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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
三章 アクウェリウム防衛戦
35/55

アクウェリウム防衛戦役 其の3

お久しぶりです。テスト終わって暇な時間が出来たので更新です。


P.S

久しぶり過ぎて書き方忘れてたので、違和感感じたらどんどんご指摘ください。その度にきちんと修正をしていきます。

時は少し遡る


〜赤影の獣side〜


「うおらぁ!」


「後ろですゲルダーさん!」


「そっちは私に任せなさい!」


「アタイが道を作るよ!」


ゲルダーが率いる男女四人で構成されたパーティ、【赤影の獣】。巨大なバスターソードを振り回すパワーファイターのゲルダーに、回復や補助、時には魔法での攻撃役をもこなすチームの頭脳ペイソン。

弓による遠距離からの援護と、仕掛けられている罠等を見破る盗賊役の細身の女性ミレイに、身の丈程もある大盾を持ち、これまた長い槍を振り回す巨漢の女性ジュラン。

彼等四人で構成されたこのパーティのランクはA。オーバーランクまであと僅かと言うところまで来ているベテラン冒険者である。


「くそっ!キリがねぇ!」


ゲルダーが対峙していたグレンウルフを斬り捨て、その反動を利用しつつ、背後から迫るデビルイーターを薙ぎ払いながら大声で悪態を吐く。


「ゲルダーさん!上です!」


「なっ!?くそがぁ!」


ペイソンの声が耳に届いた瞬間、【赤影の獣】の面々は自身が取れる最高の回避手段を持って全力で回避行動を行う。その直後、背後で雷が落ちたような轟音が響く。


「なっ!?サンダーバードですって!?ゲルダー!ペイソン!ジュラン!無事!?」


即座に体制を整えたミレイは、すぐさま仲間の安否の確認を取る。


「ちっ、なんとかな!」


「無事です!」


「アタイもなんとか回避に成功したよ!」


するとそれに対して方々から仲間達の声が上がる。

冒険者として生きていくとなると、こう言う素早い声の掛け合いがなにより大事となってくるため、ベテラン冒険者達は皆、お互いの安否を何よりも優先して確認し合う。それはゲルダー達【赤影の獣】も例外では無く、声でお互いの位置を確認しあった彼等は、即座に一箇所に集まり、襲来して来た魔物達を相手取る。


「魔物達の攻撃は僕が防ぎます!皆さんは全力で攻撃に回って下さい!」


【赤影の獣】の面々が一箇所に集まっているのに対し、これ幸いとばかりに再び雷を放つサンダーバードの攻撃を、発動させた防御魔法で防ぎながらペイソンがそう声をあげる。


「了解だ!ジュラン、俺とお前で切り込む。ミレイはその援護を頼む!」


「任せな!」


「分かったわ!」


ペイソンの言葉にゲルダーが即座に指示を出し、仲間達が答える前に思い切っり地面を踏みしめて前方に迫っ来ているデビルイーターに向けてバスターソードを振り下ろす。


「くそが!なんつー硬さしてんだよこいつ!」


先程の薙ぎ払いと今の一撃の直撃を受けたはずなのに大した傷を負っていないデビルイーターに向けてゲルダーは吐き捨てるように愚痴を発する。


「元々単体で私達より強い魔物なんだから仕方ないでしょ!《付与矢(エンチャントアロー)》」


ゲルダーの愚痴にミレイが突っ込むを入れながら、デビルイーターに向けて魔力を付与した矢を放つ。その鋭く精確な矢は今まさにブレスを放とうとしていたデビルイーターの口内を捉え、地面に縫い付ける。


「わーってるよ!《破壊の重剣(ブレイクバスター


そこにすかさずスキルによる効果を上乗せさせたバスターソードの一撃を叩き込み、デビルイーターの息の根を止める。


「はん、なんだかんだ言ってアンタ達まだまだ余裕があるじゃないか!《盾潰し(シールドプレス)》《一点突き》」


それに続くよう、ジュランが相手取っていたグレンウルフをスキルの効果を纏った攻撃の連続使用で仕留め終える。


「皆さん!まだサンダーバードが残っていますよ!」


そこに再び落とされた雷を魔法で作った障壁で受け止めながらペイソンが悲鳴に近い声をあげる。


「悪い!直ぐに仕留める!」


「ペイソン!あんたもう少し根性見せなさいよ!」


「ミレイは厳しいねぇ!」


ゲルダー達は各々の武器を構えて未だに雷を落とし続けているサンダーバード目掛けて飛び掛かる。


「《付与矢(エンチャントアロー)・風切り》」


ミレイから放たれた矢は風を纏い、空を切り裂きながらサンダーバードへの狙い違わず向かって行く。しかしサンダーバードも伊達に特Sランク認定されている訳も無く、自分に向かって飛んだ来る矢に気付くや、即座に雷を落とすのを止め、大きく空へと上昇してそれら全て回避する。


「ちっ、厄介ね!」


「ここは僕の出番ですね《ファイヤーボール》」


雷が止んだ事を幸いにペイソンが即座に無詠唱で魔法を放つ。

初歩的な魔法だが、ベテランの魔法使いであるペイソンの膨大な魔力と精密な魔力コントロールによって明らかに《ファイヤーボール》のレベルでは無い威力を持ったファイヤーボールが空高くにいるサンダーバード目掛けて何十発も放たれる。


「ひゅーう、相変わらず馬鹿げてんなぁペイソンの魔法は」


「こら、あんまり油断するもじゃないよゲルダー」


純粋な戦士であるゲルダーとジュランには空中へと逃げたサンダーバードに対して出来る事は少なく、それ故戦闘中だと言うのに軽口を叩き合っていた。ただしその意識の大半は周囲へと向いており、知覚範囲に他の魔物が進入した場合、即座に対処出来るようにと警戒を行っていた。


「ナイスよペイソン!《付与矢(エンチャントアロー)・風切り》」


ペイソンの放ったファイヤーボールの弾幕の前に動きを制限されているサンダーバード目掛けてミレイの矢が放たれる。

放たれた矢は名の通り風を切りながら標的へと接近して行き、ファイヤーボールで動きを牽制されていたサンダーバードの片翼に次々と突き刺さった。


「ゲルダー!ジュラン!今よ!」


「おう!」


「あいよ!」


翼を貫かれた事により姿勢を保てなくなったサンダーバードが、断末魔の悲鳴をあげながら地上へと墜落して行く。

サンダーバードは危険度こそ特S級と認定されてはいるが、それは空中からの攻撃を行うと言う厄介な点と、その馬鹿げた攻撃力の高さを考慮した上での評価であり、地面において機動力を潰された状態での地上戦となると危険度としてはA〜特A級程度の戦闘能力しかない。そのため、ゲルダー達からしたらその厄介な空中戦から地上戦へと引き摺り下ろせばほぼ確実に仕留められるレベルであった。


「とどめだ!」


地上へと引き摺り下ろされたサンダーバードば、ゲルダーとジュランと言う巨漢の人間達に散々嬲られ続けたあげく、遂に力尽きた。

最後の気力を振り絞って放ったと思われる雷は油断なく魔法を唱えていたペイソンによって防がれ、悔し気に一鳴きした後、その瞳から光が消え失せた。


「っだー!疲れた!」


「ちょっとゲルダー!まだ敵はいるのよ!」


「そうだ、気を抜くんじゃないよ!」


「まぁゲルダーさんの気持ちも分からないでも無いですけどね……っと、どうやら一先ずこの周囲にはもういないようですね。魔力を感じませんし」


サンダーバードが息を引き取ったのを確認するや否や、ゲルダー達【赤影の獣】は一斉に地面に座り込んだ。気を抜くな云々を言ってるジュランやミレイですら、言葉とは裏腹に疲労を隠せず、疲れ切った顔で座り込んでいた。


「でも俺達は良くやったと思うぜ?だって格上の魔物達相手に犠牲者無くここまでやったんだからよ」


「ははっ、そうですね。戦闘中は目の前の相手に夢中でそんな余裕無かったですが、こうして一先ずとは言え落ち着いた今考えると、僕達相当危ない橋を渡ってましたね」


ゲルダーが思わずと言った様子で話した言葉に、ペイソンが苦笑しながら応じる。ミレイ達女性陣も言葉こそ発していないが、確かにそうだと頷いてみせた。


「冒険者は冒険しちゃダメだって言葉があるけど、確かにその通りよね」


「ああ。なんか今ならその言葉の真の意味を理解出来た気がするよ」


ミレイの弱々しい声にいつもの豪快さは何処へやらと言った様子のジュランが同意を示す。

確かに彼等が相手していたのは最低でもグレンウルフと言う特A級の魔物であり、それに次いでS級のデビルイーターと特S級に認定されるサンダーバードだ。通常のAランクパーティではまず間違い無く敵わない敵であった。それを傷だらけの満身創痍にさせられたとは言え、一人の犠牲者も出さずにこれらを撃退して退けた【赤影の獣】の実力は推して知るべし。恐らくパーティとしての戦闘能力はSランク冒険者に勝るとも劣らないであろう。


「それにしてもこっちに来ている魔物達が少なくて助かったな。門の近くで【雷鳴の牙】達が抑えてくれているおかげか?」


「そうですね。正直言って彼等のパーティとしての完成度は下手なSSランク冒険者より高いですしね」


「私達が相手をしていた程度の敵なら数分程度で殲滅させれちゃうんじゃないかしら?」


「止めなミレイ。冗談になってない」


【雷鳴の牙】とは現在アクウェリウムに滞在している唯一のオーバーランク冒険者達の集団であり、ランクこそ特Aだが、その実力はペイソンの言う通りSSランク冒険者に匹敵すると言われているアクウェリウム最強の冒険者パーティである。特に【雷鳴の牙】のリーダーであるボルトと言う男は、今現在人類最強の男とされている「破壊王(デストロイ)」相手に勝てないまでも、大きく善戦したと言われている。正直何故そんな男が特Aランク程度に収まっているのかが不明だが、【雷鳴の牙】はそこまで名声に固執していないとされているので、わざわざ面倒な魔物を狩ってまでランクアップの条件を満たそうとしないからであろう。

【赤獣の影】の面々がそんな話をした直後、門の方向で轟音と共に巨大な雷が落ちた。


「うわっ、なんだ!?またサンダーバードか!?」


「いや、違うようです!あれからは魔物のものでは無く、きちんとした人の魔力を感じます!」


「と言う事は丁度今噂をしていた【雷鳴の牙】じゃないか?」


「でしょうね。あれは多分ボルトさんの攻撃よ」


ゲルダーが驚き飛び上がる中、魔力を探知する事に秀でているペイソンがそれを否定し、ジュランとミレイが冷静に雷の正体を分析する。


「そ、そうか……って、おいおい……また魔物達が来やがったぞ」


「はぁ……まぁまだ殲滅し終わって無いし当然でしょうけど……出来ればもう少し休みたかったわ」


「でもどうやら傷を負ってるようですね。数は先程より多いですがこれならまだなんとなりそうです」


ゲルダーの指摘通り、遠くの方から魔物らしき影が大量に見えて来るが、その大半は片足を引き摺ってたり、手の一本を失ってたりと手負いであった。


「どうやらボルトさん達の所から逃げて来た奴等のようだねぇ……あんたら武器を構えな!先手必勝だよ!」


「おう!」


ジュランの言葉にゲルダーが勇ましく立ち上がり、そのバスターソードを肩に担ぎ迫って来る魔物の大群を見据える。


「んじゃ、もうひと頑張りすっか!」


ゲルダーはそう発するやいなや、気合を込めた声を上げながら魔物の群れ目掛けて走り出した。その後を【赤獣の影】の面々が追い掛ける。

【赤影の獣】VS魔物の群れ。第2ラウンドの開始である。


***


〜雷鳴の牙side〜


「てめぇらぁ!根性見せろや!」


「「「応ッ!!」」」


裂帛の気合と共に真正面から飛び掛かって来たグレンウルフを一刀の元斬り捨てながら【雷鳴の牙】のリーダー、ボルト・クライシスは思う。


(ちっ、キリがねぇ!)


【雷鳴の牙】は確かにアクウェリウム最強の冒険者パーティだ。自分達にもその自負はある。だがそれでも所詮は人間の集まり。戦闘が長引けば長引く程、疲労は溜まり、いずれ動けなくなってしまう。


(幸いなのは襲撃を受け突破されている門がここだけって事か……)


ボルトがそんな事を考えていると、後方から仲間の一人の声が聞こえて来た。


「ボルト!左側が抜かれたぞ!」


「抜けてった奴等は放っておけ!ゲルダー達に任せるんだ!」


それに対しボルト短く指示を出し、肩に担いでいた相棒である「雷帝の斧」を構え、目の前の門からわらわらと現れる魔物達目掛けて振り下ろす。


「ふんっ!」


それと共に魔斧である雷帝の斧が持つ特殊能力が解放され、何処からともなく現れた雷が魔物の群れに降り注ぐ。


「ちっ、流石はサンダーバード。自身で雷を扱うとなれば当然それに対する耐性は高いか」


巨大な雷を降らすボルトを危険視した魔物達が一斉に襲い来る中、彼は悪態を吐きながら斧を力任せに振り回す。


「舐めんじゃねぇぞ有象無象の魔物風情がッ!」


振り回される雷帝の斧に捉えられた魔物は、冗談のように切り裂かれ、そこを雷帝の斧が常に放出している雷に焼かれて血すらも流せずに死に絶える。


「ジェイムズ!辺りを水に沈めろ!ロビン!お前は俺様の攻撃を抜けたサンダーバード達を仕留めろ!」



「うわっ、何やるか予想つくわー」


「了解だリーダー」


ボルトの指示に気怠そうな返事を返したジェイムズは、怠そうにしつつもきちんと魔法を唱え、出現した膨大な水を滝のようにして巻き、辺り一帯を水に沈めた。それを確認したロビンはきっちりと言い付けを守り、ボルトの攻撃から抜けて来たサンダーバード2体の首をすれ違い様に斬り落とす。


「悪いが空中は僕の領分だ」


ロビンはその場で何も無い空間を蹴ると、再び迫って来たサンダーバードへと向き合う。それはさながら空中散歩のように軽やかであり、それと同時に人が空を駆けると言う非常識な光景でもあった。


「リュオン、魔法で俺達を浮かせろ!」


「あいよ!」


ボルトの指示に即座に答えたのは優男然とした男性であり、リュオンと呼ばれたその男の周囲から膨大な魔力が放出され、自力で浮かべるロビンを除く全てのメンバーを包み込んだ。


「てめぇら!巻き込まれんじゃねぇぞ!」


言うが早いか、ボルトの持つ雷帝の斧がバチバチと音を立てて雷を纏う。


「おらぁ!」


気合の篭った声と同時に振り下ろされた斧は、空気を切り裂く音すらも置いて行き、纏っていた雷を余すことなく放出した。


ビシャーーーーンゴロゴロ!!


天災と見紛う轟音と共に空から巨大な雷が降り注ぐ。その雷は進路上にいた魔物を全て巻き込みながら落ち、水に浸された地面に着弾すると、その水を伝い、まだ外にいた魔物達をも黒焦げにしてしめた。


雷を自在に操る自身のスキルと、「雷帝の斧」が持つ発雷能力を合わせた【雷鳴の牙】のリーダー、ボルト・クライシスの必殺技《雷帝の鉄槌》。地上の一部を黒焦げにしたその攻撃を間近で見た生き残った魔物達は僅かに後退し、暫しの間攻めあぐねる。


「ひゅーう、相変わらず馬鹿げた威力だなお前の攻撃は」


リュオンが空から焼け焦げた地面を見下ろしながら愉快そうに笑う。そんなリュオン目掛けて運良く攻撃を逃れたサンダーバードが襲い掛かるが、無詠唱で唱えられた魔法で難なく撃墜される。


「悪いね、俺を襲って良いのは可愛い女の子だけなんだ♪」


リュオンは墜落して行くサンダーバードにパチンとウィンクをすると、即座に興味を失ったかのように、他の残っている魔物達へと視線を向ける。


「さぁて、と……暴れますか!」


リュオンは空を駆けるように移動をし、魔物と争っている仲間の援護に向かった。


ーーーーーーーーーー

ーーーーー


「ディザスターリザードか……素早い動きが得意らしいが……わたしを捉えられるか?」


門の外の地上の一角。4体もの巨大な蜥蜴のような魔物、ディザスターリザードに囲まれているのは一人の黒づくめの男性。彼が何やら唱えると、その姿はたちまちに幾つにも分身し、同時に疾走を開始した。


「《影分身》《殺戮の舞》」


黒づくめの男性の名はシャド。【雷鳴の牙】の最後の一人にして、ボルトに次ぐ実力を持つ【雷鳴の牙】のサブリーダーである。


「あのリーダーの馬鹿げた攻撃も流石にここまでは届かない……仕方ないからワタシが相手をしてやろう。楽に死なせてやれなくて申し訳ないが、それは自分の不幸を嘆くんだな」


シャドは、そう言いながら自分を囲うディザスターリザードを更に囲うようにして分身を展開させ、スキルを纏った攻撃でディザスターリザード達に反撃の隙すら与えずに命を刈り取った。恐らくこのディザスターリザード達は何がおこったか理解出来ずにひたすら痛みだけを感じて倒された事だろう。

倒れるディザスターリザードを視界の片隅で捉えながら、シャドは自分が感じた違和感についての考察を行った。


(おかしい……ここまで仲間を倒していると言うのに確認されたと言うSS級以上の魔物が現れ無い……それに魔物達の動きも何か変だ……)


「嫌な予感がするな………」


シャドは自分の勘が告げる警笛に従い、リーダーであるボルトに連絡を入れた。


『ボルト、敵の動きがおかしい。さっきまでは取り敢えず突撃のようだったが、今の奴等の動きはまるで時間稼ぎをしているようだ』


『なんだと?見間違いじゃ……いや、分かった。何かを狙って動いているのかもしれないな。念のためお前もさっさと戻って来い』


『了解だ、リーダー』


通話用魔法《念話》。各々が離れていたとしてもいつでも話せるようにするための有名な魔法である。

冒険者と言う職に付くものは大抵覚えているこの魔法は、お互いの同意の上であればいつでも相手と会話ができる。それは冒険者と言う仕事は何よりも仲間との連携が大切だからだ。密に連絡を取り合う事で少しでも生存率を上げると言う考えは確かに冒険者にとっては大切な事だろう。


「《退魔陣・迦具土》」


シャドは念話を切ると、辺りを見回して他の魔物達の様子を確認し、大きな魔法を発動させた。


「特A級以上の魔物の群れに何処まで効くか分からないが……無いよりはマシだろう」


シャドが発動させた《退魔陣・迦具土》は、領域魔法と言う種類の魔法で、術者の任意で領域を区切ると言う特殊な魔法である。魔物の視点で言うと所謂ユニークスキルのような物だ。

シャドが魔法を発動させると、高さ100メートル以上はある巨大な炎がボウッと音を立てて立ち上り、魔物達とアクウェリウムを両断するように立ち塞がる。


「さてと、ボルトの元へ急ぐか……」


魔法の発動を確認したシャドは、地面を蹴って凄まじい速度でアクウェリウムへと駆ける。

道中には黒焦げた魔物の死骸が大量に転がってたので、恐らくここら一帯の魔物は先程のボルトの攻撃により全て死んでいるか、手負いになっている事だろう。

迦具土はきちんと機能しており、今回の襲撃に参加している魔物達の中で、唯一空を飛べるサンダーバードと特A級に指定されている四つの翼を持った巨大な鴉のような姿をしているファストクロウだけが空を飛んで迦具土を超えて行く姿がちらほらと見受けられるだけであった。


(急ぐか……いや、あの程度ならあいつらだけでも余裕だろう……)


シャドは冷静に状況を分析し、そのまま自身の最高速度でアクウェリウムへと駆ける。


ーーーーーーーーーー

ーーーーー


ここまでの様子を見ればこの【雷鳴の牙】と言う冒険者パーティがランク通りの実力では無いと言うのが分かって貰えると思う。

彼等のランクは特Aランク。世間一般では新米オーバーランク冒険者と言われるランクだ。しかし、彼等の姿を見ているととてもじゃないが特Aランク程度の実力では収まらないと言うのが分かるだろう。客観的に分析するなら、特S級指定のモンスターであるサンダーバードやディザスターリザードを片手間に殺害すると言う点から、最低でもSSランク冒険者以上の実力を持っている事は自明の理である。では何故彼等はそんな実力を持っているにも関わらず、特Aランクと言うランクに収まっているのか。それはひとえに彼等のスタンスが影響する。

【雷鳴の牙】のスタンスは「人生、自由気儘」。楽しめればそれでいいという物だ。


ーー 金?そんなの遊べるだけありゃいい


ーー名声?そんなの犬に喰わせとけ


ーー地位?そんなの縛られるだけだろう


ーー人生?そんなの楽しんだ者勝ちだろう!


そんな考えを持つ者達が自然と集まり、自然と意気投合し、自然と仲間になった。それが冒険者パーティ【雷鳴の牙】である。


破壊王(デストロイ)】のように貪欲に強さを求め、ひたすら強者を求めるのもまた一興。だが【雷鳴の牙】は自分と自分の仲間、そして自分達の住処を護れればそれでいいと言う。だが、寧ろそう言うスタンスだからこそ【雷鳴の牙】はここまで強くなれるのかもしれない。


それをしっかりと成し、真っ直ぐに自分を貫いている男がボルト・クライシス。彼の元には同類の仲間が集まり、彼の元で一つとなり出来たそれが【雷鳴の牙】。そして今、彼等の元に死神が舞い降りる。


ーーーーーーーーーー

ーーーーー


「ガオオオオオッ!!」


特SS級指定モンスター、ウィングライガー。獅子のごとき強靭な肉体に、蛇のような長い尻尾を生やし、同時に虎のごとき俊敏さと背中に生えた巨大な翼を使った空中戦闘能力を併せ持った人間界屈指の魔物である。


「ちぃっ!今まで姿が見えなかったのは空にかかってる雲に隠れてたからかっ!」


ボルトは派手な音を立てて地上へと降り立ったウィングライガーを忌々しげに睨み付けて悪態を吐いた。


「だるそうな奴が来たな……」


「どうすんのリーダー?」


「うわー、ウィングライガーとか実物初めて見たわ」


現れたウィングライガーに【雷鳴の牙】の面々は気持ちを引き締める。彼等の様子は表面上こそいつも通りではあるが、その声には若干震えが混じり、その表情からも余裕が無くなっている。

単純な実力だけを考えれば彼等とウィングライガーは互いに互角に張り合えるだけの実力を持っているだろう。だが【雷鳴の牙】は特Aランクパーティ。特SS級の魔物との戦闘経験なんて皆無であったのだ。経験と言うのは何事に対しても大切なことであり、それは常に命の危険と隣り合わせにある冒険者からすれば尚更である。経験の有無は実力以上の差を生む。それ故に彼等【雷鳴の牙】も迂闊な事は出来ない。


「ああ?んなの決まってんだろ」


だがボルトだけは違った。彼は相棒の雷帝の斧をきつく握り直し、瞳に猛々しい光を携え、獰猛な笑みを浮かべながら言い放つ。


「あいつをぶっ殺して俺達の街を護るんだよ!」


「ふん、お前ならそう言うと思ったよ」


ボルトが力強く言葉を放った瞬間、ウィングライガー目掛けて大量の黒い影が襲い掛かった。


「《束縛の舞》」


「ガオオオオオン!?」


大量の黒い影はウィングライガーに激突するや否や、自身の姿を鎖のようなものへと変形させ、お互い舞を踊るような動きで複雑に繋がり合う事でウィングライガーの自由を奪う。


「てめぇ、遅れて来やがったくせに先手を取んじゃねぇよ!」


ボルトは降り立った人物、シャドに向けて挑発的な笑みを浮かべながら文句を言う。


「わたしに外での戦闘を指示したのはお前だろうに……ふん、まあいいやるんだろ?」


「当然!」


「マジかー……だりーな」


「そんな事言うなよジェイムズ。しゃきっとしないと僕がいいところ全部持ってちゃうよ?」


「はぁ、こいつ相手した後の暫くは可愛い女の子と遊べないなー」


サブリーダーのシャドの登場とリーダーのボルトの言葉で、【雷鳴の牙】の面々は言葉とは裏腹に闘気を震わせ各々の得物に力を込める。


「やるぞてめぇら!俺達の大切な街、護ってみせようぜ!」


「「「「応ッ!!」」」」

次話は遂に主人公の出番……かも?

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