ピクシー族の女だから見た目通りの年齢では無いと思ってたが、まさかこいつら本当に見かけ通りの年齢だったのか?自身の力すら使いこなせないとなると、技術があまりにも拙過ぎるぞ)


いや、流石にそれは無いか。言ってて思ったが、多分だがこいつらは少なくとも俺の数十倍は生きている筈だ。だがそうなるとこいつらは素で魔力を使いこなせて無いって事か?それはそれでまたおかしいだろ。


「まぁ俺には関係無いか」


よし、もう考えるのはやめだ。だっていくら考えても分からないし。

冷静になってみれば、エステル達が自分の力を使いこなせていない事が俺になんの関係があるって言うんだ。エステル達は今でもそれなりに強いし、魔人達が相手じゃなけりゃそうそう負けないだろう。まぁ仮にそのせいで死んだとしてもそれはそれで本人の責任だ。今回こいつらが生き残ったのも言ってみればただ運が良かっただけだしな。人も魔人も死ぬ時は死ぬ。それが弱肉強食の世界の理だ。


俺は心の中でそう結論付けてこの疑問を切り上げた。色々言ったが、本音はそろそろいい加減待ち飽きてきただけなんだけどね。エステル達にはさっさとこの戦いが勝利で終わった事をボロボロの冒険者と駐在兵達に伝えて貰わないと本当の意味での戦いは終わらない。


…………しょうがない、キュレアとか言う女の方も無理矢理起こすか。


「どけエステル」


「えっ?ちょっ、何をするつもりだガドウ君」


俺の姿に不穏な気配を感じたエステルが慌てて止めに入るがもう遅い。


ゴスンッ!


「アイタァッ!?」


キュレアの頭部に重い手刀が振り下ろされる!


驚き飛び起きるキュレアと複雑そうな顔で俺を見ているエステル。そして俺は何事もなかったかのように憮然と佇む。


「起きたか寝坊助女。同じ寝坊助仲間が隣で待ってるぞ」


俺の手刀が落ちた額を押さえながら涙目になっている寝坊助女(キュレア)に顎でエステルの方を指してやる。エステルが何か言いたそうにしていたようだが無視をした。


さぁさぁ俺の事は気にしなくていいから生き残れた事を二人で喜びあっていいんだぞ?運だって言ってしまえば実力の内だ、何も恥じる事は無い。俺は一人納得しながら目を瞑って頷いた。


「キ、キュレア大丈夫かい?」


「あまり大丈夫では無いですね……なんか額がズキズキします……」


失敬な、そんな強く叩いてないぞ。精々木製のテーブルを破壊する事が出来る程度の力加減だ。額にあるデカイたんこぶなど知らん。鍛えろ。


「お前等、起きたならさっさと事態を収集させてくれよ。トップのお前達がいないと本当の意味で戦いが終わんないぞ?」


「「はい?」」


俺の言葉に二人揃って首を傾げるエステルとキュレア。と言うか、キュレアに至っては今ようやく俺の存在をまともに認識したようだ。寝坊してるところを起こしてやったってのに、なんて失礼な奴だ。


「貴方は確か……ガドウさんとおっしゃいましたね。危ないところを助けていただいてありがとうございました」


キュレアは俺を真正面から見つめながらそう言って頭を下げた。真面目な表情と額にあるデカイたんこぶの落差が実に面白い。


「ああ、一度会っただけなのによく覚えていたな」


「一応記憶力には自信がありますので。と言うか、起していただいた事はありがたいんですが何故か額が凄く痛いんですけど……いや、それよりもあの魔人たちは……」


「気にするな、そのうち治る。魔人たちには逃げられたが、まぁ当分は襲ってくる事は無いだろうな」


「そうか、それなら良かった……ところでガドウ君、私のたんこぶも治るよね?なんかキュレアより大きい気がするんだけど」


「…………多分?」


「何故疑問系なのだ!?」


いや、見たところなんとなくエステルの方が傷の治りが早いっぽいから多少力を込めても大丈夫かなと思って少し力入れすぎたと言うかなんと言うか……いやまぁそのうちきちんと治るだろう。最悪誰かから回復魔法を掛けて貰えば大丈夫だ。多分。


「まぁいい……それより私達の装備はどうしたんだい?見たところ私もキュレアも寝るのに楽な格好に着替えさせて貰っているようだけど……リリアにでも頼んだのかい?」


「ん?ああ、それは俺が全部着替えさせた。あんな邪魔な服装のまま寝てたら疲れなんか取れないだろ」


「「えっ……」」


エステルとキュレアは同時に呆けた顔になる。どうしたんだ?


「何だ?何か言いたそうだな。あ、もしかして身に付けてた装備と下着をどうしたかか?それなら俺の魔法で洗濯してそこに干してあるぞ」


「い、いやそりゃあ言いたい事だらけだよ!と言うか下着まで君が変えたのか!?」


「えっ、えっ?殿方に裸を見られた?しかも全身くまなく?」


「ふぁーあ……そうだけど、それがどうした?」


俺は欠伸をしながら聞き返した。どうでもいいけどそろそろ眠くなって来たな……ここ最近ずっと移動していたせいでまともに寝て無かったからそのツケが来たか……


「それがどうしたって……普通そう言う事は同じ女性にやらせるべきじゃないのかい!るリリアとか!って、そう言えば彼女は今どうしているかな?」


「ああ、あいつは今回討伐された魔物の素材の鑑定やら、換金やらで他の職員達と忙しなくギルドを走り回ってる」


欠伸を噛み殺しながら答えると、エステルはあからさまにホッとした表情になった。まぁエステルとリリアは仲良さ気だったから特に気にかけていたんだろう。


因みに当のリリアはと言うと……


「ひ〜ん!忙し過ぎますよぅ!ギルドマスター早く起きて下さ〜い!」


と泣き叫びながらギルド内を現在進行形で他の職員と共に走り回っていた。彼女等の手には大量の魔物の素材と査定を書き記した書類が顔を覆う程にあり、誰が誰だか分からない状態であったとか。



「む、むぅ……しかしだな……やはり私としても乙女である以上、意識が無い時に男性に裸を見られると言うのはな……いや、ガドウ君が善意でやってくれたのは分かっているのだが……むぅ……」


「嘘……私もうお嫁に行けません……」


「んな、細かい事をいちいち気にするな。お前らの裸なんか、正直、どうでも、いい……zzZ」


エステルとキュレアが何やらぶつぶつ言っている中、俺は最早限界に近い睡魔に襲われて微睡んでいた。やはり白銀竜(シルバードラゴン)とは言え俺も生物には違い無いのだなと改めて思った。


「「寝るなー!(寝ないでください!)」」


うるさい、いいからさっさと戦勝報告して来い。


***


この後俺は微睡む意識の中、何故か騒いでいるエステル達を無視して女将や店員が避難してしまって人一人いない宿へと入ると、適当な部屋で翌日の夜までぐっすりと眠りに就いた。

目覚めた後で外に出てみると、今回無事生き残った冒険者や駐在兵達があちこちで大宴会を開いているのが確認出来た。これを見る限りどうやら無事エステル達は戦勝報告を行ったようだ。

俺は一人納得し、美味そう料理を幾つか摘み食いをしながらギルドへと向かって歩みを進めた。



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