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子竜の進む異世界成り上がり  作者: 夜桜
二章 進出、人類領域
30/55

強さ

「死ね!」


フウガの鋭い爪が俺に振り下ろされる。


「断る!」


俺はそれを竜神刀で防ぎ、もう片方の手に持ったシュヴァルツ・ヴァイスの引き金を引く。


「ちっ!」


フウガはそれを腕をクロスさせる事でガードをした。すると、不意を突きたかったのか背後からアルフレッドが気配を殺して急所である喉を狙ってナイフを繰り出して来た。


「気付いてるんだよ!」


だがアルフレッドの動きは全て全把握できっちり捉えてあるため、背後を振り向く事無くシュヴァルツ・ヴァイスを肩口に引き金を引いた。


ズガンッ!


フウガの時とは違い確かな手応えを感じさせる音に俺はニヤリと笑みを浮かべ、誰に言うともなく呟いた。


「まずは一人……」


「アルフレッド!」


俺の声に反応をしたのはシシルであった。

シシルは先程も見せた混沌魔法に似た魔法を発動させた。すると俺の後ろで倒れていた筈のアルフレッドがシシルの真横に現れた。どうやらアルフレッドはシュヴァルツ・ヴァイスの一撃をギリギリで急所から外したらしく、吹き飛ぶ筈であった頭部の代わりに左手の肩から下が無くなっていた。


「ホッホッホッ……油断しましたぞ……ですが……むん!」


アルフレッドが左手の失った部分を抑えながら何やら魔法を発動させると、みるみるうちに失った筈の部位が再生した。


「ふん、回復能力持ちか。だが燃費は良くなさそうだな。お前の魔力、随分と減ったぞ?」


「皆さん気を付けて下さい。あの小僧は中々強いですぞ」


アルフレッドは俺の言葉に答える事は無く、大きく後退して行き、遠巻きに様子を伺いなが仲間に忠告を行った。


「これでも喰らってなよ〜♪」



アリアンネが遠くから何やら気のような物を放って来た。

俺はそれを魔力と竜覇気を纏った片手で受け止めて握り潰し、僅かに驚いた。


「へぇ……これは覇気か。珍しいな技を使うな」


覇気


これは俺の使える竜覇気やトウテツを喰らって獲得した獣覇気と同様の物である。ただ俺が使うのと違うところはそれを魔法のように飛ばして来たと言うところである。

通常、覇気は相手を威圧したり逆に相手の威圧に対抗したりする為のスキルだ。実際俺もトウテツと戦った時は常に竜覇気を纏ってトウテツの獣覇気に対抗していた。

だがアリアンネと言う女はその覇気を魔法のようにして放って来たのだ。

覇気はその特性上物理的な質量は持たない。その為魔法や物理攻撃での対抗は不可能なのだ。

俺は受け止める寸前に魔力を纏っただけでは防ぐ事は出来ないと直感し、咄嗟に竜覇気も纏う事で攻撃を防いだが、普通の場合ではあの一撃は間違いなくダメージを与えられる攻撃であっただろう。


「これも防ぐんだ♪驚いたよ〜♪」


アリアンネもまさか防がれるとは思っていなかったようで、いつも通りの口調ではあるが若干声が上擦っている。


「私達の事」


「忘れちゃいねぇか?」


すると左右からフウガとシシルが襲い掛かって来た。


「《カオスボム》!」


「《風雷爆爪》!」


「そんな力押しの攻撃が効くか!」


シシルが放つ薄い黄色と薄い黒をした爆弾のような物をシュヴァルツ・ヴァイスで撃ち落とし、フウガの魔力を纏った爪による攻撃を同じく魔力を纏った竜神刀で受け止め、ついでにと受け流しの要領でフウガをシシルの方向へといなす。


「きゃっ!」


「ぐあっ!」


いなされたフウガはその突進力故に見事シシルへと激突し、縺れ合いながら盛大に転がって行く。


「ぐっ、このガキ強ぇ……」


「えぇ、少し侮っていたわね……」


「申し訳無い、ワシの魔力はまだ回復仕切っておりません故、何も出来ませぬ……」


「ちょっとやばいね……」


四人の思わずと言った様子の呟きを聞きながら俺は四人の能力を分析していた。


(フウガはただの攻撃馬鹿だな……とにかく攻撃しまくれば良いと思ってる典型的な奴だ。自慢だろう動きの速さも超思考でスローモーションに見えている以上、問題にはなら無い。

シシルのあれは混沌魔法の劣化のような物か……カオスマジックとでも言うかな。どうにせよあの程度の魔法なら回避も防御も容易いし、恐る程の物じゃないな。

アルフレッドは回復能力持ちのようだが……俺の背後に忍び寄って来たあれを考えると隠形系のスキルも持ってるだろうな……だが肝心の魔力の量は大した事は無いようだ。魔力の回復の速度を考えると傷の治癒特化の系統の物か……。

この中でははっきり言ってアリアンネが一番手強いな……覇気を飛ばして来られるとこちらも覇気を纏わないと対抗できないため隙を突かれたら間違いなくダメージを喰らってしまう……だがあの装備と接近して来ないのを見ると恐らく打たれ弱いみたいだな。覇気による攻撃も遠距離だけだしな)


相手の今までの動き、能力、思考。その全てを計算して導き出した答え。


「お前達じゃ俺には勝てない」


俺はこちらの動きを伺っている四人に向けて堂々とそう言い放った。


「なめんなよガキがっ!」


「貴様……手加減してやっていれば調子に乗って!」


「ホッホッ……小僧が生意気を言いますな」


「あんた、絶対許さない!」


すると彼等はあっさりと挑発に乗り、四人一斉に襲い掛かって来た。


(おいおい……挑発したのは俺だが、こんなあっさり引っ掛かるのかよ……)


チラリとグランの方を向くと、彼もやれやれと言った表情で俺に迫る四人を見ていた。


(グランのあの様子からすると、あれはフェイクでもなんでもなく、本当に引っ掛かってやがるな……)


彼等は確かに強い。それこそグランの言う通り俺と同等の能力はある。しかし彼等には決定的に戦闘の経験が足りない。

長く生きている分、それなりに経験をしているのだろうが、だがその経験も精々グランの城の近くに現れた知能の低い魔物を処理する程度のものなのであったのだろう。俺のように常に自分より格上の相手と戦い続けた相手からすれば動きには無駄が多すぎ、魔力の伝達の効率が悪すぎと稚拙もいいところだ。

唯一褒める事が出来るのは長年一緒にいたことによる連携能力の高さだが、それも無駄な動きや俺の超思考によって大したアドバンテージにはなり得ない。


結果。


「「「「なっ!?」」」」


俺は全身を魔力纏換を使って覆い、フウガの爪による攻撃を竜神刀で、シシルのカオスマジックを纏った魔力で、アルフレッドの素早いナイフ攻撃を口で、アリアンネの覇気を纏った攻撃を先程同様片手でと全てを完全に防いだ。


「だから言ったろ?お前達じゃ俺には勝てないって」


「がっ!」


「ううっ!」


「ぬぅ!」


「うぐっ!」


攻撃を防がれた事の驚きで一瞬動きが止まった四人を回転しながら竜神刀で斬り裂き、纏った魔力を放ち、口で受け止めたナイフを媒介にして《嵐魔法》を《魔力転移》とにて発動させ、覇気を練り込んだ魔力をシュヴァルツ・ヴァイスで放ち全員に反撃を行った。


「《白キ天雷ノ業》」


それにより怯み、大きな隙を見せた四人にすかさず情け無用の追撃を仕掛ける。


「終わりだ」


白キ天雷ノ業にて作り出した氷に四人を閉じ込め、身動きの取れなくなった彼等にトドメを刺す。

俺は地面に手を付き、氷漬けの四人に狙いを定め《振動》を発動させた。


「「「「ーー!?!?」」」」


四人を閉じ込めた氷に地面を伝い《振動》が伝わり、氷に巨大な振動が起こる。やがて振動により氷にはヒビが入って行き、そして遂に氷の許容範囲を越えた振動が氷を内部から破壊する。それに巻き込まれた四人は振動によるダメージと氷の破壊に巻き込まれたことによるダメージを受け、弾き飛ばされた。

弾き飛ばされた四人はそれぞれ近くの岩や木に思い切り叩き付けられ、その意識を手放す。


「もう少し能力の工夫と戦闘技術を磨いてから出直して来い」


向こうは全員気絶。対してこちらはほぼ無傷。完全な勝利である。

俺は意識を失った四人を一瞥し、そうとだけ告げて竜神刀を鞘に収めた。



***


「アハハハッ!やっぱりガドウは強いね!僕も見てて楽しかったよ!」


「はぁ……こっちは連戦で疲れたっての……」


戦闘を終えた俺は先程までグランの話していた場所に再び座りながら新たな果実水を飲んでいた。その向かいにはグランが当然のように座り、同じ様に果実水を煽っている。勿論その果実水は俺のだ。


「グラン、お前ならあいつら程度一瞬で止めれただろうに……まったく、俺に面倒事を寄越しやがって」


グランの横には俺が気絶させた四人が雑に転がされている。先程グランが回収して来たのだ。


「アハハハッごめんごめん。ガドウの戦いをもう少し見たくてさ♪」


グランはまったく悪びれた様子も無くそう言って果実水に口を付ける。


「お前な……」


なんて自由な魔王様だ。俺は思わず溜息を吐き、同じように果実水に口を付ける。


「でもまぁ僕の部下が迷惑を掛けたわけだし、これは貸し一つって事でどうかな?僕こう見えてきちんと借りはきちんと返すよ?」


ケラケラと笑いながら話すグランは本当に子供のようだが、こいつは本当に一万年以上の時を生きている。そんな奴が態々貸し一つと言って来るのだから実際いつかきちんと返してくれる事だろう。それに俺としても最強の魔王に貸しを作れるのだから断る必要は無い。


「はぁ、分かったよ。それでいい。だけどきちんと返せよな?」


「勿論♪」


グランは俺の返事に満足そうに頷き、徐に立ち上がった。


「ん?どうした?」


疑問に思い問い掛けると、グランはニコリと笑ってそろそろ帰るよと告げた。


「部下が言った通り僕は勝手に城を抜け出しているわけだし、これ以上帰るのが遅くなるとこんどこそ幹部達が来ちゃうからね」


あいつらは怖いからなーと言いながらグランは四人を何らかの方法で浮かべ、前方に巨大なゲートを開いた。


「ワープゲート。これは一度行った所なら何時でも行けるようになる魔法だよ。目的の場所にポイントを付けて無いといけないけど、それでも結構便利なんだ♪」


何だこれ?と言った俺の表情を読み取ったのか、グランは笑いながら答えてくれた。


「へぇ、そりゃ便利だな」


「でしょ♪」


俺の素直な賞賛にグランは楽しそうな反応をし、それじゃあねと言ってゲートを潜り抜けた。

そんなグランを追い、気絶している四人もふわふわと浮かびながらグランの開けたゲートを潜り抜けて行った。


「……ふぅ」


ゲートが閉じると、グランの気配も四人の気配も無くなり、この場は俺一人の空間となった。

漸く面倒事が消えた事に安堵の吐息を吐き、残っていた果実水を一気に流し込む。


「俺もさっさと帰るか……えーっと、無限廻廊までの移動とトウテツ戦で1週間と少し、その後の進化で3日、無限廻廊を出た所での一泊、そしてそろそろ夜になる事からグランビエルに帰れるのは明日か……計12日、約2週間か」


これなら出発前に考えていた時間より早く帰れそうだ。


「さて、と……今日はもう寝て明日の朝早くに発つとするか……」


俺は《幻想魔法(ファンタジアマジック)》と《闇魔法》で自分の姿と気配を極限まで消し、全把握をフル活用しながら眠りについた。寝床は《白キ天雷ノ業》で作り出した氷のベット。ひんやりしていて中々気持ちいい。勿論溶けないようにコーティングしてある。


「帰ったら新たに獲得した能力をもう少し詳しく調べるとしよう……」


その呟きを最後に、俺の意識は静かに夢の中へと落ちて行った。


***


〜グランside〜


「う、う〜ん……?」


「アハッ、目が覚めたようだね♪」


「ハッ⁉︎」


シシルは頭上から聞こえた聞き覚えのある声にハッとして覚醒した。


「あ、あれ?グラン様?あの生意気な小僧は何処に?あっ、グラン様が片付けてしまったとか?そして私達はそれにより気絶してしまったのですか?」


目が覚めたシシルは堰を切ったように語る。それに反応したのか、他の三人も続々と目を覚まして各々、現状の把握に勤しんだ。


「あー……俺は今まで何してたんだっけ?」


「おお……こ、腰が痛いですぞ……」


「なんか頭がグラグラする〜……」


目を覚ました三人は起きた後も少しぼーっとしていたが、直ぐに正気に戻りシシル同様グランの元で跪く。


「グラン様、申し訳ありません。貴方様のお手を煩わせました……」


「このアルフレッド、一生の不覚でございます……」


「如何なる罰もお受け致します」


「弁明の言葉などありません……」


四人はグランの元で跪きながら口々に自らの無能を嘆き罰を受ける事を承認する。


「んー、君達何か勘違いしていない?」


そんな四人の家臣の態度に違和感を感じたグランは、首を傾げながら今もなお跪いている四人に問い掛ける。


「は?あのガ……小僧はグラン様が処分したのでは?」


「我等は自らの力不足によりその時のグラン様の攻撃に巻き込まれてしまったのではないのですか?」


フウガとシシルがそう言うと、グランは一瞬キョトンとし、次の瞬間には破顔して大声で笑い出した。


「プッ、アハハハ、アハハハハハッ‼︎」


「グ、グラン様?」


「私共が何か変な事を言ってしまいましたか?」


アルフレッドとアリアンネがそんなグランの様子に戸惑い、声を掛けた瞬間、グランから物理的圧力を持っていそうな程濃密な殺気がブワッ!っと溢れ出した。


「ぐ、くぅ……」


「が、かっ……」


「うぐぐっ……」


「ハッ、ハッ、ハッ!」


そんな殺気を直接ぶつけられた四人は地面に縫い付けられたように倒れ込み、指の一本ですら動けなくなった。アリアンネに至っては呼吸困難に陥ってすらいる。


「お前達、それ本気で言っているのか?」


「グ、グラン様?」


グランの問い掛けに代表としてシシルが何とか声を引き絞るが、グランの発する威圧は弱まる事は無く、寧ろ強まったとさえ言えるだろう。

グランからすれば今の反応だけで答えは十分だ。

グランは発していた威圧を消し、ゆっくりお話し始める。


「ガドウにやられたのは君達の方だ。君達一人一人の力はガドウと互角な筈だ。それなのに君達は四人掛かりで戦ってその上で圧倒されて負けたんだよ」


威圧が解除された事で思わず息を吐いていた四人は、グランの言葉にまさかと言った表情になる。


「どうやら君達は本当にガドウに負けた事に気付いていないようだね。まったく無様だとしか言えないよ」


「お、お許し下さい……」


シシルがそう言って頭を下げるが、グランはそれをつまらなそうに見ながら話を続ける。


「君達は自分の実力を過信し過ぎていたんだよ。君達は自分の身体能力やスキルをまったく使いこなせていない。ガドウは分身でかなり弱体化しているとは言え《宇宙魔法》までコピーさせていた僕を倒しているんだ、君達程度じゃどう足掻いても勝てるわけないでしょ?」


グランは未だに肩で息をしている四人を一瞥し、話を続ける。


「この時点で君達とガドウでは確固たる実力の差が出ているんだよ。身体能力や魔力とか関係無しでね」


肩で息をしながら首を傾げる四人にグランは内心溜め息を吐き、答えを告げた。


「ガドウなら僕が威圧を行ったら直ぐに対応して来る。いや、寧ろ対応と同時に鋭い一撃を放って来るだろうね。君達が僕と戦ったとしてこの威圧に対応出来るか?反撃出来るか?出来無いだろう?それが君達とガドウの差だ。それぞれの強さなんて関係無い」


グランの言葉に四人は俯き、歯を食いしばって己を叱責する。


「分かったかい?自分達がどれだけ愚かだったかと言う事が。相手の強さを正確に読み取ると言う事の重要さと戦闘技術の重要さを」


グランの問いに無言で頷く四人。グランはそれを見て一つ頷いた。


「うん分かったならいい。もう下がっていいよ。これからの自分の課題を見付けて修練に励むんだよ」


いつもの調子に戻ったグランに四人は内心ホッと息を吐き、一つ礼をして今までいた部屋から退室した。

一人残ったグランはガドウの顔を思い浮かべ、楽し気な笑みを浮かべた。


「アハハハッ、ガドウ、君は一体何処まで成長するのかな?」


グランの頭には最早四人の事は無く、代わりに子竜ガドウの今後の成長について考えながらゆっくりと目を閉じた。


「ガドウ、君なら僕のいる高みまで上がって来ると信じているよ……」


グランは最後にククッと笑い、暫しの休息を取る為にゆっくりと眠りに就いた。


これにてこの章の主な話しは終わりです!後はガドウの街に帰ってからの後日談をちょいちょいやったらこの章は終わりです!お楽しみに!

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