オーバーランク
眠気と戦いながら書いたので、変なとこあるかもです。もしお気付きになりましたら是非ご指摘お願い致します。
冒険者ギルドにある一際立派な扉の前に俺はいた。エステルに呼ばれているのでやって来たはいいが……これどうやって開ければいいんだ?
俺の前にある扉は取手も何も無く、ただ真ん中に何か変な文様があるだけで、どうやって入ればいいか全く分からない。
「どうぞ」
取り敢えずノックをしてみると、中からエステルの声が聞こえた。どうやらきちんとこの扉が執務室とか言う部屋で間違い無いようだ。
「……」
「どうしたんだい?入ってもいいんだよ」
ノックしたはいいもののやはり入り方が分からない。だがここでエステルに開けて貰うのは何か嫌だ。……よし壊すか。
「入るぞ」
ドゴンッ!
鈍い音を建てて俺の前にあった扉は吹き飛び、エステルと書類を巻き込みながら奥の壁ぶち当たった。
「……痛いのだけど」
「扉の開け方が分からなかった。悪いのはそのめんどくさい扉だ。文句は一切受け付け無い」
エステルが扉が直撃した頭を抑えながらよろよろと立ち上がり、こちらにジト目を向けて来る。それに対して俺は全く反省する素振り無く素っ気なく答えた。そもそも開け方が分からないような扉を設置している方が悪い。まったく、世間知らずにもっと優しくして欲しいものだ。
「この扉はここに魔力を流すだけでいいんだよ。と言うかそれ以外ではどうやっても開かない筈なんだけど……まさか物理で破壊するとはね……君は本当に何者なんだい?」
エステルは壁にぶち当たって落ちた扉を手に取り、変な文様を指差す。
「そんなの知らんな。壊れたもんは壊れたんだ。ここで何を言おうが、結果として破壊出来ているのだしどうでもいいだろう。それより要件はなんだ?折角日課のトレーニングをしていたのにお前が呼ぶからまだ途中なんだが?」
「どうでも良いって……これ、改良された同じ性質の物が色々な所で使われているんだけど……まあいいや。
さて、要件だけどさっき私と闘う前に言っていた件なんだが……覚えてるかい?」
エステルの問いに俺は首を傾げる。はて闘う前?何か言ってたっけな?うん、闘いに夢中になり過ぎて覚えていないな。
「はぁ……その様子だと覚えていないようだね」
エステルはため息を吐きながら呆れたと言うかのように此方に視線を向ける。
「おう、何だその目は。ぶん殴るぞ」
その視線にちょっとムカついたので此方も睨み返してやると、エステルはまたため息を吐いて視線を逸らす。
「君と言う奴は……戦闘時とギャップが違い過ぎて対応に困るよ……。まあいい、取り敢えず君にこれを渡すよ」
そう言って差し出されたのは、一枚の黒いギルドカード。否、漆黒と表現すべき程の深い黒。まるで昔の俺の鱗のようだ。
ギルドカードには大きく分けて2つの種類がある。先ず新人冒険者が登録した時に貰える手のひらサイズの物。ランクが上がって行くとそこに浮かんでいるランクを示す値が上がって行く仕組みだ。
次に今俺の前に出されたギルドカード。これは特Aランクから支給される物であり、今までのギルドカードとは違い一つ一つにランクが刻まれている。これはランクが上がる度に別のカードが渡される仕組みだ。
この二つ目のギルドカードは、それぞれ色で分けられており、下から深紅、真紅、黒、漆黒、銀、金、白金、虹となっている。このカードを持つ者はオーバーランク冒険者と呼ばれ、色々な場所で優遇され、数多の冒険者からは羨望の眼差しを受ける事になる。
「ああ、思い出した。元特Sランクの私に勝てたら〜とか言う奴か」
「思い出して貰えて光栄だよ。つまりはそう言う事。君は元特Sランクの私に勝ったので、能力は特Sランク以上あると判断した。おめでとう、これで君もオーバーランク冒険者だ。これによってオーバーランク冒険者以上の人しか入れ無いギルドの資料室にある資料を特Sランクまで観覧出来るようになったよ」
「なんだと?」
軽く流そうとしたエステルの賛辞に聞き逃せ無いところがあった。
今エステルは何を言った?資料室と言ったのでは無いか?
「エステル、質問がある。その資料室には”魔王”に関する情報はあるか?」
「な、何だい突然?確かに特Sランク資料の中に魔王に関する資料は幾つかあるが……」
突然雰囲気の変わった俺に気圧されるかのように一歩体を引くエステル。だが今の俺にそんなのを気にする余裕は無かった。
(ならばその資料からヴェへムートの情報を得られるかもしれないな。あいつだけは何があっても俺がこの手で殺さないと気が済まない)
「ガ、ガドウ君?」
「あ?……ああすまない。ちょっと考え事をな……」
どうやら感情的になり過ぎていたようで、エステルを怖がらせてしまった。
彼女の少し震えながらも気丈に振舞おうとする姿をちょっと可愛いと思ってしまった。不覚!
「にしてもお前、実はかなりの臆病者なんじゃないか?この程度で少し怯え過ぎだ」
「いや、まあそう言ってみればそうだね。私が昔冒険者やっていた時は戦闘員と同時に盗賊役もやっていたからまだ少しその時の感覚が残っているんだよ」
確かに盗賊職は少し臆病者の方が向いているな。昔父さんから聞いた冒険者の話でも盗賊職の者は臆病者だったし。それに常に死と隣り合わせの場所にいた俺だから分かるが、強力な敵と遭遇した場合は臆病者の方が生き残る可能性が高い。
エステルは何処か照れたような仕草で過去の話をする。その表情は晴れやかで、彼女がどれほど過去を大切に思っているかが分かる。
「そう、か……いいもんだな過去をそんな大切に思えるなんてよ。……さて、じゃあ俺はそろそろ行くな。まだトレーニングも終わって無いし、資料室にも行ってみたいしな。カードはありがたくいただいてく」
俺はそう言ってエステルに背を向け、執務室から出ようとする。
「ああ、もう少し待ってくれないか?もう一つ渡さないとならない物があるんだ」
「まだ何かあるのか?」
仕方ないので再度エステルの方へ向き直ると、彼女は姿勢を直しコホンと一つ咳払いをした。
「オーバーランク冒険者となると名前が一気に知れ渡るんだ。だからオーバーランクになった冒険者には”アナザーネーム”と言う物が付けられるんだよ。まあ所謂二つ名って奴だね」
「アナザーネームねぇ……まあ付けられるだけで特に害は無いんだろ?ならさっさと付けてくれ」
俺はそう言って興味無さげな表情を作る。実際人の世界での呼び名などに特に興味も無いし、そもそも二つ名が付けられる事なんて態々気を張るような事じゃないしな。
「うん、そう言うと思ったよ。だからもうこっちで決めてあるんだ。君のアナザーネームは【斬滅】だ。斬滅のガドウ、ふふっかっこいいじゃないか」
「斬滅ねぇ……どう言う意味でこの名前になったんだ?」
「君は私の最高魔法までもその武器一つで斬り裂いただろう?だから”全てを斬り裂き、滅する”と言う意味でこの名前にさせてもらった。勿論その後、他の人々に別の呼び名で噂されるようになったのならそのアナザーネームも使える。
現最高ランクの冒険者であるアラン君も【破壊王】と言うアナザーネームの他に【狂人】とか【戦闘狂】とか言うアナザーネームを持っているしね」
エステルの説明に俺はなるほどと納得する。実際にはシュヴァルツ・ヴァイスとかも使うんだが、まあ悪く無い。
「了解した。ならこれからは【斬滅】のアナザーネームを使って行かせて貰おう。じゃあ今度こそ下がらせて貰うぞ」
「うむ。これからの君の活躍に期待しているよ」
そして今度こそ俺は執務室を後にした。とにかく先ずは資料室で魔王ヴェへムートの情報を集めるとしよう。トレーニングは何時でも出来るしな。
俺はリリアから資料室の場所を聞き、教えて貰った場所へ向かった。因みに扉はまたあのタイプだったが、エステルから開け方は教えて貰ったので今度はきちんと開けた。
***エステルside〜
「ふぅ……」
私は座っている椅子の背もたれに体重を掛けた。
「やはりガドウ君はかっこいいな……」
そんな事を考えていると、先程の彼の表情が脳に浮かび上がって来た。
「だけど、あの激情はなんだったんだろう?」
彼は隠しているつもりのようだったが、あそこまで濃厚な怒りの感情は表情に出され無くとも雰囲気で分かる。そしてガドウ君が興味を示したのは魔王と言う部分。
「魔王、か……」
この世界に現在存在する魔王の数は現在10体。若い順にシャドーの魔王ヴェへムート。アンデッドの魔王ジュラハーン。魚人の魔王サハデーヴァ。ガルーダの魔王アカーシュ。エルフの魔王シルフェ。これらがここ2000年で魔王となった者達の名である。恥ずかしい事に我らエルフ族からも闇に堕ち、魔王となった男がいる。……まぁそれは今は置いておこう。ここから語るのは上位四人の魔王と、現在最強の魔王だ。彼等は進化した種族も高ランクであり、偶然ではなく自力で魔人、魔王にまでなった者達だ。奴等は下位の魔王とは文字通り桁が違う。
グレータータートルの魔王アクトゥル。グレンウルフの魔王ヴォルフ。シーサーペントの魔王アルマ。そして人族の魔王リュウヤ・ケンザキ。彼等は皆特A級以上の、冒険者で言うオーバーランクの魔物から進化した存在……所謂魔物達のエリートである。だが一人、人族の魔王リュウヤ・ケンザキ。彼だけは違うがね。
古い文献によると彼は3000年程前に起こった人類と魔王の大戦争で、人類側が勇者として異世界より召喚した者だ。
彼は召喚された後、怒涛の勢いで成長して行き、当時15いた魔王のうちの半数の7体をその手で屠り、人類に勝利を齎した。
勇者として召喚された者達は他にもいたが、7体もの魔王を滅ぼすと言う偉業を成し遂げたのは彼だけであった。世界は彼こそ人族最強の勇者と崇め、讃えた。
彼は大戦争の後、仲間と別れ一人で旅に出掛け、その後行方不明となったとされる。いや、”なった筈だった”。だがその約1000年後。今から約2000年程前に再び起こった戦争にて、当時の人類で伝説となっていた彼は、最悪の魔王として現れた。
魔王となったとは言え、リュウヤの強さは変わらず、かつて7体もの魔王を屠ったリュウヤは、その戦争にて実に20人もの勇者や英雄と呼ばれる人族の手練れ達をその手に掛けた。何故彼が魔王になったのか。そして何故人類に敵対したのか。その答えはきっと魔王達にしか分からないだろう。いや、もしかしかたらリュウヤ・ケンザキ自信にしか分から無いかもしれない。
そして最後の一人。単体で魔王数十体分と言う尋常じゃない力を持ち、かつ、魔王最大の構成数を持つ大悪魔。
こいつだけには絶対勝てないと誰もが言う最強最悪の魔王。悪魔族の魔王エビル・グランツェ。
こいつは1万年以上の時を生きているとされている最古の魔王である。
進化せずとも魔王以上の実力を持つと言われ、現在確認されている魔物の中で最強とされる魔物でキングデーモンと言う種族がある。奴等は数が少ない上、強さに興味が無い。その為魔王への進化どころか、そもそも普通の進化すら行う事が無い。それは何故か?答えは簡単だ。それは自分達自身が最強の魔物だからである。
自然界で最も強い種族である奴等は強者と戦わずして弱肉強食の自然界を生き残れる。そのためわざわざ更なる強さを求めて他者と戦う必要が無い。なのでキングデーモンが更なる進化する事は無い筈なのだ。
だがそんな常識を破り、長い時を経て魔王へと進化した存在がいた。それが魔王エビル・グランツェ。恐らく過去2回の人類と魔族の大戦争にこいつが参戦していたら先ず間違いなく人類は滅びていただろう。奴には他の魔王達全員で襲い掛かってもまともな傷一つ付けられ無い。そんな存在なのだ魔王エビル・グランツェと言う存在は。
「だが彼ならもしかして……いや、惚れた弱味と言う奴だね。幾ら彼でもエビル・グランツェには勝てないだろう……」
私は脳内に魔王の名前を思い浮かべ、そんな規格外の化け物達と戦うガドウ君の心配をするしか無かった。
「頼むから死な無いでね、ガドウ君……」
そう呟く私の視界に一枚の紙が映った。
「うん?これは依頼書?見逃してたのかな……」
私はその紙を手に取り、確認の印を押そうとして、固まる。
「天災級の魔物、トウテツの撃退および討伐……?嘘だろう?」
だが何度見てもその紙に記されているのはトウテツと言う絶望的な名前。
世界最強種族悪魔族。奴等の危険度は最も弱い種族でもS〜SS級の実力を持つ。そんな化け物が現れたのだ。
「これ、うちではガドウ君に頼むしか無いよね……」
悪魔族の前では人族の強みである数はあまり意味を成さ無い。それは奴等の攻撃たった一撃で何人も命を刈り取るからだ。普段は魔族領に生息している奴等だが、数十年〜数百年に一度人類領に迷い込んで来る時がある。その時は、その時代に生きる人類で最も強い者が率いる1パーティだけで相手をする事になっている。
現代の最強の人類と言えば恐らく【破壊王】の名で呼ばれるアラン君だろう。でも彼は今終焉火山の近くにある防衛都市エアリアルにいる筈だ。それでもここにこの依頼書が来たと言う事は彼はこの依頼を断ったと言う事だろう。だがそれも仕方無い。確かに彼でもトウテツの相手は無理だろうからね。
「確かに今回迷い込んで来たトウテツは過去最悪の存在だね……人類史上初の中級種の悪魔族の登場、か……」
今頃大国は慌てて情報規制を行っていることだろうね。だけど勇者がいないこのタイミングで中級種の悪魔族か……今から勇者召喚しても成長するの間に合わ無いし、今度こそ人類の終わりかな……。
その時私の脳裏に過ったのは一人の少年。今日登録したばかりの筈なのに私の本気の魔法を剣一本で斬り裂く程の実力を持つ謎の多い彼は、私との闘いでも本気を出す事無く勝利を収めていた。
「最後の頼みはガドウ君、か……」
元とは言え、私は特Sランク冒険者である。一回闘えば相手の実力の予想はある程度出来る。しかしその私でも彼の底は全く見えなかった。今はそれに賭けるしか無い。
「はぁ……好きな人を死の危険がある場所に行かせるなんて、最低だな私は……だけど君しか頼れる人はいないんだ……」
自分以外誰もいない執務室、そこに私の声が木霊した。
魔王の名前は結構適当です。もしかしたら今後変えるかも?でも予定ではガドウを全ての魔王と接触させるつもりなので、後々結構重要なキャラになるかもです。




