アクウェリウム防衛戦役 終結
あっははー、何ヶ月振りの更新だろー。もう作者ですら分からないやー……………………………ほんっとうに申し訳ございません!!(土下座)
「こんなもんか……」
俺は目の前で虚ろな目をしている四人を見下ろし、念のために抜刀していた竜神刀を鞘に納刀する。
「ふむ、下っ端かと思っていたが中々有益な情報が得られた」
この魔人達に【憤怒之大悪魔】の強力な精神干渉能力を使った強制尋問を行い、それにより得られた結果に俺は思わず呟いた。
今回こいつらから得られた情報は大きく分けて3つ。
1つは魔王ヴェヘムートの本拠地の正確な位置。これについてはグランから大体の場所は聞いていたけど、今回のこれで完璧に場所は掴んだ。
2つは魔王ヴェヘムートの持つ能力や性格。それによるとヴェヘムートの能力は主に自らが発生させた影による陰湿な攻撃と状態異常系の攻撃を組み合わせた特殊魔法戦。そして魔王の中では力は弱いが、酷く頭が切れるとの事。取り敢えず今後は奴を確実に殺すためにそう言う系統の戦闘に関する能力を磨いていこう。
そして3つ目、魔王ヴェヘムートは何者かと結託し、何やら不穏な事を企んでいるらしい。
一応これが今回の収穫で最も大きな成果だ。と言うのも、魔王ヴェヘムートはその何者かの指示を受けて動いている。名目上は同盟と言う事になってるらしいが、実際はその何者かによる一方な命令で動いているらしい。そしてアルプからその何者かの正体も掴んだ。
”邪神アルバス”
それがヴェヘムートを裏で操っている何者かの名前だ。アルプはどうやらこいつの部下にあたるようだ。
だが確かにそれならアルプの高い戦闘力にも頷けると言うもの。
邪神とか言うけったいな奴の部下であるのなら強いのは当然だ。だがこの結果を見るに、恐らく邪神アルバスからしたらそのアルプですら使い捨ての駒と変わら無いのだろうな。事実、アルプから引き出した情報ではアルプ程度の実力者など、アルバスの下にはたくさんいると言う情報も得た。
(邪神、か……確か父さんが寝物語にこの世界の神話を話してくれた時にそれっぽい単語を聞いた気がするな……)
曰く、邪神とは神の座を引きずり降ろされた神の成れの果てであると言う。
どうもこの世界には神と言う存在はたくさん存在するらしく、その所為で神の入れ替わりが常に非常に激しいらしい。
その結果、神の座を引きずり降ろされ邪神となった神々は頻繁に今の神々に戦いを挑み、そして毎回敗れている。
俺は父さんから聞いた神話の話しか知らないのでこれが真実かどうかは判断出来ないが、少なくとも神とか邪神はきちんとこの世に存在し、俺ら地上の生物など軽く超越していると言う事は分かった。分かっているからこそ、今回のアルバスの取った行動の真意が分からない。何故地上の生物など軽く超越している筈の邪神が魔王とは言え、地上の生物ごときと結託しているのか。
(まぁそれは俺が考えても意味の無い事か……)
何か俺に実害と呼べるような被害があるようなら例え相手が邪神であろうとも、問答無用でそれなりの対応をはするつもりだ。だが現在のこいつらの動きは正直俺には何の関係も無い。今回のアクウェリウムへの攻撃はアルバスの指示らしいが、これに関しては俺が勝手に首を突っ込んだだけで、向こうには俺へ危害を加えるつもりは全く無かったのだろうしな。
だからまぁ、取り敢えず今は放置で構わないだろう。と言うかそもそも今の俺じゃどちらにせよ天地がひっくり返っても邪神には勝てないし。
幾ら神の座を引きずり降ろされた奴等だといっても奴等も神には変わりない。魔王ですら敵わないような奴相手に俺が勝てる見込みなどあるわけない。
「さて、と……そこそこ満足の行く情報も手に入ったしそろそろ食ってしまうか……」
それにそろそろエステル達にかけた【幻想魔法】も解ける頃だ。さっさと終わらしてどっか他の人族の街にでも行ってみるとしよう。
そう思い一歩踏み出した瞬間、唐突に背後で歪な空間の揺らぎを感じた。
咄嗟に鞘に戻していた竜神刀を抜刀し、その勢いのまま背後を斬り払う。それと同時にキキキンッ!と何か硬度の高いものを弾いた感触と音が俺の手に響いた。
「ほう、完全に不意を突いたと思ったのだがまさか今のを弾くか」
そこにいたのは魔人と思われる三人の男達。三人は皆、背中から悪魔の翼を生やしており、その瞳は悪魔族を象徴する深い赤色。
「ちっ、悪魔族か……」
俺は思わず舌打ちをしながら三人を観察する。
一人は肩までかかるくらいの白に近い水色の髪をし、紫を基調とした衣類の上に如何にも魔法使いですと言わんばかりの茶色いローブと、魔力が封じ込められている緑色の玉を先端に付けた杖を持った細身の男。細身の上、青白い顔をして頬も痩せこけているためなんとなく陰気な雰囲気を醸し出している。
もう一人は雑に固められたショートヘアーの男で、魔法使いっぽい奴とは真逆にガチガチのフルプレートに身を包み、左手に身の丈程もあるタワーシールドを持ち、右手でこれまた身の丈程もある長槍を肩に担いだ長身の男。その髪は燃えるような真っ赤で、同じ真っ赤な瞳と相まってこの中では一番悪魔らしい見た目をしている。
そして最後の一人。これが先程俺に攻撃を仕掛けた張本人であり、耳にかかる程度の長さの真っ黒な髪をしたその男の手には二本の短剣が握られていた。身につけている装備は身軽さを重視した造りになっている黒いコートで、その表情に僅かな驚きを浮かべつつも冷静に俺の動きを観察していて隙が無い。
ーーこいつらは強い。
俺の勘がそう警告する。一人一人のエネルギーさえアルプと同等かそれ以上にあり、身につけている装備からは微かな魔力を感じる。明らかに魔法の武器だ。
(特にあの軽装の男……あいつだけ他の二人と比べ高いエネルギーを秘めている……恐らくあいつがリーダーだろう)
俺はそう辺りを付け、警戒を解かずに突如現れた三人を睨み付ける。
「ククッ、おいおいアルプの野郎やられてるじゃねーか」
赤髪の男が俺の背後に目をやり、そこで虚ろな目で虚空を見つめているアルプを見つけて面白そうに喋る。
「ほほう、あのアルプさんをあそこまで傷めつけますか。そこの方は中々出来るようだ」
それに釣られるように細身の男が俺を見て不気味に笑いながらそう言った。その際何かの能力なのかそれとも気の所為なのか、何やら舐めまわされるような不快感に襲われた。実際俺の体に異常は無いし、魔力の揺らぎも感じなかったので何かをされた訳では無いだろうけどこの感覚はとてもじゃないが許容出来るものではないな。
「グレン、ハクティ、貴様等は黙っていろ。取り敢えず挨拶だけしておこう、私の名はブラッド。一応そこで無様な姿を晒しているアルプの上司だ。こいつらはグレンとハクティ。馬鹿と変態で覚えて貰っても結構」
最後に軽装の男がそう言って自己紹介をして来た。適当な紹介をされたグレンとハクティが軽装の男改めブラッドに抗議をしたがブラッドはそれらを全て無視して俺の元へと一歩踏み出した。
「動くな。下手な真似をしたら問答無用で斬る。お前達は何をしに来た」
俺はブラッドに竜神刀と切っ先を向け、【竜覇気】と【獣覇気】を同時に発動させて威圧する。
グレンとハクティは俺の威圧を浴びて一瞬怯んだ様子を見せるも、すぐさま臨戦態勢へと移る。
「臨戦態勢を取ったと言う事はお前達は俺を殺しに来たって事でいいのか?」
「まさか。我々の目的は君が半殺しにしてくれた者共を回収しに来ただけだ。君と戦う意思は無い。少なくとも今は、な」
ブラッドの声ははっきりとしており、そこには嘘をついているような感じは一切無い。
(いきなり攻撃を仕掛けて来たくせに何言ってやがる)
「嫌だと言ったら?」
脅しの意味合いを兼ねて此方からも少し仕掛けてみよう。
「その場合は仕方ない戦闘となるな。恐らく私達と君がぶつかればどちらが勝つにせよお互いまず無事では済まないだろうな」
ブラッドは淡々と事実だけを述べる。
(ふむ……確かに俺とこいつらがぶつかったらお互い無事では済まないな……負ける気はしないが、無傷で済む気もしない……ちっ!不本意だが今回ばかりは仕方ないな。だが此方としてもアレはただでは渡さん)
俺は無言で武器を下ろし、此方にも戦う意思は無いと言外に伝える。
「感謝する」
ブラッドは一言そう言って俺の横を通り抜けようとする。
「待て」
その首筋に下ろした筈の剣を突き立てる。グレンとハクティが俄かに殺気立つのを横目にブラッドへと交渉を持ちかける。
「帰る際に今この街を攻めている魔物共をひかせろ。こっちはお前の要望に応えて奴等を見逃すんだ、それくらいはして貰おうか」
「嫌だと言ったら?」
「分かっているだろ?殺し合いだ」
俺は先程ブラッドが言った事と同じ意味の言葉を返す。その際【竜覇気】と【獣覇気】の出力を上げて殺気立って今にも飛びかかって来そうな様子のグレンとハクティに叩きつける。
「……分かった。君の条件を呑もう」
威圧により硬直したグレンとハクティに目をやったブラッドはふぅっ、と溜め息を吐きながら俺の出した条件を呑む事を了承した。
俺はブラッドの首筋に突き付けていた竜神刀を下ろし、今度こそ鞘に納めて奴等に背を向けて歩き出す。
「敵に背後を見せてんじゃねぇ!」
その瞬間、グレンとか言う奴が一気に踏み込んで俺の無防備な背中に鋭い突きを放って来た。
ーーが、生憎その攻撃が俺に届く事は無かった。
「ガッ、カッ!?」
グレンはいきなり現れた氷に身体中を氷漬けにされ、唯一氷の張ってない首から上で俺と自分自身を信じられないものを見るような目で交互に見ている。
「俺はもうブラッドとの交渉を呑んだんだ。無駄な事をするな。それともお前は無駄死にを希望するか?」
俺はチラリと後ろを振り向き、嘲笑混じりにそう言って再び歩き出した。
ああ、そう言えばエステル達放置してたな。さっさと回収しとかないと。
***
「勝手な行動をするなとあれほど言っただろ馬鹿者!折角私が争わずに場を収めたのを無駄にするつもりか!」
ガドウの姿が見えなくなった後、壁に磔にされていたアルプ達四人の回収を済ませたブラッドの怒鳴り声が氷漬けのグレンに浴びせられる。
「ぐっ、すまねぇ……」
グレンはブラッドの怒声に首をすくめつつ、小さな声で謝罪した。
「この氷……いったいどれほどの魔力を含んでいるのでしょうか……?中々溶けて行きませんねぇ……」
グレンがブラッドに怒られている間、彼の氷を溶かそうと必死に魔法を行使していたハクティが額に汗を滲ませつつ呟いた。
「はぁ……分かったならいい。ハクティ、この氷は完璧に溶かせそうか?」
「そうですねぇ……この調子だと30分もあればなんとか溶かせそうですねブラッドさん」
ブラッドの質問にハクティが大体の感覚で答えた。
ブラッドはその答えに少し考える素振りをし、直ぐに顔を上げた。
「よし、ならさっさと撤退をしてしまおう。ハクティはグレンを連れて城に戻れ。私はあの男との約束である魔物の撤退を指示してから向かう」
「分かりました。では後ほど」
そう言ったハクティは目の前に空間転移系統の魔法を発動させ、まだ半分以上が氷漬けのままであるグレンを担いでその中へと消えて行った。
「さて、こちらもさっさと済ますか……」
それを見送ったブラッドは翼を広げ、魔物達の多くが集まっている場所へと移動した。そこで何やら笛のようなもの懐から取り出し、思い切りそれを吹く。
その瞬間、魔物達はいきなり動きを止め、数秒の制止の後、踵を返して隔絶の森方面へと撤退して行った。
役目を終えた笛は、ブラッドの手の中でパキンッと音を立てて崩れ去る。
「これで良し……あの男との約束は果たした」
ブラッドは先程合間見たガドウの事を思い出し、今更ながら背中から冷や汗を溢れさせる。
(あの男……一体何者だ?奴からは何やら激しい負の感情を感じた……だがその上でその感情を完璧に制御している……とてもまともとは思えない)
それにあの嫌でも分かる強さ。ブラッドもアルプと同じ邪神アルバスの配下だ。だがアルプよりも遥かに強いと自負している自分でさえアルバスからしたただの一兵卒に過ぎない。
ガドウは確実にブラッドより強い。それも圧倒的に、だ。一対一の戦いではとてもじゃないが勝ち目は無い。だがそれでも決して邪神アルバスには届かない。届いてはならないのだ。
(だがあの男ならもしやと感じてしまう……)
ブラッドは自らの主であるアルバスの強さを知っている。知っている上でガドウならばそれを覆してしまいそうだと感じていた。
(まぁどうにせよ今は撤退してアルバス様への報告を行うのが先決か……)
ブラッドはそう切り替え、空間転移でその場から去って行った。後には破壊の後と人や魔物の死体が生々しく残るアクウェリウムの街だけが静かに風に揺られていた。