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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
三章 アクウェリウム防衛戦
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アクウェリウム防衛戦役 其の4

「ジェイムズ、リュオン、お前達は後方から強力な魔法での遠距離攻撃だ!ロビン、てめぇはその二人をしっかり守っとけよ!前衛は俺とシャドでやる!」


「あいよ。まったく、しんどいな」


「りょーかいリーダー。俺達の防御、頼むぜロビン!」


「任せてよ二人とも。僕の防御能力の高さは二人も知ってるだろう?」


「やれやれ……どちらからと言うとわたしもロビンと同じ盗賊向きなんだがね……っと、そろそろ束縛が引き千切られそうだ」


ボルトの指示に【雷鳴の牙】の面々は即座に反応し、動き出す。

ジェイムズは文句を言いながらもすぐさま魔法の詠唱に入り、リュオンもそれに続く。ロビンもそんな二人の前に立ち、防御用の魔法の詠唱に入る。

そんな中、彼等の動きを合図にしたかのようにバキンッ!と言う音を立ててウィングライガーを束縛していた鎖が引き千切られた。


「ガオオオオオッ!!」


解き放たれウィングライガーは即座に大きく体を伸ばして、まだ僅かばかりごびりついていた鎖を弾き飛ばすと、自分を束縛した人間達へと向き直った。


「思ってたよりも束縛出来た時間が短いな……ボルト、行けるか?」


「はっ!当然だろ?俺様を誰だと思ってやがる!」


そんな言葉と共にボルトの全身からバチバチと電気が走る音が鳴り響いた。

雷魔法《雷纏》。一時的に体全身に雷を纏い、自身を雷と同質のものへと変質させるボルトの十八番の魔法である。


「確かもって15分だったな……」


「ああ、それ以上を過ぎると強制的に解除されて少しの間倦怠感でまともに動けなくなっちまう」


「なら短時間でケリをつける必要があるな……この際出し惜しみは無しだ」


襲撃して来た魔物の殆どは既に死に絶え、外にいる者達はシャドが張った迦具土のおかげで入って来ない。空を飛んでいたサンダーバードやファストクロウ達もウィングライガーを恐れて此方にはやって来ない。事実上【雷鳴の牙】VS ウィングライガーの一騎打ちのようになっている。


「しゃあっ!行くぜ!」


「ああ!」


「ガアッ!」


辺りに満ちている魔力の残滓が一陣の風のごとく吹いた瞬間、遂に彼等は激突した。


「戦場は常に自分達の有利な状況にする。基本だろ?《領域変化・雷》」


先ず動いたのはシャド。彼は自身のユニークスキル《領域魔法》にて辺り一帯を雷の威力が上がる特殊な魔力が張った地へと変化させた。


「オラァッ!《雷撃一閃》」


それに続き、領域魔法にて強化された雷を纏った雷帝の斧をウィングライガー目掛けて一閃した。放たれた鋭い一閃は雷そのもののような速度でウィングライガーへと迫って行くが、この程度でやられるような存在が特SS級などに指定される筈がない。


「ガオアアアアアッ!」


ウィングライガーは自身の魔力を乗せた咆哮で、迫り来る雷を掻き消した。


「ボルト!シャド!そこを退け!《三重魔法(トリプルマジック):ウォーターウェーブ》」


「《三重魔法(トリプルマジック):ライトニング・スピア》」


ウィングライガーが咆哮を放ち終えた瞬間、その隙を狙うように後方より二つの魔法が放たれる。

これは危険だと判断したウィングライガーは、即座にその場を飛び退き回避しようと試みたが、結果としてその行動は失敗に終わる。


「逃がさないよ《グラヴィティ・ダウン》」


突如として訪れた急激な重力の変動に戸惑い、対応し切れなかったウィングライガーは、飛び上がった瞬間にその場に叩き付けられ、動きを封じられた。そこに容赦無く襲いかかる二つの魔法。


「ガオオオオオアッ!!」


水と雷と言う相性ばっちりの魔法の直撃を受けたウィングライガーは、流石に悲鳴のような鳴き声をあげたが、それも一瞬の事で、次の瞬間には攻撃の体勢へと移っていた。


「ガアアアアッ!」


「なっ!?くそっ!」


咆哮と共に放たれたのは人間サイズもある風の玉。それは物凄い速度で最も近くにいたボルトへと放たれ、なんとか直撃を斧で防いだボルトを100メートルほど吹き飛ばした。


「ボルト!?」


シャドが声をあげるなか、吹き飛ばされたボルトは吹き飛ばされたままの空中で姿勢を整え、建物を蹴り、そこをわざと転がるようにして受け身を取り、そのまま建物の壁を駆けるようにして此方へと戻って来た。


「ぺっ!大丈夫だ!」


「相変わらずぶっとんだ方法で立て直すなリーダー」


「ガハハッ、お前どんどん化け物染みて来てるな!」


「リーダー、一応防御魔法をかけとくね《ツイン・アンチマジック》《ツイン・ブーストディフェンス》」


「うるせぇ、てめぇらはさっさと次の魔法の準備をしとけ!ロビンはありがとな!」


後方から壁を走って帰って来たボルトに対し、リュオンとジェイムズは軽口を叩き、ロビンは律儀に防御魔法をかける。見た所多少のボルトの体には擦り傷程度の傷は出来ているものの、ダメージと言うダメージは皆無のようで、その眼から戦意は一切消えていない。


「ふん、無事だったかボルト……まぁお前があの程度で怪我を負うようなたまでは無いのは分かりきっていたがな」


「たりめーだろうが。俺様の頑丈さはガキの頃からつるんで来たのてめぇがよく知ってるだろうが」


「ははっ、それもそうだな……ウィングライガーがお前に放った攻撃は風系統の攻撃だ。魔力は感じなかったから恐らくあれがウィングライガー特有の能力で有名な《風流操作(エアリアルマスター)》だろう。魔法とは違い大気中の存在する空気を使った特殊攻撃だ」


シャドはそんな親友の言葉に頼もしいなと苦笑しながらウィングライガーが放った攻撃についての考察を述べる。


「わたしの領域魔法で雷属性以外の攻撃の威力は下がっているはずだが……あいつの場合魔法でも特技でも無く、純粋な自然を利用しているためかあいつの攻撃の威力は下がって無い……くれぐれも油断はするなよ?」


「はっ!上等だぜ!シャド、お前はあいつの動きをなるべく制限するように動け、勿論隙を見つけたら大技を叩き込めよ?

ロビン!シャドと一緒にあのデカブツ動きを制限しろ!防御に援護とてめぇの負担が増えるが、やれんだろ?」


「当たり前だよリーダー。これでも僕は器用な方なんだ」



ボルトはそう指示を出すと、雷帝の斧の発雷能力をフルで稼働させ、斧全体に雷を纏わせた。


「行くぞデカブツ!さっきのお返し、だっ!」


その瞬間、ボルトは一直線にウィングライガーへと迫る。雷纏状態でのみ出せる本物の雷と同等の速度で踏み込んだボルトはそのままウィングライガーの横っ腹目掛けて雷を全体に纏った雷帝の斧をフルスイングした。


「ガオオオオオッ!?」


これにはウィングライガーも驚き、咄嗟に防御姿勢を取ったものの、殆ど直撃に等しい威力を横っ腹に受け、5〜6メートルはある巨体が宙を舞った。

ズドンッ!と凄まじい音を立てて吹き飛ばされたウィングライガーは進行方向にあった建物を粉砕しながら勢い良く街の門へと叩き付けられ、門に大きなクレーターを作りながら地面へと落下した。


「ちぃっ!やっぱり硬ぇな……かなり威力を込めたつもりだったが深くは切り裂け無かった」


「いや、上出来だボルト。流石はわたし達のリーダーだ。ロビン!やるぞ!」


「了解!」


「《影分身》《束縛の舞・刃》」


「《グラヴィティ・パニック》」


倒れ込んだウィングライガー目掛けてシャドの分身が一斉に踊りかかり、その姿を鎖のような物へと変身させて絡みつく。先程の《束縛の舞》とは違い、今度の鎖は要所要所に鋭い刃を生やしており、絡みつくと同時にウィングライガーの体へ刃が食い込む。そこへすかさずロビンの放った《グラヴィティ・パニック》が襲い掛かり、ウィングライガーの周囲の重力だけをめちゃくちゃにさせる。


「ついでにこっちもでけーのが完成したぞい《雷轟》」


「へぇ、奇遇だな。オレもだよ《螺旋の落雷》」


巨大な雷の塊とそれを囲むように螺旋を描く巨大な雷がウィングライガー目掛けて飛来する。魔術師であるジェイムズとリュオンが同時に唱えた魔法は互いに絶妙な絡みを見せ、それぞれの魔法の威力を何倍にまで引き上げて倒れ込んだ上に動きを阻害されているウィングライガーへと襲い掛かった。

ただでさえ強大な威力を持つ魔法が領域魔法の恩恵を受けて更に強化され、強大を通り越して凶悪な威力を持ってウィングライガーへと迫る。誰しもがこれで勝負は決まったと思った。しかしーーーー


「ガオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


ウィングライガーから渾身の力が込められた咆哮が放たれ、もう眼前まで迫っていた魔法を跡形も無く消し去った。


「なんだとっ!?」


【雷鳴の牙】の面々は目の前で起こった出来事に驚きを隠せ無い。


「風の動きが……まさかこの辺りの空気の全てを今の咆哮に回したのか!?」


ウィングライガーの持つ風流操作(エアリアルマスター)は風の流れを操る技能。やろうとすれば不可能では無い。


(ありえん!?あの魔法には少なくとも直撃すればあのウィングライガーすらも殺せるだけの威力はあったはずだ!それを掻き消すだけの力を持った風の流れをあの一瞬で作り出したと言うのか!?)


「マズイ!お前達、防御しろ!」


即座に危険だと判断したシャドは慌てて大声で指示を出したが、惜しくもそれは一歩遅かった。


「ガオオオオオオオオッ!!」


「なっ!?くそがっ!」


「ぐわっ!?」


「うぐぁ!?」


「うわっ!?」


唯一ウィングライガーの取った行動の意味を理解したシャドと雷纏を使っていたボルトだけは対処が間に合ったが、それ以外のメンバー、ジェイムズ、リュオン、ロビンはウィングライガーの放った咆哮を受け、大きく吹き飛ばされた。


「くそっ!《影分身》《治癒の舞》」


彼等が受けたダメージは明らかに危険であり、シャドは即座に仲間の回復に動いた。


(ボルトは防御出来ていたから大丈夫だろうが、他の奴等が受けたダメージは危険だ!)


「ボルト!わたしはジェイムズ達の回復を行う!少しの間持ち堪えていてくれ!くれぐれも今の攻撃には注意しろよ!」


「分かってるよ!」


ボルトは大きく踏み込み、一瞬でウィングライガーの元へ辿り着き、頭部へと斧を振り下ろして注意を自分に引きつける。


「おらぁっ!俺様が相手だぜ!」


「ガアッ!」


「ふんっ!」


ウィングライガーが振るった爪とボルトの振るった雷帝の斧が激突し、甲高い音を立てて互いに弾き合う。


「《ライジングスラッシュ》!」


「ガオオアアッ!」


ボルトがスキルを上乗せして攻撃を放てば、ウィングライガーも周囲の空気を操り迎撃する。そんな攻防がいくばくか続く中、仲間の回復を終えたシャドとシャドの回復によって戦線に復活したジェイムズやリュオン、ロビンも参戦し、事態は硬直状態と陥った。


「《ダイダルウェーブ》!」


「《紫電の狂雷》!」


「《グラヴィティ・ダウン》!」


「《陽炎の舞》」


「《轟雷刃》!!」


「ガオアアアッ!!!」


数多の攻撃が行き交い、周囲を焦土へと変貌させる。

ウィングライガーと言う強大な敵との接戦に【雷鳴の牙】の面々の顔には酷い疲労が色濃く貼り付けられ、彼等の体には無数の生傷が浮かび上がっていく。

対するウィングライガーも【雷鳴の牙】達から放たれる強力な攻撃を身一つで受け続けていたためか、あちこちに大小様々な傷が出来上がっており、片方の翼に至っては根元から吹き飛ばされている。だがしかしその瞳の戦意は未だに強く燻っていた。


放たれる攻撃に弾ける轟音。遠距離から攻撃を放てば《風流操作(エアリアルマスター)》で押し返され、近距離から切りかかれば人間の男性程の太さを持つ腕で迎撃される。風の流れを操作し攻撃を仕掛ければシャドの指示の元、全員が防御ないし回避行動を取り、自らの強靭な肉体を持って攻撃を仕掛ければ巨大な斧を持ったチーム一の巨漢であるボルトが受け止めてと、お互いに新たな傷をひたすら作り合う。


「くそっ!マズイぞ、そろそろ雷纏の効果が切れやがる!」


「そうだな……お前がそうなった瞬間に奴の攻撃に対する守りが一気に手薄になり、こちらの主力が失われる……そうなったら勝率は最早絶望的だ」


「くそが!オレ達の魔法をことごとく撃ち落としやがって!」


「こりゃ参ったな。俺の魔力もそろそろ底を尽きそうだ」


「僕達にウィングライガー相手に持久戦を行えるだけの体力と魔力は無い……正直厳しいね……」


【雷鳴の牙】の間に思わず不穏な空気が漂う。そしてそれは事態を最悪の方向へと誘って行った。


ーー注意力の欠如


そしてそれは戦闘中、最も見せてはならない”隙”を作り出してしまう。


「あ……」


これははたして誰の声だったのか。ただ間違いようが無いのは一発の攻撃がウィングライガーへと向かい、その途中で力無く墜落した。それ即ち、攻撃放った本人は自ら攻撃を自分でコントロール出来ない程に消耗しているのだ。


ーーそして一つのミスは波紋のようにさらなる不穏を呼ぶ


あらぬ場所へ墜落した攻撃は轟音を立てて地面へと着弾し、【雷鳴の牙】の面々の注意をほんの一瞬だけ引いてしまう。


たかが一瞬、されど一瞬。


実力が拮抗した者同士の争いは、そんな僅かな隙であっさりと瓦解する。しかも不幸な事に今争っているのは”人間”と”魔物”である。元より住む環境が違うそれらは、当然物事に対する意識の優先順位が違う。


知恵を発達させた人族は物事の動きを鋭敏に捉え、ささいな音をも見逃さ無い。

対して魔物は生存本能に忠実に行き、目の前の獲物へと全神経を集中させ、獲物が見せる隙を決して見逃さ無い。


時には武器となり得る生物としての根本的な違いが、今回は【雷鳴の牙】達人族側に牙を剥いた。


「しまっーー」


【雷鳴の牙】達は一流の冒険者である。それ故、即座に自らの失態を悟り、慌てて体制を立て直そうとする。だがその瞬き一回分にも満たない一瞬は、特SS級指定の危険生物たるウィングライガーの前には致命的過ぎた。


「ガオオオオオオオオオオオオッ!!!」


大口を開けたウィングライガーから竜巻を彷彿させる巨大な風が放たれた。

ウィングライガーと言う楔から放たれた風のブレスはギュイン!ギュイン!と音を上げ、辺りに散らばっている建物の残骸を巻き込みながら尋常で無い速度で【雷鳴の牙】達に迫って行く。


「全員退避ぃぃぃぃぃ!!!!」


ボルトが声を上げるよりも早く【雷鳴の牙】達は各々で動き出していたが、激しく渦巻きながら迫り来る巨大な風のブレスはお前達の行動など無意味だ!と嘲笑うかのように彼等を飲み込んだ。


「ぐわあぁぁあっ!!」


「うわあぁぁあっ!!」


【雷鳴の牙】達を飲み込んだ風は、まるで中の物を洗濯するかのように回転を続け、飲み込んだ彼等へ追い討ちをかける。


(くそっ!目が開けられねぇ!)


(体の自由が効かない…….!?)


前線にいた為、真っ先に飲み込まれたボルトとシャドは、猛り狂う風からなんとか逃れようと四苦八苦するが、強烈な回転をかけ続けられた状況の中で彼等に出来る事などあるはずも無く、無情にも彼等の体はぐるぐると風に弄ばれる。だがその時、不意に背中にあたる複数の何者かの存在があった。


「えっ……?」


この声はボルトのものかシャドのものか。

二人の背中に触れた存在達はそのまま全力を持って彼等を風の渦から投げ出そうとした。


「ぐぅぅ……!?ボルト!シャド!ワシ達の運命はお前ら二人に任せたぞ!」


「あぐぅ……そ、そーいうことだ、後は頼んだぜ!」


「くぅぅ……《闇の障壁》!僕からの最後の防御魔法だ!絶対にウィングライガーを倒してよね!」


背中に触れた存在達であるジェイムズ、リュオン、ロビンの三人はそれだけ言うと風の渦に巻き込まれて今にもバラバラに吹き飛ばされそうなボルトとシャドを必死に掴み、自分達が渦に呑み込まれるのも厭わずただ二人を全力で渦から投げ出した。


「な!?てめぇら何馬鹿な事をやってんだ!」


「そうだ!直ぐに防御体制を取れ!」


ボルトとシャドは仲間達の奇行に目を見開いて驚き、怒声に近い声で防御の指示を出す。


「ふむ、もう無理だな。悪いけどワシ達はここでリタイアだ」


「まっ、そーゆう事♪オレ達の分も後は二人が頑張って」


「そうそう、それにどちらにせよ僕達はもう無理だ。もう既に体の自由の殆どが風の渦に巻き込まれちゃってる」


風の渦が巻き込んだ建物の残骸に身を刻まれながらもジェイムズとリュオンとロビンはいつもの調子で語る。だがその顔色は悪く、体のいたる部位からは大量の血を流しており、無理しているのは明白だった。


「馬鹿野郎!てめぇらもう体中ボロボロじゃねぇか!その様でどうやって身を守るんだよ!」


風の外へと投げ飛ばされながら、ボルトは唾を飛ばす勢いで怒鳴り声を上げた。


「馬鹿はお前だ!!」


だがその声を上回るほどの大きい声でジェイムズが怒鳴った。そのあまりの剣幕、ボルトとシャドは思わず身を硬くさせた。


「ワシ等のやるべき事はなんだ!?クソみてぇなワガママをかかげていたオレ達を受け入れてくれたこの街を護るんじゃねぇのか!?」


ジェイムズの言葉にボルトとシャドは思わず口をつぐんだ。


「ジェイムズの言う通りだ!オレ達はここに来るまでは自由気儘に適当に生きていた!野望も欲望もなんもねぇ状態でな!だがここに来て漸く俺達にも初めてやりたい事が出来た!それがこの街を護る事だろ!お前は手前が掲げた目標すらも達成出来無いでくたばるつもりか!ふざけるなよ!」


ジェイムズの言葉にリュオンがいつもの軽薄な雰囲気など微塵も感じさせ無い声音で追随した。


「二人に同意だね!僕達【雷鳴の牙】はこの街を護るためにここにいるんだろ!ボルトとシャド、お前達二人がそう言って僕達を纏めた!忘れて無いぞ!

僕達は目的を果たすために全力を出す!それが何もなかった僕達に出来た絶対にして唯一のやりたい事だ!それをあっさり諦めるのは幾らお前達二人でも許さないぞ!」


ロビンも二人に続き、前の二人に勝るとも劣らない剣幕で未だに迷いを見せていたボルトとシャドを怒鳴りつけた。


「くそがっ!ならてめぇらは絶対に死ぬんじゃねぇぞ!死んだら俺様がぶっ殺す!」


「お前達の気持ちはしかと受け取った……!約束しよう、わたしとボルトで必ずウィングライガーを倒すと……!」


三人の言葉を聞いたボルトとシャドは覚悟を決め、キッと眼光を強めてウィングライガーを睨み付ける。三人の姿はもう風の渦に呑まれて見え無い。


「おいシャド!アレを全力でぶち込むぞ!」


「正気かボルト?下手したら辺りを大きく巻き込む事になるぞ?」


「はっ!もうこんなボロボロなんだ!構う必要はねぇ!やっちまうぞ!」


「まったくお前と言う奴は……だが三人の思いは絶対に無駄にしない。いいだろう、やってやろう!」


その瞬間、二人から放たれる魔力が爆発的に膨れ上がった。


「いいか?俺様の雷纏はもう直ぐ切れる。その前に奴にアレを叩き込むぞ!」


「一発勝負ってことか……ふん、面白い」


爆発的に膨れ上がった魔力が二人の中に吸い込まれるようにして消えて行く。辺りは僅かに静けさに包まれる。


直後


「《多重影分身》《磁纏》」


シャドが何百人もに別れ、それぞれが朧気な雰囲気を醸し出しながら、連携して一斉にウィングライガーへと迫った。


「喰らえ!《雷纏解放》《無限の落雷(インフィニットボルテックス)》」


そしてシャドの分身を貫く道筋で極大の雷がボルトから放たれた。よく見るとそれは無数の雷の線の集合であり、それらが一斉にウィングライガーへと襲い掛かって行く。


「シャド!やれェ!」


「ああ!《避雷の舞》」


シャドがそう叫ぶと、シャドの分身達は複雑に広がり、ボルトの放った無数の雷を囲むようにして動きながらウィングライガーへと迫る。


「ガオオオオオッ!!」


ウィングライガーは自身に迫る雷の波に対し、《風流操作(エアリアルマスター)》を使って迎撃を試みるが、《磁纏》を発動させた事により磁力を纏ったシャドの分身達によってバラバラに動かされ、器用に風をかわして進む。


「今だぜ!上手く合わせろよ!!」


「当然だ!お前こそしくじるなよ!!」


そして遂にウィングライガーの眼前へと迫った無数の雷目掛けて最後の仕上げへと入った。


「一点集中!」


「《空蝉》!」


ボルトがおちこちに広がっていた雷を無理矢理一つに纏め、その瞬間の絶妙なタイミングでシャドの分身も一点に重なるようにして集まり、その身を円を形作りながら弾けさせた。


「うおおおおおお!」


「はぁぁぁぁぁあ!」


そして遂に一つに纏めあげられた雷がウィングライガーとぶつかる。シャドが最後に発動させた《空蝉》は、それを身に宿らせた存在を一瞬だけ超加速させる技であり、無数のそれで形作られた何重もの円を通った雷は超加速を超えて遂に雷速は亜光速へと至る。そして速度=威力の法則に則り、尋常ならざる威力を爆発させながらぶつかった全てを瞬く間に破壊する。


「ーーッ!?」


それは例え特SS級指定の魔物であろうと不可避の現実。

亜光速化された雷に飲み込まれたウィングライガーは、声を上げる間もすら与えられず、跡形も無く消し飛んだ。


「ぐっ、はぁっ!はぁっ!」


「はっ、はっ、うぐぅ……」


それを見届けるや否や、ボルトとシャドは二人揃って同時に足から崩れ落ちた。


「はぁ、はぁ、殺ったか……?」


「はっ、はっ、その言葉は、あまり、使わない方が良いと思うがな……だが今回は大丈夫のようだ、ウィングライガーの気配はもう感じない」


自分達の認知出来る範囲にあんな強大な気配を持つ化け物がいたのなら見逃しはしないだろうからな。と、シャドは疲れ切った顔で笑みを浮かべながら言った。


「そうか……なら良かった」


ボルトは空を見上げながらやりきったと、満足気にしながら笑った。彼等前には無残な姿になったアクウェリウムの城壁があったが、特SS級と言う強大な魔物を相手にしてその程度の被害ならまだ良い方だろう。


彼等が最後に放った技は数年前から時々練習をしていたものであり、その時は最後の円を形作る際にボルトの雷が通り過ぎてしまったり、上手く円を捉えられなかったりと言った失敗を繰り返しており、今回の一撃が唯一の成功例であった。


「ふぅ……呼吸も落ち着いて来たな……」


「でも魔力はもう限界だ……幸いな事は攻めて来た魔物達の気配が薄まっていることか……」


どうやらウィングライガーの登場に怯んだ上、ボルトとシャドの連携技で大半の魔物は森の方へ逃げ帰ったようだ。魔物はそう言う危機意識に関しては並みの動物を凌駕しているのだ。普段では厄介だが、今回に関してはそれが良い方向へと働いた。


「そうだ!あいつら……うぐぅ……」


風の渦に飲み込まれて行った仲間達の事を思い出したボルトは慌てて立ち上がろうとするが、立った瞬間に再びガクンと地面に崩れ落ちる。


「ボルト、無茶するな。お前の体は雷纏の影響でかなり弱ってるんだぞ。……安心しろ、あいつらはわたしが拾って来る」


倒れ込んだボルトに呆れながら立ち上がるシャド。だが彼の体も激戦の所為でボロボロであり、ボルト同様立ち上がったそばから再び崩れ落ちた。


「はぁ……どうやらわたしも中々弱ってるようだな……すまないボルト、わたしもしばらくはまともに立てそうに無い」


シャドが申し訳なさそうに言うが、ボルトは頭を振ってそれを許す。


「別に構わんさ。あいつらの事だ、どうせピンピンしてるだろうよ」


ボルトはにかっと笑いながらシャドの方へと顔を向ける。シャドもそうだなと苦笑しながらボルトの方へと顔を向け、互いに目が合った瞬間に笑い出す。その笑顔にはやりきったと言う満足感と、自分達でも特SS級の魔物を倒せたと言う達成感がありありと浮かんでいた。

戦いは我々が勝利した。その現実をただただ噛み締める。


ーーだが真の現実はとても非情であった。


「「「ガオオオオオ!」」」


唐突に現れた空のシルエット。そのシルエットは次第に大きくなって行き、咆哮と共に遂にその全貌を見せた。


「なっ!?ウィングライガーが3匹だって!?」


「チィッ!もう魔力も体力もねぇぞ!」


現れたのは三体のウィングライガー。恐らく仲間が殺られたのを見て、降りて来たのだろう。


「どうするボルト。わたしたちはもう動けんぞ」


「くそっ、万事休すか……」


ボルトは最早雷帝の斧を構える事も出来ず、シャドも殆どの技の基盤となる《影分身》を行う魔力は残っていない。


「シャド、てめぇとは長い付き合いだったな。あの世でも仲良くしようや」


「ボルト、縁起でも無い事言わないでくれ……とは言え確かにこの状況は絶望的だ。まったく、参ったな」


ボルトとシャドはウィングライガーが迫り来る中、笑い合っていた。言葉とは裏腹にその顔に諦めの色は無く、寧ろ生き残る事を必死に考えていた。


「誰か助けてくんないかねぇ」


「ハハッ、そうだな。神にでも祈ってみるか?」


そして遂にウィングライガーとの距離が目前に迫ったその瞬間ーー。


スパァン!


小気味のいい音と共にウィングライガー達の体が真っ二つに裂けた。


「「は?」」


ボルトとシャドが揃って間抜けな声を出してしまったのも仕方が無いだろう。何せ先程まで自分達はこれと同種の奴を相手に命懸けで戦っていたのだ。そんな化け物と同じ種族の魔物が目の前であっさりと殺されたのだ。驚くなと言う方が無理だというものだ。


「おい、あんた等。これはどう言う状況だ?説明しろ」


そこにいたのは透き通る程美しい銀髪を靡かせ、何やら不思議な形状の剣を片手に持ち、もう片方の手で意識を失ってはいるものの、命には別状は無さそうな【雷鳴の牙】のメンバーを抱えながらウィングライガーの死体を踏み付けている一人の見目麗しい少年がいた。

彼の名はガドウ。災厄指定モンスター白銀竜(シルバードラゴン)の魔人の少年であった。

ようやく主人公登場です!次回はエステル達の戦闘の様子とガドウの本格参戦です!

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