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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
序章 プロローグ
4/55

プロローグ4

炎が燃え盛る地に一筋の光が放たれた。ガリオンが放ったブレスだ。


「うわあああ!」


「くっ、マジックシ………ぐわぁ!」


「なっ!ここまで来るだと!?ぐわあああああ!」


それはこの地を荒らした張本人たる、魔王ヴェへムートの配下の魔物を消し飛ばし、そこで止まること無く後ろで指揮をしていた魔人までも塵をも残さず消し飛ばした。


「どうした、もう終わりか?魔王ヴェへムートとやらの配下はこの程度なのか!」


「くっ!ヴェへムート様を侮辱する事は許さんぞ!」


魔物達を文字通り消し飛ばしたガリオンは目の前で倒れ伏すこの軍の総大将らしき魔人に向けてそう放つ。

倒れ伏していた魔人はその言葉を聞いて瞳を憎悪に染め、持っていた剣を杖代わりにフラフラと立ち上がる。


「ならばその意気を見せてみろ!」


ガリオンはそう言って目の前の魔人に尻尾による攻撃を行う。


「ぐふっ!」


既に満身創痍の魔人にこれをどうにかする事など出来るわけも無く、メキメキと肋骨の折れる音を響かせながら数十メートル吹き飛ばされる。


「貴様等はワシの大事な住処を襲ったのだ、それ相応の覚悟はあったんだろうな!」


ガリオンは吹き飛ぶ魔人にそう吐き捨てて、総大将と指揮官を失って有象無象と化した魔物の殲滅に動こうとしたその時だった。


「うわあああ!」


愛しき我が子の悲鳴が背後から聞こえた。

驚愕に顔を染め、声のした方向を見るガリオン。そしてその光景を見て動きが止まる。


「ふふふ、そろそろお終いにしましょうか、ダークネスドラゴン」


長い髪をした女の魔人がガドウを捕らえていたのだ。


「貴様、何時の間に!」


ガリオンは悲痛の声を上げ女の魔人を睨み付ける。その瞳は視線で生き物を殺せるなら間違いなく女の魔人は死んでいるだろう程に怒りで満ちていた。


「さ、流石の威圧ね……ダークネスドラゴン」


その瞳に女の魔人は気圧されるが、直ぐに子供(ガドウ)を捕らえているという絶対的優位性を思い出しガドウを掴む手に力を込める。


「うう……はなして!はなしてよ!」


「くっ、卑怯な……」


ガドウはダークネスドラゴンと言う食物連鎖の最上位に位置する魔物であるが、まだ子供だ。それ故にどんな下級モンスターにも命を奪われる可能性を持っている。それが魔人相手となれば尚更だ。故にガリオンは動かない。いや、動けない。

ダークネスドラゴンは魔物の中でもかなりの上位に位置する魔物だ。そしてガリオンは名持ち(ネームド)モンスターである。その力は例え魔物の上位に位置する魔人であろうとそう簡単に勝てる相手では無い。それは先程消し飛ばされた指揮官の魔人と、尻尾の攻撃により命をこそあれど最早動く事の出来無い魔人が身を持って証明している。だから女の魔人は考えた。奴は何かを守りながら戦っている、と。

そう、ガリオンは無意識にガドウを守るような位置取りで戦っていた。それは親としての条件反射のようなものだ。

女の魔人は魔王ヴェへムート軍でも参謀を務める程の賢い魔人だ。先程やられた二人の魔人はどちらかと言うと脳筋だったが、この女の魔人は違う。

女の魔人はガリオンの戦い方に僅かな疑問を感じた。まるで何かを守っているかのようだ、と。

最初はただこの地を守ろうとしてるのだと判断したが、ガリオンの関心は明らかに別の方向に向いていた。即ち自分の住処。

女の魔人はもしやと思い気配を出来るだけ殺してガリオンの住処に向かった。そこには案の定ガリオンの子供であるガドウがいた。


「この子の命が惜しければ素直に殺られなさい!さもなくば……この子竜、殺すわよ?」


「うぐぅ!」


「くっ!分かった!ワシは好きにして良いから子供だけは離してくれ!」


ガリオンは苦しむガドウを見て悲痛の声を上げる。それに女の魔人はニヤリと笑い、片手にガドウを持ったままガリオンに向けて魔法を放つ。


「《吸収する鎖(ドレインチェーン)》」


吸収する鎖(ドレインチェーン)」。効果が続く限り対象の魔力を吸収し続ける魔法。

ガリオンはそれを受け入れ、抵抗する事無く鎖に魔力を吸わせる。


「ふふふ、素晴らしい親子愛だこと。貴方の親子愛にに免じてせめてこの子竜の近くで死なせてあげる」


勝ちを確信した女の魔人はガリオンの元に飛んで来て着地する。


「最後に貴方達2人だけの時間をあげるわ。私は少し離れていてあげる。でもね、変な動きすれば一瞬でこの子竜の首が飛ぶわよ?いくらダークネスドラゴンとは言えどその魔法を弾くには数秒は掛かる。それだけあれば遠くから遠距離魔法を放ったとしても十分間に合う……ふふふ、じゃあ最後の2人だけの時間を楽しんでね」


そう言って女の魔人は100メートル程離れた場所にある岩まで移動してそこに腰掛けた。しかしその目は油断無くこちらを警戒しており、ガリオン少しでと妙な動きをしたら本当にガドウの首が飛んでしまうだろう。それが分かっているガリオンは、憎々し気な瞳で女の魔人を睨み付ける事しかできない。それ故ガドウとの時間を優先して、直ぐに女の魔人から目を逸らして、今にも泣きそうな我が子に慈愛の目を向ける。


「ちちうえ……」


「大丈夫だ、ガドウの所為じゃないぞ。ワシがまだまだ甘かったんだ」


自分の所為で、と言おうとしたガドウの言葉を遮ってガリオンはそう語る。


「良いかガドウ。ワシは間も無く死ぬ。そしたらあの魔人はワシの死体を回収しに来るだろう。だからガドウ、お主は逃げろ。奴がワシが死んだ後お主を逃がしてくれるか分からぬ。だから今からワシの体を盾にして逃げるのだ。最後に奴に一泡吹かせるくらいはしてくれるわ」


「いや、いやだよちちうえ……いっしょににげよ?ぼくひとりはまだやだよ……」



「ガドウ!」


ガリオンは怒りを孕んだ声でガドウの名を呼ぶ。

ビクリ。

ガドウは初めて聞く父の怒鳴り声に身を縮こませる。


「良いかよく聞けガドウ。ワシはお主の父親だ。父親は子供を守る者だ。だから最後くらいワシに父親らしいことをさせんか!」


父親らしいこと。そんな物ずっとずっと昔からして貰っている。

この世界の言葉を教えてくれた。地面を駆ける回る事を教えてくれた。空を飛ぶ事を教えてくれた。美味しい食事をくれた。楽しい遊びを教えてくれた。他にも数え切れ無い程たくさんの事を教えてくれた。だが何よりもとても温かい愛をくれた。


「そんな……ぼくはちちうえにいろんなものをおしえてもらったよ。あそぶことからねることまでかぞえられないくらいのたいせつなことをおそわったよ。だからもっともっといろんなことをおしえてよ!」


ガドウは目に涙を浮かべながら目の前の鎖に拘束された最愛の父に訴える。


「ガドウ……己の心念を貫き、我が道を行く。これがお主の名の由来だ。ワシが死んでも決して折れず自分の決めた道を自分で歩んで、行って、くれ……」


だがガドウの訴えも虚しくガリオンの声はどんどんか細くなって行く。もう魔力が残り少ない証拠である。

魔力とは全ての生物の命の源である。それが無くなると言う事は即ち死を意味する。これはまだ幼いガドウでも知っている程当たり前の事だ。当たり前だからこそガリオンの死が近いことを悟った。


「ちちうえ、しなないでよ!もっとこのせかいのことをぼくにおしえてよ!」


「ガ、ドウ……お主はとても賢い子だ……だからもう分かって、いる、んだろう?ワシの死が近いこと、を……ガドウ、ワシの最愛の息子よ……頼む、逃げ延びてくれ……」


「ちちうえ、ちちうえーーー!」


「ガドウ……お主は、絶対に、生き、ろ………」


最後にそう呟きガリオンはゆっくりと目を閉じた。そしてその目が開くこともう二度と無かった。


「ちちうえ?ねぇおきてよ!うあ……ウアアアア!」


「あら?もう終わっちゃったのかしら?」


ガドウの悲痛の叫びを上げる中、女の魔人はとても軽い調子で腰掛けた岩から立ち上がる。


「ふふふ、とても良い親子愛だったわよ?最後にその死体を回収すれば私の仕事は終わりだから、ちょっとどいててね」


女の魔人はガドウの横を通り過ぎて目の前で横たわるガリオンの死体を回収しようと魔法を唱える。

大好きだった父親が連れて行かれてしまう。命が尽きるその瞬間まで自分を心配してくれた父親が死してなおその誇りを穢されようとしている。


許せない。


そこまで考えが至った瞬間、ガドウの胸に灼熱のような衝撃が走り、同時に何か温かい物が宿った。


『ギフト【王種の種】を獲得しました。ギフト【王種の証】を獲得しました。ギフト【進化の苗木】を獲得しました。

特殊スキル【弱肉強食】を獲得しました。

特殊スキル獲得により個体名ガドウは特殊(スペシャル)モンスターとなりました。特殊(スペシャル)モンスターとなったため肉体、精神が急成長します。………急成長完了しました』


「……わるな…」


頭に響く謎の音声を聞きながらガドウは呟く。その体躯は5メートルまで成長し、ガリオン譲りの漆黒の鱗と黄金の双眸はより濃く、より鋭くなり、爪、牙もその強度と鋭さを増し更に強靭な物へと変貌を遂げた。


「ん?何か言ったかしら?」


女の魔人は微かに聞こえたガドウの声にガドウを見ずに反応をする。


「さわるな……」


「触るな?」


そこで漸くこちらを振り向いた女の魔人は、先程までのガドウとの違いに一瞬硬直する。


「ぼくの……俺の大切な父さんに触るなァァァァァァァ‼︎‼︎」


その隙にガドウは女の魔人に向かい飛び掛かる。


「な、はやい!?」


ガドウの予想以上の速さに女の魔人は反応が遅れた。


「ウワァァァァァ‼︎」


反応の遅れた隙にガドウの鋭い牙が女の魔人の喉仏を噛みちぎる。


「カ、カヒュー!カヒュー!」


女の魔人は何かを叫ぼうと必死に声を上げるが、もう既に言葉を発する事が出来なくなっていた。

そしてガドウは言葉を発する事が出来なくなった女の魔人の胴体を咥え、そのまま噛み砕いた。

グチャッと嫌な音を立てて女の魔人の体は真っ二つになった。


グチャグチャグチャ!バキボキバキ!


ガドウはそれを更に噛み砕き、そして最後に

それを飲み込んだ。


『魔人族個体名リリアーナの捕食を確認しました。魔人リリアーナの能力を取り込みます。………完了しました。捕食により【闇魔法】を獲得しました。

【進化の苗木】の条件をクリアしました。これより個体名ガドウの進化を行います』


最後にガドウの頭に先程の謎の音声が再び流れるが、それを意識するより先にガドウの体はガリオンに向かっていた。

ガドウはその体を最愛の父親の死体に任せ悲しみに耐えるようにして意識を手放した。




ーーーーーーーーーー

Name: ガドウ


Rece: 漆黒竜(ダークネスドラゴン) (魔人)


Special: 「弱肉強食」


Skill: 「竜化」「闇魔法」


Divin: 「ガリオンの寵愛」


Gift: 「王種の種」「王種の証」「進化の苗木」

ーーーーーーーーーー


次回から主人公視点

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