アクウェリウム防衛戦役 其の6
続きです!どうぞ!
さてさて、この肉体になってからのまともな戦闘はこれで二回目だ。どうせなら本気を出してみたいのだが、残念ながら今相手をしている魔人達では俺が本気を出したら一瞬で終わってしまう。
(こればっかり仕方ないか……ま、この際贅沢は言えないよな)
俺は視線の先でよろよろと立ち上がるアルプを見ながら内心溜め息を吐いた。
実際のところ、俺相手にそこそこまともに戦えるのは四人いる魔人の中でアルプ一人だけだ。他の奴等は最早わざわざ意識を割く必要すら無い。
俺はアルプの元へ集まる魔人達向けて竜神刀の切っ先を向ける。
「行くぞ?」
俺は勢いよ踏み込み、一瞬に魔人達の眼前へと出現し、剣を振り下ろす。
「くっ!」
それを俺の速度に唯一ついてこれたアルプが自身の剣を以って俺の剣を受け止めた。しかし、そもそも単純な腕力が俺に大きく劣るアルプでは、俺の剣を真正面から完全に受け止め切る事は出来ず、大きく吹き飛ばされながら苦悶の表情で必死に威力を受け流す
「アルプ!?くそっ、死ねや!【爆発死針】!」
「【氷結大弾】!」
「【魔鳥の声弾】!」
唐突に懐に現れた俺に動揺をしていたアルプ以外の魔人達がようやく動き出した。だがその動きは非常に遅く、思わず呆れた表情になってしまう。
「その程度の攻撃など無意味だ」
俺は竜神刀を地面に突き刺し、それを支点に回転しながら蹴りを放ち、飛んで来た攻撃を全て蹴り落とした。そしてその勢いのまま地面から竜神刀を抜き放ち、魔力の斬撃を飛ばす。
「ぐあっ!」
「うぐぅ!」
「くぅ……!」
飛ばした斬撃は狙い違わずホッグ達を捉え、彼等の体を深く斬り裂く。
「お前達じゃ俺に攻撃を与える事すらも出来ん。せめて一人一人がアルプ程度の実力が無ければ幾ら上手く連携しても無駄だ」
俺は倒れ伏すホッグ達に竜神刀の切っ先を向けながら呆れ混じりに言った。
「ぐっ、んなこたぁ、な、分かってんだよ!」
「僕達じゃアルプの足元にも及びません……ですがそんな僕達にも引けない理由があるんです!」
「主の命令すらも遂行出来ない者には何の価値も無い。だから私達は主に自分達の価値を示す必要があるのよ!」
ホッグ達は立ち上がれない程の傷を負っているにもかかわらず、瞳はまだ力を失っていない。そんな彼等に僅かな感心を覚えると同時に、今の言葉にあった主と言うフレーズに興味を持った。
「ほう、言うじゃないか。お前達の言う主ってのはそこまで尽くす価値のある人物なのか?」
俺は敢えて挑発気味に言い放った。
「当たり前よ!我等が主は偉大なる魔王が一人なのだから!」
すると案の定こいつらは俺の挑発に引っかかり、主の情報を漏らした。
本当に主に忠誠を誓っているのならば、こう言う場合は黙ってるか、出鱈目を言うべきなのだがこいつらにはそこまでの脳が無かったようだ。
「へぇ、魔王、ね……それは怖い事だ。それでその偉大なる魔王サマの名前は?」
流石に露骨過ぎたか?幾らこいつらでもこれには引っかからないだろうな……?
「ケケッ、恐れ慄け、我等が主は魔王ヴェヘムート様だ!」
と思ったら案外あっさり引っかかった。
…………ってちょっと待て、こいつは今なんて言った?
「おい、今なんて言った。もう一度言ってみろ」
俺は一瞬にしてホッグの前まで移動し、竜神刀をホッグの喉元へと突き付けた。
「ぐっ、なんだよ」
剣を突き付けられたホッグは勿論、フロスやメロまでも唐突に変わった俺の雰囲気に無意識に後ずさっている。
「もう一度だけ問う。お前達の主の名を言え。それ以外は聞いていない。さあ答えろ」
俺は内心に現れた憎悪に促されるまま、剣の切っ先を僅かに皮膚へ食い込ませる。
「ぐぐっ……ヴェ、ヴェヘムート様だよ!魔王ヴェヘムート様!それがどうしたってんだ!」
食い込ませた切っ先がホッグの喉にあたり、喉から僅かであるが血が流れ出る。
「そうか、ヴェヘムートか…………ククッ、クハハッ、クアーハッハッハッハッ!!」
唐突に大声で笑いだした俺の様子にホッグ、フロス、メロの三人は心の底から恐怖を感じ、ぶわっと冷や汗を吹き出した。
「戦闘中に笑うとは余裕だな!」
その隙を突いて今まで吹き飛ばされた先で大人しくしていたアルプが一気に距離を詰め、頭部へ向けて鋭い一撃を放って来た。
「アァ?」
だが今の俺にはその程度の不意打ちなど無意味だ。
放たれる剣を鍔ごと片手でガッシリと掴み、そのまま素手で剣身ごと握り潰す。
「なんだと!? がっ!?」
驚くアルプの首を掴み、宙へと持ち上げる。そして未だに恐怖に身を震わせているホッグ達を近くにあった建物に三人纏まるように蹴り飛ばし、アイテムポーチから取り出した三本の剣で腹部を貫いて建物に彼等を張り付ける。
「ぐぁぁ……くそが……これ以上、どうするつもりだぁ!ゲホッゲホッ!殺すなら……ハァ、ハァ、さっさと殺せ!」
ホッグが血反吐を吐きながら叫ぶ。
「ダメだ。お前達には話してもらわないといけない事があるからな」
だが俺は努めて無表情で言う。最早俺の中に渦巻く怒りと憎悪はこいつらをいくらいたぶったところで収まらない。
このまま怒りに促されてこいつらを殺す事は容易い事だが、それではダメだ。こいつらからは出来る限り情報を聞き出さねばならない。
俺は直ぐに殺してやりたいと言う衝動を残った理性で全力で抑え込みむ。
「ガハァッ!?」
その際、手に持っていたアルプを、先の三人同様に壁に投げ付け、新たに取り出した二本の剣で一つにまとめさせた手と腹部を貫き、壁に縫い付ける。
「お前もだアルプ。お前は他の奴等よりは強いから用心して二本で縫い付けさせて貰った」
俺は同じ建物に並ぶようにして縫い付けた四人の魔人の前に立ち、見下すような状態で言った。そして、そこでようやくこちらを見つめる二つの視線の存在を思い出した。
(チッ、そういやエステル達が見てやがったな……しょうがない、少々荒っぽいが許せよ)
俺は一瞬でその場から移動し、彼女達の目には見えない速度で二人の背後へ回りむと、【幻想魔法】を使って彼女達を幻想の世界へと誘った。
「さて、と、早速始めるか……」
【幻想魔法】はまだ使いこなせていないので、エステル達を眠らせていられるのは精々30分にも満たない程度だろう。その為これからやる事はさっさと済ませてしまった方がいい。それに今からやる事はあまり人に見せられるものじゃないからな。
「お前達には色々と吐いてもらう」
「愚かな……ワタシ達が貴殿にやすやすと情報をくれてやるものか!」
アルプが怒鳴ってくるのを顔面に蹴りを入れる事で黙らせる。
「いいか?お前達に拒否権は無い。そもそもお前達をそのまま喋らす気もない」
「な、なにを……っ!?」
アルプが何かを言いかけたところで俺は問答無用であるスキルを発動させる。
ーー【憤怒之大悪魔】発動。
するとみるみるうちにアルプの瞳からは光が消えて行き、アルプ自身も大人しくなった。
「貴方アルプに何をしたの!?」
メロが悲鳴に近い声をあげるが、構わずホッグとフロスも同じ状態にさせる。
「最後はお前だ」
「い、いや……やめて……お願い……なんでもするから……」
俺が振り向くと、メロは瞳に恐怖を浮かべ縋って来た。
「知るか」
俺はそれらの懇願をばっさりと切り捨て、メロにも【憤怒之大悪魔】を発動させた。なんでもするなど言っていたが、そんなもの【憤怒之大悪魔】や【幻想魔法】を使えば相手の意思など無視していつでもさせられる。なのでそんなもの交換条件にすらならない。
俺は虚ろな眼をしている四人に向き直り、強制尋問を開始した。




