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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
三章 アクウェリウム防衛戦
37/55

アクウェリウム防衛戦役 其の5

ガドウ本格参戦!

いよいよクライマックスが近付いて来ました!

「どうした!貴殿等の実力はその程度か!」


「くっ!」


アルプの凄まじい剣撃がエステルとキュレアを襲う。

エステルとキュレアは防御や回避に徹する事で、直撃を受けないようにしているが、それでもジリジリと体力が奪われていく。


「おらよっ!」


「死んでください!」


そこにホッグからの針による攻撃とフロスからの氷魔法が飛んで来る。


「《聖母の障壁(マリアシールド)》」


それらをキュレアが周囲に展開させた神聖属性の魔法障壁で防ぎ、同時に横から現れたメロの鋭い蹴りをも弾く。


「ちっ、やっぱり攻撃は専門外の私じゃこの女の守りは破れないわね!」


メロは蹴りつけた時の反動を利用して大きくその場を飛び退き、アルプの横に華麗に着陸した。


「それは仕方あるまい。ワタシでもあの者の守りを正面から破るのは困難だ」


「アルプでも無理か。なら俺やフロスでも無理だなぁ」


「そうですね。ですがあの障壁もいつまでも持つわけじゃ無いでしょう。あれが解除された瞬間が僕達の勝利の時です」


魔人達は実にめんどそうな表情を作りながらも、次なる攻撃の準備に入る。


(くそっ!あのアルプとか言う魔人のせいで攻撃に転じれない!)


そんな魔人達の様子に、エステルは忌々しそうな表情になる。

先ほどから何度か攻撃に転じようとはしているのだが、その度にアルプが牽制に動き、エステルの攻撃を封じているのだ。

また、キュレアはキュレアでアルプを合わせた四人の魔人の攻撃を防ぐために全力を投じており、攻撃はおろかエステルのサポートすら出来ずにいる。

今は大丈夫でもこのまま行けば体力と魔力の差で敗北するのはエステルとキュレアの方だ。


(まずいですね……最初の三体だけならまだしも、アルプとか言う魔人が加わると防御に集中さぜえなくなってしまいます……)


そんなエステルやキュレアの内心を知ってか、魔人達が再び動き出した。


「くぅ!」


「やあ!」


先ほど同様、アルプの剣をエステルがなんとかいなし、それにより出来た隙をホッグとフロスとメロが突くように攻撃を仕掛けてくる。


「隙有りだ!《アトミックウォー》!」


キュレアが弾いた三体の攻撃がアルプとエステルの直線上へ上手い具合に重なったその瞬間、一瞬だけアルプの動きが止まった。それを確認するやすかさず大魔法を放つエステルだったが、その魔法もアルプが自身の剣に謎の魔力を纏わせ一閃するだけで掻き消される。


「貴殿の魔法は確かに強力だ。しかし威力だけを求めたお遊びの魔法じゃワタシの剣は破れない」


アルプはエステルに向けて剣先を向け、嘲るようにして言い放った。


「なんだと!?」


「エステル、落ち着いて下さい!冷静にならねば勝てる戦いも勝てません!」


エステルは自身が長い年月をかけて研鑽して来た魔法をお遊びと断ざれて激昂しかけたが、そこにキュレアの叱責が齎され、なんとか冷静さを欠かずに済んだ。


「っ!……すまないキュレア……」


「いいんです、エステル。昔から私と貴女はずっとこうして来たじゃないですか」


エステルの謝罪の言葉にキュレアは優し気に微笑む。【白亜の聖母】と言う名は彼女の性格はともかく、彼女の微笑みはまさしく的を射ているのかもしれない。

しかし今は戦闘中。しかも相手は人ならざる者の魔人。そんな感性に浸っている暇など彼等魔人が与えてくれる筈も無く、既に次なる行動へと動き出していた。


「おいおい、俺たち相手にそんな隙を見せる余裕なんてあんのかよ!《千本針(サウザンドニードル)》」


「生憎ですが、僕達に貴女方に構ってられる時間はあまり無いんです。《呪刻の氷弾》」


「我らが主のため、この街は落とさせてもらうわ!《魔鳥の鋭翼》」


「そう言う事だ。貴殿らとの戦いは中々に満足いくものであった。感謝する。《魔剣技・血ノ降ル雨》」


「《深緑の護り》!!」


一斉に浴びせられる魔人達の必殺の一撃。キュレアは展開していた《聖母の障壁》に全力で魔力を注ぎ、エステルも自身の持つ魔法の中で最も防御能力の高い魔法を発動させて魔人達の攻撃から身を守る。しかしーー


ピシッ、ピシピシッ


エステルとキュレアの全力の防御を以ってしても、魔人四体による必殺の一撃は防ぎ切る事は不可能であり、ゆっくりと、だが確実に彼女達の防御は破られて行く。


(くそっ!私達では街を護れないと言うのか!何が防衛都市だ!4つの最強都市だ!たった四体の魔人が攻めて来ただけで陥落させられてしまったじゃないか!)


(私達じゃ護れなかったのですね……この街が落ちたら次は何処が落とされるのでしょうか……?ふふっ、【白亜の聖母】なんて呼ばれていたくせに何も護れていないじゃないですか……)


エステルとキュレアは破られて行く自分達の魔法を見ながら、情けない自らの実力に自嘲する。


ピキピキッ、パリーン!


そして遂に張っていた障壁が破られ、堰き止められていた暴威が二人を襲う。その時エステルの頭をよぎったのは一人の少年の姿だった。

長い銀髪を靡かせて、不思議な形状の剣を振るい、自身の大技さえもその剣一本で防いでしまうほどの実力を持つ彼は今何処で何をしているのだろうか。

まだ若い彼を死地へと向かわせた自分が何を言うか、と自分自身を皮肉りながらエステルはゆっくりと目を閉じだ。


(すまないみんな、すまないガドウ君……)


覚悟を決め、来たる衝撃を待つ。


一秒、二秒、三秒……しかし幾ら待てど自身に襲い来るはずの衝撃がやってこない。


「一体何が……」


エステルとキュレアは訝しげに目を開いた。その瞬間、視界に入って来た光景に目を疑う事となる。


「ったく、なんだよお前達ギルドマスターってのは。俺が来る瞬間には死にかけているって決まりでもあんのか?」


雑な言葉使い。しかしその言葉の主は言葉使いとは裏腹な美しい銀髪を靡かせながら呆れた様子でこちらを向いている。


「え、なんで……」


「確か貴方は……」


エステルとキュレアは目の前にいる少年に驚愕の顔を作る。


「はぁ……まぁいい。今の状況は分かっている。あそこでアホ面下げている雑魚4匹が魔物共連れて攻めて来たんだろ?」


「「ガドウ君 (さん)!」」


現れた銀髪の少年ガドウ吐は満身創痍のエステル達を見て大きなため息を吐いた。


ーーーーーーーーーー

ーーー


〜ガドウside〜


まったくなんだってんだ。


この街に戻って見るとそこら中から煙が上がり、大量の魔物と人の死体が転がっていた。そして辺りから聞こえる魔物達の咆哮と人々の怒声。これだけでこの街に何があったかなんて一目瞭然だ。


「やっぱり戦場になってたか」


俺は竜の姿のままで空を旋回しながら、近くを飛んでいたウィングライガーを捕まえてボリボリ。うむ、美味い。


『ウィングライガーの捕食を確認しました。

スキル【大気操作(エアリアルマスター)】を獲得しました。』


「ああ、そう言えばこいつはまだ食ったこと無かったな」


隔絶の森で何度か見かけてはいたけど、進化を経て問題無く勝てるようになった頃にはあいつら何故かあの一帯からいなくなってたからなぁ。ふむ、そう考えると俺も随分と強くなったものだな。あの時逃げてた奴を今やまとめて一撃だもんな。


「ん?なんか飛んで来た……って、人?」


俺は飛んで来た三人の人間を空中でキャッチした。見ると三人共完璧に意識を失っているようで、俺の姿が白銀竜(シルバードラゴン)であってもまったく反応を示さなかった。


「飛んで来た方向はあっちか。あそこでウィングライガーと戦ってる奴等の仲間かな?」


こいつらとあそこの二人からは似たような臭いがするし、多分同じチームか何かだったんだろう。


「おっ、あいつら人間の癖に中々やるな。ウィングライガーを倒しやがった」


少し傍観していると、地上で戦っていたこいつらの仲間らしき二人がウィングライガーを消し飛ばすのが見えた。だけどそのための攻撃で魔力を使い果たしたのか、その場で倒れ込んでしまっている。


「ん?ウィングライガーが一斉にあの二人目掛けて飛んで行ってる?って、これはやばいんじゃないか?」


俺は魔人の姿になり、【空力】と【縮地】を以って空中を蹴り、すれ違い様にウィングライガー達を斬り裂き、彼等の元へと着地した。そしてそれに続くように斬り捨てたウィングライガー達の死体が血の雨を降らせながらボトボトと落ちてくる。目の前の男達はそれを呆然と見つめ、次いで俺が抱えている男達を見てこれでもかと目を見開く。よし、丁度いいからこいつらにこの状況についての説明を求めよう。


「おい、あんた等。これはどう言う状況だ?説明しろ」


俺はウィングライガーの死体踏み付けながら彼等にそう尋ねた。


「あ、ああ……魔人だ。魔人が魔物連れて攻めて来たんだよ」


俺の質問に筋肉質でガタイの良い男が戸惑いながら答えた。普段であれば獰猛そうなのこの男も激戦を経た後だからか弱り切っており、今は酷く頼りなさげに見える。しかしそうか、やはり魔人だったか今回の主犯は。


「そうか、よく分かった。こいつらはお前等の仲間だろ?返しておく」


「え?あ、す、すまない。まだ少し戸惑っていてな」


俺が担いでいる三人を返すと、黒ずくめの方の男が筋肉質の男同様戸惑いながら礼を言ってきた。


「気にするな。近くに飛んで来たから拾っただけだしな。じゃあ俺はそろそろ行くから、お前達も早く避難でもした方がいいぞ」


「ま、待ってくれ!君は一体……」


黒ずくめの方が引き止めて来るが、俺はそれを無視してその場を去った。

魔人らしき気配は……ふむ、あっちの方だな。近くにエステルによく似た気配もあるし、魔人達と戦っているのだろう。

俺はその気配がする方向へ向けて地面を蹴り走り出した。


***


走る事数分、俺の視界に魔人達と争うエステル達の姿が見えた。


「ん?あれ相当やばいんじゃないのか?」


俺の視界に映った景色は、今にも破られそうな障壁で必死に身を守るエステル達であった。

俺は【縮地】を使い一気にエステルの目の前へと移動する。奇しくも俺がエステルの前へと登場するのと、エステル達が張っていた障壁が破られるのは同時であり、障壁を破って迫って来た攻撃を【暴食之大悪魔(ベルゼブブ)】で喰らって俺のエネルギーへと換えた。この間僅か1秒。

蛇足だが喰ったエネルギーは中々に美味かった。


「ったく、なんだよお前達ギルドマスターってのは。俺が来た瞬間に死にかけているって決まりでもあるのか?」


俺は呆然としているエステル達目掛けてから呆れ混じりにそう言ってやった。


***


「さて、と。で?お前達は何?何でこの街を襲った?」


俺は竜神刀を抜き放ちながら魔人達を睨み付けた。


「なんだぁ?てめぇ、のこのこ死にに来たのか?」


「愚かですね貴方も」


「いいところなのに邪魔しないでくれない?色男さん」


魔人のうちの三人が突然現れた俺に対し、怒り混じりの声を上げ、睨み付ける俺を逆に殺気混じりに睨み返して来る。……あまり強そうじゃないな。

彼我の実力差をも読み取れ無いなような奴等の相手などしてやる義理は無いのだが、今回に限っては仕方ないか。どうやらギルド自体はまだ無事のようなので、さっさとこいつらを殺して資料室に篭るとしよう。


「お前達退け!その者はやばい!」


俺が剣を構えた瞬間、後方から最後一人の魔人が悲鳴に似た声で叫んだ。どうやらきちんと実力差を理解出来る存在もいたようだ。だけど残念、一瞬遅かったな。


「死ね」


キィィィィン!と甲高い音を立て剣と剣がぶつかる。


「お?意外とやるな」


俺の剣を迎撃したのは先程俺の実力を理解し、叫んだ魔人の男だった。


「うっ、ぐぅ……!」


剣筋を弾く事に成功した魔人の男は手に伝わった衝撃に呻き声を上げながらも迷わず俺から距離を取り、警戒の色を見せる。


「お、おい、アルプ大丈夫かよ?」


そこに俺との実力差を理解出来ない雑魚の魔人達が集まって行く。どうやらアルプと呼ばれたあの魔人があいつらの中のリーダー的な役割のようだ。


「愚か者!ホッグ、フロス、メロ、お主達にはあの者の得体の知れない実力が分からんのか!」


アルプは自身の元へと集まって来た魔人達をギロリと睨み付け、唾が飛ぶ勢いで怒声を浴びせた。


「け、けどよぅ……向こうは一人だぜ?」


「そうですよ、幾ら強くとも僕等四人でかかれば……」


「ええ、勝てない相手では無いと思うわ」


俺の超常的な聴力で聞き取った情報によると、あの血の気の多そうな脳筋野郎の名がホッグで、その隣の軽薄そうな細身の野郎の名がフロスで、最後の唯一の女の魔人の名前がメロと言うらしい。……まぁあいつらの名前など殺してしまえば意味を成さ無いだろうが、名持ち(ネームド)の魔人特有の固有技があるかもしれないし、注意だけはしておこう。


「このうつけ者共が……良いか、あの者は先程まで相手をしていた女二人よりも断然に強い。恐らくワタシでも一筋縄では行かん。だが我々に撤退は許されていない、ここは連携して確実に仕留めるぞ。あの者を倒せば最早障害となる者はいない」


アルプは頭の悪い三人に大層苦労をしているようだ。だけど前言撤回、あいつは本当に正しく彼我の実力差を理解していのだろうか?何か上手く連携すれば勝てるとでも思われめいるようだが、あれを本気で言っているのだとするとあのアルプと言う魔人も期待外れと言わざるを得ないな。


「なんだ?やるのか?なら纏めて掛かってこい。少しはまともな勝負が出来るかもしれないぞ?」


俺は挑発気味に言い放った。


「行くぞホッグ、フロス、メロ!」


そう言うやいなや、アルプは地面を蹴って俺へと肉薄して来る。凄まじい速さだが、俺からしたらその程度の速度は歩いているのと変わらない。


「遅い」


俺は振り下ろされる剣を竜神刀と受け止め、すかさず足を引っ掛けてアルプの体勢を崩す。


「くっ!舐めるな!」


アルプは転ぶ事はなんとか堪えたが、その結果として大きく隙を作り出してしまう。


「ん?お前よく見たら悪魔族か。上手い具合に魔力を隠しているみたいだがお前、下級種のタナトスって言う種族だろ」


「だったらどうしたと言うのだ!」


タナトスと言う種族は技に特化した悪魔族であり、悪魔族の中では珍しい魔力では無く技術での戦闘を得意とする種族である。


「別に、ただ珍しいものを見たってだけだ」


俺は一瞬こいつの持つ技術に興味を持ったが、先程の剣筋を見るにこいつからは期待出来るほどの技術を感じられないので、躊躇う事も無くアルプを斬りつける。


「させないわ!」


だがその瞬間、横から魔物の姿に戻ったメロがアルプを掻っ攫って行き、俺の剣は虚しく宙を斬った。


「ちっ、ハーピィか。めんどくさいやつがいたもんだ」


「《氷雨連弾》!」


俺が悪態を吐くと、横から一つ一つが俺の顔面サイズもある氷の弾丸が無数に放たれる。


「で、お前はアイスリザードか」


飛んで来た方向を見ると、2〜3メートルはある青白い鱗の蜥蜴が大口を開けていてこの氷を排出していた。

俺は飛んで来る氷弾を最小限の動きで回避し、手近に飛んで来た氷は竜神刀の腹で打ち返し、恐らくフロスと呼ばれた魔人だろうアイスリザード目掛けて反撃をする。


「くそっ!」


フロスは自分に向かって跳ね返された氷弾を悪態を吐きながら回避し、それと入れ替わようにしてビックホッグと呼ばれる魔物が攻撃を放って来た。消去法であれがホッグと呼ばれた魔人だろう。


「《ドリルニードル》!」


ドリルのような螺旋を描いた巨大な針が俺目掛けて一直線に飛んで来る。


「脆い」


飛んで来た針を竜神刀を持っていない片方の手で受け止め、そのまま力尽くで握り潰す。


「なっ!?俺のドリルニードルを握り潰しただと!?」


「ホッグ耳を塞いでそこをどきなさい!《魔鳥の幻聴》」


驚きをあらわにするホッグの前に先程アルプを掻っ攫って行ったハーピィが現れ、耳障りな歌を歌い出した。


「気持ち悪い音を聴かせるな。不愉快だ」


俺は《振動》で空気を震わせ、聴こえて来る耳障りな音を打ち消した。


「っ!?この化け物め……!」


「あ?この程度でビビってんじゃねぇよ三下共が」


俺は一気に魔力を練り上げ、《魔力纏換》を持って竜神刀に纏わせ、横薙ぎに振るう。


「ぐあっ!」


「があっ!」


「きゃあっ!」


「むぅ……!」


俺の振るった竜神刀により生じた衝撃派は大気を斬り裂き、射線上にいたアルプ達を吹き飛ばし、背後の建物を一つ真っ二つに両断したところで止まる。


「おいおい、アルプ以外まともに防御すら出来てねぇじゃねぇか。もう終わりかよ?」


俺は獰猛な笑みを浮かべ地に倒れ伏す魔人達を見下ろす。


「ほらかかってきな、遊んでやる」


「くそがぁ!」


するとあっさりと挑発に乗る馬鹿が一人。しかも馬鹿丸出しで一直線に突進して来る。


「ホッグ!ちぃっ!先走るんじゃないわよ!」


「お二人共待って下さい!勢いだけで勝てる相手ではありませんよ!」


「先走るな愚か者共!ワタシの指示通り動け!いいか、ワタシがなんとか隙を作るからそれを狙ってお前達は攻撃を仕掛けるんだ!」


先走る馬鹿(ホッグ)を追いかけて来たハーピィのメロとアイスリザードのフロスにアルプが大声で指示を飛ばし、アルプ自身も俺を仕留めんと剣を振るいながら接近して来る。


「ははっ!いいね!帰って来て早々、中々楽しめそうだ!」


アルプが振るった剣を僅かに頭を下げて回避。その隙を縫って仕掛けて来るホッグの針を竜神刀で打ち払う。背後から気配を消して爪による一撃を仕掛けて来たフロスを腰に差していたシュヴァルツ・ヴァイスを手首の返しだけで発泡。撃ち落とす。その瞬間に上空から降り注ぐ鋭利な刃物のような形状をした羽の弾幕を《振動》で大気を震わせて軌道を逸らす。その隙を突くように連続して振るわれる剣撃を、剣筋に合わせて体を反らせて回避する。そのままアルプの腹部へ強烈な回し蹴りを叩き込み、その射線上にいたホッグをアルプごと蹴り飛ばす。


「《鳥翼乱射》」


「《弾幕吹雪(ミサイルブリザード)》」


上空からメロが強めの魔力を纏わせた無数の羽を放ち、地上からはフロスが極小の氷弾の弾幕を打ち出す。


「狙いは悪く無い。だが……」


俺は先程手に入れたばかりの《大気操作(エアリアルマスター)》を使い、俺の周囲の風を一斉に羽と氷弾の方向へ弾き、俺を狙っていた攻撃の全てをそのまんまメロとフロスへと返してやった。


「あぐぅ!」


「うぐぁ!」


羽と氷弾を直に受けた二人は体の至る場所から血を流し、弱々しい動きとなる。


「さぁて、今度はこっちの番だ。精々楽しませてくれよ?」


俺は獰猛に笑い、武器を構えた。


***


「なんなんだこの光景は……」


私は目の前で起きている光景に目を疑った。


「エステル、彼は一体……」


キュレアも私と同じ気持ちのようで突如現れたガドウ君に目を見開いて驚いている。


「分からない……彼は今、無限廻廊までトウテツの撃退に行っている筈なんだが……」


ガドウ君にそう言う指令を下したのは私だ。だから彼は間違い無くこの場にはいないはずなのだ。

ここから無限廻廊に最も近い街であるグランビエルまでは最低でも片道一カ月はかかる。そこから無限廻廊まで更に一週間。仮に行って直ぐに戻って来たとしても三カ月は掛かる計算だ。だがガドウ君はその道程をたった二カ月余りで帰って来た。更に言えば、ガドウ君はその間に悪魔族中級種とまで言われるトウテツとの戦闘を得ているはずだ。仮に撃退に成功していたとしても、トウテツと言う化け物相手に無傷で撃退など出来るものだろうか。


「この状況に付いて行けてないのは私も同じだキュレア……だけど今の私達は完全に戦闘不能だ。私達が生き残る道は彼が奴等を倒してくれる事に賭けるしかない。例え彼が何者であろうと、私達に選択肢は無いんだ……」


私は四体の魔人相手に遊んでいるようにすら見えるガドウ君を見つめながらそう呟いた。


「……そうですね、私達にはそれしかありません……これからの事はこの場を乗り切ってから考えましょう」


キュレアは私同様に魔人達を圧倒しているガドウ君を見つめながらそっと呟き返した。


彼は本当にあのガドウ君なのだろうか?何か纏う雰囲気すらも最後に見た彼とは変わっているように見える。だけど今、彼が戦ってくれていると言う事実はゆるがない。彼が来なければ私達は確実に死んでいた。ならば私達に出来る事は彼を信じてこの戦いの行方を見届ける事のみだ。


「頼む、ガドウ君……今の私達は君に頼るしか無いんだ……」


勝手な事だとは分かっている。しかし魔力が枯渇寸前私達に出来る事は本当に無い。ならば祈ろう。どうかこの街を……私の大事な街を守ってくれ!



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